デュエット・シリーズ

■ふたりのラプソディ(4)
ミューズを先頭に3人は封印の地を上へと登り始めた。
不気味な洞窟と岩山の繰り返しは、普通に歩くだけでも一苦労である。
その上で、魔獣を相手にせねばならないのだ。
しかも異界とはまた違った手強さのある輩が相手ときている。
一度戦ったことのあるミューズからだいたいの戦闘パターンは教えてもらったが、やはり対峙してみて初めてわかることもあるのだ。
「ここの魔獣って、みんな変な魔法を使うから嫌いよ。」
「なんとなく、フィルディンに魔法使いが多いの、わかったような気がする。」
ヴェルトルーナやティラスイールにも魔獣は存在するが、フィルディンの魔獣は強力な魔法を使う魔獣が圧倒的に多いのだ。
「ミューズさん、大丈夫ですか?」
全面的に魔法はミューズの召喚する精霊にお任せである。
口には出さないが、疲労度はアイーダやウーナより大きいはずだった。
「ミューズでよくってよ。」
「え?」
「いちいち「さん」を付けてたら、かったるいでしょ。」
「はい、ミューズ。」
アイーダがにこっと頷いた。
かつてフロードがあの有名なキャプテン・トーマスとだとわかった時、彼が名前で呼んで欲しいと言ったことを思い出したのだ。
王女殿下として、常に特別扱いされてきたミューズにとって、ただの名前だけで呼んでもらえることは、仲間としてある以上、非常に意味が深い。
「確かにそろそろきつくなってきたけど、出口まで、あともう少しよ。このまま一気に抜けましょ。」
最後の洞窟を抜けて崖に出ると、その先にエレベーターが見えている。
「あれに乗れば、カテドラールの地下に出るわ。」
数年前のこととはいえ、ミューズは記憶どおりに辿り着けてほっとしていた。
「あのぅ、まさかと思うけど。」
「なあに?」
「降りたら、魔獣がいっぱいってこと、ないですよね。」
伊達に場数は踏んでないと、ミューズは唸った。
これまでの魔獣の状況から、その可能性がゼロでないことをミューズも気にしていたのだ。
「確かにね、ゼロじゃあないわ。」
「やっぱり。」
がくっとうなだれたアイーダとウーナに、ミューズはひとつの提案をした。
「ただ、狭いことを我慢すれば、対策もなくはないわ。」
「それって、やっぱりフェニックスさんと隣り合わせですよね。」
「話が早くて助かるわ。ついでにカプリも一緒だともっと心強いかもよ。」
「うわっ。それってすごく狭いかも。」
エレベータの床の面積とそれぞれの体型を見比べ、アイーダは顔をしかめた。
だが、それで少しでも危険が回避できるというなら致し方ない。
「カプリ!」
アイーダの呼び声に応えてシュタッとカプリが飛び出した。
「アイーダ、少しでも広くなるよう、わたしはカプリの肩の上に登ろうか?」
「いいけど、大丈夫?」
「うーん、ちょっと怖いけど、その方が視界も広がるから、攻撃するにも有効なのよね。」
「ウーナがそれでいいなら、そうして。カプリの方は大丈夫。」
アイーダの了解を取り付けると、ウーナはカプリによじ登った。
「エレベータの天井が高くてよかったぁ。」
弓をつがえる準備をしながらウーナはほっと笑みを洩らした。
その間にミューズはフェニックスを召喚し、カプリと3人の正面に押し重なるようにして乗り込んだ。
全員が乗ると、その意志に反応してか、エレベーターは自然と上昇していった。
「いよいよだね。」
「じゃ、いきますわよ。」
ミューズはゆっくりとフレアレーザーを詠唱し始めた。
静止したエレベータの扉がゆっくり開いていく。
詠唱の終わりと同時に扉が開ききり、無数の炎の矢が放たれていった。

一度放たれた魔法は止めることはできない。
「ミューズ、止めて!!」
カプリの肩に乗っていたウーナの叫んだ声は、ミューズに聞こえたが、応えることは不可能だった。
「マーティさんがいるの!!」
その声に、さすがに2発目の魔法は食い止めた。
「マーティですって!?」
フェニックスの脇をすり抜けるようにしてミューズがエレベーターから飛び降りた。
「マーティ!」
彼はエレベータの正面にいて、まともにフェニックスの攻撃を食らったようだ。
だが、青ざめたウーナとは対称的にミューズは、炎に包まれたマーティを冷静に見つめている。
やがて炎が収まり、無傷のマーティが姿を現した。
「全く、いるならいると、はっきりおっしゃい!」
「申し訳ありません。」
深々と頭を下げたマーティに、ミューズはフェニックスを消滅させたのだった。

無事な姿で再会したものの、マーティを迎えたのは女性陣の冷たい視線であった。
「もう、本当にびっくりしたんですからね。」
「申し訳ない。」
「ま、こういう場所ですから、アンチマジックは常識ですわね。」
魔法を使う魔獣の多い街道を進む時に、事前にアンチマジックを掛けておくのは冒険者なら常とうの手段なのだが、アイーダやウーナにはまず馴染みのない戦い方だ。
「だからといって、なぜあなた方がここにいるんですか!?」
「マーティがいるからでしょ。」
間髪入れずに返したミューズに、むしろ本人よりアイーダやウーナの方が驚いた。
「だいたいの話はこのふたりから聞きました。アヴィン達だけでなく、魔法大学もそして教会もこの件に絡んでいることもね。」
「それは・・・。」
「でも、その件と、あなたがなぜここにいるかとは、別の問題でしょう。」
ピシリと突きつけたミューズにマーティは沈黙した。
つまりは事実であると認めたということだ。
「だいたい、考えてみれば、闘う時以外にアンチマジックを掛けるような無駄をあなたがするはずないのよね。」
チクリとミューズは更に鋭いトゲを噛ませる。
「えっと、それって、マーティさんは、誰かと戦闘中だったってことですか?」
何気なく口にしたアイーダを満足そうにミューズが頷いている。
「ほら、ご覧なさい。この子達にだってそれくらいわかるのよ。」
「あのぅ・・・それだと、ここでこうやって話してるのってすごく危険なんじゃ・・・。」
「いえ、それは大丈夫です。あ、大丈夫というのもおかしな話ですが。」
「つまりは、取り逃がしたってことね。」
たたみ掛けてきたミューズにマーティも今度ばかりは降参した。
「これ以上無駄に時間を過ごしても致し方ありません。こうなったら殿下にもご協力願います。」
「最初からそう言えばいいのよ。さ、説明してもらいましょうか。」
ミューズに押し切られ、ついにマーティは重い口を開いた。

コルナ村での異変は、ミッシェルとレオーネとの協力で一時的には収まったものの、異界との道は繋がったままであり、依然として余談を許さない状況にあった。
そこへまたひとつ気になる情報がガヴェイン経由でもたらされたのである。
「ファティマを覚えているかね?」
予期せぬ名前を持ち出されて、アヴィンとマイルのみならずその場の全員が顔をしかめた。
ラモンとはまた違った意味でやっかいな相手であった女盗賊のことは忘れようはずがない。
「ファティマがどうかしたんですか?」
「カテドラールで姿を見たという噂があるのだ。」
「・・・カテドラールで?」
これもまた予期せぬ場所である。
「仲間と一緒にですか?」
「いや、どうもそれが単独で行動しているらしい。」
「それっておかしくないですか?ファティマは仲間を大切にしていると聞いています。」
「そうだ。だから噂にしても気になってな。」
その場の誰もが仲間割れという可能性を否定していた。
そうなると残るは、単独で行動するほどに危険な場所で何かをしようとしているのではないかという疑問である。
カテドラールは解放された後も、いろいろな意味で立ち入り禁止の多い場所であった。
情報を得ても隠居した身のガヴェインでは、おおっぴらに行動できない制約が多すぎるのだ。
「それで、私が赴くことになったのですが。」
マーティが抜けたあとは、ガヴェインがコルナ村に残って対処しているということだった。

「それって、かなり最近のことですよね?」
アイーダの問いにマーティは頷いた。
「だったら、こっちとは関係なさそう。」
アイーダとウーナは簡単に結論付けたが、マーティは別の反応を示した。
「他にも何かあるのでしょうか?」
ふたりが黙っていると、珍しくマーティは雄弁になった。
「そもそもヴェルトルーナにいるはずのおふたりが、またフィルディンに居るということ事態、何か異常が起こっているとみるべきではありませんか?おそらく転移門を通って来られたのでしょうが、それにしても通常ではあり得ないはずのことです。こういう事態にあるからこそ、少しでも変わったことがあれば隠さず教えて頂きたい。」
それまでミューズの影で常に控えめに行動していたマーティからは想像できないほどにきつい口調だった。
冒険者ではなく行政官としてのマーティがそこにいたのだ。
反射的に身を竦ませたアイーダとウーナをミューズがかばった。
「ふたりがフィルディンに現れたのは、異界と道が繋がっているからよ。」
「殿下!」
ミューズはマーティを前に王女として判断を下した。
「どのみちこの件は、フィルディンだけでは解決できないこと。より事情に詳しい者の協力を得ることは理に叶っています。」
そこまでミューズが言い切っては、マーティに反論の余地がない。
「それに、ファティマが相手では4人でも多すぎるってことはないでしょう。問題は、またあそこへ入るとなると、さすがに私一人の独断というわけにはいかないわね。」
ギクリとマーティのポーカーフェイスが崩れたのをミューズは見逃さなかった。
半信半疑で言ってみたのが見事に当たったようで、ミューズとしては我が意を得たりというところだった。
ミレディーヌ姫からミューズに戻ったのを見て、マーティは諦めて手の内を明かした。
もはや隠し立てすることは無用だと、はっきり場所を特定して答えたのだ。
「時空間迷宮へ入ることについて、国王陛下の許可は取り付けてあります。」
「それじゃあ、父上もグルってこと?」
身も蓋もない言い方に、マーティは眉を顰めたが、事実そのとおりなので黙っていた。
「何も知らないとおっしゃっておきながら、ホント、タヌキもいいとこですわ。」
憤慨した先でミューズは早くも次の行動を考えることに余念がない。
「そうは言っても、国王たる者、知らないではすまされないのも事実だし、まあ、父上が了知のことなら、他に手の打ちようがいくらでもあるってものだわ。」
ミューズは一瞥の元にマーティを黙らすと、これからなさねばならぬことを真剣に考えはじめたのだった。


つづく
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