■旅立ちの宴
ぶーんとハチの唸る音が空を舞う。
続いてどさっと何かが空から落ちてきた。
足元に落ちたチマチマとした小物の魔獣に少女の眉がピクリと唸る。
「うーん、イマイチ。今日は不作だわ。」
ぱさりと額に降りかかった蒼い髪を左手で掻き上げると、強い意志を宿した瞳が陽光を弾いて一段と煌めきを増した。
今年14歳になったクリオは、成人の仲間入りをすべく、明日から巡礼の旅に立つ。
巡礼の旅に出るとしばらくは一緒に狩りができないからと、仲間の少年達が餞別代わりに誘ってくれたのだ。
が、餞別を贈るはずの少年達より、受け取る側のクリオの方が捕った獲物が多いというのもまた一興。
「これじゃ、どっちが餞別するんだかわかんないや。」
狩り仲間の少年達が獲物の山を感心したように見やっている。
「そうそう、うまくいけばリッチな旅ができるかもな。」
魔獣からはラピカと呼ばれる武器などの材料が採れる。
旅先の路銀が不足しそうなときには、狩りが出来ると随分助かる物なのだ。
「だといいけど。」
幼いときから父親と一緒に狩猟に出ているので狩りの腕には自信がある。
しかし、父親から受け継いだのは狩猟の腕前だけではないらしい。
「おい、クリオ。そっちは道が違うぞ。」
「え、そうだっけ?」
先を歩いていたクリオは声を掛けられ、あわてて引き返してきた。
「・・・ま、狩りができるんだから迷子になっても飢え死にすることだけはないだろうけどさ。」
深い森の中だろうと、砂漠だろうと魔獣は至る所に生息している。
気休めでしかないが、一理ある言葉にクリオは苦笑混じりで頷いた。
「・・・そう願いたいわね。」
「大丈夫さ。ラグピック村の巡礼者って言ったら、どこでもみんな親切にしてくれるよ。」
「そうそう。これもクリオの父さんと母さんのおかげだよな。」
クリオの両親が巡礼の旅に出たのは20年以上も前のことだが、いまだにその時のことは語りぐさになっているらしい。
両親から率先して当時のことを話してくれたことはないが、村中で知らない人はいないくらい有名な話であり、幼い頃からキャプテントーマスと並んで子供達のごっこ遊びで人気があった。
それはクリオにも、ちょっぴり鼻が高いことである。
ひとりで旅に出る不安が無いと言ったら嘘になるが、ティラスイール中に両親の知り合いがいるというのはある意味心強いことでもあった。
「そろそろ帰ろう。クリオは明日からの大切な儀式を控えてる身だし。」
「その前に、村長さんから話も聞かないといけないしな。」
「村長の話って結構長いんだよなー。」
「そう、あれは長い!俺なんて居眠りしかけたもん。」
「お前は堅苦しい話になるといつも寝てるじゃないか。」
口々に勝手なことを話して盛り上がる仲間たちに囲まれてクリオは村に帰ってきた。

家に帰り明日の準備をもう一度確認しているところへ母親がひょっこり顔を覗かせた。
「準備はバッチリ?」
「もちろん!」
容姿は父親のジュリオ譲りだが、気性の方は母親のクリス譲りらしく、考え方も行動もよく似ている。
取りわけ決断力のよさはとても14歳とは思えないほどしっかりしたものだと周囲も舌を巻くほどだ。
もっともジュリオに言わせれば「行き当たりばったり」との見方もなきにしもあらずだが・・・。
「じゃ、今夜はクリオの旅立ちを祝って盛大にお祝いしなくちゃ。」
「え、ホント?御馳走作ってくれるの?」
嬉しそうな顔の娘にクリスはモチロンよ、と頷いた。
「お祝いと言ったら、やっぱりオオイノシシの肉よね。」
道具の手入れをしていたジュリオを振り仰ぎ、意味深な笑顔を向ける。
クリスのこう言ったときの笑顔はジュリオにとって鬼門である。
一歩身体を引きかけたジュリオの前にすかさずクリスはやって来た。
「はい、ジュリオ。」
クリスはジュリオに名剣シルフィングを渡した。
「ええ〜!?お祝いのオオイノシシは自分で捕ってくるんじゃないのか〜?」
「娘の旅立ちのお祝いだもの。父親のジュリオが捕って来るに決まってるじゃないの。」
にっこり笑ったクリスにジュリオは嫌な予感が的中したことを知った。
「さーて、特大のお鍋を用意しなくちゃ。今夜は久しぶりにオオイノシシの肉が食べれるわ。」
いそいそと料理の下ごしらえを始めたクリスを見て、ジュリオは盛大な溜め息を吐いた。
それでも慣れた手つきで渡されたシルフィングをはじめそれなりの装備を整える。
「お父さん、私も行く!」
父親の後を付いていこうとした娘をクリスは止めた。
「あら、ダメよ。狩りはお父さんの仕事ですもの。」
ジュリオの一瞬の期待は儚くも消え、重い足取りながらも娘の旅立ちの宴のオオイノシシ狩りのため西の原へ出かけて行った。
「クリオには別にすることがあるでしょ。」
クリスは不服気な娘に、薬草摘みの篭を差し出した。
「旅では必要になる物だから、しっかり採っていらっしゃい。」
茶目っ気たっぷりにウインクをよこしたクリスにクリオは嬉しそうに頷いた。
「はい、お母さん。」
元気良く返事をして、クリオもまた西の原へと向かって行ったのであった。



おわり
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