デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(14)
アイーダからプラネトス2世号が異界で立ち往生していることを知らされたガヴェインは、さすがにすぐには言葉が出てこなかった。
これがエル・フィルディンのどこかで、というのなら、どうにでも手助けしてやれるが、まるきり別の世界にいるとあっては手の出しようがないではないか。
「でも、船は無理でも人なら、その、こっちにくることができるってわかって、それで・・・。」
渋るトーマスを説得してパルマンとふたりでエル・フィルディンに向かうはずだったのが、運命のいたずらか、アイーダひとりがコルナ村に出てしまったというわけである。
「でも、ポッポちゃんが一緒にいるってことは、きっとトーマスやパルマンさんも、エル・フィルディンのどこかに出たと思う。・・・どこかまではわかんないけど・・・。」
きゅっと毛布の端を握りしめて、アイーダは表情を隠すように俯いた。
アイーダの話を聞き終えたガヴェインは、フィルディンにいるもうひとりの賢者のことを思い出しながら、ゆっくり言葉を紡ぎ出した。
「ディナーケンの説が正しいとすれば、一番可能性のありそうな場所となると、やはり真実の島だろうな。」
「え?」
期待と不安の入り交じった瞳にガヴェインは不器用なウインクを返して言った。
「トーマスが思い浮かべることのできる場所といえば、そこくらいしかない。」
「あ、そうか。そうですよね。あれ?でも、だったら、どうしてわたし、ここに出ちゃったんだろ・・・。」
今の説からいくと、エル・フィルディンにおいては、ヴァルクドかフィルディンの転移門がアイーダの出現する確率の最も高い場所ということになる。
「それは、もしかしたら、ここにある神殿があなたを呼び寄せたのかもしれません。」
それまで黙って話を聞いていたエレノアが口を挟んだ。
「神殿?」
「ここにはさ、青の民の時代からの古い神殿があるんだよ。君を守っていた力と何か関係があるのかもしれないね。」
ラエルの補足にガヴェインも頷くものがあったのであろう。
「なるほどな。」
しかし、エレノアはラエルほど楽観的に考えてはいないようだった。
「でも、残念ながら、あくまで想像の範疇であって、理論的な根拠は何もありません」
「まだまだわかんないことだらけだからね。第一、僕の魔法力をもってしても、アイーダを守っていた力のことはさっぱりわかんなかったし。」
アイーダのきょとんとした顔に、ラエルはすかさず笑って返した。
「でも、それ以外じゃ、僕の魔法はフィルディン1だからね。」
エレノアが密かに首を振って小さくため息をついたのが見て取れたが、アイーダはラエルの話をそれなりに信じる気になっていた。
これまでにいろいろな魔法使い達と接してきた経験から、ラエルの持つ独特の雰囲気には覚えがあったからだ。
性格は全く正反対のようだが、ラエルの雰囲気はモリスンに近いものがある。
けれども、何事に対しても生真面目すぎるモリスンと違って、ラエルの底抜けに明るい性格は、少なくとも今のアイーダにとって救いであった。

アイーダが落ち着いたのを見て、ガヴェインは現実的な話を始めた。
「それはさておき、問題はこれからだ。真実の島へ行くにはかなりの時間がかかる。できるならプラネトス2世号の修理に必要な部品の手配をしてから出かけたいところだが、船の状況がわからんことにはな・・・。」
「あ、もしかして、これって役に立つかな?」
ガヴェインの話に何か心当たりがあるのか、アイーダはポシェットを探ると、数枚の紙切れを取り出した。
「えっと、船の修理だから、これかな?」
その中から、お目当ての紙を広げてガヴェインの前に差し出した。
明らかにトーマスのものとわかる殴り書きに近いラフな筆跡で、船の概略図と部位の名前が煩瑣に記入されている。
上目遣いで見あげたアイーダにガヴェインは満足そうに頷いてみせた。
「かなりはしょってあるが、だいたいの状況はこれで十分じゃ。さすがに機関部の細部にわたってまではわからないが、組み立てた工場の職人達ならば、必要な部品を作れるだろう。」
「じゃあ、これをギアに持っていけば、船に必要な部品を作ってもらえますね?」
「ああ、大丈夫だ。」
「よかったあ。」
アイーダはほっと胸を撫で下ろすと、心底うれしそうな笑みをガヴェインに向けた。
その笑顔に並ならぬ決意のようなものを感じて、ガヴェインは思い当たったことを聞き返した。
「まさか、これからギアに行くつもりなのか?」
「だって、全部作ってもらうのには結構時間がかかるってルカさんも言ってたから。清書した手紙は、パルマンさんが持ってるはずなんだけど、どこにいるかわかんないし・・・。」
努めて明るく振る舞っているが、本当なら一緒にいるはずの人がいないことへの不安は相当なものに違いない。
だからと言って、そのことにいつまでもくよくよしているでなく、常に前向きに行動していくのがアイーダという少女なのだ。
「ダグラスさんがここにいるってことは、ギアまでそう遠くないってことでしょ?」
向けられた笑顔に、ダグラスは柄にもなく戸惑った。
「そりゃあ、まあ・・・。しかし、途中、タチの悪い魔獣が出るぞ。」
「あ、だったら、僕が一緒に行くよ。ルカとは付き合いも長いし、あいつが困ってるっていうのなら、なおさら助けてやらなくちゃね。」
すかさずラエルがアイーダの加勢に出た。
「あなたの場合は、ここでの研究から逃れる口実にしか聞こえません。」
ぴしゃりと返したエレノアにラエルはぶーっと頬を膨らませた。
アイーダをひとりでギアに向かわせることについては、エレノアにしても難色を示していることには変わりがない。
しかし、いくら心配だからといっても、遺跡の発掘現場の責任者であるエレノアまでがコロナ村を離れるわけにはいかなかったのだ。
ラエルの申し出が、そのあたりのこともちゃっかり計算済みであるだけに、エレノアが心配するのも無理なからぬことであった。
「ささっと行って、またすぐ戻ってくるからさ。第一、大怪我したあとのアイーダに長旅はさせられないもんね。」
「・・・本当にそう思っていてくれればいいけど。」
「そりゃ、ギアの町を少しくらいは案内するかもしれないけどさ。そのくらいは旅のついでってもんだし。」
「それこそが問題なんです。だいたいあなたは・・・。」
「まあまあ、エレノア先生、俺も一緒に行くんだから、その点はしっかり監督しておいてやるさ。」
苦笑混じりでエレノアとラエルの会話を聞いていたダグラスが、ふたりの間へ仲裁するべく割って入った。
ダグラスは、初めのうちガヴェインもアイーダに同行するものとばかり思っていたのだが、彼は単独でトーマス達の行方を追って真実の島へ直行するつもりでいることに気が付き、成り行き上、そうするのがよさそうだと判断したのである。
何より、あのルキアスがギルドの地図を与えたほどの少女なのだ。
しかも旅の途中で、いろいろと自分のことを話していたらしいことも判明している。
ルキアスが、他人のことを単なる噂話として面白おかしく話するような人間ではないことを知っているが故に、かえって気になってきたともいえる。
道中にダグラスが加わることで、エレノアは渋々ラエルの同行を認めたようだ。
「ダグラスさんが一緒に行ってくださるなら、まあ、仕方ありませんわね。」
「やったっ!」
子供のようにはしゃいだと思いきや、次の瞬間、ラエルはにこっとアイーダに向かって言ったのだ。
「アイーダは僕の魔法で守ってあげるからね。」
臆面もなく宣うと、そのままラエルは旅の支度を整えるべく部屋を出ていったのであった。

ラエルの去ったあと、残されたエレノアは、「どうしようもないわ」とこめかみを押さえている。
ダグラスは驚くよりも呆れていたし、当事者のアイーダはといえば、言われた意味を理解するのに少々時間がかかっているらしく、きょとんとした表情のままであった。
アイーダの事情を知っているガヴェインだけは、笑いをかみ殺していたが、これから先のことを思うと、楽しんでばかりもいられない。
再び現実に戻ったガヴェインは、ふと疑問に思ったことをアイーダに聞いてみた。
「だが、よく下書きなんぞ持っておったな。」
トーマスの性格からして、万が一に備えて下書きを別の誰かに預けておくなどということは考えられなかったので、おそらくこれはアイーダの一存で取っていたに違いない。
半ば感心したようなガヴェインにアイーダは赤面しながら小さくつぶやいた。
「だって、トーマスの書いたものだったから・・・。」
「???」
ガヴェインはアイーダの言った意味が理解できず怪訝な表情を浮かべた。
ダグラスにしてもそれは同様だったが、エレノアだけはにっこり頷いた。
例えそれがアイーダ宛のものでなくても、トーマスの書いた手紙ということが彼女にとっては重要であることを、エレノアだけは理解してくれたのである。
「筆まめな殿方の方が希ですものね。」
この地点でエレノアはラエルの敗北を悟ったのだが、せっかく張り切っている彼に水を差すのも悪いので、黙っておくことに決めたのだった。

旅の準備ができ次第、アイーダがギアに向かうつもりでいることを聞いたミゼル夫人は驚いたものの反対はしなかった。
「その代わり、途中で倒れでもしたらそれこそ大変だから、ちゃんと力の付く物を食べてからでないと、この家を出すわけにはいきませんからね。」
彼女は、それこそアイーダが音を上げるほどの食事を運んできた。
「これ、全部食べるの?」
「ついさっきまで寝ていた怪我人を旅に出そうというんだから、これくらいはねえ。」
世話好きの夫人らしい心遣いに感謝しながらも、アイーダはその量の多さに目眩がしそうだった。
「なんなら、俺が手伝ってやろうか?」
「ダグラスさん用には別にちゃんと用意させてもらいましたから、こっちへどうぞ。」
ダグラスはミゼル夫人に睨まれて、別室へと出ていった。
「では、わしは一足先に出かけるが、本当に大丈夫じゃな?」
ガヴェインが念を押すとアイーダは元気よく返事をした。
「あたしにはカプリがいるから大丈夫。ドカーンとやっつけちゃう。」
底抜けに明るいアイーダの言葉に、ガヴェインは自分の見込み違いでないことを再認識し嬉しく思った。
「ウーナやルキアスさんと一緒の時もそうだったもの。ダグラスさんは凄腕の剣士だって聞いてるし、ラエルさんも優秀な魔法使いなんでしょ?だったら、道中の魔獣なんてへっちゃらよ。」
どこまでも前向きなアイーダにガヴェインは今更ながらに感じ入っていた。
これなら大丈夫だと、ガヴェインは安心して席を立った。
「それでは、また、会おう。」
部屋を出かけたガヴェインに、アイーダはふいに呼びかけた。
「ガヴェインさん。」
振り向いたガヴェインに、アイーダはするりとベッドから抜け出すと、そのままの格好で彼の前までかけてきた。
「ありがとうございました。」
深々と頭を下げたアイーダにガヴェインの瞳が大きく見開かれたが、彼は彼女の肩を軽く叩いてやると、そのまま無言で部屋を後にしたのだった。
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