■しあわせ色の光の中で
「結婚してくれますか、アイメル?」
「はい、マイルさん。」
大方の予想を裏切ったといおうか、マイルのプロポーズはごく普通に、かつストレートなものであり、受けたアイメルも極めて明快な答えを返したものであった。
けれども、これでふたりの仲は幸せな恋人達から人生を共に歩むパートナーへと変わっていくのである。
そして、マイルは改めてアイメルを家に連れて行き、両親に結婚する旨を報告した。
何を今更という感がなきにしもあらずだが、人生の最大のイベントをするに当たっては、けじめだけはきっちり付けるべしとの忠告をゆず姉から受けていたからである。
「さあ、これから忙しくなるわね。」
話を聞き終えると、やや緊張気味なマイルとアイメルを前に、マイルの両親、とりわけ母親はいそいそと行動を開始した。
「アイメルさん、行きますよ。」
「はい。」
「ちょ、ちょっと、行くって、どこへ?」
「女はいろいろと大変なのよ。さ、邪魔しないでちょうだい。」
日頃から何かと世話好きな母ではあるが、この日の強引さはまた特別のものがあった。
マイルをひと睨みで黙らせると、そのままアイメルを連れてどこかへ出かけてしまったのである。
村から出るというので、万が一の護衛にと付いていこうとしたのだが、あっさり断られてしまった。
もっとも、村の出口には、タイミングを図っていたかのようにルティスがいて、一緒に行くことになったので、道中の心配はしていないのであるが・・・。
「はあ・・・。」
緊張していた分急激に疲れが出たのか、家に戻ったマイルはどっかりと椅子に座り込んでしまった。
「まあ、こればかりは我々のでる幕はないからな。」
「父さん。」
「アヴィンの時もそうだったろう?」
言われてみれば、アヴィンがルティスと結婚すると決まった時も、村の女性達がわーっと寄り集まって、あれよあれよと言う間に式の段取りから全てを仕切っていかれたような気がする。
アヴィンの落ち着かない様子が思い出され、マイルは苦笑した。
あの時は他人事で笑って済ませたが、今度は自分がその立場に置かれているのだ。
「なあに、そのうち帰ってくるから、それまでゆっくりするに限る。」
その日、マイルは久しぶりに父親と酒を酌み交わしたのであった。

アイメル達が戻ってくると、家の中がひときわ賑やかかになった。
それもそのはずで、マイルの母とアイメルは勿論のこと、その後ろにはユズ姉までが付いてきているのだ。
しかし一方でマイルの母は、帰ってきたかと思えば、すぐにまた出かける用意にかかるという慌ただしさであった。
「それじゃ、留守の間、よろしくお願いしますね。」
「任せといてください。」
「ユズ姉?」
「留守番に決まってるでしょ。ほら、花婿さんも急いだ、急いだ。」
「?」
「トーマスさんをお待たせしては申し訳ないですからね。アヴィンさんが来たらすぐに出かけますよ。」
「???」
マイルの知らないところで話がどんどん進んでいるばかりか、それなりの段取りまで付けられてしまっているようだ。
けれどもそれにユズ姉が関わっているとなると、ここは下手に逆らうより、素直に従った方がよさそうだとマイルは判断した。
言われるままに荷物をまとめているうちにルティスがアヴィンを連れてやってきた。
「おばさま、用意は出来ましたか?」
「ええ、すぐにでも出かけられますよ。」
同行してきたアヴィンはというと、こちらもルティスの言うままに来たらしく、どこか落ち着きがなさそうである。
「いったいどうなってるのさ?」
それでも一応尋ねてみたが、返ってきたのは予想どおり、「さっぱりわからん。」の一言であった。
「じゃ、気を付けてね。お土産待ってるから。」
にっこり見送ってくれたユズ姉にマイルはただならぬ気配を感じ、彼女のカンにさわるようなことをした記憶はないのだがと、道中首をひねることしきりであった。

ルティスに先導されてマイル達が向かったのは王都フィルディンであった。
「姉さん、こっちだよ!」
フィルディンの門の側にはルカが待っていた。
「もう、来てたの?」
「当然だよ。プラネトス2世号は世界一早い船だからね。」
ルカがいるということはプラネトス2世号もフィルディンに来ているということである。
彼は若いながらもプラネトス2世号の副長を務めているのだ。
「ここからヴァルクドまで、プラトネス2世号に乗せてもらうことになってるの。」
腑に落ちない様相のアヴィンとマイルにルティスが説明した。
「ヴァルクド?」
「そうよ。」
異口同音の質問に、ルティスはあっさり頷いた。
「説明は船の中でするから、取りあえずは船に乗せて貰いましょう。キャプテン・トーマスを待たせては申し訳ないもの。」
「みなさんが船に乗ったらすぐに出発します。」
「ですって。えーっと、忘れ物はないわね。さあ、行きましょう。」
ここでもアヴィンとマイルの口を挟む余地など全くなくて、完全にルティスのペースで事が運んでいったのであった。

ルカの言ではないが、キャプテン・トーマス率いるプラネトス2世号の速度は非常に速い。
ルティスは船の中で説明すると言ったが、その時間が十分に取れないほどの早さでプラネトス2世号はブリザックに到着してしまった。
そのブリザックの港にはガヴェインが獣車を用意して待っていた。
「ほう、来たな。待ちかねたぞ。」
「ど、どうなってるのさ。」
「僕にわかるわけないだろ。アヴィンこそ、ルティスから聞いてないの?」
「知るわけないだろ。あっというどこかへ出かけていって、ようやくアイメルと一緒に帰ってきたかと思うと、いきなりこれなんだから。」
「ごめんね、お兄ちゃん、マイルさん。」
「い、いや別にアイメルを責めてる訳じゃなくて・・・。」
「アヴィン、話は後にして早く獣車に乗って。あ、アイメルはこっちね。」
港に用意されていた獣車は2台あった。
そのうちガヴェインが乗っているいかにも速そうな方にルティスとアイメルとマイルの両親が乗った。
「じゃ、母さん達は先に行ってるから、後から遅れないように来るんですよ。」
「え?」
「ガヴェイン様、お願いします。」
「承知した。それっ!」
「お、お〜い・・。」
またしても話が途中のままにアヴィン達を残してルティス達の乗った獣車は出発してしまったのであった。

むずがる魔獣をなだめすかしてようやくアヴィンとマイルはヴァルクドの大聖堂に辿り着いた。
ふたりに気が付いた門前の僧侶が、くすくす笑いを堪えつつ、大聖堂の中で待っているマイルの両親のもとへと案内してくれた。
「あの、アイメルは?」
「ルティスさんが付き添って、花嫁衣装に着替えているところよ。男と違って女は支度に時間がかかりますからね。」
マイルの母はいつものゆったりとした調子で大聖堂の中を眺めていた。
「花嫁衣装って。まさか、ここへ来たのは・・・。」
「アイメルさんのご両親にひと目なりとも彼女の晴れ姿を見せてあげたいと思ったんですよ。」
マイルの母は穏やかな微笑みを浮かべたまま答えた。
「そりゃあ、おふたりのご両親はとっくに亡くなっていることは知ってますけど、でも、この地で眠っていらっしゃることには違いないのでしょう?親なら誰だって我が子の晴れ姿を見たいもの。」
「おばさん・・・。」
「でもね、わたしはそう思っただけで、実際の手配は全部ルティスさんがしてくれたの。家の方を留守にできないから最初はあなたたちだけでって言ったら、船の用意とかいろいろと骨を折ってくださったのよ。」
「そうだったんですか。」
「ユズ姉をはじめ村の人達の説得にもお世話になったのよ。」
アヴィンの時がそうであったから村の誰しもがマイルも同じように村で結婚式を挙げるものと思っていた。
それが急遽、ヴァルクドでということになったのだから、落胆したものも少なからずいたに違いない。
出発するときのユズ姉の「にっこり」の意味がようやく理解できたと、マイルは一瞬だけ背筋が寒くなった。
同時にユズ姉を得心させるようなお土産を探さねばと肝に銘じたのである。

教会の鐘が厳かに時を告げ始めた。
鐘が鳴り終わると、荘厳なパイプオルガンの音が祝福のメロディを奏で始める。
礼拝堂の扉が開き、純白のウエディングドレスをまとい、アヴィンに手を取られたアイメルが姿を現した。
その瞬間、光がアイメルを優しく包み込んだようにあたり一面に広がった。
少し俯き加減のアイメルの目線がマイルを捉えると、それまで堅く結ばれていた口元がほんの少しだけほころんだ。
ちょうど時間的に、陽光が差し込むタイミングで式が始まったからかもしれないが、マイルには単なる自然現象だけとは思えなかった。
アイメルを包む光は、彼女を慈しむように照らし出していた。
柔らかな光に導かれて、アイメルはマイルの待つ壇上へと近付いてくる。
やがて手順どおりにアヴィンからマイルへと花嫁の手が渡された。
同時に太陽の角度も変わったのであろうか、それまで差し込んでいた光が少し引いていった。
それはあたかも託したぞ、という瞬間を示したかのようであった。
マイルは自然と背筋が伸びてくるのを感じた。
これまではアヴィンが担っていた役割を、今日からはマイルが担っていくのだ。
ステンドグラスから漏れてくる色とりどりの光を浴びて、アイメルの純白のドレスがより華やかに輝いている。
「これからは、僕がアイメルを守るよ。」
定められた誓いの言葉に、もうひとことマイルは付け加えた。
そして、しっかりとアイメルをその腕の中に引き寄せると、決意のほどを示すように熱い眼差しでみつめ、誓いを込めた口づけを贈ったのであった。


ウェディングドレス姿のアイメル by CAROL様
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