デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(3)
アイーダとウーナが街道を歩き始めていくらも進まないうちに、お約束の魔獣が現れた。
「えいっ!」
ウーナの弓が先制を期して魔獣へ放たれ、間を置かずして、アイーダがポシェットから「カプリ改」を引き出し命令を与える。
「パペット、行け!」
ふたりの息の合った攻撃で魔獣はあっという間に撃退されてしまった。
「これなら、なんとかなりそうね。」
「うん。問題は、アイテムの補充なんだけど。」
ふたりとも遠距離攻撃がメインなので、HPの減少率は低いものの、その分特技を連発するので、MPの消耗が激しい。
マルチャから草原結界を越えるわずかの旅のつもりだったから、MP補給のアイテムは最小限しか持っていなかった。
魔獣との遭遇率を考えると、ブリザックまでに使い果たしてしまう可能性が大である。
「大丈夫なんじゃない?もうちょっとしたら、レベルアップするし。」
「あ、そうか。そうよね。」
どちらからともなく納得すると、そのままふたりは旅を再開した。

その問題が発生したのは、半分くらい行程を終えた時だった。
「最後の一匹!」
ドカーンと一発、カプリ改の大砲が魔獣にトドメを刺した。
戦闘終了後、アイーダとウーナのレベルは上がったが、肝心のHPとMPは減ったままなのである。
「ちょっとぉ、レベルが上がったのに、どうしてHPとMPが回復しないのよ。」
なぜか、アイーダの視線が画面の向こう側を睨み付けた。
(謎の声:それは、ここが『朱紅の雫』の世界だからです。)
「そんなの横暴!あたし達は、『海の檻歌』のキャラクターなのよ。場所がどこであろうとゲームシステムは元のゲームに準じてしかるべきだわ!」
(謎の声:そんなこと言われましても、ここは別の世界であるからにして・・・。)
「別世界ったって、同じガガープの世界でしょーが!勝手に連れてきた責任をどう取ってくれるのよ。」
ウーナが弓を番え、アイーダの手がポシェットに伸びる。
(謎の声:わ、わかりました。おふたりに限っては、特例として「海の檻歌」のゲームシステムに戻させていただきます。)
その瞬間、アイーダとウーナのHPとMPが全回復した。
「うん、元気いっぱいね。さあ、あと一息、レッツ・ゴー!」
再びアイーダとウーナはブリザック目指して元気よく歩き出した。

戦闘のパターンにも慣れ、ウーナとアイーダに余裕が生まれ始めた時、最悪の状況は発生した。
その魔獣は1匹だけだったが、あたかもふたりを待ち構えていたかのように出現した。
ウーナとアイーダはパターンどおりの戦闘を開始したが・・・。
「うそ・・・。」
「ちゃんと当たってるのに・・・。」
また一発、カプリ改の大砲が命中したが、魔獣はノーダメージでピンピンしているのだ。
魔獣の中には、物理的攻撃ではダメージを与えられない類のものがいる。
どうやらふたりが遭遇したこの魔獣は、それに該当するようであった。
「こういうときは。」
アイーダはすばやくカプリ改をポシェットに引き上げると、ウーナ共々くるりと向きを変えた。
「戦略的撤退よ!」
やむなくふたりは元来た道を引き返したのである。

幸いにして、あの魔獣はテリトリー外の敵に対しては攻撃を掛けてこないタイプだったらしく、ある程度距離を離したところで追いかけて来なくなった。
「助かった〜。」
どちらからともなく安堵の声が漏れたが、ブリザックへの道は1本道。
ここを通り抜けないことには先へ進めないのである。
「取りあえず、魔獣は一匹だけよね。」
ウーナは何事か考えていたが、やがてアイーダに一つの提案を行った。
「え〜!?」
聞いた瞬間、アイーダは思わず抗議めいた声を漏らした。
「やっぱり、ダメかなぁ?」
「うーん・・・。」
ウーナの提案にアイーダは思わず唸ってしまった。
ブリザックへと続く道は、目の前にある一本道だけで、他に道は見あたらない。
じっと様子を伺うウーナにアイーダは、ポシェットを握りしめて俯いていたが、やがて覚悟を決めたかのように顔を上げた。
「いいよ、やってみよう。他に道はなさそうだもん。」
「ごめんね、アイーダ。」
謝るウーナに、アイーダは首を振った。
「ブリザックへ行こうって言ったのはあたしだもん。こんなとこで引き返すのは嫌だもんね。そのかわり、絶対に行こうね。」
ウーナとアイーダは決意も新たに再び魔獣へと向かっていった。

「あ、気が付いた!」
「OK、もう少し近寄ったらカプリを出すわ。いい?」
ウーナは無言で頷くと、ダッシュするべく呼吸を整えている。
「今よ、パペット、行け!!」
カプリ改が道の左端ぎりぎりへ勢いよく飛び出した。
予想に違わず、魔獣がカプリ改を目指して移動を開始する。
ウーナは距離を測りつつ、魔獣が詠唱を始めたのを見極めると一気に走り出した。
少し遅れてアイーダがそれに続く。
相手が攻撃できない状態を作り出して、その間に走り抜けるというのがウーナの作戦だった。
よしんば、魔法攻撃を掛けてきたとしても、その対象がカプリ改に向いていれば、取りあえず抜けることは可能なはずだと考えたからである。
カプリ改の受ける衝撃がアイーダにも連動していることは知っていたが、それでも生身のふたりが受けるよりは少ないはずだから・・・。
「来るっ!!」
ストーン・ブラストがカプリ改めがけて落ちてくるのをウーナは見た。
「きゃあっ。」
「アイーダ!」
「大丈夫、そのまま走って!」
叫びながらもアイーダ自身、足を止めようとはしていない。
「次でカプリを取り込むわ。」
ウーナは心の中で謝りながら、その道を駆け抜けた。
一足遅れのアイーダは、振り返った時、第二撃がカプリ改へ放たれようとしているのを見た。
ここでカプリ改を引き上げるべきか否か?
引き戻すには自身が一旦立ち止まらねばならない。
「ごめんね、カプリ。」
アイーダは衝撃を受けるとしても、取りあえずはこの場を走り抜ける方を選んだ。

「ソニックスクリーム!」
「え!?」
第二波を覚悟した、まさにその瞬間、凛とした声が響き、疾風が走った。
風の呻る衝撃を感じた時、ウーナは不思議な生き物が後方に出現したことを知った。
だが、その姿を見極める間もなく、魔獣は消滅し、その生き物も姿を消した。
「・・・助かった?」
「パペット、戻れ!」
息せき切ったアイーダがウーナに追いつき、カプリ改をポシェットに収納すると、緊張の糸が切れたようにその場に座り込んだ。
ウーナも座り込みこそしなかったが、しばらくは動けそうにないくらい足が震えていた。

「ふたりとも、ケガはない?」
半ば放心状態になりかけていたウーナとアイーダを現実に引き戻したのは、第3者の声であった。
「・・・お姉さん、人間、よね?」
研ぎ澄まされた気配を持つ美貌の女性を目の当たりにして、ウーナは思わず見とれていた。
「もちろんよ。あなた達もでしょう?」
さも可笑しそうな声に、ウーナとアイーダはそれぞれ頷いた。
「それにしても、あなた達、よくここまで無事に来れたわね。」
美貌の剣士ルキアスの声は驚くよりも呆れた感に近かったが、それ以上にふたりの強運に僥倖を感じていた。
ある意味、年端のいかない女の子がたったふたりでよくぞここまで来たものだと感嘆していたのである。
けれども、ここから先のこととなると話は別だ。
「悪いことは言わないから、ヴァルクドへ引き返しなさい。」
ルキアスの忠告にアイーダとウーナは困ったように顔を見合わせた。
曖昧な様子のふたりに、ルキアスは、はっきりと警告した。
「みたところ、あなた達はどちらも魔法が使えないみたいだし。ここから先は魔法が使えないと魔獣の餌食になるだけよ。」
ルキアスは、事実を端的に述べたつもりだが、だからといって少女達は引き返すつもりはないらしい。
「だって、トーマスはブリザックに居るんだもの。」
むしろ、抗議めいた声でアイーダが呟いた。
「トーマスって、まさか、キャプテン・トーマスのこと?」
耳敏く気が付いたルキアスにアイーダはコクンと頷いた。
ルキアスは冒険者という仕事柄、旅の途中で、伝説の英雄に憧れる女性達を大勢見てきている。
特定の時季になると彼宛の手紙と供に小荷物が増えることも知っている。
けれども、生半可な憧れだけでは旅ができないことは、経験から知っていた。

一見、勢いだけで旅しているように見えるが、少女達の戦闘法はそれなりの理に適ったものである。
擦り傷だらけで疲労も相当溜まっているだろうに、二人の瞳には目的を持つ輝きがあった。
何より、ここまでふたりだけで旅してきた実績が、単に「運が良い」というだけでは片づけられない強味を持っている。
「とは言っても、ここから引き返すにも魔獣は出るし。ブリザックまでは、あともうひと丘越えるだけだものね。」
魔獣の属性を抜きに考えれば、むしろ引き返す方こそが大変なのだ。
「街道に横行してる魔獣は一匹だけとは限らないから、こっちも複数いる方が有利なのは確かだし。それに。」
ルキアスはふっと茶目っ気のある微笑みをアイーダとウーナに返した。
「一人旅もいいけど、たまには女同士で話しながらの旅も悪くないわ。」
「お姉さん・・・。」
「ルキアスよ。」
「え?」
「私はルキアスって言うの。」
吸い込まれそうなほどに美しく青い瞳がアイーダとウーナに笑いかけた。
「わたしはウーナです。」
「あたし、アイーダ。で、こっちがカプリ。」
シュタッと巨大な人形がルキアスの隣に飛び出した。
「遠目で見たときよりずっと大きいわね。」
「えへへ。大きいだけじゃなくて攻撃力も強いんだよ。魔法は使えないけど。」
魔法攻撃は使えないが、攻撃力はピカイチで、囮としても使えるヤツ?
どこかの誰かを思い起こすような人形に、思わずルキアスの顔がほころんだ。
それにもうひとつ、どうやらこのふたりの少女の旅は恋を追いかけてのものらしいとの直感がなおさら親近感をルキアスにもたらしていた。
「疲れているでしょうけど、ブリザックまでは本当にあと少しだから、このまま一気に行きましょうか。」
「はい!」
生き生きとした輝きを持つウーナとアイーダを微笑ましく思いながら、ルキアスは先に立って歩き出した。
その後ろ姿を遙か憧れる様に見つめながら、ウーナとアイーダもまた歩き始めたのであった。
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