デュエット・シリーズ

■最初の勇気−アルフ編(2)−
 山と湖の国アンビッシュの東端に位置する大蛇の舌と呼ばれる活火山は、しばしば噴火し、大蛇のすそ野で生活する人々に多大なる被害をもたらしてきた。
 つい先日も大規模な噴火があり、火山活動が一段落したあとは復興作業に大忙しの毎日である。そんな中にアイーダとウーナは炊き出しのお手伝いとしてやってきた。被災地はどこも人手不足だったから、黙々と要領よく動くふたりはどこでも重宝がられた。それはオルドスの開拓に携わった経験で培ったものだが、ふたりがそのことを口にすることはなかった。
 アイーダとウーナは、ここに来る途中、ひとりの少年と出会った。名前をアルフといい、災害にあった親戚を訪ねて来たということだが、被災地へ入ると、アイーダとウーナの使い走りをかってでて、そのまま一緒に過ごしている。
 もっとも、出会った当初、アルフはアイーダとウーナを警戒の眼差しで見ていた。
「おばさん達は、この国の人じゃないよね。なのにどうして、僕たちを助けてくれるの?」
 大人ならそれなりに遠慮しても、子供は生じた疑問を素直にぶつけてくる。
「自分の国の人以外に助けてもらうのは嫌?」
 ウーナはアルフの質問に別の質問をする形で答えた。
「嫌というより、他の国から援助してもらわなきゃ復興できないくらい被害が大きくなる方に問題があると思う。昔はここまでひどくなかった…って聞いてるから。」
 理屈っぽく言い訳めいたアルフにアイーダは、おやっという表情を浮かべた。ちらりとウーナを見ると、彼女は小さく目配せしてみせた。
「年々被害が大きくなってるんだっけ。」
 アルフはウーナの言葉に唇を噛んだ。
 アンビッシュの穏やかな気候は緩やかに経済の発展を促してきた。何事もなければ、アンビッシュはもっと発展した国になっていただろうに、十数年ごとに起こる火山の噴火がそれを阻んでいるのである。
「次はきっともっとひどいことになるんだ。」
 言葉の影に、そうなる前になんとかできないのだろうかと考えている様子が見て取れる。けれども相手は火山という自然なのだ。アルフは悔しそうに溜息をつくだけだった。
「おばさん達って不思議だね。」
「何が?」
「普通だと、僕がこんなことを言うと、子供のくせに生意気だとか、知ったかぶりするなとか言って怒るのがオチなのに、何にも言わないんだもん。」
「そうね、確かにアルフが生意気だってことは言えてるわね。」
 そして、アイーダがツンとアルフの額を弾いて言った。
「あたし達と一緒にいるつもりなら、今後はお姉さんと呼ぶこと。」
「ええ!?」
「何よ、そのリアクションは。」
「だって、どうみてもお姉さんという年じゃ…。」
 カチャリと音がしてアイーダの手にした槍から鞘が外れた。使い込んだ実用一点張りの槍の刃にアルフは沈黙した。

 最初の大混乱が落ち着いた頃を見計らって、アイーダとウーナは荷を整えて山登りの準備を始めた。
「どこへ行くの?」
「うん、ちょっと山頂まで。」
 まるですぐ隣の家に行ってくるかのような軽い口ぶりである。だが、聞いた方は寝耳に水といわんばかりに驚いた。
「無茶だよ!」
 火口から遥か離れた麓ですらこの有様なのだから、それより上の様子がいかなるものかおって図るべしというところである。
「だって、あそこにも住んでる人がいるっていうのに、誰も応援に行く気配がないんだもの。」
「それは…。」
「だから、あたしたちが行こうと思うの。」
 にっこり答えたアイーダにウーナも頷いて見せた。
「それに、実際のところを見てみたいし。」
 それはウーナが何気なく付け加えた呟きだったが、言葉にそれまでとは異なる響きをアルフは感じ取った。
「だったら、僕も一緒に行く!」
 思わず突いて出た言葉に聞いたふたりよりも言った本人の方が驚いたくらいである。
 アイーダとウーナはアルフが付いてくることに反対はしなかった。ただし、念押しだけはしておいた。
「荷物、重いわよ。」
「僕も一緒に行っていいの?」
「荷物は多いこしたことがないし、男の子が一緒だと着いてから何かと助かるもの。」
 もしかしたらちょっと早まったかもしれないという思いがほんの一瞬だけ脳裏をかすめたが、ここで撤回するのはアルフのプライドが許さない。彼はアイーダとウーナに従って山頂へ向かうことにしたのだった。

 大蛇の背骨と呼ばれるだけあって、硫黄の臭いと灰をどんより被った木立の続く険しい山道が山頂まで続いている。重い荷物を背負ったアルフの足取りは先を行くふたりにとかく遅れがちであったが、彼の口からは「待ってくれ」の言葉はついぞ発せられなかった。おっとりした外見に似合わぬ負けず嫌いな一面を持っているあたり、やっぱり男の子よねと、アイーダとウーナは目配せしあったところである。
「ここまではいいとして、問題はここからなのよね。」
 目指す火山の頂上が近づくに連れ、先日の噴火で流れ出した溶岩の塊がいたるところで道を阻むように転がっていた。なかには狭い山道をそっくり塞いでしまっているものすらある。
「これだけ大きいと、やっぱり砕いた方が早いだろうなあ。」
「え?」
 いともあっさり岩を砕くと言ったアイーダにアルフは思わず耳を疑った。
「ここまで来て人を呼びに戻るのも面倒だし。何より、簡単に砕けるものならとっくに誰かが応援に行ってるだろうしね。」
 他人事のように話しながらアイーダは荷物の中から使い古されたポシェットを取り出した。
「さてと、久しぶりだから、手元が狂わなきゃいいけど。」
 きょとんとしているアルフをウーナが引っ張って後方へと下がらせた。
「それじゃ、カプリ、いっきまーす。」
 その言葉が終わらないうちに、アイーダのポシェットから巨大な人形が飛び出したのである。
「カプリ、よーく狙っていってみよう。」
 驚きに目を丸くしているアルフの前で、アイーダは巧みに人形を操り岩を砕いていく。いくらもしないうちに3人の行く手を阻んでいた岩は砕かれ、山頂への道が開かれた。
「柔らかい溶岩だったことも幸いしたわね。はい、カプリ、戻って。」
 役目が終わったカプリをアイーダはこともなげに引き上げるとポシェットの口を堅く締めた。
「頂上まで、あと一息。」
 にこっと笑ったアイーダにアルフはただただ驚くだけであった。

 山頂に着いた3人は、オルドスから派遣されてきていたアンビッシュ国出身の賢者に出迎えられた。
「よかったあ、無事だったんですね。」
 開口一番、賢者の無事を確認したウーナは心底嬉しそうだった。
「近いうちに噴火が起こることはオルテガ様より伺っておりましたので、それなりに注意はしておりました。」
 賢者の言葉にアルフにも思い当たることがあったらしい。
「もしかして、麓に危険を知らせてくれたのは、あなただったんですか?」
 賢者は控えめに目を伏せた。知らせはしたが、そのことを信じる者は少なく、結局災害は過去最大の規模で発生してしまったのだ。
「遠路、お疲れでしょう。幸い、私の小屋は無事ですから、まずはそちらへどうぞ。」
「ありがとう。でも、その前に、やっぱり自分の目で確かめたいの。」
「え、でも火口付近には近寄れないんじゃないの?」
「祠に行くだけなら大丈夫、よね?」
 ウーナの問いに賢者は頷いた。そして自らが先にたって祠まで案内していった。

 しばらくは噴火の危険がなくなったとはいえ、火口は蒸気と熱気でうかつには近寄れそうにないというのが到着した時の印象だった。
「聞きしにまさるすさまじさね。」
 溶岩の通り道を遠目にアイーダとウーナは身震いした。こんな状況が十数年ごとに起こるようでは、この地に神殿を造ることは不可能なように思われたのだ。
「けれども、それがオルテガ様から託された私の使命ですから。」
 賢者は、悲壮なまでの決意を漲らせていた。
「だからって、やっぱりできることとできないことがあるよぅ。」
 ウーナにしては珍しく弱気な答えだった。だが、彼女をしてそう言わしめてしまうほどの状況が目の前にある。オルドスから選ばれて派遣されただけあって、賢者は確かに優れた人物だが、偏見にさらされたままでは、せっかくの知識も役に立てようがなかったのだ。
「オルドスは、なぜここに神殿を建てたいんですか?オルドスへの信仰を広めるためなら、町中に建てる方がずっと効果があると思うんですけど。」
 アルフの疑問に賢者は穏やかに答えを返した。
「私たちは、オルドスへの信仰を広めるために神殿を建てるわけではないんです。」
「でも、オルドスには大きな聖堂があって、それが魔法使い達の拠になってるんでしょう?」
 困った表情を浮かべた賢者に代わって答えたのはウーナだった。
「オルドスに託された魔女の鏡は空にあるの。だから、人々がそこに行けるよう高い塔を建てる必要があったのよ。」
「鏡?」
「そう。アンビッシュにもあるわよ。アルフだって噂に聞いたことくらいあるでしょう。」
「あの、火の山の麓にあるという炎の鏡のこと?」
 ウーナはゆっくり頷いた。そして一呼吸おくと、まっすぐにアルフを見つめて言った。
「オルドスは、各地にある魔女の鏡を守るために神殿を造りたいの。そうすることが、だぶん、この世界も守ることになると思うから。」
 ウーナの言葉は、アルフの胸にそれまでになく大きな波紋を投げかけた。
back   next
HOME > Falcomの歩き方 > Falcom二次創作目次 > 最初の勇気