デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(22)
ギアに到着するとダグラスはアイーダを連れて一直線にギルドへ向かった。
「あの、ダグラスさん、あたしの用があるのは工場なんだけど。」
工場の門の前を通り過ぎて行くダグラスの袖を引っ張ってアイーダは言った。
「いや、こっちでいいんだ。ガヴェイン様からギルド経由で話がきてるはずだからな。」
「え?」
「ついでにその後のこともあるし。」
答えながら、ダグラスは顔馴染みらしい冒険者達と軽く挨拶を交わしてギルドの奥へと入っていった。
ギアは大きな町だと聞いていたが、それに見合うだけの規模をギルドも備えており、活気に満ちあふれている。
「おい、アイーダ、こっちだ。」
アイーダはダグラスに呼ばれると、居並ぶ冒険者達の間をすり抜けるようにして、慌てて後を追った。

ギルドでは、ダグラスの言ったとおりガヴェインから既に話が来ているらしく、工場へアイーダが図面を持っていくだけでいいように手筈が整えられていた。
「・・・もうそこまで話が進んでるなんて、すごいわ。」
手際のよさにアイーダが目を丸くしていると、当然だろうとダグラスが豪快に笑った。
「なんたって親父さんも伊達に年くってない。」
「そういうわけだから、さっそく図面を見せてもらおうか。」
部屋の奥には工場長まで控えていた。
「あ、はい。これです。」
アイーダは急いでポシェットの中から図面を取りだして持っていった。
工場長は、すばやく図面に目を通すとおおよそながらも必要な日数−約2週間−を教えてくれた。
ルカからある程度の日数がかかるとは聞いていたが、実際、それだけの時間が必要となると、どこか滞在先を決めなければならない。
しかし、あいにくとギアにはアイーダの知り合いはいなかった。
けれども、ここでもすでにガヴェインがさりげなく手を回していたらしく、工場長があっさりと滞在先と仕事を提供してくれたのである。
「で、よかったらその間、うちの子供達の面倒を見てもらえないかね。なにせ工場をフル稼働させてようやくという代物だから、手伝える者はみんな動員せねばならん。」
生真面目を通り超してどこか緊迫した工場長の態度にアイーダはふと疑問を感じた。
確かにキャプテン・トーマスとプラネトス2世号は、エルフィルディンでも稀代な存在ではあるだろうが、たった1隻の船のために、そうまでして急ぐ必要があるのだろうか?
ガヴェインという賢者の後押しがあったとしても何だか不自然に思われたのだ。
「ねえ、ダグラスさん。」
アイーダは感じた疑問を尋ねようとしてダグラスを振り返った。
だが、アイーダの質問は言葉にならないままに終わってしまった。
なぜなら、アイーダが尋ねるより早く、その部屋のドアが開いて、人のよさそうな女性が入ってきたからである。
「話は終わったのかい?」
みんなの視線が注目する中、彼女はずずんと奥へ進むと、まず工場長の方へ尋ねた。
「ああ。これからすぐ工場へ戻るよ。」
「じゃ、この子はもういいんだね?」
彼女の目はアイーダに向けられている。
「そうだな。図面は預かったし、ああ、もうこっちの心配はない。」
それを聞くと、彼女はアイーダににっこり笑いかけた。
「子供達の世話、よろしく頼んだよ。なにせ腕白盛りが揃ってるからねえ。」
「え?」
「えーと、ダグラスさんだったね。この子はうちで預かるから、出発することになったら迎えにおいで。じゃ、行こうか。」
「え?え?」
あれよあれよという間に、アイーダは手を取られて部屋を出て行ったのである。

置いてけぼりを食わされたダグラスにギルドマスターがぽんと肩を叩いて言った。
「ま、そういうことだから。」
「はあ。」
とたんにダグラスは大きな溜息をひとつ吐いた。
「こればっかりは、しょうがねえ。」
ダグラスらしからぬ溜息にギルドマスターは心持ち同情気味だ。
「だが、依頼は依頼だ。何よりガヴェイン様直々ときては、我々としても断れん。」
「ああ、わかってる。どの道俺じゃあ、手助けのしようがないしな。悔しいが、ここはアヴィンらの到着を待つしかない。それまでせいぜい骨休みさせてもらうさ。」
ダグラスの意外なほどさばさばした様子にギルドマスターはほっと胸を撫で下ろした。
だが、安心するのは少々早かったようである。
ダグラスは、にやりとギルドマスターに向かって「待機中の滞在費はギルド持ちだよな。」と問いかけたのだ。
ダグラスの大食漢ぶりは、ギアにも聞こえている。
引きつりながら頷いたギルドマスターにダグラスは豪快な笑いを残して酒場へと消えていった。

ギアでの日々は、予想した以上に忙しく、初日に疑問に思ったことをダグラスに確認するだけの時間をアイーダは持つことができなかった。
工場長が「動員できる限りの」と言ったのは大げさではなく事実であり、実際に、ギア中の工員が工場で、昼夜交替制による作業にあたっているらしかった。
そして、働き手には向かない子供達が、みんなアイーダの元に集められてきたようなのだ。
アイーダは文字どおり、子供達相手にカプリと奮戦し、それだけで1日が終わっていた。
子供好きで元気印のアイーダだからこそ、務まっていたともいえる。
とはいえ、もともと順応力の高いアイーダのこと、3日もすればすっかり自分のペースを作り上げ、1週間もしないうちに自分の時間をひねり出すことに成功した。
「今日こそダグラスさんに聞いてみなくちゃ。」
勢い付けて、ギルドへ出向こうとしたところへ、当のダグラスが旅支度を調えて現れたのである。
「その調子だと、すっかり元気になったみたいだな。」
ダグラスは、アイーダの前にひらりとたった今受け取ったばかりの手紙を翻して見せた。
「それって・・・。」
「お待ちかねのガヴェイン様からの連絡だ。」
「お待ちかね?」
「ああ。フィルディンにあんたの片割れが来たそうだぞ。」
「え!?」
瞬間的に顔を輝かせたアイーダに、ダグラスはしまったと舌打ちした。
「いや、だからだな・・・その。」
とんだぬか喜びをさせてしまったと口ごもったダグラスに、アイーダはひとつ大きく深呼吸してから微笑んだ。
「ウーナが来てくれたんでしょ。」
アイーダの口から出た名前に今度はダグラスが驚く番であった。
呆気に取られているダグラスにアイーダはにこやかな笑みを浮かべたままだ。
「・・・なんで、そう思う?」
「だから、ガヴェインさんが知らせてきたんでしょ?」
アイーダの言っている意味がわからなくて、ダグラスは首を傾げることしきりだった。
「そっか。ウーナが来てくれたんだ。」
ひとりごちたアイーダは少しだけ落胆している自分に苦笑していた。
もしもやってきたのがトーマスだったら・・・。
ここにその知らせをダグラスがもたらすことは、たぶんないだろうことをアイーダは知っている。
なぜなら、知らせが着くより先に、トーマスその人が自分の前に現れているに違いないのだから。
「あれ?でも、どうしてダグラスさんが旅支度してるの?」
くるりと表情を変えたアイーダに、ダグラスは掻い摘んでウーナがひとりでないことと、銀の髪の少女を連れてアヴィン達と一緒にこちらへ向かっていることを話した。
「ええええ!?」
思いも寄らぬ同行者の存在に今度こそアイーダは驚きの声を上げた。
「で、ちょいと迎えに行ってやろうと思ってな。」
さりげない言葉の中で、ダグラスがアイーダを誘っていることは明らかだった。
「いいの?」
「子守はひとりでも多い方がいい。というのが、ルティスからの伝言だ。」
真顔のダグラスに、思わずアイーダは吹き出した。
「でも、確かに病人のミッシェルさんとゲルドちゃんが一緒じゃあ大変ですよね。」
「まあな。で、どうする?」
アイーダにダグラスの誘いを断る理由はなかった。
「でも、一応、おかみさんに聞いてこなくちゃ。ここの子供達も放っておけないもん。」
「そうだな。」
「じゃ、ちょっと待ってて。すぐ戻ってくるから!」
勢いよくアイーダは部屋を飛び出して行った。

ダグラスが連絡を受けるのはギルドを通してである。
当然その連絡内容は、ギルドマスターから工場長へ、そしてその留守を預かっている夫人へも伝えられている。
ゆえに、アイーダはあっさり子守から解放された。
けれども、あまりにスムーズに進み過ぎたことが、返ってアイーダの疑問を膨らませることになったのだ。
「でも、聞いたってダグラスさんは教えてくれそうにないしなあ。」
だが、アイーダの予想が外れていなければ、何らかの反応は返ってくるはずだ。
「ちょっと気が引けるけど、一応、確認だけはしておこうか。ね、カプリ。」
アイーダは小さな決心を胸に秘めてダグラスの元へ帰ってきた。
「お待たせ!」
「意外と早かったじゃないか。」
「だって荷物なんてないもん。」
アイーダはカプリをしまってあるポシェットひとつという軽装ぶりだ。
ふたりはギルドへ挨拶して旅路についたのだった。

表面上は何事もないように、だが、アイーダはギルドを出たところでそのままソフィアス街道へと飛び出した。
慌てたのはダグラスである
「こら!そっちはダメだ!危ないから戻ってこい!」
それこそ通りすがりの者が何事かと振り返るほどの大声で止めに掛かった。
ダグラスの声にアイーダはピタリと足を止めた。
たいした距離を進んだわけではないから、ダグラスはすぐに追いついてくるだろう。
アイーダは十分ダグラスが近づいてきたところで、くるりと振り返った。
視界に映ったダグラスは恐ろしいほどに気を張りつめた様子が見て取れる。
アイーダは一呼吸置くと、しゅたっとカプリを全面に出していつでも迎撃できるよう身構えた。
そしてダグラスに、気恥ずかしそうに謝った。
「ごめんね、方向、間違えちゃった。」
張りつめていたダグラスの表情がみるみる緩み、やがて、コツンとアイーダの額を弾いた。
「まあ、友達に会えるのが嬉しいのはわかるが、反対方向へ行ったんじゃあ、会えるものも会えなくなるぞ。」
ダグラスにしては随分とくどい言いようである。
アイーダはそれを聞いて、自分の予想が悪い方向に当たっていることを確信した。
「フィルディンは、あっちだ。」
ダグラスは真反対の方向を示して言った。
「もっとも、アヴィンらもこっちに向かってるというから、そうだなあ・・・。ニューボルンあたりで出会うんじゃないか?」
思案顔のダグラスにアイーダはおおよその位置を頭に描き、ひとり納得した。
「じゃあ、引き返すぞ。」
「うん。」
アイーダはカプリを納めた。
ダグラスが雷鳴剣の柄に手を添え、いつでも抜けるよう構えたのが見て取れる。
だが、アイーダはちらりと目を向けただけで、そのまま早足に歩き出した。
ともすれば、そのままソフィアス街道を進んで本当のところを確認したい衝動に駆られるが、それがどれほどに危険であるか、さきほどのダグラスの反応からよくわかったのだ。
ダグラスとアイーダはそのままもと来た道をギアに引き返し、街を横切るようにして反対側の入り口からアルテ街道へと出て行ったのであった。
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