デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(25)
懐かしい友人達と再開したのも束の間のこと、編成を変えたアヴィン達はひたすらにコルナ村へと急いでいた。
アルデ街道ではそれほどめぼしい魔獣と遭遇することがなかったが、鉄鋼の町ギアを通過したあたりから、てきめんに魔獣との遭遇率が上昇した。
それも明らかに異界から落ちてきたと思われる魔獣との戦闘が増加しているのだ。
何度目かの戦いが終わったところで、アヴィンはマイルとルティスに声をかけた。
「マイル、ルティス、ここからは二人だけで先に行ってくれ。」
「アヴィン?」
「ふたりなら、テレポートが使えるだろう?」
テレポートでの移動を並行すれば、かなりの時間を短縮することができる。
だが、アヴィンはテレポートが使えなかった。
「でも・・・。」
口ごもったルティスにアヴィンは大丈夫だと大きく頷いてみせた。
「異界の魔獣とは初対面じゃないからな。だいたいのところは覚えているし、見分けもつくと思う。ミッシェルさんもいるし、大丈夫だよ。それより、コルナ村の方が心配だ。元を早く押さえることができれば、それだけ街道の不安も減るだろ?」
真剣に語るアヴィンを前に、ルティスは渋々ながらも先に行くことを承知した。
これだけ連続して異界の魔獣が現れるということは、それだけコルナ村でラエル達が苦戦を強いられているに他ならないからだ。
おそらく一番到着が待たれているのはミッシェルだろうが、ダグラス経由でもたらされた知らせには、「まだ準備が整っていない」ので、マイルやルティスにできるだけ急いで来て欲しいとあったのだ。
4人のうち、テレポートが使えないのはアヴィンだけだから、ミッシェルの到着はアヴィンと同時で差し支えないということであろう。
ギアまではそれほど戦闘がなかったので、時間的ロスも少なかったが、これからはそういうわけにはいかない。
戦闘を避けるという意味でもテレポートは有効な手段だった。
「俺たちもできるだけ急いで追いつくようにするから。」
先頭を切って行きたい主義のアヴィンにしては、かなり譲歩した提案なのである。
「アヴィンが無茶をしないよう、ちゃんと見張ってますから。」
「それはこっちの台詞だろ、ミッシェルさん。」
「ふたりで牽制し合ってる間は大丈夫そうだよ、ルティス。」
「そうですね。ここで時間を無駄にするわけにもいかないでしょうから・・・。」
いくらかの不安な要素は残しつつも、アヴィン達は更に二手に分かれることにしたのだった。
「マイル、気を付けてくれよ。」
「わかってるよ、アヴィン。」
アヴィンの言葉が、自分を心配してというよりルティスを心配してのものだとわかるだけに、マイルとしては苦笑を禁じ得ないのだ。
だからといって、テレポートのできないアヴィンと役目を変わるわけにもいかないのである。
「ルティス、急ぐよ。」
「ええ、じゃ、先に行くから。ミッシェルさん、無理せず来てくださいね。」
最後までミッシェルの体調を案じつつ、ルティスはマイルと共にテレポートに入ったのだった。

マイルとルティスを見送ると、アヴィンとミッシェルもまた旅を再開した。
「私たちも急ぎましょうか。」
「ああ。」
にっこり笑うとミッシェルは詠唱に入った。
「ミッシェルさん、テレポートは・・・。」
慌てて止めに入ったアヴィンにミッシェルは使う予定の魔法の名を言った。
「ダッシュですよ、アヴィン。」
「え?」
「これなら、あなたでも使えるでしょう?」
「あ!」
テレポートのように瞬時で移動することは叶わないが、ダッシュを使えば通常の倍以上の早さで移動することが可能になる。
しかもテレポートと違って継続時間が長いので、一度掛けるとかなりの距離を進むことができるのだ。
また、テレポートに比べると魔力の消耗も少なくてすむ。
「マイルとルティスの手前、さすがに言えませんでしたが、普通に急いでいたのでは、それこそダグラス達に追い抜かれてしまいますからね。」
「まさか、いくらなんでも、それはないだろう。」
「本当にそう思いますか?」
反対に尋ね返されて、アヴィンは後発隊のメンバーをもう一度思い浮かべてみた。
ダグラス、ルキアスは名の通った冒険者だから、当然に桁違いの体力を備えている。
アルチェムは、普段森の中を自由に歩き回っているから歩くことには自信があるようだし、アイーダやウーナにしても旅慣れている。
何より彼女たちのパワーは並ではなかった。
しかし、最後のひとり、ゲルドはまだ幼い子供なのだ。
同年代の子供と比べれば、確かに健脚だが、大人の速度にはとうてい及ばないはずである。
「俺たちと違ってテレポートはもちろん、ダッシュも使えないし。」
「そうでしょうか?」
「だって、あの中には黒魔法使いはいないんだぜ。アルチェムは白魔法だけだし、ルキアスだって違う。ダグラスは魔法そのもが使えないんだし、アイーダとウーナもその点は同じだぜ。」
アヴィンが考えている間に、ダッシュの詠唱は終わりを告げた。
回りの景色がみるみるゆっくりと流れ始める。
「追いつかれる前に、答えが見つかるといいですね。」
にこやかに答えたまま、ミッシェルは走り出した。
「あ、待ってくれよ!」
続いてアヴィンも走り出す。
無論、ふたりからしてみれば普通より少し早く歩いているに過ぎないのだが、ダッシュの効果のおかげで全速力で走るのとほぼ同様の効果が現れているのだ。
アヴィンとミッシェルは魔法切れによるタイムラグをできるだけなくすために、互いにダッシュの魔法を掛けつつコルナ村を目指していった。

ミッシェルの言葉にアヴィンが首を捻るのも道理で、後発のメンバーにはダッシュを使える者はいなかった。
だが、個々が使えないというだけで、魔法を使えるものはいたのである。
「みんな、揃ってるわね?遅れた人はいない?」
「大丈夫、全員、います。」
ぐるりと見渡すと、確かに全員揃っている。
「じゃ、もう一度呼ぶわよ。」
ルキアスが召還を唱えると、そこに風の精霊ミネルバが出現した。
「ダッシュ!」
間髪入れずにルキアスはミネルバに命令を伝える。
ミネルバは次々とダッシュを掛けていき、魔力がなくなったところで消滅した。
「全員、掛かったわね?」
「はーい。」
「それじゃ、出発!」
アヴィン達と分かれてから、ダグラス達はずっとダッシュで高速移動していたのである。
不思議と言えば、普通、これだけの距離を歩けば、かなり体力を消耗するはずなのだが、一行の誰も疲れを覚えないことであった。
「うまく言えないのですが、風がすごく優しいんです。通り過ぎて行くたびに、疲れを取っていってくれてるような、そんな感じがします。」
「やっぱりアルチェムもそう思う?」
「あ、じゃあ、ルキアスさんもですか?」
風の精霊を友とするルキアスは、一行の中で誰よりも風に敏感である。
「なんて言うのかな。そう、特にガーデンヒルから吹き下ろしてくる風が、応援してくれてるような気がするんだ。」
険しいガーデンヒルからの風は、どちらかというと厳しい風のことが多いのに、これはいったいどうしたことだろうか?
「案外、イドゥン様が応援してくださってるのかもしれませんね。」
「そうあって欲しいもんだ。仮にも優しき風のイドゥンって言われてるんだからな。」
一行の先頭にあって、ダグラスはひとり息があがっていた。
何しろ、戦闘は、ほぼダグラスひとりでこなしているようなものだからである。
ルキアスは精霊を召還してダッシュを掛けるのに手一杯だったし、アルチェムは防御の白魔法を掛けるのに忙しい。
アイーダとウーナはどちらかがゲルドを連れ、空いている方のひとりが戦闘の応援に入るようにしていたが、大抵の場合、ダグラスの一撃で片が付いてしまうのであった。
「ダグラスさん、そろそろ先頭を変わろうか?」
折を見てその時に手の空いていたウーナがダグラスに声をかけてみたが、即座に断られてしまった。
「冗談じゃねえ。こんなとこで女に先頭を譲ったとあっては男が廃る!」
「でも、まだ先は長そうだよ?」
「この程度なら、どうってことないわい。」
ダグラスはカラ笑いを残して先頭を維持している。
心配そうなウーナに、ルキアスが肩をすくめて言った。
「本人が大丈夫って言ってる間は大丈夫よ。ただし、遅れても言い訳は聞かないからね。」
最後の一言は、無論ダグラスにあてたものである。
「おい、随分、冷たいじゃないか。」
「あら、だったら、素直に先頭を変わってもらえば?」
「そんなことできるかっ!」
言い返しながら、ダグラスは歩く速度をずんずん上げている。
「こらあ、ミネルバの効果範囲を出るんじゃない!」
「るせぇ。そっちがとろいんだろ?」
「何だって?」
売り言葉に買い言葉、これがあるから、少々先行していても、ゲルドを連れたウーナ達が十分追いつける間が持てるのであった。
優しい風の応援を受けて、後発のダグラス達も先行したアヴィン達とそう変わらずしてコルナ村に到着できそうである。

その頃コルナ村では、異界と何度目かの大きな穴が通じたところであった。
当然、ここぞとばかりに魔獣が落ちてくる。
回数が嵩むごとに魔獣のレベルもアップしているようで、さしものラエルも終わりの見えない戦いに疲労とストレスが溜まりつつあった。
「げえ、こんなのアリかよ。」
「これは、ちょっと手応えがありそうですね。」
マーティのぼやきにラエルは即座に言い返した。
「そんなもん、なくていいっ!!」
これは相当にキレているなとマーティは内心で溜息を吐いた。
日頃からミューズの突拍子のない行動に付き合ってきたマーティには、相手の言動にいちいち反応しないだけの冷静さが備わっている。
しかし、そのマーティをもってしても、今回の魔獣達にはいささか危惧する物があるのは否めなかった。
第一に動きがそれまでのものより数段早くなっている。
更には大型化していて数が多いため、シャインブレッドの範囲内に一度では収まりきれそうになかったのだ。
できるだけラエルとのタイミングを計って、連続攻撃ができるよう詠唱を唱えるだけでは片付きそうにないのである。
それでも他に有効な方法がない以上は、その戦法で戦う以外になかった。
マーティとラエルはタイムラグを取りつつ詠唱に入った。
その魔獣の大きさは、それまでの3倍はあるだろうか?
貝とクラゲを掛け合わせたような不気味な姿は、目にした者の戦力を喪失しそうなほどえぐい色目をしていた。
ラエルの、続いてマーティのシャインブレッドが眩しい光を炸裂させたが、やはり一撃で倒すことは叶わなかったようである。
「ちっ。やっぱり残ったか。」
「残った連中は、魔法の効きも悪いようですね。」
言いながらマーティは剣を構えていた。
同様にラエルも斧を振り上げている。
「刃物を振り回すのは苦手なんだよな。」
そうは言っても魔法の効きにくい魔獣と当たってしまったのだから、好き嫌いをぼやいている暇はない。
「なんか、あいつら、更に嫌な性格してるな。」
マーティ達が待機時間から解放されるまでのわずかな間で、敵は体力を回復していたのである。
「回復させる間を与えず一気に叩かないと、堂々巡りになりそうだ。ラエル、一体、一体、確実に仕留めますよ。」
まずは、回復度の低そうな右端からとマーティがターゲットを定め、ラエルに合図した。
「OK、先制は任せたよっ!」
ラエルの斧が低く呻りオキサイド・リングの詠唱に入った。
マーティは他の魔獣が魔法を使わないようにと祈りつつ、オニオンスライサーを放ったのであった。

rakugaki020515.jpg(65299 byte)
「黒魔法組−マーティとラエル」のツーショット by さらまんだー様

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