デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(12)
トーマスとルカがプラネトス2世号に戻った後、アイーダは手持ちぶさたでポシェットに手を突っ込んだ。
ふと指先にいつもと違う感触を感じて取り出してみると、青いどんぐりの実が転がり出てきた。
「あ、あのときのどんぐりだ。」
掌の上で、あてもなく転がるどんぐりは、そのまま今の自分を映しているようで切なかった。
「どん・・・ぐり?」
「え?」
気が付くと大きくてまん丸のこぼれそうな瞳がアイーダのすぐ後ろにあった。
「ここにはないものですからね。」
アイーダの訝しげな視線を受けてレオーネが目を細めて答えてくれた。
「そっか。異界には森とかなさそうだもんね。」
アイーダは大きめのどんぐりをひとつ摘んで少女の手に置いてやった。
「面白い?」
掌の上で転がるどんぐりを、銀の髪の少女はまばたきもせず見つめている。
初めて見るどんぐりに物珍しさを感じているのは間違いないが、それから先も少女はじっと見つめているだけである。
どうやらどんぐりで遊ぶことを知らないらしい。
アイーダは残りのどんぐりをバラバラと付近に広げると、持ち歩いている道具の中から針と糸を取り出し、すばやくどんぐりを繋げて人形を作り出していった。
「これをね、こうやって糸を通して繋いでいくと、ほうら、ね?」
一握りもある大きいどんぐりを胴体にして、丸いどんぐりを頭に見立て、細めのどんぐりを手足にするべく繋いでいく。
「これが手で、こっちが足。これをこうやって・・・うーん、糸が足りない。」
選んだどんぐりをつなぎ合わせると人の形にはなるけれど、そこから先へは材料不足で進めなくなった。
「この辺に糸があるわけないですよね。」
レオーネが頷くと、パルマンが一石を投じた。
「プラネトス2世号にならあるんじゃないですか?」
「で、でもぉ・・・。」
トーマスとルカがさっさと帰ってしまったことを、アイーダは気にしているらしかった。
「大丈夫ですよ。材料を取ってくるだけでしょう。それに、彼女がその人形を気に入っているようなら、私からも是非プレゼントしてあげたいですからね。それと。」
そのあとをパルマンは真剣な表情に戻って続けた。
「フィルディンを二人で旅するとなると、カプリの力も必要になると思うのですが。」
「あ!」
指摘されて、アイーダも思い当たる節がたくさんある。
「そうよね、カプリも元に戻しておかなくっちゃ。だったら、やっぱり材料がいるわ。パルマンさん、あたし、プラネトス2世号に戻ってくる!」
元気に応えたアイーダをパルマンは嬉しそうに見送った。
どこか所在なさげにしている少女を見るのは、パルマンとしても辛かった。
アイーダには元気いっぱいの笑顔でいて欲しいと彼なりに心配していたのである。
「急いだことじゃないから、トーマス達と一緒に戻っておいで。ここは私が残っているから大丈夫だ。」
パルマンの声にアイーダは大きく手を振って応えると、そのまま一目散に港の方へ駆けていった。

リコンヌの港に停泊中のプラネトス2世号では、乗組員が総出で船の修理に当たっていた。
それでもアイーダの姿に気が付くと、誰とはなしに知らせが飛んだらしい。
タラップを上がったアイーダはルカに出迎えられた。
トーマスが出迎えてくれなかったことには落胆を禁じ得ないが、彼には彼の立場がある。
ましてや異界での慣れない修理作業ともなると、細かな目配りが必要になってくることも想像に難くない。
「何でしたら、キャプテンを呼んできましょうか。」
「いいよ、ルカさん。あたし、人形の材料をもらいにきただけだから。」
アイーダは努めて平静に用件を告げ、ルカに断ってから船倉に降り始めた。
「・・・すごい・・・これ、修理しなきゃいけないんだ。」
アイーダが下りている階段は不自然に歪み、壁の板もあちこちが外れている。
「見た目ほどひどくはないから大丈夫ですよ。それより、人形の材料というと、何か作るんですか?」
「それもあるけど、フィルディンに行くなら、カプリをもとに戻しておかないといけないから。」
「カプリを?」
しかし、それならそれなりに広い作業場がいるだろうとルカは思った。
「船倉はこんな状態ですからちょっと無理ですが・・・。あ、ひとつ良い部屋が空いてます。あそこは修理も必要ないですし。多少、人の出入りはあるかもしれませんが、アイーダさんがいる分には誰も文句はいわないでしょう。」
「え、でも、やっぱり邪魔しちゃ悪いから材料だけもらって帰るわ。」
倉庫に入ったアイーダは、必要なものを探しだし、手頃な空き箱に詰めはじめた。
その様子を見ながらルカは再び声をかけた。
「ひとくちに材料といってもいろいろあるんでしょう?それに道具だって必要でしょうし。そもそもその人形だって、フィルディンに行くことになったから必要になったわけですから、遠慮はいらないですよ。むしろ、大いばりで使ってください。」
必要なものが揃った箱をルカは持ち上げると、そのまま階段を上がり始めた。
アイーダがどうしようかと躊躇している間に、ルカは目的の部屋へ彼女を案内していく。
「はい、どうぞ。」
ルカは先にたって部屋に入ると材料の入った箱を適当に置いた。
「あのぅ。」
「遠慮はいらないですからね。あの机の一角以外は、自由に使ってください。」
「でもぉ・・・。」
アイーダは借りてきた子犬のように落ち着かず、正直とまどっていた。
そこへドタドタと別な足音がして人が入ってきた。
「おい、ルカ、さっきのことだが・・・え、アイーダ?!」
部屋に入ってきたのはキャプテン・トーマスその人だった。
「やっぱり、ここ船長室・・・。」
アイーダの呟きにルカは至って涼しい顔で、トーマスに向き直ると、彼女が来た理由とこれからする予定の作業について説明した。
「・・・そういうわけですから、この部屋をアイーダさんの作業場に提供してあげてください。」
「俺はどうするんだ?」
「キャプテンの作業には机の一角だけあれば十分でしょう。」
「それは、そう、だが・・・。」
「じゃ、よろしくお願いしますね。」
それからルカはアイーダを振り返って言った。
「アイーダさん、ついでで申し訳ないですが、キャプテンがさぼらないよう見張りもお願いします。」
「おい、ルカ!」
ルカはきょとんとしているアイーダにもう一度笑いかけるとそのまま部屋を出ていった。
残されたトーマスの手には、ペンとインク壺、そして便せんの束が握られている。
およそトーマスに似つかわしくないその道具類にアイーダは不思議なものを見るかのように首を傾げた。
「手紙、かかなきゃいけないからな。」
ぼそりとトーマスが呟いた。
「手紙?」
「ブリザックのおやじさんには事情を説明して真実の島まで迎えに来てもらわなきゃならんし、ギアの親方への依頼文も必要だ。船の運航に関わる交渉事だから、俺がするしかない。」
机に向かって手紙を書いているキャプテン・トーマスなんて想像もできないが、本人が言うからには事実なのであろう。
アイーダは、トーマスの困惑した顔を見ているうちに、それまでの緊張が嘘のように引いていき、自然と笑みがこぼれていくのを感じていた。
「こら、笑うなよ。」
「うん。」
答えながら、アイーダは笑っていた。
「俺だって、苦手なもののひとつやふたつはある。」
「わかってる。」
笑いながらアイーダはトーマスの広げられた腕の中に飛び込んだ


プラネトス2世号の修理の進行状況はルカが一手に引き受けている。
船の運航そのものに関わることはトーマスが決定していたが、細部に渡る個々の状況については、副長に委ねられているからだ。
異界においてもそれは何ら変わることなく、ルカは淡々と自分の役割をこなしていた。
「取りあえず、これで船の方は大丈夫として、問題は・・・。」
甲板に上がったルカは、そこでトーマスからポッポの扱いを教えてもらっているアイーダに目を移した。
いつもはトーマスの肩に止まっている白鳩は、アイーダの頭や肩の上をちょこちょこ飛び回っている。
「キャプテン、船の修理は大方終わりました。レオーネさんのところへ戻りますか?」
ルカの声を聞いて、トーマスは足下の籠を取り上げた。
「ああ、こっちは準備完了だ。いつでもいいぞ。」
だが、ポッポはトーマスの肩に戻ってもクックと鳴いて籠に入ることを拒否した。
「トーマス、出発まで籠に入れるのはかわいそうよ。」
アイーダはトーマスから籠を取り上げると、先にたってタラップを降り始めた。
「よかったな、ポッポ。」
ぐるぐるっと鳴いた鳩を肩に留まらせて、トーマスはルカとともにプラネトス2世号を下りていった。

リコンヌの町へはいると、トーマス達はツヴェルの案内でそのまま古の遺跡まで行くことになった。
パルマンはレオーネ達と先に出発して遺跡で待っているという。
ほどなく古の遺跡に到着したアイーダは、物珍しそうにあたりのストーンサークルを眺めた。
「あ、パルマンさんだ。あ〜、すっかり懐かれてる。」
パルマンの側にはあの少女がいて、何やら楽しそうに遊んでもらっている。
「もしかして、どんぐりのコマ?もう、パルマンさんたらいつの間にあんなものを!」
アイーダは籠をトーマスに押しつけると、少女の元へかけっていった。
アイーダの手には、どんぐりでつなぎ合わせた小さな操り人形が握られている。
新しい玩具に少女の笑顔が一段と大きくなった。
一方、トーマスはレオーネと再会すると、パルマンとアイーダをエル・フィルディンに送り出す手順について確認しはじめた。
「あまり時間的猶予はありません。間もなく歪みが発生します。ただ、問題は。」
そこでレオーネは少し申し訳なさそうに言葉を添えた。
「このストーンサークルのどこかで発生することまでは掴んでいるんですが、正確な時間と場所は発生してみないとわからないのです。」
「え?」
「異界の月の影響で、古の時代に比べるとかなり不安定になっているものですから。」
「それなら、ポッポを今のうちに渡しておいた方が良さそうだな。」
トーマスが籠の蓋を開けると、ポッポは嫌がるように羽根を羽ばたかせてアイーダの方へ飛んでいった。
「こら、戻ってこい!」
ポッポを追いかけていくトーマスに代わって、ルカがパルマンに何通かの手紙を言付けた。
「確かにお預かりしました。それにしても責任重大だ。」
「よろしくお願いします。」
「形はどうあれ、結果としてガガープを越えて別世界に行くという貴重な体験をしているわけですから、ガゼルなどに言わせたら、羨ましい限りでしょう。」
パルマンは物事を前向きに捉えることで、自分の糧にする術を身につけていた。
また、ミゲルと知り合ったことで、船乗りなら少なからずそういった気持ちを抱いていると知ったことも多分に影響しているだろう。
「本当は、僕かキャプテンが一緒に行ければ一番いいのですが。」
ルカはポッポを追っているトーマスを目で追いながら小さく溜め息を吐いた。
いつもはすんなりトーマスの言うことを聞くポッポが、今日に限ってひどくご機嫌斜めのようである。
アイーダとトーマスの間を行ったり来たりしていたポッポは、ふいに方向を変えてパルマンの方へ飛んできた。
「おっと。」
パルマンはタイミングを図って頭上に止まったポッポを捕まえた。
「パルマンさ〜ん、そのまま捕まえてて!!」
「承知した。」
「やれやれ。まったく今日に限ってどうしたんだ?」
パルマンの手に捕まえられているポッポをトーマスは心配そうに覗き込んで言った。
「アイーダ、籠を開けてくれ。パルマン、ポッポを、そのままゆっくり籠へ。」
トーマスが補助してパルマンが慎重にポッポを籠に入れていく。
が、あと少しで籠に入るという時のことである。
いきなりポッポが羽根をばたつかせてパルマンの手をすり抜け、アイーダの頭に飛び出したのだ。
「こら、ポッポ、往生際が悪い・・・!?」
トーマスとパルマンが同時にポッポを押さえたその刹那、それは発生した。
光の柱がアイーダを中心に突然に出現したのだ。
当然のことながら、その光はすぐ傍にいたトーマスとパルマンをも呑み込んだ。
「キャプテン!!」
光の柱が消滅した時、アイーダとパルマンは勿論のこと、トーマスとポッポの姿も消えていた。
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