デュエット・シリーズ

■最初の勇気−マギサ編(3)−
 フォルトとマギサを乗せた小さなヨットは、そのまま勢いをつけたまま海へと躍り出た。遠目に白い帆を張った船が見える。
「あそこまで一気に走るからね」
 フォルトの声にマギサはしっかり捕まったまま「はい」と声にならない声を上げた。
 やがて白い帆がはっきり見えてきたとき、さらに勢いのよい声が二人を出迎えた。
「やっほーっ!やっぱり間に合ったね、フォルト。まさか、そっちから来るとは思わなかったけど。でも、よくにあってるよぉ。」
「当然だろ、ウーナにだけ任すのは心配だからね。」
「相変わらず、お熱いなあ。あ、そこ高波がくるから気をつけて。」
「…アイーダ、そーゆーことはもう少し早く言ってくれ。」
 ずぶぬれに海水をかぶったフォルトはしょっぱい涙をぬぐって尋ねた。
「いつ引き上げてもらえるのかな?」
「早いほうがいい?」
「当然だろう。僕はともかく、マギサは限界だ。」
「うーん。みんな手いっぱいだからなあ。しょうがない、わたしが一肌脱ぐか。」
「い!?」
 フォルトは嫌な予感が脳裏をよぎった。
「いけっ!カプリ!」
 同時にフォルトは何かに捕まえられて海からプラネトス2世号に放り上げ出された。懐かしい床の感触はありがたかったが水気をたっぷり含んだ格好ではどうにも様にならない。
 マギサは、と見ると、少し余裕を持ってカプリが抱いて甲板まで持ち上げていた。
「えらいちがいだな。」
「だって、フォルトはお客さんじゃないもん。それにしても、やっぱり、間に合ったね」
 にこにこと明るい声で、フォルトにふわりとタオルが掛けられた。
「で、ふたりは?」
 くしゃくしゃと髪を拭きながら尋ねたフォルトにアイーダは上を指さした。遙か上空のマストに複数の人影が見える。
「3人とも今日、明日が勝負だって張り切ってる。ちなみにあたしは夕方からの当番だから、今は休憩中ね。」
 フォルトは自分の質問とアイーダの答えにわずかながらも疑問を感じ上空に神経を集中させた。ひとり、ふたり、3人!
「ずるいや。なんだかんだ言って、やっぱりミッシェルさんが出張ってる。」
「仕方ないでしょう。私たちだけじゃやっぱり無理だもの」
ウーナのよくとおる声が上空から響いてくる。
「フォルちゃんも早くあがっておいでよぉ」
無邪気な声にフォルトはため息をつき、すっかり存在を忘れかけていたマギサに視線を移した。
「ごめんよ、こういう人ばっかりだから、ちょっと不安になるかもしれないのも無理ないんけど、実行力は保証付きだから。高いところが平気だったら、マギサも一緒に行こう。マギサに本当に紹介したいのは、あの上にいるふたりなんだ。」
 マギサはモリスンからテュエールにいる人物宛の手紙を言付かっていたが,その相手が持っているはずの波動と、船の上空から広がっている波動とはそっくりだった。どうやら、目的の人物は、何らかの理由でこの船のマスト上にいるようだ。ならばあがって会うしかない。身の軽いマギサにマスト登りは苦もないことであった。
「アンビッシュ国からモリスン様の代理で参りましたマギサです。」
 老人ふたりにぺこりと頭を下げた。頼まれたのは一人に対してだけだったが、どう見てもこのふたりの老人は同格に見えた。相当な年ーマギサの予想では70代を超えているーだろうに、余裕綽々、自分よりよほどか生気にあふれている
「今夜あたりが勝負時だ。5年前の二の舞はせんよ。」
 さらりとひとりが言ったが、その言葉には深い思いが込められていた。
「5年前…?」
 マギサは記憶に点滅するものがあった。
「あっ!」
「そういうことじゃから、しっかり援護を頼んだぞ。なにせウーナがどんなに早業を使っても4矢しか射抜けそうにないんでな、あとは我々で何とかするしかないんじゃ。あんたもモリスンの代理だけあって相当期待できそうじゃから、ちーとばかし、安心したぞ。」
 予備知識もナシにこれはとんでもないところへ送られてきたとマギサは気がついたが、もはや、事態は彼女たちを巻き込んで進んでいる。覚悟を決めてことにあたるしか道はなかった。

 マギサはアイーダとラップと名乗った白髪の老人と3人でマストに残った。アイーダに魔法能力がないことは、出会ったときからはっきりしていた。それなのにこの危険な役割に参加しているのは、ひとえにその視力の良さのためだった。それと巨大な操り人形を自由自在に扱える戦闘力もいざというときのために当てになっているらしい。
「私の方が、マギサより視力がいいもんね。ラップさんはその点、当てにならないから、ターゲットの誘導は私に任せて。」
「あの、もう一組のルーレさんとウーナさんは?」
「ドカーンとガルガを狙ってくるのはたぶん、6つの力なの。ウーナの弓でそのうちの4つは当てることができるから無力化が可能なんだけど、あと2つは弓の速度が間に合いそうにないから、マギサの出番。」
 そこにはウーナが背負っている弓筒とは別に4つの特別な矢があった。鏃が赤く輝いている。どうやら幻の輝石と名高い「深紅の炎」を鏃に使っているらしい。確かに深紅の炎なら物理的にも精神的にも、どちらの魔力に対しても対抗できるだろう。
「何せ5年前は失敗して被害を出してしもうたからな。今回は絶対に失敗できんのじゃ。これ以上、奴らを上長させる訳にも如何しな。」
 聞けば聞くほど話が大きくなっていき、マギサは自分のいるべき場所ではないのではないかという疑念がわいてきた。しかし、他のメンバーからはそういうそぶりは見られないし、むしろ、戦力としてかなり期待されているのがわかるだけに、居心地に悪いことこの上もない。
 自分はチャッペル魔法をほんのわずか扱えるにすぎない魔法使いの卵なのだ。それがなぜ、こんな大きな話の中に組み入れられているのだろう。一つ考えられるのは、「モリスンの代理」と言われたあのひとことだ。しかし、あれはテュエールへ使いへの口上であって、誰もまともにマギサのような少女を大魔法使いのモリスンの代理とはみていなかった。少なくともここに着くまでは。
「とにかく、難しいことは考えないで、ウーナが浄化し損ねた2つの悪の力を無力化することだけを考えてね。」
「力を導くのは、僭越ながらワシが行う。なーに、あんたほどの集中力があれば十分大丈夫じゃ。経験はあとからついてくるものだからな。」
 ラップはマギサの心をほぐそうと軽い口調で話しかけてくれているが、その本質はかなり高位の立場にあった人だとマギサは感じ取っていた。そういう人物が、なぜ自分を導いてくれようとしているのか、今となってはどうでもよく、ひたすらに有り難かった。
 ガルガを魔法で凶暴化させようしているものがいるという事実を知った今は、その被害を食い止める事に集中あるのみなのだ。
 気さくなアイーダとのおしゃべりは、たわいのないものだったが、ラップの話は、魔法についての心構えについてが多かった。それもチャッペルではなく、カンドに所以するものだ。
 モリスンからあれほど聞かされていたときには反抗心しか生まれなかったそれが、今、現実を前にして、驚くほど素直に心にしみた。話し手が違うというだけでなく、このラップという老人には、それだけの説得力があるのだ。マギサの一生の中で、今以上に熱心に魔法について学んだ時間はないだろう。言葉や、呪文ではない、根本的なあり方をラップは教えてくれたのだった。

 ガルガに対して仕掛けてくるとしたら、彼らが活動を開始する直前の真夜中だろうということだった。夕方、仮眠をとるよう言われたが、興奮しきって眠るどころではなかった。フォルトが気持ちを少しでも落ち着けるようにと奏でてくれているキタラの演奏が心地よい。
「本当はね、ウーナのピッコロが入るともっと素敵な演奏になるんだけど、ウーナは今それどころじゃないから、フォルトだけね。この一件が終わったら、ゆっくり聞かせてもらえると思うから楽しみにしてるといいわ。私もカプリで参加しちゃう。」
 アイーダの言葉は適度な緊張を保ちながら、マギサをリラックスさせてくれた。
「さすが、歴戦の強者は余裕じゃのう。」
 ふぉっふぉっふぉっと、顎髭をしごきながらラップがアイーダをからかっている。自分が知らないだけで、この人達はずっと、こういう危険な戦いの場に身を置いていたのだと改めてマギサは感じた。同時に、その中へ加えてもらったことに対して、刻一刻と緊張が高まっていくのだった。
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