デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(11)
リープアーマーはこの上なく気まぐれにその力を発動させる。
だが、その魔力の及ぶ範囲には限界があるらしく、アイーダとウーナは魔力の適用範囲を外れたところでいきなり通常空域に投げ出された。
問題はふたりが現れた場所が通常の大地に面していなかったということである。
気まぐれな鎧の仕業にふさわしく、ふたりは砂漠に面した宙に浮いていた。
「えええ!浮いてるよぉ。」
「うっそー!」
「ど、どうなってるの?」
「わかんないよぅ。」
なにしろ真下に砂漠が見えるのだ。
目の前の景色に一瞬パニックに陥りかけたが、足が堅い物に触れていることに気が付つくと不思議と心は落ち着いてきた。
「アイーダ、足、着いてない?」
「・・・そう言えば、なんか・・・。」
アイーダは無意識に足を動かしてその感触を確かめていたが、何かの弾みで差し出した足が滑るのを感じた。
「え、え・・きゃあっ!」
適当に足を動かしていた弾みも手伝って、そのまま眼下の砂漠へ落っこちてしまったのである。
どさどさっとひどく重い物が落ちた音が響き、ウーナは反射的に見えない何かにしがみついた。
「アイーダ、だいじょう・・・きゃあっ!!」
アイーダの無事を確認しようとウーナは恐る恐る顔を下に向けたとたん、そのまま凍り付いたように悲鳴を上げた。
「え?なに、なに?」
落ちたところが砂だったおかげで事なきを得たアイーダにしてみれば、ウーナの悲鳴こそ予想外のものであった。
だが、その原因はすぐに判明した。
いきなり頭上に巨大な鳥(ピエロクロウ)が出現したのである。
「ちょっとぉ、こんなのアリ!?カプリ!!」
けれどもアイーダがどんなに巧みにカプリを操ったとしても戦える態勢にもってくるまでには多少なりとも時間を必要とする。
しかし、目前に迫り来る魔獣の攻撃は待ったなしだ。
「くるっ!」
鋭い風の呻りにアイーダは身を切られるのを覚悟した。

「ファイヤー!!」
何処となく声がしたかと思うと、次の瞬間、魔獣は炎に包まれていた。
「な、なんなの?」
驚きの冷めやらぬ間に、その魔獣は黒こげになってアイーダの足下に落っこちた。
「あー!!あそこ!」
透明な橋の上にいたウーナは、少し先の小高い砂山の影に人の姿を確認した。
同時にその人物が放った魔法が魔獣を倒したことにも気が付いた。
「ウーナ、どうしたの?」
「アイーダ、そのままカプリで攻撃して。あそこで誰か魔獣に襲われてる!さっきの魔法はその人が放った広域魔法よ。」
「オッケー!カプリ、行け!!」
遠くからでも正確なカプリ改の大砲が、砂山の向こうにいる魔獣めがけて放たれた。
「ここからなら、たぶん届くわね。」
高低差を利用して、ウーナも攻撃態勢を取った。
注意深く足下を確認すると、ぐっと力を込めてバランスを保ち、得意の弓矢を構えて狙いを定めた。
「当たれ!」
ウーナの放った矢は大きく弧を描いて砂山を越えてきた魔獣に命中した。
「ファイヤー!」
弱った魔獣を再び炎が包み、それが収まった時、魔獣は彼らの前から消えていた。

アイーダがカプリを収め、ウーナが思い切って透明な橋から飛び降りたところへ旅姿の少年が駆け寄ってきた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。」
年の頃はアイーダ達とさほど変わらないと思われるその少年は、ふたりの前に来ると丁寧に頭を下げて礼を言ったのである。
「ううん。こっちこそ助けてくれてありがとう。」
「いえ。」
同じように礼を言ったウーナを彼はいささか当惑したように見た。
「あのぅ、何か?」
「いえ。」
慌てて一歩引いた少年に今度はウーナの方がとまどった。
「あのね、わたし達、たまたまここに出て来ただけで、別に怪しい者じゃないから。」
「いえ、そういう訳では・・・。」
どこかたじろいだような少年にアイーダは少なからず苛立ちを覚えた。
「だったら、そんな風に畏まらないでよ。」
「す、すみません。」
「だから、そんな風に・・・もーう、あたしはアイーダ。で、こっちがウーナ。見てのとおりの迷子の旅人よ。」
「え?」
勢いで名乗ったアイーダに彼は益々当惑したように畏まっている。
「だから、そんなに畏まらないでってば。」
アイーダの反応は、彼女としてはごく普通のものであったが、彼にとってはどうやら違っていたらしい。
「・・・あなた方、私が恐くないんですか?」
おずおずと尋ねた少年に、それこそアイーダとウーナは理解できないと顔を見合わせた。
次に出るのは当然「何故?」という疑問である。
「なんで、あなたを怖がらなくちゃいけないのよ。」
「ですから、その、私は・・・魔法を使いますから。」
「それがどうかしたの?」
きょとんとした表情を浮かべている少女達に、彼は心底面食らった様子である。
「魔法を使ったくらいで何であなたを怖がらなくちゃいけないの。そんなこと言ってたら、わたし達、友達の半分以上を失っちゃう。」
ウーナの何気ない言葉は、彼には晴天の霹靂というべきものであった。
「魔法使いが恐くないって、あなた方はいったい・・・。」
絶句してしまった少年にアイーダとウーナはそれこそ理解不能と首を傾げるばかりであった。

アイーダとウーナが魔法を使う人に対して何の偏見も持っていないらしいことがわかると、少年はぽつりぽつりと自分の事を話し始めた。
それによると、彼の名前はモリスンと言い、家の教育方針とやらでティラスイール中の主だった町を旅している際中であるということだった。
今はギドネルでも一番古いと言われるバラカの町からの帰り道で、あと一息で関所に到着するというところで魔獣に遭遇し、アイーダとウーナに出逢ったと言うわけである。
「家の教育方針?」
旅のきっかけを聞いて目をまん丸くしたアイーダに、ウーナはくすくす笑って囁いた。
「モリスンは、いわゆる名家の出身で、かなり格式のある家柄ってことよ。」
「いえ、別にそういう訳では・・・。」
耳敏くウーナの言葉に反論したモリスンであるが、ウーナはやはり笑顔で切り返した。
「謙遜してもわかります。だって、モリスンは言葉使いからして、違うもの。」
「言葉遣い?」
「普通、わたし達と同じくらいの男の子だったら、自分のことを『僕』とか『オレ』とか言います。でもモリスンは、とっても自然に『私』って言うもの。」
「ウーナ、すごーい。それ、マックさんの受け売り?」
「そうかもしれない。」
マクベインは、旅先に置いて他人を監察する目を養うことを身につけさせていた。
それに従って、その人と為りを知るには、まず外見、そして物腰や言葉遣いから総合的に判断していくというわけだ。
「私はまだまだ修行不足ですね。」
モリスンは降参だと頭をかいた。
「で、あなた方はどちらへいかれるんですか?」
ひとしきりの話が終わったところで今度はモリスンがふたりに尋ねた。
とたんにアイーダとウーナは困ったように沈黙した。
ふたりがリープアーマーに祈ったことはどうやら実現したのだが、それは思い描いていた方向とは少しばかり違ったものであった。
「関所が近いってことは人がいるところには違いないし、モリスンは魔法使いだし・・・。」
「一応、叶ったことになってはいるのよね。」
どちらともなく盛大な溜め息を吐いて、道の脇にあるミロポストに目を向けた。
「モリスンが来た方向は砂漠なんでしょ?だったら、こっちはどこに行くの?」
「フェンテですが。」
「その先は?」
「アンビッシュです。」
知らないんですかと驚くモリスンにウーナは正直に頷いた。
「あのね、信じられないかもしれないけど、わたし達、砂漠の中の遺跡で不思議な鎧をみつけて、その鎧がわたし達をここに放り出しちゃったの。」
「鎧、ですか?」
モリスンはアイーダとウーナを交互に見返したが、ふたりはどちらもそれらしい鎧を身につけていなければ、持っている様子もない。
「放り出された時に、鎧もどこかへ行っちゃったみたいなのよね。だからそれを証明することはできないのよ。」
「なるほど。」
あっさり頷いたモリスンにふたりは少しばかり拍子抜けしてしまった。
モリスンはというと、お互い様でしょうと笑っている。
「ここでは魔法を使おうものならそれだけで奇異の目で見られます。でも、あなた方は違った。かといってあなた方は魔法を使うようにも見えません。その不思議な鎧に連れてこられたと言う方が、よっぽどか信憑性があります。」
「そういうもんなのかなぁ。」
「でも、それらを抜きにしても、おふたりは私の命の恩人ですから。」
「それこそお互い様でしょ。あたし達もモリスンの魔法のおかげで助かったんだし。」
アイーダの言葉にウーナも同意し、この話はこれまでと一応の区切りを付けた。

次なる話題は当然これからの行き先についてのことになる。
「それで、これからどちらへ行かれるのですか?」
モリスンの質問にアイーダはウーナにちらりと目線を走らせた。
「あのね、モリスンは魔女の鏡って知ってる?」
少しの間が開いたのち、思い切って尋ねたウーナにモリスンは何やら思案していたが、その表情にはどうやら心当たりがあるらしい様子が見て取れる。
「お願い。知ってたら、どこにあるのか教えて!」
「とても不便なところにあって、普通の旅人が行くような所とは・・・。」
「そんなこと構わないわ。わたし達、どうしてもそこに行かなきゃいけないの。」
「でも、魔女の鏡はティラスイール中のあちこちにあると言われていますし。」
「それは知ってる。だから、取りあえずモリスンが知ってるところを教えて欲しいの。そこでダメなら、また別のところに行くから。」
具体的な理由は一切抜きのままに会話が進んできたが、アイーダとウーナが本気で魔女の鏡のある場所へ行きたがっていることはモリスンにもわかった。
魔法こそ使えないが、このふたりの少女はもしかしたら魔女なのかもしれない。
そんな疑念がふと脳裏を掠めたが、それはそれでまた面白いとモリスンは思った。
モリスンとて魔法を使う者の常として、伝説の魔女達には少なからず興味を持っていたのだ。
「実は、私も一度魔女の鏡を見てみたいと思っていたんです。あなた方さえよければ、一緒に連れて行ってくれませんか。」
「モリスン!」
意外とも言える返事にアイーダとウーナは驚いたものの、すぐに嬉しそうに頷いた。
「魔女の鏡の場所を知ってるのはモリスンだもの。こちらこそ、お願いします。」
年頃の近い者同士、堅いことは抜きで話はまとまり、さっそくにモリスンは道程を説明し始めた。
「この先がフェンテ国ということはお話しましたよね。私が知っている魔女の鏡はその更に先にあるアンビッシュ国にあるんです。」
「アンビッシュ・・・。え、でもそんなに遠くまで行くのだったらモリスンに悪いよぅ。」
「私はアンビッシュのボルトに向かって船でテュエールに渡るつもりだったんです。魔女の鏡のある場所は、その通り道にあたりますから、少しも面倒なことにはなりません。」
「え、そうなの?」
「はい。むしろ道中に連れができて嬉しいくらいです。途中の山道は結構険しいですから、仲間がいる方が気が紛れていいです。」
険しい山道と聞いて、一瞬だけアイーダとウーナはたじろいだ。
「曲がりなりにも『大蛇の背骨』とよばれる山脈を通りますからね。」
大蛇の背骨と聞くと、ウーナは思わず身を乗り出した。
ヴェルトルーナにも同じように険しい山脈があった。
その山脈の頂上にシュルフの里はあったのだ。
けれどもモリスンにそこまで話したものか、まだ躊躇うものがある。
道中けっこう長そうだし、必要があればその間に話してもいいと思い、ウーナは話題を変えた。

「ボルトから船でテュエールってことは、両方とも港町なのかなぁ。」
「ええ。どちらも漁師で賑わっているいい町です。」
「そこからはどうするの?」
「とりあえずはそこで終わりです。」
「じゃあ、モリスンはテュエールが故郷なんだ。」
「残念ながら違います。」
「でも、今、テュエールが目的地みたいなこと言ったけど。」
「会えるかどうかはわからないですが、会ってみたい方がいるんです。」
ふとモリスンの表情が改まった。
「え、誰?」
「内緒です。」
モリスンは少しばかり悪戯っぽい瞳になっていた。
「私より遙かに素晴らしい魔法の使い手でいらっしゃいます。」
「・・・えー、誰だろ。」
とっさのことで間が開いてしまったが、アイーダとウーナの脳裏に浮かんだのは、ミッシェルだった。
けれども、そんなに物事が自分たちに都合の良いようにばかり運ぶはずもないと、否定したのだ。
「それでは、そろそろ参りましょうか?」
「はーい。」
「モリスン、これからよろしくね。」
ミッシェルとは違うけれど、気の合う魔法使いを仲間に加えてアイーダとウーナはアンビッシュにあるという魔女の鏡を目指して歩き始めた。
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