デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(23)
アルデ街道はニューボルンまでほぼ一本道である。
北寄りには険しい大地で有名なガーデンヒルがあるが、アイーダとダグラスはひたすらにニューボルンを目指した。
もともとニューボルンはダグラスの本家ともいえる領域である。
さすがというべきか、ダグラスの歩きは慣れたものだった。
最初、ダグラスはアイーダの体力を気遣って速度をゆっくりめにしていたのだが、すぐにそういう気遣いが不要であることに気が付くと、いつものペースで旅を続けた。
少々きつい歩みながらも、アイーダは文句ひとつ言わず、しっかり付いてきた。
「この坂道を下ったら、ニューボルンだからな。宿ではうまいもんがしっかり食えるぞ。」
「もう、ダグラスさんたら、そればっかり。」
心配していた魔獣にもほとんど遭遇することなく、アイーダとダグラスはニューボルンに到着した。

「おおい、こっちだ。」
てっきりギルドへ挨拶に行くものとばかり思っていたのだが、ダグラスはそのまま真っ直ぐに宿屋へと向かっていく。
「あの、ギルドに寄らなくていいの?」
「そんなことより、飯が先だ。」
「そんなことって・・・。」
アイーダの呆れ顔に構わず、ダグラスは宿酒場にどっかりと腰を据えると、早速に注文を始めた。
それがまた半端な量ではない。
「あのぅ、こんなにたくさん、どうするの?」
「食うに決まってる。」
あっさりと断言され、アイーダはがっくり肩を落とした。
「でも、いくらダグラスさんだって、ひとりでこんなに食べたらお腹、壊しちゃうよ?」
いくらか心配そうに尋ねると、ダグラスはにやりと言い返した。
「誰も一人で食うとは言ってないぞ。」
「あたし、こんなに食べられないわよ。」
豪快な食べっぷりのダグラスとは対照的に、アイーダはお印程度にフォークでサラダをつついていた。
「そうか?」
新たな皿を運んできた店員の疑わしげな目線を感じて、アイーダは冗談じゃないわと首を振ったが、ダグラスは疑わしげににやりと笑っただけだ。
「よい子は出された物は残さず食べるんだろう。」
「当たり前じゃないの!」
ダンっと勢いよくテーブルを叩いたのを受けて、それまでアイーダの肩に大人しく止まっていた白鳩のポッポが羽ばたいた。
「ごめん、ポッポ。」
仮にも食堂の中で鳥が飛び交ってはマズイとアイーダは慌てて手を差し出したが、ポッポはそのまま入り口から出て行ってしまったのだ。
「うっそ〜!ちょっと、ポッポ、置いてっちゃ、やだ!」
食事中にもかかわらず、アイーダは席を立つとそのままポッポに続いて食堂を出た。
「いいんですか?」
チラリと気遣ったかつての冒険仲間に、ダグラスは手を振って答えると落ち着いた様子でテーブルの上の料理を平らげていった。
(どうやら到着らしいな。)
アイーダが消えた時、店から右手に曲がったのをダグラスは見逃さなかった。
つまりはポッポが飛び去ったのもその方向ということだ。
「さて、約束どおり、出迎えてやるか。」
ダグラスはゆうゆうと席を立つと食堂を後にした。

さて、旅ができるまでに回復したミッシェルと、幼いゲルド連れたアヴィン一行は、ゆっくりと、だが、できるだけ整然と旅を続けていた。
街道に付き物の魔獣退治はもっぱらアヴィンとウーナの役割で、マイルがそれをサポートしていた。
ルティスはゲルドとミッシェルのサポート専門というか、見張り役である。
「あの、ルティス、私なら心配いりませんから、アヴィン達を手伝ってもらえませんか?」
多量の魔獣を相手にアヴィン達が手間取っている時、一応は声をかけるのだが、返ってくる答えは決まっている。
ルティスに抱かれたままのゲルドにミッシェルが手を伸ばすと、ルティスはにこやかに、しかし断固として拒否するのだった。
「最初の時、それで失敗したんですよね。」
ゲルドの感受性は人一倍敏感である。
そんな彼女を魔獣と戦う時の激しい気を発しているアヴィン達の中へ連れて行ったらどうなるか。
怯えたゲルドが魔力を暴走させたらそれこそ一大事なのである。
ルティスの母性は、無条件にゲルドの心を激しい気合いの渦から守っていた。
だが、ミッシェルではそうはいかない。
彼では、その魔力でもって、ゲルドの力を押さえることしかできなかったのだ。
ミッシェルのずば抜けた魔力だからこそ可能ではあったが、同時にそれは途方もない疲労をもたらす諸刃の剣でもあった。
「向こうに着けば、嫌と言うほど魔法を使うようになるんですから、今は力を溜めておいてください。」
にっこりと、だが真剣な目で言ったルティスにミッシェルは小さく溜息を吐いた。
「・・・聞いていたんですか?」
「そうでなければ、私も一緒に来てくれ、なんて言わないでしょう?単なる護衛だけならアヴィンとマイルだけの方がミッシェルさんも気兼ねせずに済むでしょうに、わざわざ私もって言うことは、黒魔法使いが一人でも多く必要ということですよね。」
「相変わらず鋭いですね。」
「で、コルナ村で何が起こっているんですか?」
口調を改めたルティスに、ミッシェルは申し訳なさそうに言葉を濁した。
「その件については、私の口からは何とも言えないんです。なにしろ出発までに確かめて来ようと思っていたのに、その機会をことごとく潰されましたからね。今だって、そうですが。」
多少の皮肉が込められているミッシェルの発言だが、ルティスは笑って聞き流した。
「本当にせっぱ詰まっていたら、私の制止なんて効かないでしょうから、たぶん、大丈夫なんでしょう。少なくとも、今は、まだ。」
何とも肝の据わっていることだと感心すると同時に、いざという時に煩わしい説明をする必要もなさそうだとミッシェルは安堵した。
死線をくぐり抜けた経験を持つルティスやマイルには、理屈ではなく直感で危険と対峙する処術が身に付いているのだ。
「そろそろカタが着いたようです。」
「そうですね。」
剣を片手にこちらに向かってくるアヴィンへルティスはお疲れ様とねぎらった。

「ぽっぽー。」
「え?」
ふいにゲルドが両手を空に向かって差し出した。
「あら、白い鳥が・・・え?」
ゲルドの目線を追ってルティスも空に舞う白い鳥の姿に気が付いた。
だが、気が付いた時には、すぐ傍まで来ており、そうなると当然その正体にルティスも気が付くというものだ。
「ポッポ!おまえ、ポッポでしょ?」
「え、ポッポちゃん?」
ルティスにつられてウーナが声をあげ、同時にあたりをきょろきょろ見回し始めた。
ポッポがここにいるということは、アイーダもまたすぐ傍まで来ているということだからである。
「ポッポちゃん、アイーダも一緒なんでしょ?」
ウーナの言葉がわかるのか、ポッポは彼女の頭の上を横切ると、そのまま元来た方向へと羽ばたいたのだ。
「こっちということは、ニューボルンにアイーダが来てるの?」
それまでの疲れが嘘のように引いていき、ウーナの足が自然と小走りになっていく。
「ちょっと、先に行きます!」
「はあ・・・ウーナは元気だね。」
大きく息を吐いたアヴィンにマイルとルティスは思わず吹き出した。

ポッポはアイーダとウーナの再会を取り持つべく、付かず離れずで低空を旋回している。
「ウーナ!」
「やっぱり、アイーダだ!」
ふたりが手を取り合うのに大して時間はかからなかった。
エル・フィルディンに来た事情はそれぞれ異なれど、互いの気持ちはわかっていたので、多くを語る必要もない。
「無事でよかったね。」
その一言で、ふたりには十分だった。
ふたりを追ってそれぞれにやってきたアヴィン達とダグラスも久しぶりの再会とはいえ、状況は似たり寄ったりである。
「だいたいの状況は聞いてきたが・・・。このメンバーで来るとはなあ。」
他人事ならぬ深刻な溜息を吐いたダグラスにアイーダとウーナはきょとんとしている。
「すっごく強力なメンバーだと思うけど?」
「このままならね。」
珍しく含みのある言い方をしたマイルにダグラスは懐から手紙を差し出した。
「さっきついたばかりのエレノア先生からの手紙だ。ミッシェルさん、アヴィン、マイル、ルティスには一刻も早くコルナ村に来て欲しいとある。」
「僕もかい?」
マイルは正直に意外だと反応した。
アヴィンとルティスに急いでくれというのなら話はわかる。ふたりは黒魔法の使い手だ。
「ああ。」
「それって、あたしとウーナはダグラスさんと行くって事?」
「プラス、そこの銀髪のお嬢ちゃんもだ。」
ダグラスはルティスに抱かれているゲルドを指さした。
「ええ!?ゲルドちゃんも私たちと一緒なの!?」
信じられないとウーナがミッシェルを振り仰ぐと、彼は申し訳なさそうに頷いた。
「残念ながら、ふたり同時のテレポートは無理ですし、向こうでの準備が整うまではゲルドはウーナやアイーダと一緒にいた方が安心だと思いますので。」
「それでいいの?」
今度はミッシェルは、はっきりと肯定してみせた。
「でも、本当にいいのかなあ・・・ダグラスさん、ひとりで大丈夫?」
先行するメンバーと後から向かうメンバーとでは戦力の差に歴然とした差がありすぎるのだ。
「ああ、それでしたら、たぶん心配入りませんよ。強力な助っ人が来ると聞いてます。」
誰とは言わなかったが、それがガヴェインによって手配された人物であることは明らかだった。
アイーダがダグラスに視線を向けると、彼は知らないと首を振った。
疑わしげなアイーダに、ダグラスは「本当に何も聞いてない。」と断言し、反対にアヴィンの方を振り仰いだのだ。
「俺だって聞いてないぞ。第一、詳しいことは旅の途中でギルドから聞けとしか聞いてないんだから」
「そうなんですか、ミッシェルさん?」
「ええ。残念ながら、フィルディンであなた方以外の知り合いとなると、そう多くはないものですから。ただ、ゲルドと友達になれるような、魔法の使い手が好ましいとはお願いしましたが。」
「魔法の使い手?」
言い終わらないうちに、街の方からアヴィンの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「アヴィンさーん!」
張り切ったかわいらしい女性の声に、一同の眼差しが険を帯びたものになった。
「ち、ちがう!こんなとこに女の知り合いなんかいないぞ!」
「ほーお、知らない?」
ダグラスの疑わしげな眼差しに、アヴィンは必死で首を振った。
「断じて、こんなとこに女の知り合いなんかいない!」
アヴィンはきっぱり言い切った。
「ですって。」
ルティスは駆け付けてきた声の主を出迎えると、ひんやりとした視線をアヴィンに向けた。
「そんな・・・アヴィンさん、酷いです。」
涙ぐんだ声とともに姿を見せた女性に、マイルだけでなくダグラスも驚きの声を上げた。
「アルチェム!」
だが、やってきたのはアルチェムだけではなかったのだ。
しっとりした雰囲気をまとったアルチェムと、彼女を守るようにサフィヤ・アイズの異名を持つ女剣士ルキアスが現れたのである。
「相変わらず元気そうね。」
「きゃあ、ルキアスさん!お久しぶりです。」
「わあ、ルキアスさん。あの時は、本当にお世話になりました。」
ダグラスより早くアイーダとウーナがルキアスの傍に駆け寄り、ぴょんと飛び上がって再会の挨拶に盛り上がっていた。
「・・はあ、まさかルキアスとアルチェムとはなあ・・・。」
ひとり盛り下がっているダグラスを横目に、ルキアスはアヴィン達へ声をかけた。
「ま、そんな訳だから、アヴィン、あなた達はこのままコルナ村へ急いであげて。あとは私が面倒見るから。」
「すみません、ルキアスさん。くれぐれも気を付けてくださいね。」
「ルティスさんも無理しちゃダメですよ。」
アルチェムの広げた腕にゲルドを渡すとルティスは空っぽになった手に愛用のアキナスを構えた。
マイルもナイトブリンガーをさりげなく用意している。
「強行突破」という四文字がアイーダの脳裏をよぎった。
「じゃ、先に行くよ。」
「ああ、気をつけてな。こっちもすぐ追いつくから。」
ダグラスがばしりとアヴィンの背を押したのを合図に、一行は二手に分かれてコルナ村へ向かうことになった。
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