デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(2)
揺らぎの空間から抜け出た時、ふたりは、ぼんやりとした光の輪の中にいた。
完全に意識が戻った時、ストンと降り立ったような感触が足から伝わってきた。
「着いたの?」
予想もしなかったほの暗い空間に、アイーダは目をしばたいた。
対してウーナは衝撃冷めやらぬ様子で呆然としている。
ウーナの記憶にあるシュルフの里の入り口は、屋外の遺跡の中にあったが、ここは薄暗い石作りの室内である。
それもかなり古くて大きな建物の中のようであった。
明らかに以前訪れたシュルフの里の入り口とは違う。
「ここは、どこ?」
漏れ出た言葉に、アイーダも驚いた。
「シュルフの里の入り口、じゃないの?」
「違うような気がする・・・。前はこんなところに出なかったよぅ。」
「他の入り口に出たとか。」
「そ、そうかな?」
取りあえず出口らしきものを探してふたりは部屋の中を見回した。
「あっちに階段がある。行ってみよう。」
まっすぐに続く長い階段以外、出口がなさそうなのを見て、アイーダとウーナはゆっくりその階段を下り始めた。
「こんなところ、シュルフにあったかなぁ・・・。」
歩いているうちに、ぼんやりした室内の様子が次第にはっきりしはじめたが、記憶にないものばかりでいっそう不安な気持ちになってくる。
長い階段を降りて、その先の通路らしきところに出た時、ふたりは第3者の足音を聞きつけた。
「誰か、くる?」
音により敏感なウーナの耳が、その足音のする方向をいち早く捉えた。
「アイーダ、こっち。扉がある。」
ぐいっとアイーダの腕を引っ張ると、そのまま次の部屋へ滑り込むようにして移動した。
出た先もまた部屋であったが、その先にはまた別な扉があって、半開きのその扉の先には廊下らしきものが見えていた。
しかし、同時に人の気配もはっきりと近付いてきたのがわかった。
「だれだ!」
「お、怒られる!?」
その瞬間、アイーダとウーナはどちらからともなくその廊下を目指して走り出していた。
「待ちなさい!」
鋭い声がふたりの背に投げかけられたようだが、振り返ることなくそのまま脱兎のごとく廊下を走り抜けた。
「こ、こっちよ!」
方向も何もわからないまま、とにかくふたりはいくつかの部屋を通り抜け、気が付いた時には外に出ていた。

あとから思えば、その時逃げる必要などなかったと思うのだが、とっさに呼びとめられたときの行動は、得てして不確かなものになりやすい。
そのまま走り続けたアイーダとウーナは、人通りが落ち着いた水路のほとりで、ようやく人心地を得た。
「ここまで来たら大丈夫かな。」
「みたいだけど・・・、逃げずに聞いてみた方がよかったかも。」
言われてみて、初めて気が付くこともある。
しかし、今更引き返そうにも、どうやってここまで来たのかすら今のふたりには定かでない以上、どうしようもないことであった。
「どこだろ・・・わりと大きな町みたいだけど。」
もはやここがシュルフの里ではないということは、ふたりの共通の認識とするところである。
次に芽生えてきたのは、ここがどこであるかという疑問であった。
巨大な門をくぐったことは覚えているし、ここが比較的大きな町らしいことはわかるのだが、どこだと場所を特定することまではできなかった。
「大抵の町には行ったと思うけど、ここは記憶にないよぅ・・・。」
これだけ大きな町なら公演をせずに通り過ぎるはずもないと、ウーナは不安そうに町並みを見上げた。
町並みの北側に見える大きな建物がおそらくこの町の中心になるのだろう。
しかし、どんなに記憶を探っても、ウーナはその建物に見覚えがなかった。
「いったいここはどこなんだろう。」
「あたし、ちょっと聞いてくる!」
考えていても始まらないと、先に行動を起こしたのはアイーダである。
「え、アイーダ、ちょっと待ってよぅ。」
ウーナが引き留める間もなく、アイーダは往来を行く人影目指して走り出していた。

人見知りのしない性格というのは、こういうとき、ある意味頼もしい存在である。
元が人好きということもあるのだろうが、アイーダは、臆することなく往来の人をつかまえて話しかけた。
とはいえ、いきなり「ここは、どこ?」とは聞かず、そのあたりで目立っている建物について尋ねてみるあたりは、流石に機転が利くアイーダらしい心配りであった。
「ウーナ、ウーナ。」
瞬く間にアイーダは、道行く人々から情報を仕入れて戻ってきた。
「ここは聖都ヴァルクドっていって、あの建物は教会なんだって。」
興奮しているアイーダとは対照的に、ウーナはますます困惑してきた。
聖都というからには、どこかの国の都ということになるのだろうが、ウーナの記憶にヴァルクドなる名前を頂く国はなかった。
何より、教会とはいったい何なのか?
それこそわからないことばかりが増えてくるのだ。
「でね、でね、この先。」
アイーダは南の方へと続く道へとウーナを引っ張りだして言った。
「ブリザックなんだって!!」
興奮さめやらぬアイーダにウーナは混乱するばかりであった。
「ぶり・・ざっく?」
「そう、ブリザック!」
どうやらアイーダはそれがどこか知っているような口振りであるが、ウーナにはさっぱりわからないのである。
「だから、トーマスのいる港町なの!」
「は?」
アイーダの言っていることの意味がウーナには掴みかねた。
(トーマスのいる港町って・・・トーマス?)
彼女たちに共通しているトーマスとは、キャプテン・トーマス以外にはいないわけだから、そうなると導き出される答えは自ずと決まってくる。
「それって、それって・・・。」
判ってはいても、最後まで口にするのが恐かった。
「そうなのよ、どうしてかわかんないけど、あたし達、トーマスの世界に来ちゃったみたいなの。」
あっけらかんと答えたアイーダに、ウーナはただ呆然と立ち尽くすだけだった。

「ウーナ、ね、ウーナったら。大丈夫?」
「う、うん。」
「そうと決まったら、早く行こうよ。」
「行くって、どこへ?」
「ブリザック。」
当然でしょうとアイーダは元気よく言った。
「ほ、本気?」
「だって、ここに居てもどうしようもないし。トーマスに会えば、少なくとも何かわかるかも。」
アイーダの言うことはもっともである。
この世界でのふたりの知り人といえば、あの時の「仲間」以外にはいないのだ。
アヴィンとマイルもこの世界の住人だが、どこにいるのかわからないのでは、尋ねようもない。
「そうだね。行ってみようか、ブリザックへ。」
世界は異なれど、旅することにそう違いはないはずだ。
道中、魔獣が襲ってくるかもしれないが、それはヴェルトルーナを旅するときでも同様である。
「もしも襲ってきたら、あたしのカプリでやっつけちゃう。」
「わたしだって、多少は弓で追い払えると思う。」
ふたりはどちらからともなく微笑んだ。
「それじゃあ。」
「ブリザックへ向かって、しゅっぱぁーつ!!」
アイーダとウーナは、一路ブリザック目指してヴァルクドを後にした。
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