デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(6)
「それにしても大きな街だね。」
「王都っていうくらいだもの。カヴァロに負けないくらいにいろんなものがあるんじゃないかなぁ。」
ふたりにとって、最高の文化を誇る街はカヴァロだった。
港界隈を抜けるだけでもかなりの賑わいを見せている町並みと思い出したカヴァロの町並みとを見比べるかのようにアイーダとウーナは好奇心旺盛な瞳で見渡していた。
「お店、いっぱいありそうだね。」
「うん。」
気落ちした気分を少しでも上昇させようと、互いに気を遣っての結果が、どうやらウインドーショッピングに落ち着いたらしい。
どのみち尋ねて行く先の王立図書館は、港より反対方向の街の端にあるので、王都を縦断する必要がある。
同じ歩くなら、楽しく歩いた方がいいに決まっていた。

街の中心に向かうほど、往来の人も増え、店の種類と数も増えてきた。
「ね、あそこのお店、女の人がいっぱい!」
「ホントだ。売ってるのは、アクセサリーみたいだけど。」
軒先で商品が所狭しと並んでいるその店のまわりを、若い女性がぐるっと取り囲むようにして眺めている。
「この国のアクセサリーってどんな宝石を使ってるのかな。」
いかにも女の子らしい興味に、ふたりは意見の一致を見た。
「ちょっと、失礼。」
小柄なふたりは、ちょこちょこと人垣の間を縫って、最前列に出た。
「意外!ここでも真珠が人気なんだね。」
「わあ、いろんなものがある。」
「お客さん、どうだい、ひとつ。」
にやりと笑ったその先で、彼はアイーダが目に留めたイヤリングを差し出した。
「うーん、かわいいけど、でも・・。」
アイーダはちらりとウーナに視線を向けた。
ウーナは笑いながら首を振った。
「デザインが気に入ったのなら仕方ないけど、そうじゃないなら止めた方がいいよぅ。」
「じゃ、止める。」
アイーダはあっさり手に取ったイヤリングをテーブルに戻した。
「おいおい、うちの商品のどこが気に入らないんだい?極上の真珠を使った一流のアクセサリーだぜ。」
「嘘は駄目だよぅ。これ、みんな偽物だもの。」
クスリと笑ったウーナに、男の顔色が変わり、声までトーンが高くなった。
「おい、いい加減なことを言うと承知しないぞ!こいつは、俺達が遙々・・・。」
アイーダとウーナの知らない地名が並び、王室のお墨付きだと紙切れを持ち出して凄味をきかし始めたのだ。
しかし、そのくらいで負けるようなウーナではなかった。
毎日のようにラコスパルマで良質のアコヤガイを見てきた彼女は、真珠の本物とまがい物を見分ける選定眼に絶対の自信を持っている。
シェラ婆さんは、クランカ織りの材料に関して非常に厳しい目を持っており、本物の中でも更に極上品とそうでないものの見分ける目を持たせるべくウーナを鍛えていた。
アコヤガイの材質はそっくりそのまま真珠の質にも影響する。
他の宝石はともかく、真珠を見分けること関してだけは、絶対の自信があった。
「偽物を偽物って言ってどこが悪いのよ!」
「なにぃ!」
「だって本当のことだもん。ここにある真珠は全部偽物じゃない。王室のお墨付きだなんて、嘘に決まってる!」
「黙ってきいてりゃ、いい加減なことを抜かしやがって!」
それまでの愛想の良い店員の姿はどこへやら、一癖も二癖もありそうなならず者へと彼らは変化している。
しかも、店先にいただけでなく、あたりにも同業者が控えていたらしく、アイーダとウーナの周りを、いつの間にか怪しげな男達が取り囲んでいた。
「おい、おまえらのような貧乏くさいガキに本物の真珠のなんたるかがわかるわけないだろうが。」
「失礼ね!外見だけで判断しないでよ。」
「だったら、証明書を見せてみな。」
「え?」
「おまえらが本物の鑑定人の資格を持ってるって証明書をだよ。そうしたら認めてやるさ。そうでないなら、いい加減なことを言って営業妨害をした罪で訴えてやる。無論、賠償金もたんまり支払ってもらうからな。」
勝ち誇ったような男の顔を、ウーナは震える瞳で睨み付けていた。
そんな都合の良い資格を持っているなら、苦労はしない。
店頭に並んでいる商品が偽物の真珠であることは間違いないが、それを指摘する資格を出せと言われては、到底勝ち目はなかった。
「さあ、どうした?」
意地悪くにじり寄ってくる男に、ウーナは対抗するする術を持っていなかった。

「ほほほ、それなら私が鑑定人になって差し上げますわ。」
群衆の中から一段と高らかな笑い声が響き、ひとりの美しい女性が現れた。
彼女は颯爽と現れると、店の商品をひとつ摘んで一瞥するなり、ポイと放り出した。
「ほーんと。見事に偽物ばかり並んでますわねぇ。」
続いてどこからともなく鞭が呻ったかと思うと、並べてあったアクセサリーを根こそぎ店頭から払いのけたのである。
「いい加減なことを言って王室の名誉を傷つけた罪は大きいですわ。覚悟はできていますわね。」
「この女、よくも・・・!?」
掴みかからんばかりに振り上げられた手が、彼女と向き合った瞬間ぴたりと止まった。
「貴様、どこかで・・・。」
「あーら、他人のそら似ですわ。」
華やかな中にも凄味のある笑みを浮かべたその立ち姿に、男達の顔色が一斉に変化していった。
「ミ、ミ、ミ・・・。」
「蝉が鳴くにしてももう少しまともな鳴き方をしましてよ。」
口をぱくつかせているだけの彼らに、更なる冷たい視線を向け、彼女は片手を掲げ上げた。
「出よ、精霊オルマズド!そこらの不埒者を叩きのめしておしまい。」
腰を抜かせた振りをしながらもそれぞれの武器を構えて襲いかかる機会を窺っていた不埒者に、召喚されたオルマズドのフレイムブラストがお見舞いされた。
「うわっちっち!!」
「た、たすけてくれ〜。」
灼熱の炎に見舞われた者たちの哀れな悲鳴が一斉に沸き上がった。
「彼の者たちに癒しの光を。ラプレア!」
全身火傷にのたうち回る彼らに、どこからともなく癒しの手が差し伸べられた。
「こ、この声!?」
悪者達に味方した者がいるというより、その行為のために発せられた声にウーナの耳は敏感に反応していた。
物静かながらもよく通る優しい響きに、かつて幾度となく助けられた記憶が甦る。
声の主を求めてウーナは辺りを見回した。
「あ、あそこ!」
さきほどの女性のすぐ側に彼はいた。

「もう少し懲らしめてから助けてやればよろしいのに。」
「あれ以上、放って置いたら本当に死んでしまいますよ。」
「あら、これでも手加減したつもりですわよ。本当ならフェニックスを呼んでやるところですわ。」
まわりからげげっというどよめきが起こったが、彼女は一向に介する様子もなく、放心状態の連中を足の先でつついていた。
「もうじき、お迎えがくるでしょうから、それまで大人しくしてらっしゃい。」
「それがいいようですね。」
「ちょっと、マイル、その手は何ですの?」

その瞬間、ウーナは弾かれたようにふたりの方へ向かって走り出していた。
「マイルさん!?やっぱり、マイルさんだ〜。」
「え!?」
いきなり名前を呼ばれて驚いたというより、そこに本来いるはずのない少女達の姿を見つけ、マイルは愕然となった。
「あら、マイルの知り合いですの?」
困惑しているらしいマイルの表情を楽しむかのような声に、マイルは現実に立ち戻った。
難しい理屈はこの際無視することにして、マイルは駆け寄ってくる少女達が本物であることだけに注目した。
「ウーナに・・アイーダ?」
かつて別れた時より少しだけ大人びた目をした少女達の出現を、マイルは混乱しながらも暖かく迎え入れたのだった。
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