デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(7)
「いったいどうしたんですか?」
再会の挨拶もそこそこに、マイルは質問を口にしていた。
だが、返ってきた答えは、まるきり質問の内容とはかけ離れたものであった。
「だって真珠の偽物をあんなに堂々と売ってるだなんて、あんまり腹が立ったから。真珠って採るの、本当に大変なのよ。」
「そうよね、あたしだっておじいちゃんの人形の偽物が出たときすっごく頭きたもん。」
「しかも私の目の前で偽物を堂々と売りさばくとは、無礼千万。あんな連中をのさばらせておくなど、とんでもない恥さらしですわ。」
憤慨している少女達に更にもうひとつ別の勢力が加わり、マイルは間に入る機会を失った。
「でも、お姉さんはちゃんと悪い人たちをやっつけたじゃないですが。あの魔法、すごかったです。」
「ま、私に掛かればあんなもの大したことじゃありませんわ。そういえば、あなた達、まだ名前を聞いてなかったわね。」
「あ、すみません。助けていただいたのにお礼も言わなくて。先ほどは危ないところを助けていただいてありがとうございました。」
「別に当然のことをしたまでですから、礼には及ばないわ。」
「でも・・。あ、わたしは、ウーナ。こっちが友達のアイーダです。」
「私は、ミューズ。それにしても、あなた、なかなか良い目を持ってますね。」
改めて礼を言われると返ってこそばゆいとでもいうのか、ミューズは早々に話題を切り替えた。
「その若さでこれを偽物と見破るだなんて、大したものですわ。」
「いえ、クランカ織りの染料の材料で毎日見てたから、たまたまです。」
「クランカ織り?」
初めて耳にした織物の名前にミューズは首をひねった。
フィルディンで産する工芸品なら大抵のものは知っているはずだが、その名前は彼女の知識にないものであった。
「貝の染料で染めたすっごく素敵な布なの。」
珍しい織物であれば、なおのこと献上品か何かで見たことがあるはずなのだが、それらしき品物には全く心当たりがなかったのである。
「はじめて聞きましたわ。マーティ、知っていて?あら?」
ミューズは、いつも煩いほどに側にいるはずの臣下の姿が見えないことに気が付いた。
その場には、アイーダとウーナ、そして3人の話に口を挟めず困惑しているマイルだけしか見あたらなかったのである。
「ちょっと、マーティったらどこへ行ったのかしら。この私を放り出して行くとは良い度胸ですわね。」
ぶつぶつ呟いたのと前後してマイルもあたりを見回している。
「マイルさん、誰かと一緒だったんですか?」
「あ、ああ。ちょっとね。おかしいな。さっきまで確かにそこにいたんだが。」
「先に帰ったんじゃありません?プラネトス2世号が出航してしまえば、彼女の用も終わったことでしょうし。」
「それはそうなんですが。」
相づちを打ちながら、マイルは驚いたようにミューズを見返した。
「ほほほ、私の情報網を甘く見ないことですわよ。プラネトス2世号がわざわざフィルディンに立ち寄ったはルティスに用があったからでしょう。」
話が再び反れかけた時、マイルは目の前にいるアイーダとウーナの存在に改めて疑問を抱いた。
「そんなことより、いったいどうしてあなた達がここにいるんですか?」
「えーっと・・・。」
先ほどより少し強い口調に、ウーナは困ったようにアイーダを見やった。
会ったからには説明しなくてはならないことではあるが、この場にいるのはマイルだけではないことが、ありのままを話していいものかウーナに躊躇わせたのである。
「私達、ガヴェインさんの手紙を持ってディナーケンさんを訪ねて行く途中だったんです。」
ウーナはガヴェインから言付かった手紙をマイルに見せた。
「これは確かに・・・。」
それが事実であるだけに、マイルはますます怪訝な表情になっていった。
ふたりが普通の冒険者なら、別に不思議でも何でもないことなのであるが、彼女たちはそうではない。
「王立図書館てところにいるって教えてもらったんだけど。」
「ああ、それは間違いない。ディナーケン様には僕らもいろいろとお世話になってるし、一緒に行ってあげるよ。王立図書館はこの向こうの・・・。」
向かうべき方向へ顔を向けた先に兵士の一団を見いだし、マイルは不思議なものでも見たかのように押し黙った。
「兵隊があんなにたくさん・・・。何かあったのかな。」
「本当ですこと。珍しいわね。いったい何事かしら。」
心当たりのない出陣風景にミューズが疑問の声を上げたが、やがてその表情が険しいものに変わっていった。
ミューズの視線の先には、兵士の一団がいて、更にその先には、その兵士を率いている指揮官の姿があった。
「マーティ!」
姿が見えなくなっていた臣下の姿を見つけ、ミューズは彼の方へと向かっていった。

マーティはフィルディンの王女ミルディーヌことミューズの守り役を命じられてはいるものの、本来は大臣試験を突破した優秀な文官である。
王女の守り役という立場上、その資格がないとはいわないが、逆にそういう事態が生じるのは、彼女が出兵するときに限られる。
そしてその王女はというと、ここ最近そういった命令を出した覚えがなかった。
それゆえ、マーティがなぜそのような行動に出ているのか尋ねるべく、ミューズは彼の元へ向かったのである。
当然と言えば当然なミューズの詰問に、マーティは用意していた答えを返した。
「先ほど殿下が捕らえられた偽物を作っていた者たちが、指名手配にある盗賊団の一味であることが判明しましたので、そのアジトへ向かうところです。」
「で、ルティスはどうしましたの?」
討伐隊をして道を急ごうとしたマーティの先を制してミューズは更に詰問した。
「申し訳ありませんが、先を急いでおりますので。」
「ですから、ルティスはどこにいるのかと聞いているのよ。あなた達ふたりが一緒に港から街へ出たことはわかってるんですからね。討伐隊を編成してまで行くということは、何かあったということでしょう。」
ミューズが港でひと騒動起こした時、いつもは止めに入るはずのマーティがいなかったことも気に入らない一因だったが、代わって止めに入ったマイルはというと一緒にいたはずのルティスがいなくなっているという。
「プラネトス2世号の用件と関わりがあることもわかってますのよ、マーティ。」
「え?」
思わず声を上げたマーティに、ミューズは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「どうやらあの偽物商の裏には海賊も絡んでいたようですわね。」
ポンポン飛んでいく話にアイーダは目を丸くしていたが、海賊とプラネトス2世号と聞いて、なんとなく事件が見えてきた。

ウーナが見つけた偽物真珠の売買は狭い範囲の賊達の仕事ではなく、海賊を巻き込んでの広範囲に渡る悪事の末端だった。
そのため、海賊と敵対しているプラネトス2世号としては見過ごしにできないものがあったのだ。
しかし海とは違って陸上の情報はプラネトス2世号に入手が困難である。
ルティスは、以前オクトウムの使徒として身を置いていたことがあり、山賊や盗賊団の手口に詳しく、アヴィンを通じてギルドにも顔が利くから情報を貰うには打って付けの存在だった。
本当はアヴィン自身がその役を引き受けたいところなのだが、彼は王都のみならずフィルディンではあまりにも顔が知られすぎてこういう活動には不向きであった。
ルティスは副長ルカの姉と言うことで、特に理由を付けなくてもプラネトス2世号と接触できる。
プラネトス2世号がフィルディンに寄港しルカに会いに行くときは、姉弟水入らずで、という口実からアヴィンと一緒でなくとも不自然でない。
かといって、ルティスひとりでというのはさすがに危険が過ぎるということで、マイルが護衛役に回っていた。
そして、今回、たまたまウーナがその現場を見つけたところに出くわしたというわけである。
しかも運良くマーティ達も港に来ていた。
ルティスとしては、このチャンスを逃すべき理由はどこにもなかった。

「危険だからと止めたんですが、私が引き返して来る間に盗賊団に逃げられたのでは何にもならないからと言われまして。それにそういう彼らのやり口にも詳しいから様子を見てくると押し切られて・・・。」
「つまり、盗賊団を追いかけていったんですね?」
ルティスならあり得ることだと、マイルは溜め息を吐いた。
おそらくハイドで姿を消して、後を付けて行ったに違いない。
「はい。ですから、彼女のためにも先を急ぐんです。」
「それならそうと早く言いなさい。」
怒ったようなミューズにマーティは申し訳ありませんと謝り、後方に控えていた討伐隊に出立の合図を送った。
「では、失礼します。」
「ちょっと、誰がひとりで行っていいと言いました?」
嫌な予感にマーティは囚われ、ほどなくその予感は的中した。
「その盗賊団は、私の魔法を逃れた連中でしょう?ということは、それなりの使い手が揃っているということ。相手に取って不足はなくてよ。」
「ま、まさか、殿下、討伐隊に参加しようというんじゃ・・・。」
「誰が参加するなど面倒くさい。先に行って、始末してやるに決まってるでしょう。危険な相手だからこそ、私が直接出向くことに意義があるというもの。ですから、あなた方は後からゆっくり来なさい。これは命令です!」
一旦命令を出したからには、ミューズが後方で結果を待っていることなど万が一にもあり得ないことをマーティは長年の経験から嫌と言うほど知っている。
ミューズは高らかに命令を下すと、マーティに案内を命じてさっさと歩き出した。
彼女の実力の程はよくわかっていることもあり、マーティは諦めてミューズに合わせて進むのだった。

「参ったな。」
そのあとをマイルと、少し遅れてアイーダとウーナが続いている。
「街で待ってろと言っても、無駄なんだろうね。」
ふたりは見かけどおりのかわいい女の子というだけではない。
それなりの実戦を経てきた「仲間」なのである。
「しかし、これは君たちには関係ないことで・・・。」
「偽物を作って売ること自体許せないの!」
アイーダとウーナは声を合わせて反論した。
「偽物が横行したら、本物の評判に傷が付くもの。」
「ホント、職人の風上にも置けないわ。」
ふたりは職人達の誇りと彼らのもつ技術へのこだわりをよく知っている。
ところは変われど、職人達の根底にある思いに違いはないはずだ。
アイーダとウーナはフィルディンに送ってもらう船旅で船員達からそのことを学んでいた。
「それに、マイルさん、ディナーケンさんのところへ一緒に行くって言ってくれたじゃないですか。」
「ルティスさんて、アヴィンさんの奥さんですよね。マイルさん、ここまで送ってきた責任があるから、当然助けに行くでしょう。だったら、あたし達も一緒に行った方が早くディナーケンさんに会えるもの。」
マイルがルティスをマーティ達だけに任せておけるはずのないことは明らかで、そうなると戦力はひとりでも多い方がいいという理屈である。
「大丈夫、足手まといにはなりません。」
今更言われるまでもなく、マイルは苦笑混じりで頷いた。
急遽編成された討伐隊より、彼女たちの方が多分に実力は上であることがわかっているだけに引き留めるだけの説得力がないのだ。
「その代わり、無茶な戦いはしないこと。それと。」
「マイルさんから離れないこと、でしょ?」
またしても先手を取られ、マイルは苦笑した。
先陣をミューズ、アイーダとマーティを真ん中に後方をウーナとマイルが固めて、ルティスが待つ盗賊団のアジトへ急ぐのであった。
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