デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(8)
ルティスは予めマーティと打ち合わせしたとおり、いつでも敵のアジトに突入できるよう準備して待っていた。
けれどもそれはあくまで正規の兵士達が応援に来ることを前提にしていたのであって、ミューズをはじめとする飛び入りの面々とパーティを組んで戦うとは思いもよらぬことであった。
しかもその中には、彼女の知らないふたりの女の子が混じっている。
さらにはそれがミューズではなく、マイルが同行させてきたと知って二度驚いた。
「マイル、どういうつもりなの?」
ミューズに参戦を止めるよう説くことは無駄だと知っているが、マイルが守るようにして連れてきた少女達が一緒となると話は違ってくる。
「いろいろあってね。それより、話は後にした方がよさそうだ。」
苦笑混じりでマイルが指さした方向には、彼らを無視して先制攻撃に出たミューズの姿があった。
「殿下!」
マーティは、諦めたかのように魔法を唱え始めている。
「もう、こうなったら仕方ないわね。」
まさかミューズひとりに突入させるわけにもいかず、ルティスもまたアキナスを構えると、ミューズのあと続いた。
「じゃ、あたし達は後ろからチクチクいくね。」
カプリ改の大砲がチクチクというレベルかどうかは別として、アイーダはパペットを呼び出し、ウーナも弓矢を番えた。
「さすがにここじゃ、ミューズもフェニックスを呼び出すわけにはいかないだろうな。」
マイルは狭い崖に挟まれた地形を見やりナイトブリンガーを構えると、同じく後方からの援護に回ったのであった。

偽宝石製造を糧とする一味は、これまでその手口を巧妙に隠していた。
しかし、その反面、自分たちのやり方に相当自信をもっていたというべきか、発見したアジトは脱出経路を押さえてしまえば一味を一網打尽にするのにそれほど苦労するものではなかった。
港町でミューズの魔法から逃れた強者がいたように、多少は腕に覚えのある魔法使いもいたようだが、歴戦の勇士たるマイル達の相手には遠く及ぶべくもなかったのだ。
ミューズが自慢の宝鞭エスプリで奥の敵を掻き出し、マーティのオキサイド・サークルとルティスのニードルシャワーが絶妙なタイミングで敵をなぎ倒していく。
運良くそれらの攻撃から逃れた者は、アイーダのパペット・カプリ改の大砲の餌食となりウーナの弓矢で足止めされたところへマイルのナイトブリンガーが留めを刺すといった具合であった。
「うーん、やっぱりヘン。」
カプリを操りながらアイーダは小首を傾げた。
「アイーダもそう思う?」
横からウーナが聞き返すと、アイーダは自分一人ではないことにいくらか気を楽にしたようだった。
ふたりの視線は、マーティが放っているはずのオキサイド・サークルに注目していた。
高密度のエネルギーの輪が、ひっきりなしに敵を焼き尽くしていく様は、なかなかに壮観な眺めである。
だが、ひっきりなしという点にふたりは疑問を感じたのだ。
魔法が発動するまでには、それなりの詠唱時間を必要とする。
聞いた話によればルティスも魔法を使えるとのことだが、彼女はもっぱら実剣で戦っている。
いかにルティスが優秀な戦士であっても、剣と魔法とを同時に使いこなすことは不可能なのだ。
「マイルさんは・・・気が付いていないことはないと思うけど、気にしてないみたいだから、たぶん大丈夫よね。」
「たぶん、ね。」
謎の援護も気になるが、まずは目の前の敵を倒すことが肝要である。
ヒソヒソと会話を交わしたあと、ふたりは再び戦いに集中した。

小一時間もしないうちに、奇襲を装った攻撃は見事に成功を収め、そこにいた不届き者(byミューズ談)は全員捕らえられ、後からやってきた討伐隊に身柄を拘束されたのであった。
無惨につぶされた作業小屋の残骸を踏み越えて、ミューズは今一度当たりを見回した。
「ま、こんなもんですわね。」
何やら独り言のように呟いたが、そのまま鞭を収めると、マーティに討伐隊を撤収するよう命じた。
「これで偽宝石造りのアジトは壊滅。あとは販売ルートをつぶしていくだけ。そのあたりはうまくやってくださいな。」
「あとはって・・・殿下、その後の調査の協力は・・。」
「地味な調査など、私の得意とするところではなくってよ。討伐隊の手に余るような大物が出たら応援ぐらいして差し上げてもいいけど。」
「そのようなことはお控えくださいとお願いしていると思いますが。」
一段落つくと、マーティは自分本来の役目を遂行することに専念すべく、さっそくに主を諫めにかかっている。
しかし、ミューズとて然る者、面倒なことは御免だとばかりに、さっさと引き上げの体制に移っていた。
「適度な運動をしたら喉が乾きましたわ。一足先に宿屋へ戻りますわよ。」
「戻るなら、王宮にしてください!」
「汗をかいたあとの一杯が美味しいんじゃありませんの。先だってからの賊を捕らえたんですもの、盛大にお祝いしなくては。」
「王宮の予算係に、説明できない出費はおやめください。」
「士気高揚費で賄えるでしょう。」
「殿下は対象外です!!」
「ケチケチするもんじゃありません!」
ミューズは討伐隊の撤収に手間取っているマーティの横を通り抜けると、一目散に王都へと向かって行った。
「殿下!まったく・・・。ああ、そこ、賊が逃げないよう注意してくれ。」
あちこちに目を配りながら、マーティは遠目ながらルティス達に感謝の意を表明していた。
「このお礼は、また後ほど。取りあえず、我々は殿下を追って王都に帰還します。」
ばたばたと忙しないまま、マーティは討伐隊とともに偽宝石作りの賊を王都へ連行していったのであった。

あとに残されたルティスはマーティ達が見えなくなるまではにこやかに見送っていたが、彼らの姿が視界から消えるやいなや、キッと表情が険しいものへと変化していった。
ルティスの視線はウーナの後方を凝視していたかと思うと、突然、目にも留まらぬ早さでアキナスを投げつけたのである。
「スピットニードル!」
「わあ、タンマ!!」
岩陰から転がるようにしてまたひとり青年が現れた。
ぼさぼさの頭に鮮やかな赤いバンダナといえば・・・。
「アヴィン・・・さん?」
「や、やあ、ウーナに、えーっと、アイーダ。」
アヴィンはまっしぐらにウーナとアイーダのもとへやってきた。
「すごく久しぶりだね。元気だったかい?」
かなりぎこちない笑みを浮かべているアヴィンにマイルは苦笑していた。
アイーダとウーナを盾に不利な態勢を乗り切ろうとしているのがありありと見て取れるのだ。
案の定、アヴィンは急いで互いを紹介し始めた。
「ルティス、紹介するよ。こっちがアイーダで、こっちがウーナ。ふたりとは、この前の旅で知り合ったんだ。」
「この前の旅・・・あ、もしかして。」
ルティスはアヴィンから聞いたガガープの果ての世界での話を思い出した。
「はじめまして、ウーナです。」
「こんにちは、アイーダです。」
ルティスを前にして改めて挨拶したあと、アイーダとウーナは納得したように互いに頷きあった。
「はじめまして、ルティスです。あの、何か?」
「ごめんなさい。ただ、そのぅ、本当に黒真珠そのままな方だなぁと思って。」
「黒真珠?」
「旅の途中で、アヴィンさんがルティスさんのことを話してくれたことがあるんです。」
正確には話したのではなく、話しをさせられたというべきものなのだが、この際重要なのは、どういう風に話をしたかである。
どんな女性なのかと興味津々で聞いてくる彼女たちに、どうやらアヴィンはルティスを黒真珠に喩えて話したらしい。
「黒真珠って深海に眠ってるんですよね。手に入れるのに、とっても苦労するんだって聞いてます。でも、その分、手にした時の感動は格別なものがあるとも言われてるし。」
夢見る乙女そのままに羨望の眼差しで話すウーナに今度はルティスの方が顔を赤らめる番であった。
アヴィンにしても、まさかこんなところで、しかも本人を目の前にして言われるとは思ってもみなかったに違いない。
更には単に外見を喩えて話したつもりだったのに、とんでもない解釈を深読みされたものだから、ひどく狼狽えている始末だ。
マイルはというと、そういう話をアヴィンがしていたこと自体知らなかったらしく、意外だと思う反面でそれぞれの反応を楽しんでいる様子である。
「パルマンさんとアリアさんの世界を救った恋もドラマチックだけど、アヴィンさんとルティスさんもすっごいドラマチックなんだもん。」
アイーダのうっとりした眼差しに、さしものルティスも適当な言葉がみつからず、アヴィンを軽く睨み付け頬を赤らめていた。

妙に照れくさくて次に話すべきことがすぐには思い浮かばなかったが、ふと思い出したかのように、ルティスは現実的な話題をアヴィンに振り出した。
「ところで、子供達はどうしたの?」
ルティスが留守をするときには、当然アヴィンが子供達の面倒をみることになっていたからである。
幼子の時期は脱したとはいえ、子供達だけで留守番させるには、まだまだ無理のある年齢である。
「え?えーっと・・・アイメルが・・・その、見ててあげるって・・。」
答えるアヴィンの声が次第に小さくなっていき、それに反応するかのようにルティスの形の良い眉がつり上がっていくのが見て取れた。
「つまり、あの手の掛かる子供達をアイメルひとりに押しつけてきたのね。」
「いや、その、手の掛かる子供は少ない方がいいって、アイメルが・・・。」
アヴィンがごにょごにょと言い訳しているのを耳にしたマイルは思わず吹き出しかけ、慌てて息を呑み込んだ。
「マイルさん?」
「いや、なんでもない。アイメルらしい心遣いだと思ってね。」
明らかに笑いを堪えている様子が見て取れるだけに、アイーダとウーナはきょとんとしてマイルを見上げていた。
「ああ、ごめん。それじゃ、ディナーケン様のところへ行こうか。」
「え?」
アイーダとウーナは、アヴィンとルティスに視線を走らせたが、マイルはお構いなしという様相で歩き始めている。
「あのふたりのことなら放っておいていいよ。」
「で、でも・・・。」
「大丈夫だよ。あれでちゃんとコミュニケーションを計ってるんだから。」
「そ、そうなの?」
マイルはクスリと笑うとアイーダとウーナにヒソヒソ声で囁いた。
(夫婦喧嘩は犬も食わない。)
「えっと、それって・・・。」
「第一、アヴィンがルティスに敵うと思うかい?」
ここで素直に思ったままを答えていいものか、少しばかり迷ったアイーダとウーナであった。
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