■灼熱の地平線
不安な時こそ欲しくなる、人生の指針。
とは少し大げさだが、その時ルキアスは確かにそんな気分だった。
勝負を挑んだのは自分。それをダグラスは受けたまで。
余人の邪魔が入らぬよう、荒れ地に場所を求め、ふたりの勝負ははじまった。
今、ルキアスはダグラスの剛剣を受け止めて、生への執着と生き残るための勇気をひしひしと感じている。
じりじりと迫ってくるダグラスの剣刃がルキアスに決断を求めていた。
負けを認めるのはたやすい。
だが、とルキアスは気迫を込めて今一度構えた剣に力を添えた。
「どうした、それで終わりか?」
対してダグラスは余裕でまた一振り力を返してくる。
「くっ!」
その一振りはどうにか食い止めたが、次に力を加えられたら今度こそ腕が砕けてしまうかも知れない。

ふと脳裏をよぎったのは、剣聖カストルに弟子入りして間もない頃、ダグラスと対峙して剣ごと腕を砕かれた山賊の姿だった。
(あの時、ダグラスは力で慣らした山賊をものともせずに一網打尽にしたんだっけ。)
力におごれる者は力に破れる。
ダグラスは剣聖カストルの教えを目の前で証明してみせてくれたのではなかったか。
剣聖カストルに弟子入りを認められ、剣を持つことの意味を知り、剣技を磨くことに生き甲斐を感じていた。
同じ師に仰ぎながらも、兄弟子ダグラスとは異なる剣技を目指したのも、資質の違いを見極めたからこその決断だったはずだ。

わずかな呼吸の合間から、ルキアスはダグラスが次の一手を加えようとしているのを感じ取った。
そう、これほどに力の差が明らかであってもルキアスにはダグラスの行動が読めるのだ。
行動が読めるなら、それに対する行動も取れるはず。
少なくともこれまでダグラスの剣を食い止めることができたのは、スピードにおいてわずかながらもルキアスの方が勝っているからだ。
最初の一撃をダグラスに許したことで、どうやら勝負のペースを彼にもっていかれたらしいと遅まきながらもルキアスは気が付いた。
(あいつのバカ力とまともにやり合おうだなんて、私はどうかしている。)
大地を踏みしめる左足に一瞬だけ、重心を移す。きっ抗した力にそれは危険な誘いだった。

「させるかっ!」
バキッとダグラスの一撃がルキアスを襲った。
だが、ルキアスはその力を受け止めなかった。
研ぎ澄まされた感覚で正確に読みとったダグラスの攻撃に合わせて、剣先をギリギリのところで薙ぎ払ったのだ。
「おわっ!?」
やり過ごされた力はダグラスに計算外の反動としてかえっていく。
加算される力を予測して次の踏み込みに移っていたダグラスがバランスを崩したのはまさにその瞬間だった。

勝負を掛けるなら、その一瞬しかないのはわかっていた。
踏み込む足と反対方向に身体をよじらせ、流れに逆らわず剣先を返す。
それだけで、形成は逆転するはずだった。
ダグラスほどの巨体ともなると、わずかな方向の修正が微妙なタイミング差となって攻撃の成否を決定する。
おそらく避けられた瞬間にダグラスもそれを覚悟したはずだ。
けれども、またしても予定された方向からの攻撃はダグラスに返ってこなかった。
ダグラスが胴に受けるべき鋭い衝撃は、柔らかな反動を伴って心地よい重みになっていた。

それまでふたりのまとっていた激しい気の質が急速に変化していた。
激しさはそのままに、けれども空と大地の接点で溶け込むように同化していくのがわかる。
もう、ダグラスの手に剣はなかった。
がっしりした腕がとらえていたのはルキアス自身。
そのルキアスの手はダグラスの剣に添えられている。
「俺が剣を預けられるのはお前だけだ。」
不敵なまでの信頼が絶対の自信となってダグラスにルキアスを求めさせる。
「次は俺自身を受けとめて欲しいもんだな。」
熱き血潮は留まることを知らず、同化した気を極限へと昇華させていくのだった。

ダグラスとルキアス
「ダグラスとルキアス」 by さらまんだー様

おわり
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