デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(4)
女同士の密やかなおしゃべりの時間はあっという間に過ぎていった。
時折、無粋な魔獣が割り込みを掛けてくるが、所詮3人の敵ではない。
「あー、もううざったいなあ・・・カプリ!」
「じゃ、こっちは引き受けるわ。出よ、精霊トール!」
「わたしは・・・応援歌でも吹こうか?」
「それ、いいかも。」
勇ましいピッコロの音にのって、リズミカルな攻撃が魔獣に向けられた。
おかげでブリザックにはそれこそピクニック気分の延長で到着したのである。
旅の終わりは別れの始まりでもあった。
それぞれの旅の目的は別物だから、ブリザックに着くと、3人は笑顔で別れを交わしたのだ。
「ルキアスさん、ありがとうございました。」
「ふたりとも元気でね。」
「はい!」
アイーダとウーナはもう一度お辞儀をすると、元気よく波止場の方へ駆けって行った。
「ホント、元気な子達。キャプテン・トーマスにうまく逢えるといいけど。」
ふたりを見送ったあと、ルキアスは依頼された手紙を届けにガヴェインの家へと足を向けた。

エル・フィルディンの三賢者のひとりであったガヴェインは、プラネトス号をトーマスに譲り最前線から引退した後も、今だその人柄を慕う船乗り達から頼りされ、ブリザックでいろいろな相談に応じていた。
「ガヴェイン様、お久しぶりです。」
「ルキアスか。久しぶりだな。」
懐かしい友人からの手紙を受け取りつつ、ガヴェインはルキアスに対しても親しい視線を向けた。
「随分楽しそうだな。道中面白いことでもあったか?」
「ナイショです。」
「それは連れないことだな。トーマスといい、まったく近頃の若い者は年寄りを仲間外れにしていかん。」
しかめ面のガヴェインに、ルキアスは何気なくキャプテン・トーマスの消息を尋ねてみた。
「キャプテン・トーマスは、また航海ですか?」
「ああ。フィルディンに寄ってから、またガガープを越えるらしい。」
「じゃあ、もうブリザックには・・・。」
「ついさっき出航したよ。」
「まあ・・・。」
ふと表情を曇らせたルキアスにガヴェインは意地悪く言った。
「おまえさんがトーマスの追っかけだったとは知らなかったな。」
「何で私が。でも、あの子達にはかわいそうなことになったわ。」
ガヴェインには軽く流したが、ルキアスは別れたばかりの少女達のことを思い出していた。
特にあのアイーダとか言っていた少女、彼女の落胆する姿を思うと胸が痛む。
短い間ではあったけれど、アイーダとウーナはルキアスにとって紛れもなく気の合う仲間であったのだ。
「お返事の方は後ほど頂きにあがります。」
訝しげなガヴェインに一礼すると、ルキアスはその足で波止場へと向かっていった。

ブリザックの波止場は威勢のいい船乗り達の活気で溢れていた。
それでも女の子の2人組というのは、なかなかに人目を引くらしく、ルキアスはさほど苦労することもなく、波止場の壁際に座り込んでいたアイーダとウーナを見つけることができた。
波止場にいる船乗り達からプラネトス2世号の出航のことを聞いたのだろうか、ふたりともどんよりとした顔で元気がなかった。
「また会ったわね。」
「あ、ルキアスさん。」
ウーナがゆっくり顔を上げ、少し淋しげに俯いた。
「ほんの少し前に出航しちゃったんだって。」
ぽつりと漏らした声は、ルキアスの危惧したとおり、生彩を欠いたものであった。
「船なんだから、いつも港にいるわけないだろうけど、でも、あんまりよね。」
キャプテン・トーマスに逢えなかったこともショックだったのだろうが、それ以上にほんの少しの差で、プラネトス2世号が出航したという事実に衝撃が大きかったようである。

「ルキアスの知り合いかね?」
少し離れたところから、ガヴェインが声をかけた。
ルキアスの様子にただならぬものを感じて後を追ってきたらしい。
「いらしてたんですか?」
振り向いたルキアスにつられてウーナもまたガヴェインに注意を向けた。
白い髭を生やした威丈夫の老人にウーナは何故か親しみを感じた。
外見はまるで違うが、彼の持つ頑固そうな雰囲気はマクベインに通じるものがあるように思ったのだ。
「おじさん、ここの人?」
遠慮のない質問に、ガヴェインは一瞬眉を上げた。
「ああ、そうだが。」
ウーナは臆する様子もなく、次の質問を口にした。
「じゃあ、どの船が一番速くフィルディンに着くか知ってたら教えていただけますか?」
ガヴェインはかつてのプラネトス号には遙か及ばないが、自分用に小型の快速艇を所有している。
それが今ブリザックに停泊している船の中で最も速い船であった。
だが、ガヴェインはすぐにそれを教える気にはならなかった。
ルキアスはアイーダとウーナにかなり肩入れしているようだが、ガヴェインにとっては全くの初対面の相手であり、キャプテン・トーマスの知り人としてのリストには含まれていなかったからだ。
伝説の英雄に憧れるだけの女性は多く、また遠慮がない。
多分にこのふたりの少女もその類の追っかけだろうとガヴェインは考えたのである。
「プラネトス2世号に追いつけるような速い船はここに限らずどこにもおらんよ。」
ガヴェインの返事はそっけなかった。
「それでも、プラネトス2世号がフィルディンに立ち寄ってる間に、もしかしたら追いつけるかもしれないもの。フィルディンに寄るってことは、それなりに時間を取ると思うから。」
ひとつが駄目なら次にどうするか、彼女たちなりに考えた末の行動なのであろう。
「あなたたち、まさかここからフィルディンに向かうつもり?」
「他にどうしようもないもん。」
それまで俯いていたアイーダが顔を上げた。
「ここで待っていたんじゃ、いつトーマスに逢えるかわかんないもん。」
呆気にとられたルキアスに、ウーナは「大丈夫です」と笑った。

「さあ、頑張って稼がなくちゃ。」
「稼ぐって・・・?」
「だって、船に乗るにはお金が必要でしょう。」
それはそのとおりなのだが、いったいどうやって稼ぐつもりなのだろうか。
第一、プラネトス2世号を追うつもりなのであれば、一刻も早く出発した方がいい。
「わかってると思うけど・・・。」
「プラネトス2世号を追うなら早い方がいいんでしょ。」
アイーダは心配そうなルキアスに皆まで言わさなかった。
「たぶん、そんなに時間は掛からないと思います。」
ウーナの言葉には不思議な自信を感じさせるものがあった。
「それに、何をするにしてもお金は必要だし。」
明るい表情でアイーダはウーナと笑みを交わしている。
「ちょうどお昼が終わった頃だし、公演するにはいいタイミングよ。アイーダ、呼び込みお願いね。」
ガヴェインとルキアスが口を挟む間もなく、アイーダとウーナは役割分担を決めると、すっくと立ち上がった。
「まかしといて!カプリも動員してめいっぱいお客さんを集めるわ。」
口調はすっかりもとの元気なアイーダに戻っている。
「それじゃ、カプリ、いっくわよ〜!!」
アイーダのポシェットから、威勢良くカプリ改が飛び出した。
それだけでも、往来の多い波止場では人目を引くに十分である。
娯楽の少ない時代のこと、旅芸人はどこでもひっぱりだこなのだ。
ましてや男性の多い波止場のこと。
かわいい女の子ふたりの芸が人気を博しても不思議はなかった。
また、それだけの技と技術をアイーダとウーナは持っている。
「さあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい!」
シャオ仕込みの威勢のいい呼び込みが人々を呼び寄せ、心のこもった演奏が人々に楽しいひとときを作り出す。
ブリザックの港町の午後は、かつてない陽気な活気に包まれた。

「あのふたり、たいしたもんだ。」
「でしょう?」
ルキアスのもの説いたそうな視線にガヴェインはわかっていると頷いた。
「本当なら、わし自身で送っていきたいところだが、ここを留守にする訳にもいかん。信頼できる船乗りに頼んでフィルディンまで送らせよう。」
「ありがとうございます。」
「で、ルキアスはどうする?」
「私はもうひとつ別な仕事を請け負ってますから、着いていくわけにはいきません。でも、あのふたりのことです。心配いらないでしょう。」
てっきり一緒にフィルディンまで行くと思っていただけに、ガヴェインは意外な素振りを見せた。
「アイーダとウーナは、アヴィン達とも知り合いらしいですよ。」
ルキアスはさりげなく、ガヴェインに一石を投じた。
そうと知っていれば、もう少し対応を考えたものをと、ガヴェインは憮然となった。
「でも、それだと、あのふたりの本当の姿をご覧になれなかったでしょう?」
「サファイア・アイは、いつからそんなに人が悪くなったんだ?」
唸っているガヴェインにルキアスは、「その名前のとおりです。」と青い瞳を陽光に弾かせて答えたのだった。
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