デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(26)
マーティから放たれたオニオンスライサーは、狙いを違わず右端の魔獣に命中した。
「あとは、お任せ!」
続いてラエルのオキサイドリングが弱った魔獣にトドメを刺しに掛かる。
マーティの一体一体を確実にという戦法は、決して間違ってはいなかった。
だが、それは敵の数が味方の戦力で対処できる範囲内で、という条件が付く。
今、マーティとラエルが相手にしている異界の魔獣達は、レベルはともかく、数においてはふたりの処理能力の限界を遙かに超えたものだったのだ。
確かに、5体までは、ふたりの巧みな連係プレーで何とか倒すことができた。
しかし、6体目にラエルの攻撃が命中するのと待機中のマーティが7体目の魔獣から体当たりを食らったのとがほぼ同時であった。
「うわっ。」
軽い衝撃が走り、マーティはよろめいた。
攻撃そのものにはたいして威力はなかったが、それに付随してくる特殊な効力のためにマーティの意識は混濁の渦に飲み込まれてしまったのだ。
「・・・私は、何を、して、いるの、だろう?」
ぼうっとした意識の中で、マーティは誰かに呼ばれているのを感じていた。
それが自分の名前を呼ぶラエルの声であるところまでは覚えている。
「・・・そうだ・・ラエルを・・・援護、しないと。」
視界の隅の方で、ラエルが魔獣に囲まれているのが見て取れた。
「ラエル、今、助けるよ。」
マーティは漠然と魔法を唱え始めた。
何やらラエルが叫んでいるような気がする・・・。
「待ってろよ、ラエル・・・今、魔法で・・・っ!」
まさに魔法を発動しようとしたその瞬間、マーティは思いっきり頭をガツンと殴られ、今度こそ確実に意識を失った。

マーティを後方から殴ったのはアヴィンだった。
テレポートが使えないはずのアヴィンがなぜここに現れたかというと、あまりに大きな時空の歪みを感じ、危惧したミッシェルによって送り込まれたからである。
送り出すに当たって、はじめ、ミッシェルは自分が強硬にテレポートするつもりでいた。
しかし、不安定な空域に許容外の魔法が入り込むと、それこそ何が起きるかわからないということで、敢えてアヴィンを送り込んだのだった。
「アヴィンには申し訳ありませんが、出た先にはたぶん・・・。」
「いきなり魔獣と対面しても恨みっこなしだよ。それより、時間がないんだろ?とっくに覚悟はできてるから、さっさと送ってくれ。あっちでマイルの驚く顔が見物だな。」
同時にルティスからは怒られるだろうが、これは非常時ということでなんとか勘弁してもらおう・・・。
「すみません。」
「らしくないぜ、ミッシェルさん。」
アヴィンに謝りの先を制され、ミッシェルは行き場のなくなった言葉を詠唱に変えた。
ミッシェルの魔力が優しい風と化してアヴィンを包み込む。
その力は、折からの風と同化して、アヴィンをいっきにコルナ村の上空へと運んだのであった。
そして降ろされた先が、マーティとラエルが魔獣と戦闘しているまっただなかだったというわけである。
しかも、混乱しているマーティがラエルを攻撃しようとする寸前の場に放り出されたのだ。
現場を見た瞬間、考えるより先にアヴィンは行動していた。
ラエルがアヴィンに気がつくより早く、マーティの背後からガツンと剣の鍔を振り下ろしていたのである。
手加減をしたつもりだが、とっさのことであり、どこまで力が加減できたか定かでない。
マーティの詠唱は止まったが、彼はそのまま崩れるようにその場でへたってしまったのだった。
「しまった!強すぎたか・・・・。おい、マーティ!」
ラエルを攻撃することは阻止できたが、貴重な戦力がひとつ欠けてしまった。
「アヴィン!?」
ラエルのなんとも言い難い声が飛んできた。
だが、その間も他の魔獣の攻撃が止んだわけではない。
再会の挨拶どころか、駆け付ける間もなくラエルは魔獣との戦闘に追われていた。
アヴィンにしてもそれは同様である。
送り込まれる前にミッシェルが危惧したことが現実となって迫ってきているのだ。
意識を失ったマーティの代わりにアヴィンがラエルに呼応する。
見覚えのある異界の魔獣を前にして、アヴィンは久々に戦慄が走った。

さて、一方、本来テレポートで先行したはずのマイルとルティスであるが、結果としてふたりはアヴィンに遅れてコルナ村に入ることとなり、村の入り口で精霊フェンリルを操るエレノアと再会した。
エレノアは魔法大学から応援に派遣された学生達の回復に余念がなかったのだ。
「エレノア先生!」
「マイル?ルティスも・・・よく来てくださいました。」
軽く会釈を交わしたエレノアにほんのりと明るさが灯った。
あたりの様子を一目見ただけで、幾度も修羅場をくぐり抜けてきたマイルとルティスには、何が必要とされているかすぐに知れるところであった。
「ラプレア!!」
マイルとルティスは互いの範囲最大のところで回復魔法を唱和した。
これで範囲内で危うい状態に陥っていた魔法大学の生徒達が相当数救われたことだろう。
詠唱を終えたマイルは付近にラエルの姿がないことに気が付きエレノアに尋ねた。
「ラエルは?」
「この奥、神殿のすぐ側です。」
指さされた方向に、マイルとルティスは悪寒を覚えた。
「異界でだって、ここまで嫌な気配は感じなかったんだけどね。」
マイルはそれとなくルティスに忠告したつもりだが、彼女は聞こえないふりをしていた。
ここで引き返すくらいなら、最初からこの旅に参加などしないし、先行する役も断っている。
マイルもそのくらいはわかっているが、アヴィンと約束した手前、一応は釘を刺しておかねば形がつかないのだった。
「行きましょうか?」
「ああ。」
ふたりは神殿までの最後のテレポートに入った。
テレポートを終えた先に待っているのが、魔獣との戦いであることはいうまでもない。

マイルとルティスが神殿へ向かったのと入れ替わりに、ダグラスとルキアスが到着した。
「こりゃまた・・・。」
想像を絶するコルナ村のありように、ダグラスは続いて入ってきたアルチェムを自然と制する形となる。
しかし、すぐあとにいたゲルドとウーナまでは制するのが間に合わなかった。
特にゲルドはまるで何かに呼ばれたかのように、一目散に神殿の方へ駆け出していったのだ。
「待って、ゲルドちゃん!いきなり走っちゃダメだよぅ。」
「ウーナ、あたしも行く!」
続いてアイーダがダグラスの制止の脇をくぐってふたりを追っていった。
「おい、おまえら〜!」
「はい、私たちはここまでね。」
追いかけようとしたダグラスを止めたのはルキアスだった。
「異界の魔獣は専門家に任せて、私たちはこっち!」
くいっと顔を向けさせられた先には、お馴染みの魔獣がいる。
「なんで、こいつらがこんなとこにいるんだ!?」
「相乗効果でしょ。」
無機質な声にダグラスは背筋が寒くなった。
ひと荒れどころか大嵐になりそうだと、深い溜息を吐いたダグラスだった。

アイーダと並んで歩きながら、ウーナはふと気になって後ろを振り返った。
「ダグラスさんとルキアスさん、置いて来ちゃったけど、いいのかな?」
少し遅れてアルチェムの姿は見えているが、それまで一緒だったダグラスとルキアスはいないようだった。
「よくわかんないけど、ゲルドちゃん、急いでるみたいだし。」
「でも、さっきから、なんか嫌な予感がするのよね。」
「あ、やっぱり?」
「うん。それに、この方向から妙に圧迫感を感じるし。」
ピクリ、とゲルドの歩みが止まった。
「ゲルドちゃん?」
立ち止まったゲルドの方ではなく、強烈な印象を受けた上空にふたりの視線は集中した。
何もないはずの空間が一瞬煌めき、人をひとり放出したのである。
その人の顔より、見覚えのあるマントの影にアイーダとウーナは反応した。
「ミッシェルさん!!」
ちょうど追いついてきたアルチェムも加わって、かなり高音域の三重唱がミッシェルを出迎えたのだった。
「うわっ・・・っと・・・。驚かさないでください。」
「それはこっちの台詞です!第一、なんでミッシェルさんがテレポートしてるんですか!」
「それは・・・いろいろと事情がありまして。」
いつもにこやかなウーナから、開口一番、厳しい口調で問いつめられ、ミッシェルは柄にもなく言葉に詰まった。
真面目な人間は怒らせると後がコワイ。
誰に言われたのかまでは思い出せないが、今、ミッシェルは朧気ながらその意味を理解しつつあった。
もしも、そのまま何事も起きなければ、ウーナは膝詰め談判も辞さないところだろう。
しかし、あいにくとここは戦場のまっただなかである。
今はちょうど魔獣の落ちてくる通り道から外れているが、このまま安全であるという保証はどこにもないのだ。
「・・・あれ、なに?」
異変が起こるのにたいして時間はかからなかった。
「下がってください!」
青いはずの上空のところどころに黒いシミが点在したかと思うと、色とりどりの巨大な塊となって落ちてきたのである。
それもひとつやふたつではない。
「パペット、行け!」
反射的にアイーダはカプリを押し立てた。
「プロテクション!」
アルチェムは補助魔法を唱え、ウーナはゲルドを抱きかかえてミッシェルの影に飛び込んだ。

新たな魔獣の出現は、アヴィンとラエルも感じていたし、マイルとルティスの位置からも見えていた。
だが、彼らも目前の魔獣で手一杯な状況にあり、とても応援に向かえる状態になかったのだ。
ミッシェルは素早く戦法を組み立てた。
幸いにして、居合わせた少女達がそれぞれに取ってくれた行動は、ミッシェルの基本戦法に適っていた。
「リーン・カルナシオン!」
アイーダの援護とアルチェムの補助で時間を稼ぎ、ミッシェルは広域魔法を連発した。
それまで押さえていた魔力が彷彿したようにほとばしる。
それでも、一撃で倒せる魔獣には限りがあった。
倒し損ねた魔獣が覆い被さるように襲ってくる。
戦闘が長引けば長引くほどミッシェルには不利となるのが目に見えていた。
ミッシェルの影でウーナはゲルドを全身でかばっていたが、隙間をくぐって魔獣の触手が伸びてくるのまでは防ぎようがなかったのだ。
「やーっ!!」
ぱしっと何かがゲルドの手から魔獣に向かって投げつけられた。
幼い少女の投げる力は大したことないのだが、何しろ魔獣は目前に迫っていたため、外れる余地がなかった。
まさに、投げれば当たるというところまで来ていたのである。
当然のように命中し、当たった反動でそれは砕け散った。
その瞬間、ぽーんと、それこそ美しい玉が弾け散るように、鈴やかな音を発してあたりに光の欠片が舞い上がった。
戦いの最中にあっても、それはみんなの目にはっきりと捉えられていた。
「何が・・・。」
舞い上がった光の破片は、シャワーのように降り注いでくる。
「きれ・・い。」
誰もが光の美しさと優しい輝きに魅せられ、その瞬間だけ戦うことを忘れていた。
「まるで、時が止まってる見たい・・・。」
反射的に呟いたウーナに、ミッシェルは愕然とあたりの様子をうかがった。
「時が、確かに止まっている。それに、失われた力が蘇ってくるような・・・。」
その状態をミッシェルは以前にも経験したことがあった。
ミッシェルだけではない。アヴィンも、マイルも、ウーナもその時の体験を思い出していた。
レオーネの小屋の前で刺客に襲われ、絶体絶命に陥った時、得もしれぬ光がフォルトらを包み込み、次の瞬間、失われていた力が蘇っていたことが思い起こされる。
「ゲルドちゃん?!」
「あの時と、同じ?」
思い出したのが早い分、ミッシェルの次に出すべき指示も早かった。
「マイル、ルティス、アルチェム!」
ミッシェルは次々に名前を呼んで、使うべき魔法を知らしめた。
「時が動き出す前に、コンフュージョンを唱えてください!」
それが反撃のきっかけとなった。
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