デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(5)
アイーダとウーナが広場で公演を終えてルキアスの元へ戻ってくると、そこにガヴェインの姿はなかった。
「お疲れさま。ガヴェイン様は今頃準備に大忙しよ。」
意味ありげな笑顔でルキアスがふたりを労った。
「準備?」
きょとんとしたアイーダとウーナを、ルキアスは「ついてらっしゃい。」と埠頭へと引っ張って行った。
「おお、思ったより早かったじゃないか。」
案内された埠頭には、一隻の小型艇がガヴェインとともにあった。
ほっそりとして華奢な船体は、駿足のカモシカを思わせるスマートさがある。
「わあ、素敵!」
思わず感嘆の声を上げたアイーダにガヴェインは嬉しそうだった。
「プラネトス2世号には及ばんが、なかなかの駿足じゃよ。」
「え?」
驚くアイーダとウーナに、ガヴェインは不器用ながらも片目を瞑って見せた。
「おじさん・・・。」
「そのかわり、お代は規定どおり支払って貰うぞ。」
茶目っ気のあるガヴェインの言葉に、ウーナは顔を輝かせて頷いた。
「もちろんです。」
互いの立場を対等なものとして尊重したからこその言葉に、ウーナは改めてフィルディンまでの船旅をガヴェインにお願いした。
「フィルディンまで、2名、お願いします。」
「ああ、任せてもらおう。船の整備が終わるまでもう半時ほど待ってくれ。」
「じゃ、船出までに必要なものを買いに行きましょう。」
「はい!」
ルキアスに誘われてアイーダとウーナはブリザックの街へ買い物に出かけた。

船旅の準備はどこでも特段変わったものではない。
時間も限られていたので、必要最小限の買い物に留めて、ガヴェインが約束した時刻までに3人は埠頭まで戻ってきた。
今度こそ本当にお別れなのだと、少しばかり寂しさを感じながら、ルキアスはアイーダとウーナに王都フィルディンの様子をできるだけ話してやっていた。
追いつけるつもりの旅ではあるが、何しろ相手はキャプテン・トーマス率いるプラネトス2世号である。
万が一を考えて、アイーダとウーナは真剣に耳を傾けていた。
しかし、余計な心配と不安を掛けてはいけないと互いがそれぞれに気を配してか、出発の挨拶は、ガヴェインに頼まれた船長が拍子抜けするほど、あっさりしたものであった。
「気をつけてね。」
「はい。ルキアスさんもお元気で。」
「ガヴェインさんも本当にありがとうございました。」
「ああ、ふたりとも達者でな。」
さっぱりした笑顔でふたりの少女は船に乗り、見送るふたりも穏やかな笑みを浮かべている。
「では、出航します。」
ガヴェインに一礼して、船長は出航の合図を乗組員に告げた。
「アイアイサー!」
きびきびした声が次々と上がり、アイーダとウーナはブリザックを離れ王都フィルディンへの船路に着いた。

ガヴェインと船長は謙遜していたが船足は快速であり、また心配りが行き届いていたこともあって王都までの船旅は極めて快適だった。
「もうじきフィルディンの港が見えますよ。」
「はーい!」
期待に胸を膨らませながら、アイーダは舳先に立ってフィルディンに入港していく船の帆影に瞳を凝らせていた。
港に近付くに連れ、様々な船が見えてくる。
しかし、その中にアイーダの求める船の影は見あたらなかった。
プラネトス2世号は、ガガープを越えるだけのことはあって、海に浮かぶ白いお城ともいえる巨船である。
白い帆をいっぱいに張っている姿は遠目からでもよく目立つし、他の似たような船があっても、アイーダには絶対に見分けられる自信があった。
ウーナにしてもあれだけ特徴のある船を忘れようはずがない。
乗組員達も、それは同じである。
ブリザックでキャプテン・トーマスとプラネトス2世号を知らない船乗りなどいないのだ。
それだけに、湾岸が見渡せるようになると、もはや結果は明らかだった。
沿岸に近付くに連れ、ひとり、またひとりと甲板から乗組員の姿が消え、舳先の見張りのひとりを除いていなくなると、アイーダとウーナは無言で船室へと引き上げた。

アイーダとウーナはブリザックで買った荷物を手早くまとめて甲板に戻ると、そのまま着岸するのを待った。
「お疲れさまです。ただいま、フィルディンに到着しました。」
さぞ言い難いであろう言葉を伝えに来た船長に、アイーダとウーナは乗った時と同じく明るい笑顔で別れの挨拶を告げた。
「船長さん、ありがとうございました。」
タラップが渡されるのを待っているふたりへ、船長は申し訳なさそうに一通の手紙を差し出した。
「実は、ガヴェイン様から、その、万が一こういうことになった場合に、おふたりへ渡すようにと手紙を預かってきたんです。」
「ガヴェインさんから?」
差し出された手紙をウーナは不思議そうに受け取った。
手紙の宛名には『ディナーケン殿』と書かれている。
「ディナーケン?」
聞いたことのない名前にウーナは首を傾げた。
「エル・フィルディンの三賢者のおひとりで、現在、王都の図書館にいらっしゃると伺っています。」
ふたりは、ルキアスからガヴェインがエル・フィルディンの三賢者のひとりであることを教えてもらっていた。
「その人を訪ねてみなさいってことなのかなぁ。」
「三賢者と呼ばれるくらいだから、きっと偉い人よね。」
フィルディンの三賢者とは、相当に高名な人物であり、いきなり訪ねていって会える類の人ではないということは、今ならふたりにも理解できる。
「これは噂ですが、王立図書館には、古の遺跡が封鎖されていて、その研究のために隠棲先のプレアウッドの館から出られたのだとか。」
古の遺跡と聞いて、アイーダとウーナは顔を見合わせた。
キャプテン・トーマスが「親父さん」と呼んでいるくらいだから、多分にガガープの果てで起こったあの事件についても、土産話のひとつくらいには聞いているはずである。
ふたりはガヴェインに全てを話した訳ではないが、それとなく察して気を配ってくれたのではないだろうか。
出発前にルキアスがいろいろとフィルディンのことを話してくれたが、この世界の人であれば当然知っていてしかるべき内容もその中には含まれていたから、ふたりが別世界から来たことは、当に気づいていたのであろう。
その上で追ってる船がプラネトス2世号である。
フィルディン切っての駿足に追いつける可能性はかなり低かった。
そして予想に違わず、プラネトス2世号は、フィルディンの港から旅立ったあとであった。
ここから先は、アイーダとウーナのふたりで何とかしなくてはならない。
「私たち、ディナーケンさんを訪ねて王立図書館へ行ってみます。」
努めて明るくウーナは言った。
「船長さん、短い間でしたが本当にお世話になりました。」
過ぎてしまったことをいつまでもくよくよしていても始まらない。
駄目でもともと、と覚悟の上で追いかけてきたのではないか。
その時どうするかまで考えていなかったのだから、道標を付けてくれたガヴェインに感謝こそすれ、増してやプラネトス2世号の出航に間に合わなかったことに対して船長に文句を言う筋合いではなかった。
アイーダとウーナは、もう一度船長と乗組員達にお礼を述べると、頭を上げてフィルディンの港へと降り立った。
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