デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(1)
闇の太陽が消滅し、平和の戻ったヴェルトルーナをマクベイン一座は今日も元気に巡業していた。
彼らが今訪問しているのは、マルチャである。
ここで興行を終えたのち、一行は人形作りで有名なロゼットの居るエキュルへ向かうことになっていた。

「やっほー、さっすがマックさん。いつも最高。もう、ノリノリよ。」
マルチャでの演奏が終わった時、聴衆の中から懐かしい声が聞こえてきた。
「あ、アイーダ。元気だった?」
てへっと照れて見せたアイーダを目敏く見つけたウーナが嬉しそうに応えている。
「えへへ。待ちきれずに迎えに来ちゃった。」
「ホント?嬉しいな。」
「なーんて、嘘。実は、ちょっと頼まれ事されちゃって、一足早く会いに来たの。」
「頼まれ事?」
面倒見のいいアイーダのことなので、特段驚くには値しないが、ただの頼まれ事ではなさそうである。
「何なの?難しいこと?」
「うーん、どうかなぁ。」
「何じゃ、話してみろ。わしらにできることなら力を貸すぞ。」
マクベインにまで促され、アイーダは少し遠慮がちに話し始めた。

「あのね、アリアさんが今どこにいるか知ってる?」
「アリアさんて、あのアリアさんだよね。」
「うん。」
フォルトの聞いたアリアとは、もちろん、水底の民の末裔にして新生ヌメロス帝国の代表者であるパルマンの婚約者を指す。
「結婚までは実家にいるってアルトスから聞いたから、ボザールじゃないかな。」
「残念でした。」
アイーダは得意そうに胸を張って言った。
「シュルフの里でーす。」
「へえ、そうなんだ。」
「でね、時々里から降りて、カヴァロに来るの。たまにエキュルに寄ってくれることだってあるし。おかげですっかりお友達になっちゃった。」
アイーダの話は取り留めもなく続いていく。
「で、この前お願いされちゃったの。シュルフの里で子供達にあたしの人形技をみせてくれないかって。」
「アイーダの・・・人形技。」
話を聞いて、思わずマクベインは脱落しかけた。
「それなら行ってやればよかろう。」
あっさり答えたマクベインにアイーダは「それができれば苦労しないの。」とふくれた。
その様子にフォルトは、思い当たることがあった。
「じいちゃん、ほら、あの石碑。」
「石碑?」
「あ、あれね。」
ウーナもポンと手を打って頷いた。
「そっか。わたしたちは何とも思わなかったけど、普通の人には難しいよね。」
「だから、何がじゃ?」
「だから、あのメロディだよ。」
メロディと聞いて、ようやくマクベインは「ああ、あれか」と得心した。
シュルフの里へ行くためには、いざないの詩を正確に奏でる必要がある。
決して難しいメロディではないが、音楽に関して素人のアイーダには少しばかり荷が重かった。
「それで、誰か付いてきてくれないかなって思ったの。」
アイーダは「誰か」と言ったが、その目はウーナを見つめている。
「次の公演の前で忙しいとは思うんだけど、ダメかな?」
アイーダのお願いに、ウーナの視線が自然とマクベインへと向いていく。
「ふーむ。久しぶりにロゼットとゆっくり話しもしたいし、ずっと公演続きだったからたまには休みも取らないとな。」
「マックさん!」
「そのかわり、長居はいかんぞ。いくらあそこのクルミパンが美味しいといっても、食べ過ぎは良くない。」
フォルトとウーナが吹き出し、アイーダの目が点になる。
やがて、アイーダがマクベインの首に腕を回して抱きついた。
「ありがとう、マックさん。」
「まあ、ふたりなら心配いらんと思うが、気を付けて行きなさい。」
「あの、僕は・・。」
「おまえはワシと一緒に次の公演に向けて特訓じゃ。」
「えええ!?」
(女の子同士の話もあるんじゃろ。ちっとは気を利かしてやれ。)
(・・・そんなものなのかなぁ。)
どこか納得いかないフォルトではあるが、アイーダとウーナはふたりで行くことですっかり合意してるようなので、それ以上聞くのを止めた。
話がまとまると、公演も終わったことだしと、その場で解散となった。
「じゃ、エキュルでね。」
「ああ、待っておるぞ。」
「ウーナ、アイーダも気を付けてね。」
「マックさん、フォルちゃん、行って来まーす!」
元気よく手を振って、アイーダとウーナは一路シュルフの里へと旅立って行った。

マルチャを北上した草原結界のはずれに問題の石碑はある。
「じゃ、吹いてみるね。」
ウーナはピッコロを取り出すと、早速に石碑の前で、いざないの歌を奏でた。
メロディに揺れて周りの景色が揺らいだかと思うと、次の瞬間、ふたりはつむぎ洞にいた。
「まずは、成功。」
ほっと一呼吸置いて隣をみると、アイーダは何やらぼうっと辺りの様子を眺めている。
「アイーダ?」
「ごめん。ちょっと懐かしいなって。」
思いも寄らぬ言葉にウーナが首を傾げた。
「アイーダ、ここ、初めてよね?」
「うん。でも、ここって、湖底洞窟に似てない?」
言われてみれば、水の音と幻想的な岩の有様は、グリム橋の地下にあった洞窟によく似ている。
アイーダとウーナはゆっくりと清き水の流れる様を見回した。
水の流れは、いつしか時を逆流し、ふたりを思い出の中へと誘っていく。

あの時は、マクベインに率いられ、共鳴石を探す旅の途中だった。
フォルトがいて、ジャン&リックが付き従って、そしてフロードがいた。
そのフロードが、実は伝説の英雄キャプテン・トーマスであり、更にはガガープの向こう側の住人であると知ったときの驚き。
けれどもキャプテン・トーマスは、その後もアイーダ達を「仲間」として同等に扱ってくれた。
更には、彼の友人達も加わり、少なからずの時間を共有することになったのだ。
マクベインの長年の夢を叶える旅が、いつしか世界を救う唯一の希望となり、ふたつの願いが成就したとき、ひとつの旅は終わりを告げ、別れの時がやってきた。
再会を約した別れではあったけれど、3つの世界を自由に行き来できる術がない以上、所詮は思い出の中の一コマにすぎないのである。

遠い目をしていたアイーダから思わずつぶやく声が漏れた。
「今頃どうしてるのかなぁ。」
「どこかの海を航海してるんじゃない?」
「それは、そうだろうけど。」
「気になる?」
「べ、べつに、トーマスがどこに居ようとあたしの知ったことじゃないもん。」
「そうなの?」
「そうだよ。」
「でも、わたし、キャプテン・トーマスとは言ってないけど。」
「う・・・。」
絶句したアイーダをウーナは確信したように見つめている。
一瞬の沈黙の後、アイーダは降参した。
「一緒に居るときは、そんなこと考えたこともなかったんだけど。」
「居なくなってから、気が付いた。」
ずばりそのとおりなので、アイーダは苦笑半分で頷いた。
「うん。自分でもすっごく間が抜けてると思う。」
「そんなことないよ。わたしだって、フォルちゃんが旅に出ると決めたから、焦ってそのまま一緒に付いて来たんだもん。」
勢いで旅をしてきたが、肝心の想いを告げるという目的は、未だ果たせないでいる。
なんとなく通じているような気もしないではないが、はっきりと言葉にはしていないから、絶対という決め手に欠けていた。
それでも、とアイーダは羨ましそうにウーナを見返した。
「ウーナはフォルトと一緒に居れるから、いいよね。」
「で、でも、トーマスたち、また来るって言ってたから・・・。」
しかし、それはいつだと特定できるものではなかった。
それに、その時彼がどんな状態であるか、それこそ会ってみなければわからないのである。
「もしかしたら、恋人くらいいるかもしれないし。」
何しろ、相手は伝説の英雄である。
「アイーダ・・・。」
「ごめんね、変なこと言い出したりして。余計な時間取っちゃったね。」
「ううん。こんな時でもないとゆっくり話できないもんね。」
もどかしい気持ちを抱えているのはウーナも一緒なのだ。
話したからといってお互いの問題の解決にはなっていないが、それでも同じような悩みを抱えていることが判っただけふたりの親しさは増していた。

「そろそろ、行こうか。」
「うん。」
ふたりの先に、また同じような石碑が見えてきた。
「この次がシュルフの里になるの。」
ウーナはもう一度ピッコロを構えた。
「いよいよ閉ざされし世界へ行けるのね。ワクワクしちゃう。」
「アイーダったら、大袈裟よぅ。」
一呼吸置いて、ウーナは「いざないの詩」を吹き始めた。
メロディが流れ出すとゆっくり空間が揺らぎはじめ、互いの姿が霞んでくる。
(トーマスに会いたいな・・・。)
遠ざかる水音を感じながら、アイーダは無意識のうちに祈っていた。
一心に吹きながら、ウーナもまたそれまでにない想いを抱いていた。
(もしも、わたしがフォルちゃんと離れて旅することになったら、フォルちゃん、追いかけてきてくれるかなぁ。)
揺らめく想いがメロディに重なっていく。
ふたりの想いを乗せて「いざいないの詩」は閉ざされた世界への扉を開けた。
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