デュエット・シリーズ

■ふたりのマリオネット(5)
このままここにいてもどうしようもないので、パルマンは少年の案内を受けてアロザにあるという彼の家まで行くことにした。
疲労の色の濃いアイーダを起こすに忍びず、パルマンは彼女をそのまま背負うと少年の後について歩き始めた。
よほど疲れているのだろう。
アイーダはパルマンの背ですやすやと寝息をたてていた。
「おねえちゃん、大丈夫なの?」
「ああ、ちょっと疲れてるだけだから、ゆっくり休めばすぐに元気になるはずだ。」
「それならいいけど・・・。」
心配そうな少年にパルマンは大丈夫だと頷いた。
「それより、まだ坊やの名前を聞いてなかったな。」
「僕も、まだおにいちゃんの名前を知らないや。」
照れくさそうに笑ってから、少年は自分の名前を名乗った。
「僕、デュルゼルって言います。」
「私はパルマン。彼女はアイーダだ。」
デュルゼルはアイーダの様子をチラチラ盗み見しながら歩いている。
「彼女がどうかしたか?」
パルマンが尋ねるとデュルゼルは困ったように一旦は視線を逸らしたのだが、やはり気になるらしく、自然と目がそちらに向いていく。
女の子が珍しいというわけでもないだろうにと思った矢先、デュルゼルは意外なことを聞いてきた。
「おねえちゃん、魔女、じゃないよね?」
「魔女?」
パルマンの訝しげな声に、デュルゼルは「なんでもない。」と慌てて目線を逸らせた。
「このあたりは、魔女の海岸って言われてるから。」
その声に少なからず排他的な響きを感じ、パルマンは眉を曇らせた。
どうやらこの地方は外部の者、特に女性の訪問者に対してあまり開放的ではないらしい。
パルマンは背中の重みをしっかり肝に命じながら、アロザにあるデュルゼルの家にやってきた。

デュルゼルは、パルマン達を裏手の別棟に案内すると取りあえず母屋の方へ戻っていった。
案内された部屋で一息ついた頃にはアイーダも目を覚まし、パルマンに背負われて来たことを知るや、真っ赤になっていた。
「あたし、重かったでしょ?」
もじもじと尋ねたアイーダに、パルマンの何気なく答えた一言はまずかった。
「重いくらいで丁度いいんだ。」
「えー、やっぱり重かったんだあ・・・。」
ショックを受けたアイーダに、パルマンは何と言ったものかと途方に暮れた。
自分自身への自戒を込めて重い方がよいと言ったつもりだったのだが、どうやら彼女は文字どおりに受け取ったらしくすっかり落ち込んでしまっている。
かといって下手な言い訳はますますアイーダを傷つけることになりかねないと、掛けるべき言葉がみつからない。
ふたりの間に気まずい沈黙が漂い始めた時、部屋の外からデュルゼルが声を掛けてきた。
「おにいちゃん、入ってもいい?」
パルマンはアイーダに確認を取ると、ほっとしたように部屋の扉を開けた。

部屋の外にはデュルゼルと、もうひとり、彼より少し年長の少年がいた。
「実は、お客様があって、荷物をこの部屋に置いたままにしてるって言われて取りに来たんです。」
「お休みのところ、お邪魔して申し訳ありません。」
年齢的にはアイーダとあまり変わらないようだが、その割には立ち居振る舞いの落ち着いた少年であった。
丁寧に断りを述べてから彼は部屋に入ってきたが、パルマンの後ろにいたアイーダに気が付いた瞬間、弾かれたように声を挙げた。
「・・・アイーダ?」
「え?」
いきなり名前を呼ばれ、アイーダも驚いたようだったが、声の主が誰だかわかると、表情がそれとわかるほどに明るくなっていった。
「モリスン!」
つい先日別れたばかりの友人の出現にアイーダは嬉しそうに駆け寄ってきた。
「どうしてここにモリスンが・・・?」
尋ねかけてアイーダは自分がどういう状況に置かれているのかを思い出し、同時にそこから導き出された答えに呆然となった。
「モリスンがいるってことは、ここって・・・ティラスイール?」
「ティラスイール?」
オウム返しに聞いたパルマンに、アイーダは当惑しながらも、そこがミッシェルの故郷であることを付け加えた。
それまでデュルゼルから聞いた話から、もしや別の世界へ来たのではという疑いを抱いていたのだが、どうやらこれで決定的となったようである。
驚いたのはモリスンも同じであった。
機会が許すならば、また会いたいとは思っていたが、まさかこんなに早く会えるとは思っていた。
だが、今回もワケアリの訪問だとわかるので手放しで喜べるものではなさそうである。
ところで、アイーダとモリスンは旧知の間柄だが、パルマンとモリスンは初対面である。
「パルマンさん、彼はモリスンといって、この前ウーナと一緒に旅した人なの。」
アイーダは取りあえず、パルマンとモリスンの間に入って互いを紹介しはじめた。
「モリスン、パルマンさんは、あたしやウーナがすっごくお世話になった人で、槍の名手でもあるの。」
手短に紹介を終えると、アイーダはモリスンにズバリ質問した。
「で、どうしてモリスンがここにいるの?」
状況を把握したとたんに、遠慮なしにポンポン尋ねてくるアイーダにモリスンは苦笑しながらも答えた。
「父の使いでフォルティアを訪問していたんです。それで、帰りはデュルゼルをアンビッシュに案内することになりまして・・・。」
「あの、そういうわけで、僕、これからすぐに旅に出なければならなくなったんです。せっかく案内しておきながら、何もできなくて申し訳ありません。」
モリスンのあとを受けて慌てて謝ったデュルゼルにパルマンは首を振った。
「こちらこそ一方的に世話になって申し訳ない。おかげで助かった。あとは何とかするから、我々のことは心配しなくていいよ。」
「でも・・・。」
パルマンとデュルゼルが互いに申し訳ないと言っている側で、アイーダとモリスンは再会を喜びながら、気になるところを忌憚なく口にしていた。
「それにしても、いったいどうしたんですか?」
「うーん、それが、よくわかんないの。いきなり変なとこへ飛ばされて、出てきたのがここだったから。それも今、モリスンに会えたからここがどこかわかったくらいなんだもん。」
わからないなりに、アイーダは正直にモリスンの質問に答えた。
まるきり要領を得ない答えだが、モリスンにはそれが一番理解しやすい回答だったようである。
「それで、これからどうするつもりなんですか?」
「それなのよね。」
はぁとアイーダは大きく溜め息をひとつ吐いた。
「ミッシェルさん、今、うちの方にいるのよ。」
元の世界へ戻る以前に、自分たちの所在を知らせるすべがないのは大問題だった。
「しかも、頼みのプラネトス2世号は、修理中だし。」
「それは、問題ですね。」
「そうなの。」
「でも、いずれにしてもミッシェル殿と連絡を取るのが先なんですよね。」
念を押したモリスンにアイーダは頷いた。
「うん。」
「でしたら、テュエールに行かれてはいかがですか。」
モリスンの提案に、アイーダは一瞬考えた。
「テュエール?そう言えば、前にも聞いたことある場所だけど、どこだっけ?」
「ボルトの対岸です。ミッシェル殿は、そこにお住まいなんです。」
モリスンは、先の出会いでミッシェルから、彼の居住場所を聞いていたのである。
留守の方が多いとはいえ、ミッシェルは現在のところ、テュエールに居を構えている。
「少なくともここにいるよりは連絡が早く取れるのではないでしょうか?行くというのであれば、勿論、ご案内しますよ。」
「でも、それってすごく回り道になるんじゃない?」
「どうせ通り道になりますから。」
「そうなの?」
「この時期だと東回りの航路が使えますので、最後はテュエールからボルトに渡るんです。」
どうしようか、とアイーダがパルマンを振り仰ぐと、彼には異存はないようで、頷いて見せた。
「じゃあ、お願いしようかな?」
「私の方は全然構いません。デュルゼルも、いいですよね?このおふたりと一緒なら、私とだけの旅より、きっと学ぶべきことが多くありますよ。」
思わぬ展開にデュルゼルも驚いたようだが、反対はしなかった。
宮廷剣士を目指すデュルゼルにしてみれば、あまり武の心得のないモリスンより、武人であるパルマンと一緒の方がむしろ喜ばしいくらいである。
「では、そういうことで、準備が整い次第出発しましょうか?」
モリスンはデュルゼルに声を掛けた。
「はい。」
デュルゼルは早速に自分の荷物を取りに母屋の方へ駆けだした。

「パルマンさん、よろしくご指導のほど、お願いします。」
モリスンが改めて挨拶したことで、パルマンは現実の重みを感じ苦笑していた。
パペットが自在に使えないアイーダは戦力としてはあまり当てにできない。
モリスンの魔法の力のほどは未知数だし、デュルゼルに至っては、まず戦力外と思って間違いないだろう。
パルマンが考えているところへデュルゼルが二振りの剣を持って戻ってきた。
「納屋にしまってあったんだけど、おにいちゃん、これ使える?」
真新しくはないが、よく手入れされた剣である。
だが、パルマンは差し出された剣を取ろうとはしなかった。
「できれば、槍を貸してもらえないだろうか?」
「槍?剣じゃなくて?」
宮廷剣士なのに剣を使わないなんておかしくはないかとデュルゼルは納得できない様子でパルマンを見上げている。
第一、パルマンに剣がなくては、道中に稽古を見てもらえないとの思いがデュルゼルの中にあった。
一方、パルマンはデュルゼルの考えていることも、彼の願うところもわかっていたが、直接に剣を交えるつもりはなかった。
「守るには、剣より槍の方が向いているんだ。」
パルマンは諭すようにデュルゼルに答えた。
「国のために戦うなら剣もいいだろう。だが、今からの旅は、そういうものではないだろう?多少は魔獣とも戦うことがあるだろうが、やみくもに倒して進むわけではあるまい。守るための備えなら槍で十分だ。」
「剣では守れないんですか?」
デュルゼルはなおもパルマンに食らいついてきた。
「私は守るための剣を学んでこなかった。私の剣は、誰かを守るには役不足も甚だしい。だが、槍なら自信を持って使うことができる。」
パルマンはどこまでも「守り」を主軸に考えていた。
血気盛んなデュルゼルには、まだ理解できないだろうということは重々承知していたが、それでも戦うための剣と守るための剣では、剣を扱う意味が違うのだということを示しておいてやりたかったのである。
「それに、最悪、槍ならアイーダでも使えるからな。」
「え?」
デュルゼルのみならず、モリスンからも驚きの声が漏れた。
「アイーダは、槍も使えたんですか?」
「魔獣相手の護身術程度にはね。」
あいまいに濁したアイーダに、モリスンは話半分として心に留めておくことにした。
いずれにしてもモリスンは、案内を駆って出た以上は、自分が率先して魔獣と戦うつもりだった。
「なるべく戦いを避けるというのには、私も賛成です。」
「攻撃は最大の防御というのに?」
「時と場合によっては、戦わない方が最大の効果を発揮することもあるんです。」
デュルゼルは沈黙した。
パルマンとモリスンの意見の根底にあるものは同じらしいということは朧気ながらも理解できるのだが、デュルゼルを納得させるまでには至らなかったのだ。
「だからといって、剣を使うなと言ってるわけではない。何しろこのメンバーだから、それぞれがそれなりの方法で身を守らねばならないだろう。デュルゼルが剣が扱えるというなら、それにこしたことはない。それに、太刀筋を見れば、少しくらいのアドバイスはできると思う。」
「本当?」
「あくまで、アドバイスだ。」
パルマンは念押ししたが、それでもデュルゼルは嬉しそうだった。
「いいなあ、あたしもパルマンさんに弟子入りしようかな。」
アイーダの微かなる呟きはパルマンからは無視された。
「それでは、モリスン、テュエールまで案内をお願いします。」
旅立ちの用意が調ったところで、パルマンは改めてモリスンに案内を依頼し、4人は一路テュエールを目指すことになった。
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