■ポッポの逆襲
炎と闇の共鳴石を手に入れた後、マクベイン一座は再びグリム橋に戻ってきた。
「せっかくだから、観光して行こうよ。」
黄砂の道を越えてきた疲れもあり、気分転換を兼ねて一同は展望台に登ると、思い思いの場所からグリム橋の景色をしばし楽しむことにした。
フロードは、初めのうちこそ観光客に混じってグリム橋を見物していたが、頃合いを見計らって、人気のない方向へと移動した。
あたりを見回して誰もついてきていないことを確認すると、懐にそっと手を伸ばす。
「よーし、ポッポ、頼んだぞ。」
その直後、グリム橋の端から一羽の白い鳩が空へ飛び立っていった。
そして、何気ない振りをして観光客のなかに戻ろうと踏みだしたとたん、アイーダと目があった。
そのまま平然としていたならば、おそらくアイーダはそのまま通り過ぎていったに違いない。
ところが、この時、フロードはまるで悪戯っ子が悪戯の現場を押さえられたかのように、ひどくぎこちない素振りで目を反らしてしまったのである。
「・・・あやしい。」
アイーダはたたっと駆け寄ってくると、フロードの周りをぐるりと見回し、彼を見上げて言った。
「な、何がだ?」
その挑発的な視線に、おもわずあとさずりしたフロードに、更にアイーダは突っ込みを入れてくる。
「何か、今、隠したでしょ。」
「何も隠してないよ。」
「じゃ、その手は何?」
半分懐に入ったままの手を指さして、アイーダは尋ねた。
「えーっと、これは。」
伝書鳩を放した直後だったので、たまたま手を懐に突っ込んだままになっていたのである。
「これは?」
再度尋ねるアイーダの訝しげな声にフロードは焦った。
と、無意識にまさぐった手に、何かカサリと触れる物がある。
「そ、そう、エサをやろうかと思って。」
嘘はいってないよな、と懐から鳥のエサを取り出して見せた。
「ほら、これ。このとおり。」
取り出された小袋の中には、確かに小さな豆や雑穀が入っていた。
アイーダは鳥を飼ったことはないが、鳥がそれらの雑穀類をエサとしていることくらいは知っている。
「ふーん。」
半信半疑のアイーダを前に、困ったことになったと視線を反らせた先の空で、鳥の舞う姿が目に映った。
たぶん、グリム橋に訪れる観光客から時折投げられる餌を狙っているのだろう。
その瞬間、フロードは救いの神見つけたりと、さり気なく小袋からエサを摘み、そのまま少し離れたところへ向けて撒き散らした。
「ほうら、来るぞ。」
その言葉が終わりきらないうちに、上空の鳥達が一斉に方向を変えた。
鳥達は目にも留まらぬ早さでふたりの目の前を通り過ぎ、今撒かれたばかりの穀類目指して舞い降りてくる。
多数の白い鳥が翼をはためかせて舞い降りてくる様はなかなか見応えがあった。
それが撒かれた餌を先を争ってついばむ姿は、妙に愛嬌がある。
「かわいい〜。」
アイーダの表情がほころび、大きな瞳がくるくると鳥達を追い始めた。
「あ、素早い。もう、あんなに食べてる。」
フロードはもうひとつまみ餌をばらまいた。
ぱらぱらと鳥の上に落ちていく餌を目指して更に多くの鳥達が集まってくる。
「すごいわ、フロード。」
どことなく羨ましそうな声色に、フロードは餌の小袋をアイーダに差し出した。
「やってみるかい?」
「いいの?」
「ああ。」
フロードが頷くと、アイーダの表情がぱっと輝き、遠慮がちながらも細い指先が餌の袋に伸ばされた。

「ほうら、ご飯よ。」
アイーダの撒いた餌に鳥達が集まってくる。
「そんなに慌てないの。」
新たな餌を求めて狭い場所でひしめき合う鳥達をアイーダは面白そうに見つめている。
そのうち、賢い鳥はただばら撒かれるのを待つのでなく、餌をくれる人を目指して飛んでくるようになった。
「あ、こら、まだだってば。」
観光地ゆえに人慣れしているのか、撒かれる前の餌を直接アイーダの手から食べる鳥まで現れた。
「もう、ずうずうしいぞ。」
一旦そうなると、鳥達はアイーダの肩に頭に遠慮なく止まって餌をついばみ始める始末である。
数が少ないうちはそれでもいいが、一斉に来られるとさすがにかわいいとだけ言ってもいられない。
アイーダの着ている服は鳥追い専門のものではないから、服の上から鋭い爪跡がくっきり残ってしまうのだ。
「い、いたい」
アイーダの唇から小さな悲鳴が漏れた。
それでも集まってきた鳥達を追わないのは立派なものである。
「おーい、こっちだ。」
フロードは、手に持っていた餌を大づかみすると、できるだけ遠くにばらまいた。
「もう、ないぞ。」
空っぽの袋もついでに振って見せる。
餌につられて集まった鳥達は、餌の方へある方へと一斉に飛び去っていった。
「大丈夫か?」
最後の一羽がアイーダの肩から離れていくのを待って、フロードは声をかけた。
「う、うん。ちょっとびっくりしたけど。」
ほっとしたような瞳がフロードに向けられる。
「でも、面白かった〜。」
続いて、はち切れんばかりの笑顔がフロードの前に飛び込んできた。
「それはよかった。」
ふたりが同時に見交わした瞬間、その間を素早く過ぎった白い影がある。
「?」
(げっ。)
その影はするりとアイーダの前を通り抜け、フロードの手を目指していた。
「あ、もう餌はないわよ。」
その声にすうっと上昇しかけたと思いきや、目にも止まらぬ早さでフロードの手をついばんでいった。
「いってぇ〜。」
「大丈夫、フロード?」
フロードの指からはうっすらとではあるが血がにじんでいる。
「うわ、痛そう。」
思わずしかめっ面したアイーダに、フロードは大丈夫だと笑って見せた。
「でも・・・。」
心配そうに言葉を濁したが、ふと何かを思いだしたかのようにアイーダはポシェットに手を突っ込んだ。
「あ、あった。」
訝しげなフロードの前に小さなバンドエイドが取り出される。
「い、いいよ、このくらい。」
反射的に引っ込めかけた指をアイーダの手ががしっと捉えた。
「だーめ。鳥の爪って毒を持ってることもあるんだから。」
言うが早いかアイーダの細い指が素早く動き回って、ぺたっとバンドエイドをフロードの傷口に巻き付けた。
「はい、おしまい。」
にこっと笑った後で、アイーダは気恥ずかしそうにフロードから手を離した。
「えーっと。」
フロードの方もなぜか声が上ずっている。
そして、ふたりは同時に同じ言葉を口にしていた。
「ありがとう。」と。
優しい風がふたりの間を遠慮がちにすり抜けていった。


「フロードとアイーダ+ポッポちゃん」 by CAROL様

おわり
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