デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(24)
先行して出発したアヴィン達は、あっという間にアイーダ達の視界から消えてしまった。
言うなれば、それだけ事態が切迫しているという事なのであろう。
「あれからラエルはずっとひとりで頑張ってるのね。」
「まあな。だが、あいつの口癖じゃないが、フィルディン一の大魔法使いってのも伊達じゃない。それに、アヴィン達は陸路を来たって言ってたよな?だったら、たぶん、王都からの助っ人が先にラエルのところへ到着してるはずだ。」
「王都から?」
「人は見かけに寄らないって奴さ。」
くつくつと笑っているダグラスにウーナはピンとくるものがあった。
「たぶん、マーティさんのことね。」
「たぶんな。」
その事実を確認したわけではないのでダグラスも断言するのを避けたが、あれだけ王都に行き来していたガヴェインのことだ。
強力な黒魔法使いでアヴィンの知り合いという条件を具備するマーティを見逃すとは思えない。
物腰が低く、几帳面な性格のマーティのことを思い出しながら、アイーダとウーナはどこかほっとした。
「それじゃ、俺たちも行くとするか?」
ダグラスがルキアスにお伺いを立てると、彼女も同意してパーティの並びを指示しはじめた。
「あの、出発前にひとつ教えてもらいたいことがあるんだけど。」
早口に割り込んできたアイーダにルキアスは準備の手を休めて続きを促した。
「ルキアスさんは魔獣に詳しいですよね?」
唐突な質問にも係わらず、ルキアスは微笑んで答えた。
「詳しいと言ってもギルドの依頼に困らない程度よ。」
「それでもいいんです。聞きたいのは、このあたりに出る魔獣のことだから。」
そう前置きしてからアイーダは、コルナ村からこちらに来るまでに遭遇してひどく手強かった魔獣についてルキアスの意見を求めたのだ。
「アイーダの話からだと、そいつは魔法しか効かないタイプのようだけど。この辺にそういうのがいたかしら。」
記憶をまさぐりつつ、ルキアスは該当しそうな魔獣をピックアップしてみたが、外見と中身がいまひとつちぐはぐで一致する魔獣を特定するまでには至らなかった。
「もうちょっと具体的な形とか色とか・・・ラフな絵にでも描ければ見せてもらえる?」
これからのこともあり、ルキアスは真剣に問いただした。
「あのね、こんな感じ。うまく描けないけど、貝のお化けみたいな魔獣よ。」
言いながらアイーダは手近にあったメモ紙にソフィアス街道で遭遇して魔法しか効かなかった魔獣の絵を描いて見せた。
「知らないな。こんな魔獣はこれまでに見たことがない。」
ルキアスは断言し、横合いから覗いていたアルチェムも同様に首を振った。
ウーナはと見ると、二人の思案顔とは異なり、恐ろしいまでに瞳を凝らして魔獣をみつめている。
「ウーナ、知ってるの?」
一同の視線が一斉にウーナに注がれた。
「たぶん、あいつだと思う。」
アイーダの問いに答えながらもウーナはまだ半信半疑のようだった。
「ウーナが知ってるってことは、まさか、これって、ヴェルトルーナにいる魔獣なの!?」
アイーダも同じくヴェルトルーナ出身だが、こんな貝のお化けのような魔獣はみたことがなかった。
もっとも、ウーナと違ってヴェルトルーナ中を旅したわけではないから、全ての魔獣を知っているというわけではない。
当のウーナは、困惑した様子がありありと浮かんでおり、現に頭が混乱してくるのを必死で押さえているところだった。
「そんなこと・・・あるはずない。だって、これは・・・。」
「ウーナさん?」
心持ち青ざめた様相のウーナをアルチェムが気遣うと、ウーナはキッと表情を改めてはっきりと言い切った。
「これはアンチシェル。異界の森に棲んでる魔獣なんです。」
一同の間にえもしれぬ沈黙が訪れた。
「なん・・・だって?」
最初に聞きかえしたのはルキアスだった。

大きく深呼吸を繰り返し、落ち着きを取り戻したところでウーナは傍らのゲルドにアイーダの絵を見せて尋ねていた。
「ゲルドちゃん、この絵、知ってるよね。」
そうであってほしくないと願う傍らで、真実を確かめなければとウーナはゲルドの反応を待っている。
果たして、ゲルドはアイーダの絵を見ると、舌足らずながらもはっきり名前を言ったのだ。
「あんちしぇる。」
冷水を浴びせられたようなとは、まさにこういう状態をいうのかもしれない。
普段なら心地よく感じる風が、寒々と通り過ぎていくような感覚にとらわれていた。
「でも、待って。こいつ、魔法しか効かないって言ったけど、最初の頃遭遇したのは、確かダグラスさんが倒したような気がする。あれは、あたしの思い違いかな。」
ふと呟いたアイーダに、ウーナが首を振った。
「違わないと思うよ、アイーダ。だって、そういうのもいるから。」
そしてウーナは改めてルキアスに向き直ると、自分の知っている限りの情報を告げたのだった。
「アンチシェルには2種類います。魔法しか攻撃が効かないのと、普通の武器でしか攻撃が効かないのと。でも、見た目にはどちらかわからないんです。攻撃してみて初めて判明するといった感じで。だから、異界でもすごく苦労して、マイルさんが見切ってくれなかったらどうなっていたか。」
その時のことを思い出したのか、ウーナは無意識に身震いしていた。
めったなことでは弱音を吐かない彼女の所作に、ルキアスならずとも気を引き締めたところである。
「なるほどね。全体攻撃で相手の属性を見切ってから攻撃を仕掛けたってことか。さすがは、マイル。いい判断だ。で、ダグラス、それはいつ頃から現れたんだい?」
ルキアスは急に質問の相手をウーナからダグラスに変えた。
冷たく煌めく青い輝きに、ダグラスはあっさり降参して、それまで自分の中だけに留めていた情報を話し始めた。
「最初に襲ってくる魔獣が普通じゃないことに気が付いたのはラエルだ。不覚にも、俺が気が付いたのはギアの手前だった。街道に出た時から、えらく魔獣が活性化してるとは思ってたんだが、どうやら、それは俺の認識不足で、通常と違うやつらは全部、その異界とやらから流れてきたものだったらしい。」
言われてみれば、アイーダにも心当たりがたくさんあった。
同じように攻撃しても手応えのあるなしの落差が非常に激しかったのである。
「じゃあ、あのひどく手間取っていたのは、全部、異界の魔獣だったの?」
「たぶんな。で、時間がないから、俺の知ってる要点だけ話すぞ。」
ダグラスは一呼吸置くと、一気にコルナ村で起こっている異常事態について話した。
「原因は不明だが、とにかく神殿の上空あたりにぽっかり穴が開いちまったらしい。ただ、それがいつも開いてるわけじゃなくて、不定期に開いたり閉じたりして、その歪みが発生した時、運の悪い魔獣がこっちへ落っこちてくるということだ。しかも、その魔法しか効かないというやっかいな奴が圧倒的に多いらしくてな。」
「それで黒魔法使いが必要ってことか。あとは白魔法使いのコンフュージョンで同士討ちを狙うってところかな。」
「ああ。だがな、事が事だけに、魔法の使える奴なら誰でもいいと言うわけにはいかなくて、それなりの関係者だけで何とかせざるをえないってのが正直な話らしい。」
存在すら定かでないはずの異界が現存していることが明らかになっただけでも大変なことなのに、その上そこから非常に強力な魔獣が降ってくるだなどと、うっかり公表しようものならそれこそフィルディンは蜂の巣をつついたような大騒ぎになるだろう。
「なるほど。だから、アヴィン達というわけか。」
ひととおり話を聞くとルキアスはそれなりに納得したようであった。

「ん?じゃあ、なんで魔法の使えないダグラスがこの件に絡んでるんだ?」
ふとルキアスが抱いた疑問にダグラスは知るものかと頭を振って立ち上がった。
その様子をアイーダがにやにやと見つめている。
ダグラスはさりげない素振りでアイーダに近づくと、「頼むっ。」と巨体を下げんばかりにささやいた。
「どうしようなかあ。」
「あら、アイーダ、何か知ってそうね?」
「あいーだぁ・・・。」
聞くも哀れなダグラスの声にアイーダはルキアスの顔と交互に見比べ、すっと深呼吸した。
「あのね、ダグラスさんはね。」
アイーダは情けない表情のダグラスに軽くウインクしてみせた。
「ガヴェインさんからあたしの護衛を頼まれたの。」
「護衛?」
疑わしげなルキアスの目に、ダグラスはそうそう、と頷いている。
「嘘じゃないぞ。本当に、ガヴェイン様から頼まれたんだっ!!」
唾気をまき散らして、ダグラスは必死の形相である。
「もう、汚いわね。」
ルキアスは美しい眉をひそめたものの、それ以上の追求はしてこなかった。
「まあ、そういうことにしといてあげましょ。そのかわり、私達をしっかり守ってもらいますからね。」
「でも、俺は魔法は使えないぜ。」
情けないついでだと開き直って現状を追加したダグラスに、ルキアスはピシャリと言い放った。
「それは私が引き受けます!!魔法しか効かないかどうかの見極めくらいできるでしょーが。」
「俺はお前らの盾か〜。」
「そのくらいしか役に立たないんだからしょうがないでしょう。」
ぎゃいぎゃいと互いに言い返しながら、ダグラスとルキアスは大股で街道を歩いて行く。
これが泣く子も黙る剛剣使いと噂のダグラスと剣の達人と名高いルキアスのコミュニケーションの真の姿というのだから、世間の評判とはわからないものである。
そういう意味ではキャプテン・トーマスだって世間では海の英雄と誉れも高いのだ。
目の前の現実を話したところで、当事者以外は絶対信じないだろうなと思いつつ、アイーダは残されたメンバーを振り返った。
「それじゃ、あたし達も行こうか。」
「そうですね、最初は私がゲルドちゃんを引き受けますね。」
「はい、よろしくお願いします、アルチェムさん。」
ゲルドを抱いたアルチェムとウーナが横に並び、その少し後からアイーダが殿を務めるかのように進んでいく。
「慌てず、急がず、確実に、行こうね。」
アイーダは青空に先行するポッポを見上げながら、大きく背伸びをしたのだった。
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