デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(21)
元気になったアイーダはラエルとダグラスの護衛を受けてコルナ村から一路ギアへと向かっていた。
道中、当然のように魔獣が出てきたが、所詮、ダグラスとラエルの敵ではない。
更には、アイーダの人形カプリまでが加わって、3人の旅は極めて順調に進んでいた。
「行け、カプリ!」
威勢の良いアイーダの声とともにポシェットから巨大な人形が飛び出していく。
カプリの大砲は、そのまま魔獣に狙いを定めて、火を噴いた。
どっかーん!と空をつんざく大音響に、一瞬、ダグラスの剣が止まったほどである。
「次は、あっち!」
アイーダは、続けざまに2体の魔獣をカプリで狙い撃ちした。
弱り目の魔獣は、タイミング良く硬直の解けたダグラスによって一挙両断、退けられた。
最後の一体をラエルの魔法で倒して、取りあえずは一件落着である。
「カプリ、戻って!」
魔獣がいなくなったことを確認すると、アイーダはふたりの傍に駆けてきた。
「ダグラスさん、ラエルさん、大丈夫?」
アイーダは真っ先にダグラスとラエルに怪我がないかを気遣った。
「・・・大丈夫だ。」
「よかった。いきなり魔獣が出てくるんだもん、驚いちゃった。」
アイーダには少しも気負った様子がなく、世間話の続きをするかのような口振りであった。
ガヴェインやルキアスと単なる知り合い以上であるというのも伊達ではなさそうだ。
ダグラスは、心持ち肩の力を抜いてアイーダの様子を見守るように方針を切り替えた。

一方、ラエルは道すがら、アイーダにひとつの提案をした。
「あのさ。その、ラエルさんて呼び方、なんとかならないかなあ。」
「どうして?ラエルさんは、ラエルさんでしょ。」
「少なくとも、その、さんを付けるの、止めてくれると嬉しんだけど。」
ダグラスが傍らで笑いを堪えているのを睨み付けて、ラエルはアイーダに話し続けた。
「だってさ、アイーダが運んでるその手紙、確か船の部品を依頼するものだったよね。」
どうやって本題にもってくるか苦心のあとが見られる発言である。
「トーマスが書いた本物の依頼書じゃないけどね。」
少しだけ引いたアイーダに、ラエルは小さく舌打ちした。
「ほら、そのプラネトス2世号の船長って、僕より年上なのに呼び捨てだろ?」
内心の苛立ちを悟られぬよう、ラエルにしては慎重を期した質問だった。
「だって・・・トーマスとは一緒に戦った仲だし。」
アイーダの答えには、少しの間が空いている。
ほんの少しの間ではあるが、それこそがラエルの最も気に入らない部分なのである。
アイーダはおそらく気がついていないのだろうが、彼女がトーマスの名前を口にする時、明らかに表情が違うのだ。
「それなら、今、僕たち一緒に戦ってるよね。」
屁理屈付けたラエルをアイーダはきょとんと見返した。
「お兄さんは、さん付けのままでいいぞ。」
タイミングを計って二人の間に割って入ったダグラスをラエルはしばたいたが、その程度のことで怯むような相手ではない。
それでも、ダグラスなりに気を遣ってくれたのか、
「まあ、本人がそれでいいって言うんだから、呼び捨てにしてやれ。」
と添えてやった。
「殻は大きくても、気分はアイーダと同じく10代のガキのまんまなんだから。」
あとの一言に余分な言葉が含まれているのは、いうまでもなかった。
言ったあとで、失言を悟ったダグラスは、慌てて話題を変えた。
「ところで、カプリって、いつも一緒にいるのか?」
ダグラスがアイーダの目の前にある人形を全面に押し立てて尋ねた。
「うん。あたしにとっては弟みたいなもんだから。」
にこっと笑うとアイーダは糸を手繰り寄せた。
ダグラスとラエルの前にやってきたカプリは、いともユニークな素振りでお辞儀を返した。
「ボク、かぷり。何デモ、デキルヨ。えっへん!」
「もしかして、こいつがいたら、俺らは用ナシなんじゃないのか。」
「えー、そんなことないですよ。」
ちゃかしたダグラスにアイーダは笑いながら否定して見せた。
「ボク、魔法使エナイ。ソノブン、力モチ!」
バシッと返した一撃は、ダグラスを唸らすに十分すぎるものだった。
明らかにさきほどの一言を根に持っているとわかるだけに、ダグラスは甘んじて受け止めたのであった。

街道筋に魔獣は付き物とはいえ、そう頻繁に遭遇するわけではない。
しかし、ラエル達の道中は、ダグラスでさえ首を傾げるほどに魔獣との遭遇率が近年になく高いものとなっていた。
「魔獣にもそれなりに知能ってもんがあるはずなんだがな。」
それでも見慣れた魔獣を倒すのはそれほど手のかかることでもなく、金稼ぎの足しになることから、ダグラスはそれなりに要領よくこなしていた。
ただひとつ気になるとしたら、襲いかかってくる魔獣は、必ずと言っていいほど彼らの背後からやってくるということである。
「おい、ラエル、おまえ、何か知ってるんじゃないのか?」
その日の何度目かの遭遇に際して、ダグラスはラエルにそれとなく問いかけた。
「知らないよ。」
にべもなく答えたラエルだが、これまで全く寄り道なしでギアまで急いでいることから、何かあるとダグラスに確信を持たせるには十分であった。
それを裏付けるように、今日の魔中はいつもとひと味違っている。
「こいつは、ちょいとワケありのようだな。」
硬直時間を殊更に計算しながら、ダグラスは慎重に戦いを進めた。
一方でラエルは、魔法攻撃しか効かない魔獣を見極めて、ダグラスに呼応しながら戦っている。
そのあたりはアイーダも感じ取ってか、カプリの援護をダグラスの攻撃に絞って合わせていた。
「さすが、トーマスを呼び捨てにするだけのことはあるんだな。」
「なあに、ラエル?」
「・・・いや、何でもない。それより。」
戦いに一段落ついたところでラエルはダグラスの姿を探した。
ダグラスは、少し離れたところで、たった今倒したばかりの魔獣を調べている。
「さすが、兄貴だ。」
感心したように呟くと、ラエルはそのままの位置でダグラスの調査が終わるのを待っていた。

調べがついたらしいダグラスにラエルが結果を尋ねようとした時、コルナ村の方向から追ってくる人影があった。
ラエル達の姿に気がつくと、遠くから声をかけ続けている。
「げっ。あの声はサクヤ先生。」
サクヤはエレノア達と同じく魔法大学からコルナ村の古代遺跡の調査に派遣されている教師のひとりである。
「ラエル!ダグラスさん!ああ、よかった追いつけて。」
「・・・こっちはちっともよかないぜ。」
息を弾ませて一行に追いついてきたサクヤにラエルは諦めたように溜息をついた。
「ちょっと、話を聞いてくる。」
ラエルはそのままくるりと回れ右してサクヤの方へかけって行った。
「何かあったのかな?」
ラエルに続こうとしたアイーダをダグラスは引き留めた。
「おおかた、寄り道せずに帰って来いと念押しでもしに来たんだろう。」
アイーダの心配そうな顔に、ダグラスは殊の外豪快に答えてやった。
それを裏付けるかのように、不満やるせないといった表情で、ラエルがふたりの元へ戻ってきた。
「早く戻って来いってか?」
にやりと尋ねたダグラスにラエルは仏頂面のまま頷いた。
「それも、すぐに戻って来いってさ。人手が足りないんだと。」
「・・・だろうな。」
「だから、ごめんね、アイーダ。ギアを案内してあげられなくなったんだ。」
ダグラスと向き合っていたのとは打って変わった真面目な表情で、ラエルはアイーダに謝った。
「そんな、ラエルがどうして謝るの?」
「だって、ギアは目の前だっていうのにさ。全く、エレノア先生ときたら人使いが荒いぜ。」
不平を口にしている割には、どこか空回りしている風があるが、ダグラスは敢えて口を挟まなかった。
代わりに、しっかりやれよと背中をばしっと押してやった。
「って〜。ダグラスの一撃はきついんだぞ。」
「ははは、まあ、アイーダのことは全面的に俺が引き受けたから安心して戻ってくれ。」
「ちぇっ。それから、これも頼むって。」
ラエルはサクヤが持ってきたエレノアからの手紙をダグラスに渡した。
「こっちはギルド経由か。」
ダグラスは宛名を見ると一瞬怪訝な表情を浮かべたが、ラエルが頷いたのを受けて、そのまま懐に仕舞い込んだ。
「両方とも確かにこのダグラスが引き受けた。」
「よろしくお願いします。」
ラエルに並んだサクヤが深々と頭を下げた。
「でも、本当にふたりだけで大丈夫ですか?何でしたら、ギアの町の入り口までラエルに送らせますが。」
一瞬、ラエルの表情が輝きかけたが、他ならぬアイーダの発言であっさりそれは撤回された。
「ううん。あたしにはカプリもいるし、大丈夫です。それより、そちらの方が大変だってことでしたら、すぐにでも戻ってあげてください。」
「だってさ。」
クックと喉の奥で笑いをかみ殺しながらダグラスが同調すると、サクヤはほっとしたようにラエルを振り返った。
「じゃ、おふたりのお言葉に甘えさせていただいて、ラエルにはこのまま帰ってもらいますね。」
「あーあ。」
がっくりとラエルは肩を落としたが、サクヤが持ち場を離れてまで迎えに来た意味は理解しているらしく、それ以上食い下がることなく引き下がった。
「それじゃ、アイーダ、またね。」
あまり長く留まって、ダグラスから未練がましく思われるのもしゃくなので、ラエルは殊更にサラリとアイーダに別れを告げた。
「うん。ラエル、本当にありがとう。」
「らえる、アリガト。」
アイーダにだぶってカプリが同じようにペコリと頭を下げた。
ラエルの目尻が下がったが、それ以上アイーダには返すことなく、ダグラスへと向きを変えた。
「ダグラス、頼んだぜ。」
「ああ、任せとけ。」
大手を振ったダグラスにラエルはサインを返すと、サクヤと一緒にコルナ村へと引き返していったのだった。
back   next
Home > Falcomの歩き方 > 二次創作目次 > デュエット・シリーズ > ふたりのマリオネット