デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(20)
一足先にヴァルクド大聖堂の転移門からフィルディンの図書館に出ると、ガヴェインはまずディナーケンをたずねて、手短に状況を説明した。
「ふむ、いろいろと面白いことが起きているようだな。」
ディナーケンは旧友の申し出を快く了承し、これからの連絡に図書館側の転移門が自由に使えるよう便宜を図ることを約束してくれた。
「そうそう、面白いと言えば、コルナ村の遺跡でも変わったことが起きているらしいぞ。」
「ああ、知っておる。その件とあながち無関係でもないんでな。」
「ほう?だが、これは知らんだろ。たった今、着いたばかりのエレノアの報告書だ。」
「わしが見てもよいのか?」
「解決の糸口は、そっちにありそうだと踏んだのだが。」
ガヴェインは挨拶だけですぐに立ち去るつもりだったが、ディナーケンに引き留められ、その後小半時ほど図書室に留まることになった。
更には、エレノアの報告書は、新たな展開を示すことになりそうだと、ガヴェインとディナーケンの意見が一致を見たのである。
「そうはいっても、もう少し詳しいことがわからんと動きようがないな。ラエルが思いの外、頑張ってくれてるようだが、この件に関して一番詳しい御仁が、今、ちょっと難しい状況にあるのでな。」
「その件もできるだけ協力しよう。」
「すまんな。」
言葉少なでも、互いの思うところは伝わっている。
ガヴェインはディナーケンに礼を言うと、今度こそルティス達と一緒に転移門をくぐったのであった。

転移門を出たルティス達は、図書館の入口でアヴィンとマイルにはち合わせた。
「アヴィン!マイルも一緒なの?」
「アイメルから伝言は聞いたよ。で、病人がいるってことだったから、マイルと馬車を借りてきたんだ。でも・・・。」
ルティスの腕に抱かれた銀髪の少女はともかくとして、その背後でガヴェインに支えられるようにして出てきたミッシェルを見た時には、さすがのアヴィンも驚きを禁じ得ないようであった。
「ここじゃなんだから、とりあえず馬車の中へ入って。アヴィン、ゆっくり走らせてよ。」
「わかってるさ。ええっと。」
ぐるりと出てきたメンバーの顔を見回し、アヴィンは馬車と見比べた。
まさかこれほどの人数になるとは思わなかったのでそれほど大きくない馬車の中に、全員が収まるというわけにはいきそうになかったのである。
「わたしはアヴィンさんと御者台に乗りますね。」
ぺこりと再会の挨拶をしたあとで、ウーナが進み出た。
ゲルドを抱いているルティスと、ガヴェインからミッシェルをバトンタッチされたマイルが優先的に馬車に乗ることになる。
ガヴェインは、そのままヴァルクドへ引き返し、バロア経由でギアに向かうことになっていた。
「すまんな、ウーナ。できるだけ早くこっちへ戻ってくるようにするが・・・。」
「わたしなら大丈夫です。それより、アイーダによろしく伝えてくださいね。」
言葉少なに挨拶を交わすと、ガヴェインは図書館の中へと引き返していった。

フィルディンからウルト村の奥に位置するアヴィンの家までは、馬車をゆっくり走らせたこともあり、着いたのは夜もそれなりに更けてのことだった。
アイメルが持たせてくれたお弁当を馬車の中で食べたこともあり、一行はそのまま部屋へ引き取ることになった。
「で、誰が誰とどこで寝るんだ?」
玄関をくぐりながらアヴィンはルティスを振り返った。
「ゲルドちゃんは熱が下がるまでは私と一緒の方がいいでしょうね。目が覚めた時、知った顔がいた方がいいでしょうから、ウーナさんも一緒に客間で休みましょう。」
「それじゃ、子供達は・・・?」
「私の部屋で寝てるわ、お兄ちゃん。」
出迎えにでたアイメルがすかさず答えた。
「僕はファムさんとこに馬車を帰すがてら家に帰るよ。明日、また様子を見に来るから。」
「はは・・・すまん。」
ウルト村の新鮮な野菜を朝一で王都へ運んでいるファムの馬車を強引に借りてきた後始末は、その日のうちに付けねばならないのだ。
「となると、残るは・・・。」
消去法により、ミッシェルは普段アヴィンとルティスが使っている寝室に入ることになる。
ルティスは困惑気味のミッシェルを部屋に案内すると、いささか強引にベッドへと寝かしつけた。
「ゲルドちゃんのことは私たちに任せて、今はゆっくり休んでくださいね。」
まるで母親が子供をあやすかのように、ルティスはミッシェルに言い含めている。
その一方で、アヴィンには釘をさすかのごとく念を押した。
「じゃあ、アヴィン、ミッシェルさんのことは任せるから。ふたりして夢遊病にかからないようにね。」
「お、おう。」
いささかうわずった声で答えると、アヴィンはルティスが部屋から出て行くのを見送った。
「そういう訳だから、ミッシェルさん、ルティスのOKが出るまでは、大人しく寝ててくれよ。」
懇願するようなアヴィンに、ミッシェルはさりげなくあたりの様子をうかがっている。
アヴィン達が自分を心配してくれるのは有り難いが、不安定な状態のゲルドをルティス達に預けたままというのが非常に気がかりでならなかったのだ。
しかし思いとは裏腹に、身体は思うように動いてくれない。
どんなにもどかしくても、今は大人しくベッドに横たわっているしかないミッシェルであった。
「これではいつもとあべこべですね。」
ベッドの中からミッシェルが軽い笑いを洩らした。
「ホントだよな。まったく・・・。」
アヴィンも、誰とはなしに溜息を吐いた。
これまでは血気に逸るアヴィンを押さえるのがミッシェルの役目だったのに、今は動こうとするミッシェルをアヴィンが止める立場にあるのだ。
ミッシェルの言ではないが、これでは互いが互いに「らしく」なくて、どうも落ち着かない。
実をいうと、身体は動かせなくとも魔法で移動できないものかと、ミッシェルはテレポートを試してみたのだが、物の見事に失敗してしまったのである。
どうやら体力が回復するまで、今度こそ本当に休養する必要があるらしいとミッシェルは瞼を閉じた。
いくらも経たないうちに規則正しい寝息をたて始めたミッシェルをアヴィンは複雑な想いで見つめている。
(やっぱりヘンだよ。)
黒魔法使いであるアヴィンにもミッシェルの様子はただごとではないと映っていた。

マイルはそのまま、すぐに帰るつもりだったが、ミッシェルの様子がどうも気にかかり、それとなくルティスに聞いてみた。
「あのままふたりだけにしておいて大丈夫なのかい。ミッシェルさんならテレポートで自由自在だろ?」
ルティスと違ってテレポートのできないアヴィンでは、ミッシェルを追っていくことは不可能に近い。
マイルの心配顔をよそに、あたたかい湯気のくゆるカップを前にしてルティスはにっこりと答えた。
「アンチマジックをかけたから。」
平然と言ってのけたルティスにマイルは思いっきりむせた。
「えええ!?」
ミッシェルが魔法を使えなかった原因はここにある。
しかし、ルティスとミッシェルとでは魔法の力に燦然たる差があることは誰の目にも明らかだった。
普通の状態でルティスがミッシェルに魔法をかけようとしても弾き返されるのがオチである。
「それだけミッシェルさんが・・・疲れているってことでしょうね。」
ルティスはあいまいに言葉を濁して言った。
他にも気になることがあるのだが、ここにいるのはマイルだけではない。
ことにアイメルに余計な心配をかけてはならないと、ルティスは慎重に会話を進めた。
「どっちにしても、ふたりの具合がよくなったらギアに向かうんだよね?」
それとなく察して、マイルも話題を変えた。
「ええ。その時は・・・。」
「もちろん、僕も一緒に行くよ。こんな時だから、なおさら白魔法使いが必要だろう?」
「そのことなんだけど。ちょっと困ったことがあって。」
「困った事って?」
「ゲルドちゃんには船旅が無理そうなんです。」
ルティスに代わって答えたのはウーナだった。
「バンドル先生から言われたんですけど、乗り物酔いしやすい体質とかで。」
幼い子供にありがちなことだが、無碍にもできない内容である。
「それで、本当ならふたりが良くなったら、転移門を使ってヴァルクドに出て、そこから船でバロア、残りを陸路でギアまでと思ってたのが、どうやらフィルディンからずっと陸路でギアまで旅することになりそうなのよ。」
「なるほどね。僕はいっこうに構わないけど・・・。」
言葉を切ったマイルにアイメルがくすくす笑いながら返した。
「お留守番なら任せてください。」
それにはアイメルらしい心遣いもたぶんに含まれているようだが、彼女は彼女なりに留守を預かることに誇りを持っていた。
「そして、その時には、お兄ちゃんも一緒に連れて行ってあげてくださいね。」
一言添えたアイメルにマイルは1本取られたなと思った。
「アヴィンは本当にいい妹を持ったよな。」
「だって、拗ねたお兄ちゃんは泣いてる赤ん坊より始末が悪いんだもの。」
その後、居間は爆笑の渦に包まれ、別室にいたアヴィンは盛大なくしゃみをひとつした。

「魔法使いの休養日」はここだよ〜ん
「ミッシェルを支えるアヴィン」 by カモミール・JK様

ルティスの予見どおり、ゲルドは順調に回復し、2日と経たないうちにすっかり元通りの元気を取り戻した。
知恵熱と診断されたくらいだから、生来、ゲルドの好奇心は旺盛である。
これが普通の子供であったなら、外に出て思いっきり駆け回っているところだが、彼女の不安定な魔力をいたずらに刺激してはならないと、ウーナとアイメルが室内で気を紛らわせるよう努力していた。
むしろこの時心配されていたのはミッシェルの方である。
彼がルティスのかけたアンチマジックを無力化できたのは、見晴らし小屋に来て3日目のことだった。
その前日にガヴェインから、できるだけ早くコルナ村に来て欲しい旨の手紙を受け取っていたこともあり、アヴィン達は早々に旅立つことになった。
留守をアイメルに任せ、アヴィンとマイルがミッシェルを、ルティスとウーナがゲルドをサポートして一路王都街道を西へと向かったのである。
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