デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(11)
常夜の地に残る唯一の町、リコンヌの沿岸沿いにプラネトス2世号は到着した。
「ツヴェル、ご苦労だったな。」
沿岸には、レオーネその人と、銀髪の幼い少女がともに彼らを待っていた。
「あー!あの子だ!!」
少女の顔を一目見た瞬間、アイーダはディーネの水鏡に映った幼い面影を思い出した。
「あ、こら、アイーダ、勝手に降りちゃ・・・。」
トーマスが止める間もなく、アイーダは接岸したところからリコンヌに飛び降り、少女のところへ行ってしまった。
「あの子が、私達をここへ導いてくれたんです。」
パルマンはレオーネに黙礼してからトーマスに言った。
「あの女の子が?」
「ええ。話せば長くなりますが、私が迷わず船を走らせることができたのも、あの子のおかげなんですよ。」
ディーネで見たとぎれとぎれの映像は、その時には何を意味しているのかさっぱりわからなかったが、ガルガに遭遇して異界に来た時、ようやくパルマンは意味のあるものとして認識できたのだ。
「ただ、その・・・。」
パルマンは停泊したプラネトス2世号の横腹に開いた穴を見ながら言葉に詰まった。
「船の修理のことなら心配無用だ。乗組員達は、ルカを筆頭にみんな一流の技術者でもある。」
トーマスはパルマンを安心させるように言ったが、現実は彼が考えているより遙かに深刻な事態に陥っていた。

プラネトス2世号の詳細な損傷報告はルカが取りまとめてトーマスの元へ持ってきた。
トーマスの前に立ったルカの表情はいつになく硬く、心なしか強張ってさえいるように見える。
「どうした?」
ルカが差し出した報告書をめくり始めたトーマスも、その深刻さを理解するや、さすがにいつものように軽口を叩くわけにはいかず、眉間にしわを寄せている。
「トーマス、どうしたの?」
そこへ、いつまで待っても誰も船から下りて来ないものだから、痺れを切らせたアイーダが戻ってきた。
「レオーネさんがね、プラネトス2世号のことで話があるって呼んでるんだけど。」
「ああ。すぐ行く。」
取りあえずは返事をしたものの、立ち上がる様子のないトーマスにアイーダはもう一度繰り返した。
「トーマス、レオーネさんが船のことで話があるって言ってるんだけど。」
それでもなお動く気配を見せないトーマスにアイーダはもう一段声を大きくして言った。
「ここじゃ、プラネトス2世号は修理できないんでしょ。そのことで話があるんだって。」
アイーダの発言は、トーマスのみならずその場にいた者全員の注意を引くことになった。
「どういうことだ?」
「だから、そのことでレオーネさんが話があるって言ってるの。」
同じ事を再三に渡って繰り返させられ、いささかアイーダのご機嫌は斜めである。
「わかった。すぐ、行く。」
今度はトーマスも腰を上げた。
「ルカ、一緒に来てくれ。」
「アイアイサー。」
トーマスはいつになく硬い表情で、プラネトス2世号を下りていった。

リコンヌの廃屋の一室で、レオーネはトーマス達を待っていた。
トーマス達と向き合ったレオーネは単刀直入に用件を切り出した。
「ご存じのように、異界とあなた方の世界とでは時間の流れが違います。船の修理は最低限に留めてなるべく早くあなた方の世界に戻った方がいいのは言うまでもありませんが、あなた方の必要とするものは、ヴェルトルーナでは手に入りません。」
レオーネは、プラトネス2世号がどういう状況にあるか、詳しく知っているようだった。
「けれども、船で行ける入り口は、ヴェルトルーナにしか繋がっていないのです。」
トーマスが最も心配していた事実がレオーネによって明らかになった。
「つまり、プラネトス2世号は応急修理をしたら、ヴェルトルーナに戻るしかないというわけだ。」
「それって、船の修理は完全にはできないってこと?」
「ヴェルトルーナではな。完全に船を修理するためにはギアに行く必要がある。」
「ギア?」
どこかで聞いたような町の名前にアイーダは首を傾げた。
「ギアって、フィルディンのどこか・・・よね?」
「ああ。」
「プラネトス2世号って、ギアで作ってたの?」
「というか、ギアの工場でしか作れない部品があるんです。あそこの溶鉱炉でしか、これだけの強度を保った部品を製作することはできませんから。」
アイーダの質問に珍しくルカが応えた。
「とりわけプラトネス2世号のエンジンはルカがギアの溶鉱炉の仕組みを応用して作ったものだからな。」
トーマスの補足説明にアイーダは驚いたようにルカを見つめ返した。
「じゃあ、ルカさんがギアの工場で部品を作らなきゃ船は修理できないってこと?でも、ヴェルトルーナにしかプラネトス2世号は戻れないんでしょ?」
「そう、船は戻れない。だが、人は別だ。そうですね、レオーネさん。」
レオーネが説明するまでもなく、トーマスには「そのためにどうしなければならないか」がわかっているようだった。
レオーネが頷くと、トーマスは具体的なことを知りたがった。
「で、どこからどこに通じてるんです?」
「古の遺跡から、フィルディンのどこかへ通じている入口があります。おそらく青の民に関係した場所になろうとは思いますが、心当たりがありますか?」
反対に尋ねられてトーマスはルカと顔を見合わせた。
だが、それはわからないからではなく、互いに心当たりの場所があったからのことだった。
青の民の遺跡でふたりの頭に浮かんだのは、真実の島に伝わる伝説である。
先にパルマンから、ディーネの祠で魔女の鏡による啓示の話を聞いたばかりであったから、同じような様相を持つ場所として、真実の島のことが、真っ先に思い起こされたのだ。
かつてアヴィンがルティスとともにそこで啓示を受けた話しを聞いていたことも多分に影響しているだろう。
「真実の島は普段あまり行き交う船のない場所ですが・・・。」
「まあ、あのあたりならポッポに頑張ってもらえば何とかなるだろう。」
「そうですね、親父さんに連絡が取れれば、船を回してもらって・・・。それなら、ギアまでそう時間も掛からないでしょうし。あとはギアで部品を作れば・・・。」
「しかし、仮に、フィルディンに出て、ギアで部品を作ったとして、その先はどうする?」
「そこなんですよね。フィルディンからヴェルトルーナにどうやって部品を持ってくるか・・・。」
トーマスとルカだけの会話が延々と続いていくのをアイーダはじっと我慢して聞いていた。

はじめは船のことだからと我慢していたが、結論の出ないふたりの話に、ついにアイーダは痺れを切らせて割り込んできた。
「・・・異界からヴェルトルーナに戻るのに、トーマスとルカさん抜きでプラネトス2世号が動くって本気で思ってるの?」
ひとことひとこと考えるようにアイーダはトーマスに問いかけた。
「アイーダ、いったい何を考えてる?」
トーマスの口調が珍しく厳しいものになったが、アイーダは臆することなく思い付いたことを口にした。
「あのね、・・・あたしがギアに行ってくる。ギアに行って、必要なものを作ってもらってくる。」
「・・・いきなり何を言い出すかと思えば・・・。」
笑い飛ばそうとしたトーマスを遮るようにアイーダは言い返した。
「だって、あたしとウーナは、青の民の遺跡を使って、フィルディンとティラスイールを旅してきたんだもの。」
「・・・いつの話だ?」
「ついこの前。トーマス、ボルトに迎えに来てくれたじゃない。」
アイーダに言われて、トーマスはミッシェルに急かされてティラスイールに向かった一件を思い出した。
迎えに行った当初は、なぜティラスイールにアイーダがいるのか疑問に思ったが、忙しさに取り紛れて、結局詳しい話は聞けないままに終わっていたのだ。
「それは・・・。だがな、フィルディンからヴェルトルーナへ通じてる道はないんだぞ。」
ガガープの傷跡は、現在もなお彼らの世界を分断し、互いの行き来を阻んでいる。
しかし、今トーマスが言い返したのは、そういうレベルの反論からきたのではなかった。
純粋に感情的なものであり、それだけにアイーダにはストレートに伝わってきた。
けれどもアイーダだって負けてはいない。
トーマスの剣幕に押されて、一瞬口ごもりはしたが、すぐにパルマンに目を移して尋ねたのだ。
「パルマンさん、アリアさんを愛してますか?」
藪から棒に何を言い出すのかと思えば、あまりにも不躾な質問に、さすがのパルマンも困惑したようだったが、アイーダの真剣な眼差しをみて正面から答えた。
「もちろんだ。この世界の誰よりアリアを愛しているし、大切に想っている。」
パルマンの答えを聞くと、アイーダは再びトーマスに向き直った。
「あたしとウーナはダメだったけど、パルマンさんなら、きっとフィルディンの転移門からシュルフの里に出れると思う。」
「・・・転移門?」
「あれだって、立派な青の民の遺跡でしょ。」
そしてアイーダは、手短に3つの世界に共通していると思われる転移門の話をした。
それはディナーケンから聞いた話の受け売りだったが、それだけに理に適ったものであり説得力があった。
アイーダが話を終えると、パルマンは嫌な顔ひとつせずに同意した。
「なるほど。そういうことなら、私もアイーダと一緒にフィルディンに行く必要がありますね。」
「ダメだ。あんたは一刻も早くヴェルトルーナに戻らなきゃならんだろ。ヌメロスを留守にしてると困る人が大勢いるはずだぜ。」
反論に出たトーマスに対しては、彼なりの言い分を持ってすかさず言い返しもした。
「しかし、このまま帰るわけにはいかないでしょう。そもそもプラネトス2世号を運行不能にしたのは私ですし、その責任は取らなければなりません。」
「それは違うぞ。あれは・・・俺がスピードを出しすぎて避けれなかったからだっ。」
「・・・トーマス、ムキになってる。」
ぼそりとアイーダが呟くのと、ルカが吹き出すのとほぼ一緒であった。

ルカにとってキャプテン・トーマスは絶対の存在だが、ことアイーダが絡んでくると、言い分は理解できるが、理において弱いことも承知している。
故に、ルカは、この件に関してはトーマスの主張が必ずしも正しいとは限らないことを誰よりも理解していた。
「キャプテン、ここはアイーダさんのいうとおり、パルマンさんと一緒にギアに行ってもらいましょう。それが一番早く、しかも確実に部品を手に入れられる方法のようです。何より船を修理できなければ、全員ヴェルトルーナで暮らすことになるんですからね。」
ルカは、キャプテンはそれでよくても、乗組員全員がそういうわけではないんですよ、と暗にほのめかしさえもした。
「それは・・・。だが、ふたりだけでフィルディンにやるわけにはいかない。」
なおも頑張るトーマスに追い打ちをかけたのは、またしてもアイーダだった。
「でも、トーマスはプラネトス2世号の船長さんでしょ。異界から戻るのにトーマス抜きで船を動かせると本当に思ってるの?」
アイーダの質問はトーマスにとって一番痛いところを突いてくる。
しかし、そのままアイーダの主張を「ハイ」と受け入れることはできなかった。
パルマンは信頼に値する相手ではあるが、それ以上にアイーダに対する感情的な想いが勝っているからだ。
「だからって、地図もなしにギアまで行けるわけないだろうが。」
何とか屁理屈をこねてはみるものの、結果はどうもはかばかしくなく、虚しく空回りしていくばかりである。
「フィルディンの地図なら、あたし、持ってるけど?」
アイーダはポシェットから一枚の地図を取りだして見せた。
「・・・なんで、ギルドの地図をアイーダが持ってるんだ?」
驚くトーマスに、アイーダは誇らしげに地図をくれた友人の名を告げた。
「ルキアスさんからもらったの。」
「ルキアスって・・・あのサファイア・アイズか!?」
「うん。ブリザックからガヴェインさんの船でフィルディンに送ってもらう前にね。」
「・・・おやじさんとも知り合いかよ・・・。」
思わずトーマスは頭を抱えたくなった。
しかも船で送ってもらったというあたり、アイーダは単なる知り合いの女の子というより、かなり気に入られた友人に類するとみていいだろう。
トーマスが驚いている間に、アイーダは取りだした地図を広げて、進むべき道を指さしていった。
「真実の島からドークス、セータと行って、そこからバロアに、ギア。たぶん、大丈夫。」
「参ったな。」
さすがのトーマスもこれは効いたようで、返す言葉が見つからず宙を睨んでいる。
「で、フィルディンでは他に誰と知り合った?」
こうなれば聞くべき事は聞いておかねばとトーマスは質問を変えた。
「マイルさんにディナーケンさんのとこへ連れてってもらって、その前にマーティさんとミューズさんに港で会って、それから、アヴィンさんとルティスさんにも会った。」
指折り数えながらアイーダの口から知り人の名前が出る度に、トーマスがフィルディンに行く必要性がどんどんなくなっていくのがわかる。
「キャプテンより、ツテが多そうですね。」
ルカの一言で、ついにトーマスも決心したようだ。
「ルカ、プラネトス2世号に一旦もどろう。続きは必要なものを揃えてからだ。」
「アイアイサー。」
「それじゃ、レオーネさん、この場は一旦失礼させてもらいます。アイーダとパルマンさんは、このまま少しここで休ませてもらうといい。今、プラネトス2世号には休めるような場所がないからな。」
アイーダは何か言いたそうな様相だったが、言葉には出さず、そのまま頷いた。
「なるべく早く戻ってくるから。」
言葉少なにトーマスは言い残すと、ルカとともにプラネトス2世号に戻っていった。
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