デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(17)
ガガープによって分断された世界を行き来するには、プラネトス2世号クラスの船で海を越える他に、もうひとつ、強力な魔法の力を借りて空間をテレポートすることでも可能であった。
しかし、それを可能とする魔法使いは、それこそ砂漠の中で砂金をみつけるにも等しいほどに希有な存在である。
ティラスイール出身の魔法使い、ミッシェル・ド・ラップ・ヘブンは、それが可能な極めて強力な魔法の使い手のひとりであった。
だが、彼の故郷ディラスイールは、魔法そのものがまだ否定的な見方をされている時代の中にあり、魔法を使うというだけで忌避されていた。
それでも、魔法の使い手達は、それなりの情報を得て、何らかの繋がりを持ちつつあった。

ティラスイールでも比較的おおらかな風土にあるアンビッシュ国のモリスンは、代々がアンビッシュ王家に使える家柄ということもあり、恵まれた環境の中で成長してきた魔法使いの一人である。
彼は、旅の途上で偉大な魔法の使い手たるミッシェルの噂を聞き、いつか師事したいと思うようになっていた。
その熱意は、彼の旅を実りあるものへと導き、ミッシェルと出会った時、モリスンは己の欲するところをはっきりと認識するまでに至っていた。
弟子を取ろうなどというつもりはさらさらないミッシェルだが、若いモリスンの話を聞き、また自分の経験してきたことを参考がてらに話すことについてはやぶさかでない。
ゆえに、近頃、時間の取れるときは、なるべくテュエールに戻り、モリスンと話をする機会を設けるようにしていた。
最初のうちこそ、ミッシェルからモリスンへ一方的に知識が流れていくだけであったが、いくらも経たないうちに、モリスンからミッシェルへと有益な情報が入ってくるようになった。
アンビッシュ国の重臣であるモリスンの実家の情報網は、ミッシェルの持つそれとは情報源からして趣を異にしている。
大半は、いますぐに役立つ類のものではなかったが、ミッシェルの描いているティラスイールの未来像には少なからず影響を及ぼすであろうことが予測できた。
魔法を極めるだけなら個人の修行の範疇ですむが、魔法そのものの存在を受け入れてもらえるようにするには、いつかは突き当たる問題でもある。
とはいえ、先を見るにも足下を固めてからでないと始まらない。
ミッシェルの計画は、今のところ、まだ下準備の段階でしかなかった。

前回の旅からそれほど時間を空けずしてティラスイールに戻ってきたミッシェルは、テュエールにある自分の家の前にモリスンを見ても特別な驚きはなかった。
モリスンが待っているかも知れないということは、ある程度予測の範囲内であったからだ。
しかし、話の中身は全く予想外のことばかりで、さすがのミッシェルも唸ることしきりであった。
「つまり、私とほぼ入れ違いにアイーダとパルマンがこの世界にいたということですね。」
「はい。」
神妙な顔のモリスンにミッシェルは慎重に言葉を選んで尋ねた。
「その後、ふたりがロップ島方面にガルガと一緒に向かい、光の柱に飲み込まれたというのは確かなのですか?」
「直接にこの目で見ることは叶いませんでしたが、そのことをディーネの鏡は掲示していました。ただ・・・。」
「だた?」
「私はその島がロップ島に見えましたが、見る人によって、違う可能性はあります。」
自信なげなモリスンの一言は、何気ないようでもかなりの重みがあった。
遠目に見る島の形は、よほどその地に詳しくなければなかなか見分けがつかないものである。
実際、モリスンが描いてみせた島の形は、彼の知識の中ではロップ島にしか見えなかったが、ミッシェルには、まだ心当たりの場所がいくつかあった。
同時に、その場所が「次に向かう場所」なのか「最終的に向かった場所」なのかもはっきりしないのだ。
しかもその場所は、いずれもガガープを超えた先の世界にある。
テレポートで行ける範囲ではあるが、気軽にひょいと行けるほどに近くはなかった。
「そうは言っても、このまま放っておくわけにもいきませんし。片っ端から行ってみるしかないでしょうね。」
最後は独り言に近い呟きだった。

ミッシェルは一呼吸おくと、ゆっくり立ち上がった。
「これからまたしばらく留守にすることになると思いますが・・・。」
「その間、ここで待たせていただいてよろしいでしょうか。」
ミッシェルを見上げたモリスンのそれは質問というより、確認に近い問いかけだった。
「私が感じていた以上に時空の歪みは大きいように思います。同じ事がまた起きないとも限りません。」
モリスンの言わんとしていることは、ミッシェルにもわかった。
テュエールはティラスイールのほぼ中心に位置していることから、どこかで何かが起こった時、行動を取りやすい。
モリスンは、事件が片づくまでここで待機していようと申し出たのだ。
「しかし、家の方に戻らなくてもよろしのですか?」
明らかに旅の途中に立ち寄ったとわかるモリスンの出で立ちにミッシェルはそれなりに気を遣った。
「対岸を渡ればすぐボルトですから。」
モリスンは笑った。
「そうは言っても、連れの方もいらっしゃるのでしょう?」
「実を言うと、そっちの方が問題でして、その、言い訳を思いついてからでないと帰るに帰れないんです。」
苦笑しているモリスンにミッシェルは首を傾げた。
「私のお小遣いの中だけでは少々不足するものですから。」
「あ!」
アイーダとパルマンは、ミゲルの船タラッタ号とともに姿を消したのだ。
モリスンがミゲルの船を弁償するに当たって、ひとまずは家から資金を引き出さねばならなかった。
海難事故でもなく、ましてや自然災害に巻き込まれたわけでもなし、モリスンが言い訳に頭をひねらねばならないのも頷ける。
「そうですね。まあ、そっちのほうは、いずれ当人達から取り立てるという手もありますが・・・。」
いずれにしても彼らの行方を捜さなければ始まらない。
「では、この家の管理をしばらくお願いできますか。」
「はい、こちらこそしばらくお邪魔させて頂きます。」
ミッシェルはモリスンに家の鍵を預けると、休む間もなく、目星を付けた場所へと移動を開始した。

異界と関わりのある島は、ミッシェルの調査した限りでは、それぞれの世界にひとつづつあった。
ミッシェルが真っ先に思い浮かべるのはヴェルトルーナにあるレクト島だが、今回は外していいだろう。
「あれは島の形をしていませんから、今回はまず除外ですね。」
次に、ティラスイールにあるロップ島だが、こちらは問題外といった感がある。
第一、ロップ島であれば、モリスンがわざわざ訪ねてくる必要がない。
残るは、エル・フィルディンにある真実の島ということになる。
アイーダとパルマンという組み合わせからは、全く繋がりの思い浮かばない島ではあるが、消去法によって残るのはここだけだ。
「ともかく、行ってみますか。」
ミッシェルはいくつかの留意点を復唱しながら、フィルディンへのテレポートに入った。

ガガープを超えるテレポートは、それだけでもかなりの魔力を消耗する。
ましてや特異的な結界があると、その疲労度は通常の比ではなかった。
「はあ・・・さすがに息が切れますね。」
ミッシェルはテレポートした先の岩陰に身を寄せると瞼を閉じて素早く呼吸を整えにかかった。
その間も彼の五感はあたりの様子を間断なく伺っていたが、閑散とした風が吹きつけるばかりで、予想していた反応にはついぞ出会うことがなかった。
「おかしいですね。」
ミッシェルは、もう一度張りつめた感覚を島の全ての領域へと広げてみた。
だが、やはり目的とする反応は見つからず、それどころかこの島にいるのは自分だけという結論に達したのである。
「どういうことでしょうか。」
他に魔女の鏡に予見されるような島があるということだろうか、それとも・・・。
「予見そのものが違っていたということですかね。」
思い当たることがないわけではない。
何しろ魔女の鏡の映し出す掲示は、必ずしも断定された未来に寄与するものとは限らないからである。
未来は常に流動的であり、ほんの小さな出来事ひとつで大きく変化していくものなのだ。
どちらにしても、今わかっているのは、真実の島にいるのは自分だけということである。
「これからどこかに行くにしても、少し休んでからでないと無理でしょうね。」
考えてみれば、ヴェルトルーナからティラスイールに帰って、すぐまたフィルディンへとテレポートの連続であった。
本当ならすぐにでもアイーダとパルマンの探索を再開したいところだが、いかにミッシェルが強大な魔力を持っていようとも、このあたりが彼の魔力の限界といえた。
そして、魔力だけでなく体力にも限界はある。
幸いにして四方を海に囲まれた島は、物理的な安全を保証してくれていた。
それでもミッシェルは最小限の結界だけは張っておいた。
「少しだけ・・・。」
ミッシェルは、自分にも体力の限界があることを久しぶりに思い起こすことになったのだった。
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