デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(10)
王立図書館の最深部にある転移門は、ヴァルクドで見た転移門と見た目にはほとんど変わりがなかった。
「この中央部に入るとき、本来行くはずであったシュルフの里に出るよう、強く念じるのだ。」
ディナーケンはアイーダとウーナに長い階段の終焉に描かれている文様を示して言った。
「できれば、そこの景色を思い浮かべるとよいのだが。」
ウーナはともかくアイーダはシュルフの里に行ったことがないため、具体的な景色となるとかなり怪しいものがある。
「ふたりが全然違うことを考えたらどうなっちゃうんだろう。」
「次元の狭間に放り出されかねないな。」
「そんなぁ。」
「そうならないよう、共通の事柄を思い浮かべるんだよ。」
マイルが元気付けるように言ったが、アイーダは不安な様子を隠しきれないようであった。
「だって、行ったことのない場所なんて、無理よ。」
「あのぅ、シュルフの里以外には行かれないのかなぁ。」
ウーナがおずおずと尋ねるとディナーケンは少しの間考えていたが、不可能ではないと答えた。
「ただし、どこでもいいというわけにはいかんぞ。少なくとも転移門か、それに近い存在のあるところでなければ、受け皿がないから無理だ。」
「ウーナ、どこか心当たりがあるの?」
「グラバドル城にやっぱりこれと似たようなところがあったなあと思って・・・。」
グラバドル城と聞いて、マイルもなるほどと頷いた。
「確かにあそこにもあったね。」
「あ、水の回廊!」
アイーダもはたと思い出して頷いた。
確かにグラバドル城ならアイーダも行ったことがあるから、場所を特定してやればウーナとほぼ同じ景色を思い浮かべることができる。
「でも、あそこは暗い壁ばっかりだったのよね。」
「ふむ。他に何か特徴のある物はなかったかね。転移門から少しくらい離れていても構わん。あくまで同じ場所をイメージするための目標だからな。」
ディナーケンに促されて、再度アイーダは考え込んだ。
「お城の中ってほとんど覚えてないのよね。すぐ地下に潜っちゃったから。」
「お城・・・お城・・・。」
ウーナも同じように一生懸命グラバドル城のことを思い出そうとしている。
「特徴あるものか・・・。」
マイルも一緒に行った時の記憶をまさぐった。
「あ、変な石像!」
ふいにアイーダが声を弾ませた。
「ああ、あの羽根の生えた?」
「城のあちこちにあった竜の石像だね。」
ウーナが相槌を打ち、マイルもその具体的な形を思い出した。
「どうやら同じ物をイメージできそうかね。」
ディナーケンに尋ねられ、ふたりは同時に頷いた。
「それならば、もはや我々にできることは何もない。」
ディナーケンの言葉は、別れの挨拶を意味していた。
名残は尽きないけれど、いつまでもこうしていても仕方のない話ではある。
アイーダとウーナには、それぞれ帰らねばならない理由もある。
「マイルさん、ディナーケンさん、いろいろとお世話になり、本当にありがとうございました。」
別れにいつまでも時間をかけるのは、湿っぽくなるので好きではなかった。
心からの感謝の気持ちを深い礼に託して、アイーダとウーナは仲良く手を繋いで転移門の中に足を踏み入れた。
「また、きっと会えるよ。」
アイーダとウーナの姿が消える瞬間、マイルはふたりに優しく頷いて見せた。
さようならではなく、また会おうとマイルはふたりを見送ったのである。

つむぎ洞で感じたのと同じ感触がふたりを包み込んでいる。
だが、それはほんの一瞬のことで、すぐに足が難い物に触れた。
しかし、どこかに出たと感じる間もなく、ふたりはいきなり足下が崩れ、宙に浮いたかと思うと、重力の法則に従って落ちていった。
それほど深い穴ではなかったようだが、何の準備もないところへいきなり落ちたものだから、そちらの方の衝撃が大きかった。
「いたた・・・。アイーダ、大丈夫?」
「うん、なんとか・・・ここの床、もろすぎよぉ。」
ふたりは互いの無事を確認すると、改めて周囲を見回した。
「ウーナ、あれ。」
ほどなくアイーダは、台座に設置されている竜の石像を見つけ指さした。
「ということは、ここ、グラバドル城?」
「・・・の、はずだけど。」
その石像は確かに竜の姿をしてはいるが、グラバドル城で見た竜とはポーズがどうも違っている。
城下町や城内にあった竜は眠りに就いている姿を象っていたと記憶しているのだが、今ふたりが目にしている竜の像は、両翼を広げたような形をしていた。
更には、あたりの空気が妙にカビ臭く、埃っぽいのである。
「お城の中にしては、なんだか埃っぽくて辛気くさい空気だと思わない?」
「うん。地下のどこかみたいな気はするけど、なんか、ヘン。」
言いながら、アイーダはグラバドル城の地下水路を思い出していた。
海底と繋がっていたこともあり、確かに湿っぽくはあったけれど、これほどまでにカビっぽい空気ではなかったと記憶している。
「そりゃあ、あれから時間は経ってるけど、このかび臭さって、2年とか3年とかの物じゃないと思う。」
「やっぱり、そう思う?」
「うん。」
かび臭さの程度で、あたりの空気の流れを読みとるなど、あまりぞっとしない話だが、これもまた旅で培った経験のたまものとでもいうのだろうか。
「取りあえず、先に行ってみようか?」
「そうだね。ここに居てもどうしようもないもん。」
ふたりは落ちてきた天井を恨めしそうに睨むと通路らしきところへ歩み出た。

初めは一本道であった通路だが、すぐに複雑に入り組んだ回廊に取って代わり、ふたりは至る所で行き止まりに出くわした。
これでは通路と言うより迷路である。
「なんかこの迷路、気に入らないなぁ。」
水の回廊の中も迷路のようではあったが、それともどこか違っている。
しかし、行き止まりは悪いことばかりとも言えず、それ相応の実入りもあった。
「あ、宝箱みっけ。」
埃を被ってはいるが、蓋に鍵はかかっていなかった。
「剣、みたい。」
「こっちにはナイフが入ってるわ。」
遺跡からの出た古の武器ともなればそれなりに価値あるものなのであろうが、アイーダやウーナには使えそうにない代物だった。
「どっちも使えそうにないし荷物になるだけだから、放っておこうね。」
「うん。」
ふたりはそれぞれ、元通りに納めて蓋をした。
「あ、これは使えそうよ。」
別な宝箱には、かわいい指輪とお守りらしきものが入っていた。
どちらも魔法防御のアクセサリーのようである。
「どうしよう・・・。」
あの時、グラバドル城の地下にはかなりの魔物が巣くっていたことが思い出される。
「せっかくだから使わせてもらおうよ。こんなところで倒れたら、元も子もないもの。」
少しばかり良心が痛まないわけではないが、アイーダとウーナはそれぞれ見つけたアクセサリーを身につけた。
「地上に出たら、デュオール王子に返せばいいことだもんね。」
それなりの理由を口にしてふたりは先を急ぐのであった。

更に進んだ先でみつけた宝箱には、かわいらしい鎧が入っていた。
「この模様、異界の武器屋で見た記憶があるわ。」
ウーナは異界へ行った時の記憶をまさぐった。
彼の地の商品は、鎧に限らずどれにも不思議な力が宿っていた。
アイーダも水の回廊でその鎧のお世話になったのだが、今、目の前にある鎧の模様には見覚えがなかった。
ウーナは鎧を手に取り、じっとその模様を見つめている。
アイーダに見覚えがなくてウーナに見覚えのある鎧となると、異界で売っていて買わなかったものということだ。
「これってたぶん、リープアーマーじゃないかなぁ。唯一買わなかった鎧がそういう名前だったと思う。」
「それって、どんな力か覚えてる?」
「うん。確か、いきなりテレポートしちゃうの。」
「テレポート?」
「それ自体は便利な力なんだけど、自分の意志に関係なくどこかに飛ばされちゃうから問題があるんだってミッシェルさんが教えてくれたの。」
「つまり、肝心なときにいきなりどっかへ消えちゃうわけ?」
「そういう可能性もあるってミッシェルさんが言ったから買わなかったの。」
「どのくらい飛ばされるのかな?」
「わかんないよぅ。」
「どっちにしても、ミッシェルさんがそういうくらいなら使わない方がいいってことだよね。」
「うん、変なところにいきなり飛ばされたんじゃかなわないもの。」
アイーダとウーナは鎧をもとどおりに納めようと、それぞれの方向から手を添えた。
その時である。
「え?」
いきなり鎧から不思議な力が揺らめいたかと思うと、ふたりの姿を一瞬にして別の空間へと放り出してしまったのである。

カビ臭い暗闇の中から一転、乾いた眩しい世界がふたりの目の前に広がっていた。
「うそぉ・・・ここ、砂漠の中だ・・。」
少し離れたところに朽ちた遺跡らしき残骸が見える。
石の文様が似ていることから、どうやらあの奥底に先ほどまでウーナ達は居たらしい。
「ねえ、ここって、やっぱり・・・。」
その先は口には出さなかったけれど、ふたりはここがヴェルトルーナでもなく、エル・フィルディンでもないことに気が付いていた。
残る世界は、ティラスイール。
どうしてそこに飛ばされたのかは、前回の時と同様にわからないが、来てしまったという事実は事実として認めるしかなさそうである。
幸いにして、ティラスイールにもふたりの知り人はいる。
「この世界のどこかにミッシェルさんがいるはずよね、たぶん。」
ふたりは、先ほどから話題にしていた頼りになる魔法使いの名前を口にした。
ミッシェルは、プラネトス2世号に頼らずとも自らの魔法の力だけでガガープを越えることのできる魔法使いだった。
ミッシェルなら、アイーダとウーナがヴェルトルーナに帰れる手立てを何か考えてくれるだろう。
最悪でも、ふたりがディラスイールにいることくらいは伝えてもらえるはずだ。
ただ問題は、右も左もわからないこの世界のどこにミッシェルが居るかわからないということである。
ふたりが知ってるのはミッシェルがティラスイールと呼ばれるこの世界出身の魔法使いということだけなのだ。
「確か・・・シャリネだっけ?魔女の・・・異界の人たちの作った祠を整備するとか言ってなかったかなあ。」
「あ、それ、あたしも聞いたわ。魔女の鏡があるところが何カ所かあるって言ってたよね。」
あてのない旅になんとなく光が見えてきた。
「でも、シャリネって、どこ?」
異口同音の言葉に、ふたりは顔を見合わせ笑い出した。

どこかへ行くにしても、右も左もわからない砂漠の真ん中ではどうしようもない。
「まずは、人のいる町へ行ってそれからだね。」
「うん。」
「その前に、この不幸の鎧、どうする?」
アイーダは指先で注意深く問題のリープアーマーを摘んだ。
「さっきのところからここまでテレポートしたくらいだから、うまく祈ったら、人のいる町まで飛ばしてくれないかなぁ。」
冗談とも本気とも取れるウーナの呟きに、アイーダは一瞬呆れかけた。
しかし、成功すれば、これほど都合の良い話もない。
正直なところ、水も食料もないこの状態で、見知らぬ砂漠を歩くのはかなり不安が付きまとう。
「もう一度だけ、試してみる?」
駄目でもともと、けれども試してみるだけの価値はありそうだとふたりは意見の一致を見た。
どちらからともなく、まず手を繋いで、それから恐る恐るリープアーマーの端に手を当てた。
(人のいる町へ!)
(魔法使いさんのいる町へ!)
気まぐれにしか発動しないというリープアーマーのテレポートだが、この時ばかりはガガープの果てから迷い込んできた少女達に同情したのであろうか、ふたりの祈りに応えるかのように力を発揮した。
リープアーマーは鈍い輝きを一瞬だけ閃かせ、アイーダとウーナを共に人の住む、そして魔法使いのいる場所へと導いたのであった。
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