デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(15)
フォルトとウーナがロゼット工房に戻ってくると、マクベインは早速にエキュルでの公演準備に取りかかった。
久しぶりの合奏だが、さすがはプロというべきか、3人の音は見事なハーモニーをかもし出していた。
だが、マクベインはその中に、それまでとは違った音の響きを感じていた。
何があったのかは知らないが、フォルトとウーナの音にこれまでにない豊かな情感を感じるのだ。
そして、ひととおり練習が済んだあと、フォルトはマクベインに相談を持ちかけてきたのである。
「あのさ、じいちゃん。」
「なんだ?」
「一座で演奏する曲のことなんだけど。」
「なんか良い曲でもみつかったか?」
「みつかったというか、その、思い付いたんだけど。」
もじもじとフォルトは伺うような目でマクベインを見上げている。
「なんだ、はっきり言ってみろ。」
正面切って言われると言いにくいものだとフォルトは一瞬怯みかけたが、ここで引っ込んでしまっては、またこれまでと同じことになってしまうと思い直した。
「じいちゃんに、聞いて欲しい曲があるんだ。」
「ワシにか?」
「う・・・ん。」
ふたりの視線が同時にウーナの方を見やり、フォルトは覚悟を決めた。
「キタラとピッコロの二重唱なんだけど。」
「ほお?」
先を続けるよう促され、フォルトはウーナを呼んで尋ねた。
「ウーナ、あの時の曲、もう一度吹ける?」
フォルトの横に並んだウーナは、少しだけ首を傾げた。
「わかんないけど、フォルちゃんは、弾けるの?」
反対に尋ねられ、フォルトは少しばかり考えていたが、やがてゆっくり答えた。
「・・・ウーナと一緒なら、たぶん、弾けると思うよ。」
「だったら、わたしも吹けると思うわ。」
ウーナはにっこり笑うとピッコロを取り出して構えた。
マクベインはふたりの様子をじっと見つめたままだ。
フォルトはウーナに目で合図を送ると、一呼吸おいて静かにキタラを弾き始めた。
風の中で弾いたメロディが、フォルトのキタラによって再現されていくと、それを追ってウーナのピッコロが音を重ねていった。
ピッコロの高い音が先行するとキタラが追うように和音で支え、キタラの技巧が際だつところではピッコロが音と音との間をくぐるように響きを添えた。
これまで演奏してきたレオーネの曲に比べれば、曲としては遙かに未熟であったが、そこにはふたりだからこそ表現できる感情が込められている。
マクベインは瞼を閉じたままふたりの演奏を聴いていた。

演奏が終わるとマクベインは自分の感想を言う前に、まずはフォルトの意見を求めた。
「で、おまえはどう思っとるんじゃ?」
「え・・・。その、まだ、未完の曲で、いいとか悪いとかいうより、もうちょっと頑張らなきゃいけないかな。」
戸惑いながら答えたフォルトの次に、今度はウーナに目を移し感想を促した。
「わたしも、その、まだ一座で演奏するには無理かなって。」
マクベインはふたりの返事を聞いて少しばかり苦笑いしている。
「ま、お互いわかっとるようじゃな。なら、そういうことじゃ。せいぜい練習することだ。おまえ達がいいと思ったときに、また聞かせて貰おう。一座で演奏するかどうかの判断はその時させて貰う。いいな、フォルト。」
最後の一言は、孫に対して発破をかけたつもりだが、果たして通じたかどうか怪しいものだ。
だが、とマクベインは密かに心の中で付け加えた。
(バラードなら、もう少しキタラ主体でなくてはいかんぞ。あれではピッコロに追従したままじゃ。)
だが、当面はそれでもいいとマクベインは思っている。
ひとつの曲として完成させていく過程で、たぶんフォルトは気が付くはずだ。
旅先で知り合った音楽家達から指摘されたことだが、演奏一点張りのマクベインと違って、フォルトにはどうやら作曲する才能も備わっているらしい。
どんな曲になるかはふたり次第だが、今しばらくはふたりが練習するに任せておこうとマクベインは傍観者を決め込んだ。
「どれ、ロゼットの様子でも見てくるか。」
マクベインは腰を上げたが、ウーナとフォルトは俄然やる気になっているらしく、そのために為すべき事を早々と行動に移しつつあった。
「フォルちゃん、今のうちにさっきの曲を楽譜にしておかない?」
「あ、そうだね。その方が練習するにしても便利だよね。」
ウーナの提案にフォルトは同意し、真新しい五線紙を取り出した。
それぞれの楽器で音を辿りながら譜面作りを始めたフォルトとウーナをマクベインは微笑ましく思いながら立ち去ったのであった。


おわり
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