■君に想いを
久しぶりにクリスに逢える。
ラシッドの心は自然と弾み、待ち合わせた場所までの道程の遠さなど少しも気にならなかった。
出逢った時、彼女は14才。
正義感の強い銃使いの少年という装いでラシッドの前に現れ、見事に戦い切った何とも凛々しい少女だった。
あれから3年、今年17才の彼女は、母親譲りの美貌もさることながら、父親から教え込まれた知識を見事に開花させ輝やいていると聞いている。
待ち合わせの場所に来るまでの道すがら、それが決して誇張ではなく、確固たる事実であることをラシッドは肌で感じていた。
帝国は一時期の混乱期を見事に乗り越え、彼女の元でよく統治されている。
いつかは一国の頂点に立つ者として、ラシッドは羨ましく思いながら、目指す少女の元にやってきた。

話したいことはたくさんあった。
けれども、彼女も今や一国の主であり、昔のように気安く呼びかけることに一抹の躊躇いがある。
ラシッドは、さり気なさを装いながら、敬称で声を掛けた。
「久しぶりですね、フレデリック閣下。」
振り向いた彼女もまた、敬称で彼に応えた。
「ラシッド王子、3年ぶりですね。」
その声に、昔、彼女が抗議めいた時に表していた含みを見出したラシッドは、己の失敗を悟ったのだが、かといって急に名前で呼びかけるのも却って不自然である。
自分の過ちを呪いながら、ラシッドは当たり障りない互いの近況を話題にもってきたのだった。

ラシッドはいずれ故国ペントラゴンに戻る。
最低限、そのことはクリスにひとこと伝えておきたかった。
けれども、また必ず会いに来ることも伝えておきたかったのだ。
いつになく熱心に語るラシッドにクリスは不思議そうな瞳を向けている。
他人の話を聞く時のクリスの瞳は、いつも相手を真っ直ぐに捉えて離さない。
そのひたむきな眼差しに、ラシッドはまだ正面から応えるだけの覚悟ができていなかった。
自分の道を着実に歩んでいるクリスに対して、ラシッドは今だ故国に帰ってすらいない中途半端な身の上だ。
勿論、祖父が健在であるからこそ許されている状況ではあるのだが。
ラシッドは、元々帝国のものであるアシュラをシラノから預かっているので、それを返すまではと表面上は取り繕って話を一旦は結んだ。
「それに・・・あなたのことを頼まれていますから・・・逢いに来ますよ。」
小さく付け加えた一言にクリスは敏感に反応した。
「それは・・・誰から・・・?」
それまでの落ち着き払った統治者の衣がほころび、微かな戸惑いが見え隠れしている。
時期尚早だったか、との思いがラシッドの脳裏を過ぎった。
「あなたの・・・。」
一瞬の間があって、ラシッドは一息に「お父上からです。」と吐き出した。
「・・・そうでしたか。」
ふっと溜め息とも取れるような声がクリスから漏れた。
内心では彼の答えに期待するものがなかったと言えば嘘になる。
クリスは落胆の色を悟られまいと、敢えて頭を掲げ、高台から遙か真下の帝国領に眼差しを向けた。
多くの人々に支えられながらではあるが、人が人らしく生活できるようになったと胸を張って言える自分の故国がそこにある。
開口一番、ラシッドが誉めてくれたことが今更のように嬉しかった。
そう思うと、今度会う時には、もっと素晴らしい国を見てもらいという気持ちになってくる。
クリスはラシッドを見上げると、今以上に努力すると誓った。
「今度お会いする時を、楽しみにしていてくださいね。」
その迷いのない、真っ直ぐな瞳をラシッドは彼なりの反省を秘めて受け止めた。
ラシッドにしてみれば、こんなはずではなかったのに、いったいどこで間違えたのだろうかという後悔の念に囚われていたところだった。
頼まれたからではない、自分がクリスに逢いたいから会いに来たのだとなぜ言えなかったのか。
かつてシラノが、メルセデスが、悩んだのと同じ想いを、今、彼もまた同じように抱えている。
(どうしたら君に想いを伝えれるのか?)
時を越えて、同じ言葉がラシッドの中で繰り返されている。
「クリス、いえ、クリスチーナ・フレデリック。」
ラシッドは、呼び慣れた彼女の愛称ではなく、敢えて正式名で呼びかけた。
「はい?」
西からの風はラシッドを勇気づけるかのように、優しく吹いていた。



おわり
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