デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(29)
コルナ村でウーナは無心にピッコロを吹き続けた。
その場に居合わせた者達にはウーナの吹く音しか聞こえなかったが、彼女がフォルトと演奏していることを疑う者はいない。
アイーダはミッシェルに言われたとおり、ウーナが吹く曲目を告げていた。
そのほとんどがヴェルトルーナの曲であり、ミッシェル達には馴染みのないものだったが、大切なのは曲ではなく、そのタイトルにあったのだ。
ミッシェルは異界のレオーネと曲のタイトルを交わすことで会話を成立させたのである。
レオーネの問いはフォルトがタイトルに掛けてキタラを弾き、それに対する答えをウーナが同じくタイトルに掛けた曲目で返す。
それを繰り返すことで、異界のレオーネとフィルディンのミッシェルは互いの状況を説明し、これから為すべき事を決めていったのだった。
曲目の説明に当たっているアイーダは、他の誰よりも早くその内容を捉えることができた。
「本当に、そんなことができるの?」
ウーナの吹く曲が変わる度に、アイーダの表情がめまぐるしく変化していく。
「アイーダ、今度の曲は何なんだ?」
「「5人でひとつ」なんだけど、その前の曲が「青空に登る道」だったから・・・。」
「青空に登る道って、コレのことだよな?」
ついさっきまで異界の魔獣が落ちてきていた次元の穴を遙か上空へとアヴィンの視線が伸びていった。
「次元の穴へ続く道を普通に歩けるわけなどないんだから、道を登るってことは・・・。」
「そんなのテレポートに決まってるじゃん。」
ラエルが横から口を挟んだのを受けてマイルが頭数を数えている。
「確かに、5人でひとつ、だな。」
マイルが確認するなか、アヴィンだけがそっぽを向いていた。
そう、彼は黒魔法使いでありながらテレポートが使えないのである。
「その代わり、アヴィンにはみんなの魔力を増幅させるべくインパクトで応援してもらわないといけませんからね。」
ミッシェルの声にはどこか諭すような響きがこもっていた。
「でも、増幅されたテレポートを使っても、私たちには異界へ飛べるほどの力はないと思うんですが。」
ルティスの疑問に対する答えはダグラスが持ってきた。
折しも、ダグラスがガヴェインを手伝って、ギアからの荷物を神殿まで運んできたのである。
アイーダの、更には、プラネトス2世号の待ち望んでいる部品がタイミングよく届いたのだ。
早速にアイーダは箱の中身をトーマスの手紙(の写し)と対査して、全て揃っていることを確認した。
「すごいわ。全部、揃ってる。」
アイーダが頷いたのを受け、ミッシェルがその方法を宣言した。
「5人の魔力を集約させてこの荷物を異界までテレポートさせます。」
「一方的なテレポートだね。面白そうだ。」
ラエルが一番に賛同の声を上げたが、その口調からはいつものような軽さは感じられない。
暗黙の了解の下、ミッシェルがそれぞれの魔力に応じて力の配分を決めていった。
だた、5人の魔力にはそれぞれ差違があるので、力の均衡を図るためにアヴィンのインパクトが必要だったのだ。
気が付けば、ウーナのピッコロはいつしか誕生のメロディを奏でていた。
「この次が、「隠者」だって。」
アイーダが告げると一同の間に緊張が走った。
「メロディが変わったら、いよいよ作戦開始だね。万が一魔獣が出てきたら、私とダグラスとで引き受けるよ。」
いつの間にか、ルキアスもその場に控えて事態を静観していた。
すっかり耳馴染んだメロディが終演に向かって引いていく。
アヴィンが一足早くインパクトを唱え始めた。
マイルに、マーティに、ラエルに、そしてルティスに。
ピッコロの音がひとつの区切りをつけるのと同時にミッシェルが5つの力を集約し対象物へ向かって放ったのである。

テレポートの対象となる荷物が浮かび上がったと同時に、あたり一帯にアイーダとウーナが何度も経験した光の柱が登り立った。
ミッシェルですら予想できなかった強大な力が異界とフィルディンの間に発生したのである。
5人から放たれ集約された魔法の力は、ミッシェルの予想を遙かに上まわっていたのだ。
それは、互いを信頼し、最大限に発揮されたが故の誤算であった。
集約された力は、更に強力な力を生み出し、未知なる脅威を呼び込んでしまったのである。
「いけない!!」
ミッシェルが急いで力の制御に回ったが、すでに荷物は異界へ向けてテレポートしたあとだった。
「追わなければ。」
だが、ミッシェルより先に荷物を追っていった影があった。
「ゲルドちゃん!?」
アルチェムの腕に抱かれていたゲルドが白熱し、光の中へその小さな身体が吸い寄せられていったのである。
「ダメ!」
その瞬間、とっさに動いたのはアイーダだった。
それがどれほどに危険を伴う行為であるかは嫌というほど経験していたが、そんなことは眼中になかった。
飛び込んだ光の中でアイーダは文字どおり全力でゲルドを抱きしめたのだ。
激しい耳鳴りとそれにともなう頭痛でアイーダの意識は急速に遠のいていった。
「おねえちゃん?」
だが、あどけなさの残る声に呼びかけられ、アイーダは辛うじて意識を保った。
「ゲルドちゃん?大丈夫・・・え?ここ、どこ?」
不思議なことに、アイーダの周りは無色透明な世界と化していた。
アイーダに呼びかけられたゲルドの声は、世界全体から響いてくるようであった。
その反面、それまではっきりと聞こえていたピッコロの音が遠くなりはじめたのだ。
奏でている曲がわかっているので何とか音は追えるが、それも次第に聞き取りにくくなってきた。
「消えちゃう・・・。」
孤独な不安がアイーダに迫った時、ピッコロにキタラの音が重なってメロディを受け継いだ。
「フォルトのキタラ?」
消え入る寸前のピッコロの音とは対照的にキタラの音色は存在感を増してくる。
「どこから?」
アイーダはキタラの響きに耳を傾けた。

コルナ村で発生した光の柱は異界にも同様の振動を起こしていた。
得体の知れない圧力が魔力を持つトーマスに押し寄せてくる。
トーマスはミッシェルから聞いた対処法を思い出し、一時的に心を遮蔽してその場の混乱を乗り切った。
そして、ようやく強大な力が収束に向かった先に現れたのがゲルドであった。
「ゲルド?」
光の柱の中から実体化したゲルドは胸に無数の光の欠片を抱えていた。
実体化していなくとも、トーマスの目には形ある物として映っていた。
「それは・・・ギアに頼んだ部品!」
光の破片は大きさも形もまるで違う様相を示していたが、プラネトス2世号が必要としている部品に間違いなかった。
テレポートによって吸い上げられた部品は、大きすぎる力に飲み込まれて光の柱に取り込まれてしまったが、ゲルドの介入によって届けられるべき場所へ彼女自身とともに放出されたのである。
けれども、ゲルドが持ち込んだのはギアに頼んだ部品だけではなかった。
「アイーダ!?」
光の中に、トーマスはフィルディンにいるはずの少女の面影を見い出して驚愕していた。

遠ざかる意識の中に突然飛び込んできたトーマスの呼び声でアイーダは自分の存在を再認識した。
すでに意識だけの状態と化していたが、それでもトーマスの声によって、自分が何者であるかを思い出したのだ。
「すぐにフィルディンへ戻れ!」
フォルトのキタラの音を断つほどの大声がアイーダを見舞った。
「トーマス?どこ?」
「必要な部品は受け取ったから、すぐにフィルディンへ戻れ。」
繰り返されるトーマスの声にアイーダはあたりを見回している。
彼女にしてみればこれまでと同じように、ただ光の柱に取り込まれたぐらいにしか思っていない。
しかも光の渦に巻き込まれた後は、別な世界へ出ることができていたので、異界との行き来がどれほどに危険なものであるかという認識に欠けていたのである。
そしてついに恐れていたことが起こってしまった。
強力な魔力を持つゲルドは実体化できても、アイーダは光の欠片のままだった。
多少は魔法が使えるとはいえ、トーマスにアイーダを実体化させるだけの力までは備わっていない。
ましてや幼いゲルドの魔法を導いてやるなど到底できない相談であった。
トーマスにできるのは、アイーダをフィルディンへ無理矢理にでも押し返すことだけなのだ。
しかもことは一刻を争う。
「ウーナのピッコロが聞こえてるだろう?」
「うん。でも、すごく遠いの。その代わり、フォルトのキタラはよく聞こえるよ。」
「そんなもん、聞かんでいい!ウーナのピッコロだけを聞くんだ。」
道はフォルトとウーナの織りなすメロディが共鳴することで繋がっている。
フィルディンへは、ウーナのピッコロを辿っていけば帰れるはずだった。
「そんなこと言ったって・・・。」
アイーダには自分の身に起こっている危険性より、トーマスに会えたことの方が重要だった。
「アイーダ、船を直したらすぐに迎えに行くから、今は、フィルディンへ戻ってくれ。」
さすがにトーマスの口調にただならぬものを感じたのか、アイーダは納得しないまでもフィルディンへ戻ることを承知した。
トーマスの声はすれど、いつまでたっても触れることのできない現状に不安を抱きはじめたことも味方したようである。
ゲルドがトーマスのすぐ前まで来て、光の欠片を抱えた両腕を差し出した。
「ホントにすぐ迎えに来てくれる?」
光の欠片であってもアイーダのトーマスを見上げる甘えた瞳は感じ取ることができる。
それはトーマスの記憶の底に眠る甘い香りを呼び覚ましたが、再びそれを手にするためにもここは彼女を帰さなくてはならないのだ。
「これまでの記録を塗り替えるくらいのフルスピードで迎えに行くよ。」
「本当に?」
「ああ、約束する。次に逢う時はフィルディンだ。」
トーマスは断腸の思いで、アイーダとおぼしき光の欠片をポンと押し返した。
実態のないものを押し返すというのも変な話だが、トーマスのひと押しは確かにアイーダを異界から弾き出したらしい。
トーマスにこづかれたと感じた瞬間、それまで聞こえていたキタラの音がぷっつりと途絶えた。
変わって再びピッコロの音がアイーダの耳にはっきりと響き始めたが、メロディを感じるまでに凄まじい風の音でかき消されてしまったのだ。
アイーダの周りは無色透明な世界から一面の青色へと変化し、同時にものすごい勢いで下降している自分に気が付いた。
「お、落ちるっ!」
声にならない叫び声がアイーダから漏れ、空っぽの両腕が虚しく宙を彷徨った。
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