■あの頃の風景
山麓の街道では、往々にして魔獣が出没する。
降り掛かかる火の粉は自分で払うしかなく、ジュリオとクリスは戦闘態勢に入った。
「いくわよぉ。」
威勢のいい声と共に、ハチの大軍が魔獣を襲う。
クリスお得意のチャッペル魔法「ハチ寄せ」である。
回復魔法が専門といわれるチャッペル魔法だが、自然の力を借りた攻撃魔法も含まれており、クリスはその力を引き出すのが巧みだった。
「ジュリオ、今よ!」
弱った魔獣をジュリオの剣がトドメをさす。
「どれ、ちょいと手伝うかな。」
後方に控えていたルーレは気を集中させると一歩前に出た。
猛然と炎が巻き起こり、魔獣を包み込んでいく。
「いっただき!」
そのチャンスを逃すことなくすかさずローディが剣を振るった。
気の抜けない戦いだが、それぞれの役割をきっちり果たせば勝てない戦いではない。
果たして、瞬く間に魔獣は4人の前から姿を消していった。

ひとつの戦闘が終わったとき、ローディはジュリオとクリスに労いの声をかける。
「ふたりともだいぶ戦えるようになったじゃないか。」
「ローディのアドバイスのおかげだよ。」
ジュリオの言葉にローディは照れたような笑いを浮かべた。
「何だかんだ言ってもジュリオとクリスはけっこう息の合ったコンビだよ。」
ローディの苦笑混じりの誉め言葉にクリスは当然でしょと頷いた。
「当たり前よ。ジュリオの考えていることなんてお見通しだもの。」
「クリスの魔法も単純でワンパターンだからね。」
うんうんと頷いてからジュリオは、はっと口を押さえた。
しかし、時既に遅く、そこにはつむじを曲げたクリスがいた。
「どーせそうでしょうとも。あたしの魔法は単純ですからね。バリエーションだって少ないし。」
「いや、だからそうじゃなくて・・・。」
「いいのよ、ホントのことだもん。それに、回復魔法じゃ魔獣退治の足しにならないもんね。」
ツーンと顎を反らせたクリスにジュリオは「ローディ。」と助けを求めている。
ルーレはそんなジュリオとクリスを懐かしい想いで見つめていた。
ふたりの会話を聞いていると、ともすれば、あの頃の自分達がそのまま姿を変えて現れたような錯覚に陥りそうになる。
特にクリス。あの子の威勢のいい口調は、彼女そっくりではないか。
「ルーレ爺さん、どうしたの?」
急に黙りこくってしまったルーレを気遣うようにクリスは振り返った。
「ずっと魔獣続きで、疲れたんじゃないのか?言っても年なんだから。」
「ローディ!」
クリスに睨まれ、ローディは肩をすくめた。
他人をそれとなく気遣うところまで似ている。
「ふおっ、ふおっ、ふおっ。」
ルーレは楽しそうに声に出して笑った。
「いや、何でもない。若い者同士、羨ましいと思ったんじゃよ。」
「それならいいけど。でも、本当に無理しないでね。これもジュリオの試練なんだから。」
心底楽しそうな様子にクリスは安心したのか、再び矛先をジュリオに向けた。
「いい、ジュリオ。ジュリオが一番若いんだから、しっかり戦ってよね。」
「若いって・・・。」
ジュリオはぶつぶつと呟いた。
「クリスだってひとつしか違わないくせいに。」
最後の一言は、ほとんどぼやきに近かった。
ラグピック村の成人の儀式は、確か14歳だと聞いている。
となると、クリスは何らかの事情で儀式が延び、今年たぶん15歳なのであろう。
「年まで同じだったのか。」
ルーレはますます目を細めてクリスを微笑ましく見つめた。

仲がいいのか悪いのか、ジュリオとクリスは言い合いながら街道を歩いている。
本当に嫌な相手であれば、口を利くこともないはずだから、たぶん二人の仲は見た目よりずっと親密なのだろう。
それに、あのくらいの年頃だと女性の方がませているはずだから・・・。
案の定、ジュリオはクリスに押され気味だ。
「もーお。クリス、そういうとこまでラップ爺さんにそっくりだ〜。」
「なーんですってぇ。」
ラップ?
懐かしい友の名前を耳にして、なるほどな、とルーレは苦笑した。
クリスの弁舌がラップ仕込みなのだとしたら、ジュリオの手にとても負えるようなものではないだろう。
世間にもまれ相応に年を重ねていた自分ですら、彼の理論にはしょっちゅう煙に巻かれていた。
それでも彼を憎めなかったのは、それが全て真からくる言葉だとわかっていたからだ。
クリスの屁理屈もしかり。
世間ずれしていない分、彼女のそれはさらにストレートだ。
だが、それが妙に心地いい。

「そういえば、白き魔女もこの道をこんな風にして通ったのかな?」
ふいに風が強くなった。
クリスの赤い髪が風に透けて肩先で揺れている。
「予言が残ってるくらいだから、そうなんじゃないのか?」
ローディの言葉にジュリオは「そうだね。」と頷いた。
「ねえ、ルーレ爺さんは何か聞いたことない?」
「ルーレ爺さんもこの辺りじゃ結構古株なんでしょ?」
異口同音に尋ねてくるジュリオとクリスにルーレは少しだけ当惑した表情を向けた。
話してやれば、恐らくふたりは真実に大いに近づくことになるだろうが、それでは旅の目的を達せられないかもしれない。
今はまだ、ジュリオとクリスは、単に成人の儀式として巡礼を続ける方が良いように思えた。
「巡礼の旅と言ったな。」
巡礼先のシャリネを思い浮かべた時、ルーレにひとつの疑問が芽生えた。
「それじゃ、方向が違うのじゃないのか?」
「いいんだ、この方向で。」
「次はアンビッシュだから、間違ってはいないわ。」
ケロリとした表情でジュリオとクリスは答えた。
「だが、それならこっちでなくて・・・。」
「ダメだよ、このふたりには何を言っても無駄なんだから。」
なおも尋ねようとしたルーレにローディが首を振って替わりに答えてくれた。
「俺達は、ガルガのことをアンビッシュに伝えに行く途中なんだ。」
それこそ巡礼の旅とは関係ないではないかと言おうとして、ルーレは3人の真剣な表情に口をつぐんだ。
自分達に関係ないからといって、人が困っているのを見過ごすわけにはいかないのだと2人は言う。
「役に立つことがあるかどうかは別として、何か僕たちにできることがあるかもしれないでしょ。」
「誰かひとりでも喜んでくれることがあれば、それで役に立ったことになるもんね。」
当たり前のことだと言わんばかりに声を揃えたふたりに、ローディは苦笑混じりにルーレに肩をすくめて見せた。
巡礼とは関係なさそうなローディがふたりと一緒に旅をしているのも、どうやらそのガルガが関係しているらしい。
「俺も危ないから手をひけって言ったんだけどな。」
「ローディ、まだそんなこと言ってる。」
キラリと陽光がクリスの杖を弾いた。
「わぁ、ちょっと待て。」
ローディは目の前に振り下ろされた杖に慌てて飛び避けた。
「その杖は・・・。」
ルーレに驚きが走る。
「ラップ爺さんから貰ったの。あ、ラップ爺さんというのはラグピック村で一番年を取ってて、村長さんより古いのよ。」
クリスは誇らしそうに杖をルーレに見せてくれた。
ルーレはなぜそれまでに気が付かなかったのか、我ながら間の抜けたことだと少しばかり自分に呆れもした。
「ほう、なかなか立派な杖じゃな。」
その声にはどこか懐かしむような響きが籠もっていたが、そこまでの機微を察せられるほどの感受性を持つまでには至っていないらしい。
「まだまだ杖に使われてるって感じだけどね。」
「なによぉ。誰のおかげで戦闘中、回復できると思ってるの。」
「わー。ごめんなさーい。」
またしても雲行きの怪しくなったジュリオとクリスにローディは諦め顔で溜め息をついた。
「あれさえなければなぁ。」
「なーに、だからこそ一緒にやっていけるんだよ。」
本音で接することができる相手だから信頼の絆も強くなる。
その絆が仲間への信頼だけに終わるか、それ以上のものに発展していくかは二人の気持ち次第だが・・・。
確かなのは、このふたりなら、任せても大丈夫だということだ。
それはルーレの直感だったが、同様の思いをラップもまた抱いたから、彼女にあの杖を託したのだろう。
ジュリオとクリスの巡礼の旅は、ラグピック村に伝わる成人の儀式が出発点だが、同時にルーレ達の遠い昔の約束を果たす旅でもあるのだ。
このふたりなら、自分達の成し得なかったことをきっとやり遂げてくれるに違いない。
ルーレは、長年胸に支えていた重荷がようやく取れていくように思えた。
あの日から仲間たちがずっと抱えてきたものを、ジュリオとクリスは既に自分達の問題として捉えていてくれている。
それを自分自身の意思として行動を起こすのはもう少し先のことになるだろうが、それでも下地はしっかり育っているようだ。

「ジュリオ、早く!」
「クリス〜、どうしてそんなに元気なんだよぉ。」
「若いからに決まってるでしょ。」
クリスの持つ杖が、太陽を反射して光の輪が空に描かれる。
それは、砂漠で見た灼熱の太陽の光には到底及ばないが、希望を秘めた光だった。
あの頃と同じ風景が、時と場所を変えて現れる。
「どうしたものかのぉ。」
クリスを追いかけるジュリオにハッパを掛けるか否や、ルーレは自らを省みつつ街道を歩き続けた。


おわり
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