デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(27)
全ての敵を相手にするのと、一時的であっても攻撃対象が減るのとでは当然、後者の方が有利になる。
しかも、コンフュージョンを食らった魔獣は、混乱を来して同士討ちを始めるため、ミッシェル達が直接に戦う相手の数は実数を大きく下回ることになるのだ。
時が止まっていても、魔法を唱えることはできる。
光の破片が消滅し、あたりが正常に戻った時、白魔法使い組は予想外に健闘して半数の魔獣にコンフュージョンをかけることに成功していた。
その間黒魔法組のマーティとラエルはコンフュージョンをかけた魔獣と重ならないようにバインドを唱え、アヴィンは自らにインパクトを掛けていた。
正常な時間が流れ始めた時、彼らは戦いに有利な体制へと立て直すことに成功したのだ。
「いくぞ!」
「おう!」
気力、体力共に回復したアヴィン達は、一斉に反撃を開始した。
信頼の上に成り立つ連携攻撃で、魔獣を次々と倒していく様は圧巻である。
それまでの劣勢が嘘のように、圧倒的な強さで魔獣を押し返していったのだ。
そしてついにアヴィンが最後の一体にトドメの一撃を加え、久方ぶりでコルナ村に静寂が訪れた。
「取りあえずは、終わったな。」
「おかげで助かりました。」
「いや、こっちこそ、遅くなって申し訳ない。」
同時に剣を納めながら、アヴィンとマーティは再会の挨拶もそこそこに、その場に座り込んでしまった。
魔獣との戦闘は日常茶飯事であるとはいえ、全力で戦ったのは本当に久しぶりのことだったのだ。

しばらくは無言で息を整えているアヴィンとマーティのもとへ倒した魔獣の後始末を終えたマイルが駆け寄ってきた。
「アヴィン、マーティさん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、マイル。」
「ふたりとも無事で良かったよ。まったくアヴィンときたら、なんて無茶するんだっ!」
ふたりが座り込んでいるのは単なる疲労によるものだとわかったとたん、マイルはアヴィンを怒鳴りつけた。
「ごめん、ごめん。でも、ミッシェルさんに送ってもらわなきゃ、間に合いそうになかったから。それに、そのくらいならミッシェルさんの負担もそれほど大きくないって言ってくれたし。」
「そうじゃなくて、僕がいいたいのは・・・。」
言いかけて、マイルは、ふっと同じような危険性についての別の問題に行き当たった。
「こっちがこういう状態ってことは・・・向こう側もそれなりに危ないってことじゃないのか?」
マイルが危惧したことはある意味当然であり、ふたりの視線は自然とミッシェルの方へ向けられた。
「可能性として無視できませんが、向こう側にはトーマスがいます。プラネトス2世号の乗組員だっていますし、ウーナの話だとヌメロスの戦艦も一緒だということですから、防御に徹していれば大きな被害を被ることはないでしょう。何よりレオーネさんが一緒にいるんです。彼は異界の環境と生物について熟知していますから、リコンヌの人達のためにも何らかの対応策を立てているはずですよ。」
ミッシェルは落ち着いた様相で話してくれたが、それだけではその場しのぎの処置に過ぎず、人の能力に限界が来た時、破綻してしまうことは彼にもわかっていた。
異界とフィルディンとが連携を取って対処しない限り、根本的な解決は望めないのである。
「なんとかあちらと連絡を取ることができればいいのですが・・・。」
呟いたミッシェルをアヴィンが睨み付けている。
先の戦闘でミッシェルは大きな魔法を連発していた。
それまでの体調が体調だけに、アヴィンが心配するのも尤もなことである。
同じような視線をマイルとルティスからも感じたミッシェルは苦笑混じりで首を振った。
「あなた方が心配しているようなことはしませんよ。」
本音をいうと、今すぐにでも異界へテレポートしたいところだが、これだけ不安定な状態で、うっかりそんなことをしようものならどんな二次災害をもたらすかわかったものではない。
むしろそちらの方が心配で、下手に大きな魔法を使うことができないでいたのである。
「せめてみんながここにいることだけでも知らせられたらな。」
「それでしたら、たぶん、今ので伝わったと思いますよ。」
ミッシェルは腰をかがめると駆け寄ってきたゲルドの銀色の髪をそっと撫でてやった。
「さっきのあの力は、きっと異界のトーマス達にも届いたはずですから。」
その言葉を肯定するかのように、ゲルドが遙か上空へと両手を掲げ、にっこり微笑んだ。
無垢な少女の微笑みは、それだけで人々に安らぎをもたらしてくれる。
「・・・みんな、きっと無事だよね。」
アイーダとウーナは遠く離れた異界にそれぞれの想いを馳せていた。

アヴィンとマイルが危惧したとおり、異界でも同じように魔獣が活性化していた。
だが、トーマス達がいるリコンヌは、もともと凶暴な魔獣がいて当たり前の地域だったので、そこに住まう人々もそれなりに肝が据わっている。
ましてや、レオーネが自ら隠棲の地として選んだ場所だけに、十分な対策を予め施していた。
「危険が去るまで、結界の輪から出ないように乗組員の方々に徹底しておいてください。」
事態を察知した時のレオーネは少しも慌てた様子がなく、必要な措置をトーマスとガゼルに伝えてきたのだった。
「こっちはそれでよくても、そっちはどうするんだ?」
「おそらく一時的なものでしょうから、そのうち元通りに収まると思います。」
レオーネの答えは冷静そのものだった。
この地点で、一番慌てていたのはおそらくフォルトだったに違いない。
彼はしばらくたっても戻ってこないウーナとゲルドを探しに古の遺跡まで出向き、鳴り石の台座付近で見つけたどんぐりの実を握りしめて小屋に駆け戻ってきたのである。
「レオーネさん、ウーナとゲルドの姿がどこにも見あたらないんだ!」
息せき切って小屋に飛び込んできたフォルトに、レオーネは「やはり、そうでしたか。」と呟いた。
「レオーネさん?」
「ああ、申し訳ない。魔獣が活性化したと、今しがたキャプテン・トーマスから伺ったばかりだったものですから。でも、これでその原因も確定できましたし、あとはあちらの世界とどのくらいの時差が生じているか、ですね。」
レオーネはまるで全て承知しているかのような口ぶりである。
「レオーネさんは、ふたりがどこにいるか知ってるの?」
「フォルト君は、その実をどこで見つけましたか?」
「このどんぐりのこと?」
本来異界にあるはずのないどんぐりの実だが、先般、アイーダとパルマンが異界にやってきた時、ティラスイールからのお土産としてそれぞれゲルドに贈ったものである。
フォルトは、そのどんぐりを古の遺跡で見つけたと告げた。
「古の遺跡だって!?」
レオーネより、むしろトーマスの方がフォルトの言葉に強く反応した。
古の遺跡と言えば、フィルディンのどこかと繋がっていると聞いた場所である。
その言葉どおり、アイーダは光の柱に呑まれ、行方が知れないままだ。
もっとも確率的にはフィルディンのどこかに出ただろうということで、何はともあれ探しに行かねばとプラネトス2世号の修理を急いでいる最中なのである。
「まさか・・・。」
「ふたりが出かけてから、妙な空間の震えを感じました。それから、今、魔獣が活性化しているということですので、おそらく間違いないと思います。」
レオーネの答えにフォルトは間髪入れず声を上げた。
「それって、ウーナはフィルディンにいるってこと?」
「ウーナだけじゃない。アイーダも、そしてゲルドもだ。」
トーマスが素早く訂正を入れた。
「なんで!?」
「おそらく、それが必要な条件になったからでしょう。」
驚くフォルトに再びレオーネが答えた。
「必要な条件?」
「その時の状況がわからないので、何とも言えませんが、今の状態を考えると結果としてそうなったようです。」
フォルトにはレオーネの話がさっぱり理解できなかった。
だが、トーマスには朧気ながらも全体像が見えてきた。
例えアイーダがフィルディンで予定どおりプラネトス2世号の部品を調達できたとしても、そのままでは異界で立ち往生しているトーマス達の元へ部品を届けることは叶わない。
誰かが、何らかの方法で異界まで持ってこなければどうしようもないのである。
今、不安定ながらも古の遺跡とフィルディンとの間に道が繋がっているというのはそのための要件なのではないか。
ただし、道が繋がった弊害で、この付近に棲む魔獣が活性化してしまったようである。
「道が繋がってるということは、行き来が可能になっているということだ。方法次第では部品をこっちへ運んでもらうことができるかもしれない。」
「もしかして、ミッシェルさんもフィルディンに?」
「ああ。可能性としては大きいだろうな。これだけ大きな力が働いてるんだ。ラップの奴が気が付かないはずはない。」
「なんとか確かめる方法がないかな。」
「何かあるとすれば、古の遺跡でしょう。」
さりげないレオーネの一言で、すぐさまトーマスとフォルトは行動に移った。
「レオーネさんはどうしますか。」
何か起こった時、レオーネがいてくれた方が判断するのに容易くなる。
「もちろん、ご一緒します。ここではこれ以上の状況がわかりませんから。」
トーマスとフォルトはレオーネを護衛するようにして古の遺跡へと歩き出した。

ある程度予想はしていたが、古の遺跡までの道には活性化した魔獣がひしめいていた。
「どこからこんなに出てくるんだろう?」
「結界が張ってあるから、あぶれたのがみんな集まってるんじゃないのか?」
フォルトは剣で、トーマスは主に魔法で魔獣と対峙している。
「それにしても多すぎだよ!この前来た時は、ここまで酷くなかったよ。」
だが、目の前で戦う分にはさほど苦労はなかった。
レオーネの結界はほぼ完璧で、実際に戦うのはもとから棲み付いている魔獣とだけだったからだ。
気になったのは、むしろ突然消えてしまう魔獣がいることである。
結界の外にいる魔獣が、まるで何かに吸い込まれるように、忽然として姿を消してしまうのだ。
「あの消えた魔獣はどこへいったんだろう。全部が全部テレポートしたわけじゃないよね。」
「そうだな・・・。」
トーマスがちらりと視線をレオーネの方へ向けると、彼は難しい表情をしている。
「こっちが楽な分、あちらが苦労してるってことか。」
レオーネの表情を読みとったトーマスは複雑な思いを抱いた。
フィルディンにはアヴィンをはじめ魔獣退治のプロが大勢いるとはいえ、この突発的な事象にどこまで対応できているか、はなはだ疑問である。
もしも少数で対処していたら、それこそ大変な苦戦を強いられることになるかもしれない。
悪い方へと考えそうになった時、3人は古の遺跡へ到着した。
そこから広場に入った3人は、闇の中でも鈍い光を発して微震している4つの鳴り石に注目した。
「この前は、こんな振動してなかったぞ。」
「なんだか、空気がピリピリしてるような気がする。」
長年この地にいるレオーネですら、こんな現象は初めて目にするものだった。
振動している鳴り石をよく見ようと近づいた時のことである。
いきなり振動が大きくなり、一瞬、鳴り石が白熱したのだ。
もとに戻った石には特に変わった様子は見られないが、あの時、確かに鳴り石は大きく変動していた。
「今の、なんだったんだろう?」
フォルトとレオーネには、あたりを含めて大きく振動したとしか感じられなかったが、トーマスの方は頭を思い切り殴られたような衝撃を受けていた。
「ってぇ・・・今のは効いたぞ・・・。」
突然頭を抱えてしゃがみ込んだトーマスにフォルトは驚いて駆け寄った。
「トーマス、どうしたの!?」
「何でもない・・・っていうか、たぶん、これは、魔法の衝撃ってヤツだな。」
トーマスは精神を落ち着けようと浅い呼吸を繰り返していた。
「ラップのヤツにしてはえらく突拍子のないやり方だ。」
「おそらく、ゲルドの仕業でしょう。」
苦笑混じりのレオーネに対してトーマスは憮然とした視線を向けた。
「それじゃあ、やっぱりみんなフィルディンにいるんだね?」
代わって明るい表情を取り戻したのはフォルトである。
「ああ、だいぶ苦労してるみたいだがな。取りあえずは無事らしい。」
痛みも伴ったが、さきほどの衝撃には多くのビジョンが含められていたのだ。
コルナ村で起こっている出来事が、トーマスの中で具体的に整理され始めた。

トーマスから手短に整理した情報を聞かされたレオーネは結界の外にいる魔獣を見て思案している。
「何をするにしても、あの魔獣をどうにか落ち着かせないと、あちらでは動きが取れないでしょうね。」
「魔獣を落ち着かせる?」
レオーネの言葉を受けて、フォルトは心に期するものがあった。
初めて異界を訪れた時の経験は、フォルトの中でしっかり息づいている。
「誕生のメロディ、ですね。」
フォルトの声にレオーネは無言で頷いた。
あの時、誕生のメロディを奏でたのはウーナだった。
ピッコロ向きの曲だと彼女は言ったが、キタラで奏でられないというものではない。
「わかりました。やってみます。」
レオーネが全てを説明するまでもなく、フォルトはキタラの調整に取りかかった。
その慎重な手つきは、いつも演奏前にしている調整より更に念が入っている。
これからフォルトが行おうとしているのは、単なる演奏というだけではなさそうだ。
「いったい何を始めるつもりなんだ?」
トーマスの疑問を裏付けるように、フォルトがキタラの調整をしている横で、レオーネは簡単な譜面を書いている。
音楽家同士の間で行われた合意がいかなるものか皆目見当がつかず、トーマスはふたりが準備を終えるのを見つめていた。
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