デュエット・シリーズ

■ふたりのラプソディ(3)
酒場をあとにしたミューズにアイーダとウーナが連れて行かれた先は、王立図書館であった。
「なんか調べものでもあるんですか?」
「まあね。」
悪戯っぽくミューズは笑うと、颯爽と門をくぐって受付に向かっていった。
「マーティは来てるかしら?」
受付の若者は、ミューズの正体に気が付くと読みかけの本を閉じ、慌てて立ち上がった。
「は?」
腑に落ちない様相に構わず、ミューズは努めてにこやかに尋ねた。
「火急の調べものがあるとか言って、ここに来たでしょ。」
「えっと。」
困った様子を見せた若者に、更にミューズは突っ込んで問いただした。
「貸出禁止の書物を無理言って持ち出したのではなくて?」
「いえ、ですから、それはですね。」
「それはいつのこと?」
たたみかけるような質問は更に追い打ちを掛けたようだ。
「まあ、あなたがそれを認めたら、職務怠慢を問われることになるものね。」
そこまで指摘されると、彼はうっくと言葉を呑み込み、困り切った表情で俯いた。
「だから、マーティがどこにいるかを教えてくれればいいの。それだけなら、彼が何をしたか答える必要はないでしょう。」
ミューズの表情はあくまでにこやかである。
申し訳ないと頭を下げたまま、彼は小声で答えた。
「つい先ほど来られたのですが、いつの間にか・・・。」
「何ですって!?」
とたんにミューズの顔が険しくなる。
「つい先ほどって、いつのことなの。」
「ですから、あの、ほんのつい先刻のことで・・・。」
おっかなびっくりで首を縮めた若者のことなど、すでにミューズの眼中にはなかった。
受付の者が嘘を言ってるとは思わなかったが、ついさっきやって来たというマーティの姿をミューズ自身は見ていないというのも、また事実である。
ならば、マーティはいつ、どうやって図書館に現れたのか。
「ふたりとも、行くわよ。」
もはやここでの用件は済んだとばかりにミューズはずんずん歩き出した。
訳のわからないままにアイーダとウーナも急いでミューズのあとを追った。

一旦は図書館の受付を出たミューズだが、敷地内から出たわけではない。
彼女はくるりと裏手に回って目的とする部屋の窓辺にやってきたのだ。
「確か、ここでよかったはず。」
思わず顔を見合わせたアイーダとウーナにミューズは自分の記憶が正しかったことを再確認した。
「あのぅ。やっぱりここから入るんですか?」
ウーナの控えめな眼差しにミューズは先に立って窓に手を掛けると、難なく窓を開けひらりと室内へ飛び込んだ。
「いかに私でも、あからさまに転移門を使わせろと言うわけにいかないでしょう。」
そう言いながらも堂々と窓から侵入するあたりどこか矛盾してるが、現実には変えられぬとアイーダとウーナも身軽に窓を飛び越えて室内に入った。
「転移門は・・・。」
「あ、こっちです。」
ウーナが先に立ち、勝手知ったる古の扉の前に歩み出た。
「でも、どうしてマーティさんがここに来てるってわかったんですか?」
「来てるとは思わなかったけど、調べものがあれば、ここを利用するに違いないでしょう。ヴァルクドにもそれなりの書物はあるけど、ここ以上に揃ってるとは思えないもの。もっとも、ついさっき来ていたとは思わなかったけど。」
「ということは、もしかしたら出たすぐ先でマーティさんに会えるかもしれませんね。」
「そうね。」
返ってきた穏やかな口調とは裏腹に、マーティのためにはすぐに会わない方がいいような気がしたウーナだった。
ミューズの強い意識に引かれてアイーダとウーナは転移門の輪の中に入った。
互いに確認するまでもなく、目的地はヴァルクド大聖堂である。
故に、アイーダとウーナは何の躊躇いもなく行き先を念じた。
光の道が3人を取り込み、すぐに別の場所へと送り出す。
「ちゃんと着いたのかな?」
先ほどと何ら変わることのない転移門の出口にアイーダは少しだけ不安になった。
「転移門なんてどこも同じですもの。さっさと出ましょう。」
先に歩き出したミューズのあとをアイーダとウーナも続いた。
やがて、薄暗い階段を上がった先で3人が目にしたのは、見覚えのある大聖堂の一室ではなく、更に薄暗い回廊であった。

「どういうことですの?」
難しい顔をしたミューズにアイーダとウーナもただ驚くばかりだ。
しかし、幸か不幸か、ミューズにはここがどこだかわかっている様子である。
「まったく。カテドラールなんかに出たら遠回りになるだけじゃありませんの。」
「カテドラール?」
はじめて耳にする地名にアイーダはがさごそとエル・フィルディンの地図を広げて場所を確認した。
「ヴァルクドがここだから・・・うわっ。ちょっと距離があるかも。」
「あ、ホントだ。」
王都からコルナ村まで陸路で行くのに、転移門で一旦ヴァルクドに出て、セータから船でバロアに渡ることによって時間を節約するつもりだったのだ。
「これじゃあ、何のために転移門を使ったのかわからないじゃありませんの。」
ブツクサ呟くミューズにウーナは何やら考えていたが、やがて控えめに尋ねた。
「あのぅ。もしかして。」
「なあに?」
「もしかして、マーティさん、ここに来てるんじゃないでしょうか?」
「え!?」
意外な反応のミューズにアイーダも思い当たることがあるらしくウーナに同調した。
「その可能性はかなり高いかも。」
「・・・なぜ、そう言えます?」
「だって、ついさっきまでマーティさんの話をしてたから。」
ね、と肯きあったアイーダとウーナにミューズは沈黙した。
なにしろ先刻ふたりから、思いを強く持つことで転移門の出口が変化するという話を聞いたばかりである。
「でも、マーティの行く先は私だって知らないのよ。」
一応反論を試みたが、かえってやぶ蛇だったかもしれない。
「だから、です。うまく言えないんですけど、その時考えていた人のことを優先するみたいなんです。」
「だからって、何もカテドラールの地下に出なくても。」
認めたくはないが、理由はそれで納得できた。
だが、これからのことを思うとミューズは心なくとも溜息を吐いてしまった。
アイーダとウーナも居心地の悪い気配を感じているらしく、どこか落ち着きがない。
「ここって、あんまりいい場所じゃない・・・ですよね。」
「まあね。道がわかってる分、マシですけど。」
ミューズが溜息を吐いた理由はすぐに現実となってあらわれた。
「来るわよ。」
「はい!」
言うが早いかミューズの宝鞭エスプリが呻り、ウーナは弓をつがえ、アイーダのポシェットからカプリが飛び出した。
戦い慣れているミューズ達にしてもカテドラールの地下に巣くっている魔獣はなかなかに手強く、以前一緒に戦った経験がなければ、とてもではないが戦う気にはならなかっただろう。
だが、幸いにして先般の経験が3人の中に活きている。
接近戦にはいささか不向きなメンバー構成だが、そこは素早さとパワーとで補い合って乗り切った。
魔獣にしても数年前の時のように無制限に出てくるほどではなかったので、ほどなく決着が付き、あたりは再び薄暗い回廊に戻った。

「遠くからチクチクもいいけど、結構疲れる。」
「もう少し広い場所ならフェニックスを召喚できて楽ができたのだけど。」
一息入れたところでミューズは先のことを考え思案顔になっている。
「地下神殿から地上に出るとなると、封印の地を抜けなきゃいけないから、この先はちょっとした持久戦になるかもしれないわね。」
「あの、このまま引き返して、もう一度転移門を使うってのは駄目かな。」
ウーナの提案はしごく妥当なものだが、アイーダの意見は異なった。
「たぶん、無理だと思う。」
「どうして?」
「だって、マーティさんがここにいるなら、他に出ようがないと思う。」
「あ、そうか。」
だが、納得した先で、また別な疑問が沸いてきた。
「でも、なんでマーティさん、こんなとこに来たんだろ。」
今、事件が起こっているのはコルナ村である。
「他にも被害が広がってるってことはないよね。」
「それはありえないわ。ひとつ村で収まりきらない事件であれば、いくら戒厳令を布いたところで私の耳に入らないはずがないもの。」
きっぱり断言したミューズにふたりとも少しだけ安堵した。
しかし、そうなると余計にマーティの動向が気になってくる。
それでなくともコルナ村は余談を許さない状況下にあるはずなのだ。
ひとりでも戦力が欲しいところを抜け出してまで調べねばならないこととはいかなることなのか。
「ここから抜け出すのも大切だけど、マーティさんを見つけるのが先かな。」
小首を傾げたウーナに今度はアイーダも賛成した。
「それが一番手っ取り早いと思う。」
「どちらにしても地下神殿を目指すことには変わりないでしょうね。」
「もしかして、ミューズさん、心当たりがあるんですか?」
「心当たりというより、調べものができる場所となると、そこしかないはずだから。」
復興が十分でないカテドラールでは、調べることのできる場所が自ずと限定されてしまうのだ。
「カテドラールに書庫に類する場所が残っているとすれば、地下神殿くらいのはずなのよ。でも、どうも気に入らないわ。」
ミューズの口調は不満を口にするというより、納得できなくて思案している感じである。
実際、ミューズはマーティの行動そのものが非常に不可解であった。
アイーダとウーナには告げてないが、カテドラールの地下神殿は、神と決別したあの日を境に封印され王家の監視下にある。
あの時、事件に深く関わったマーティは当然そのことを承知しているはずだ。
わざわざ転移門を使ってまでしてカテドラールを訪れる必要性がミューズには全くもって見えてこなかった。
「そうはいっても、ここで考えていても始まらないし、とにかく前進するしかないわね。」
考えることはいつでもできるが、行動するには決断が必要なのだ。
それぞれに不安を抱えながらも3人は歩き出した。
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