デュエット・シリーズ

■ふたりのエチュード(9)
王都への道すがら、マイルはそれまで聞くのを控えていたことを質問した。
「でも、どうして、ふたりがここにいるのかまだ話してくれてないよ。まさかプラネトス2世号に置いていかれたわけじゃないよね?」
ヴェルトルーナとエル・フィルディンはガガープによって分断されており、ふたつの世界を行き来するには、現在のところプラネトス2世号に頼るくらいしか方法がない。
折しもプラネトス2世号がフィルディンに立ち寄った直後だけに、マイルがそのことに気を留めたとしても不思議はなかった。
「半分、当たりです。」
ウーナが肩ごしにマイルを振り仰いで答えた。
「え?ふたりはプラネトス2世号でこっちへ来たの?」
プラネトス2世号から、これからガガープを越える航海に出るとは聞いたが、ふたりの事には一言も触れていなかったはずだと首を傾げたマイルにウーナが自嘲的に説明した。
「いえ、こっちへ来たのは偶然で、なんでかよくわからないんです。それで、帰るためにプラネトス2世号を追っかけてるんですけど、出航までにいつも間に合わなくて、乗せてもらえないでいるというか。」
「あ、でも、トーマスは、あたし達がここに来てるなんて知らないんだから、トーマスが悪い訳じゃなくて、あたし達に運がないっていうのがより近いところかなぁ。」
アイーダが取りあえず補足してから、ウーナと交互に、これまでの経緯を改めてマイルに話して聞かせた。

ふたりの話は、ヴァルクドにいきなり出た事から始まって、ブリザック経由でフィルディンに来たことへと続き、最後にディナーケン宛ての手紙を持っていることで締めくくられた。
「で、ガヴェインさんから預かった手紙を持ってディナーケンさんを訪ねて行く途中にマイルさん達に会ったというわけです。」
事態はかなり深刻だと思うのだが、当事者であるアイーダとウーナはさっぱりしたものである。
良くも悪くも肝が坐っているというか、さすがはあの困難な日々を乗り越えてきただけのことはあると、マイルはふたりを微笑ましく思った。
「それなら、なおさら王立図書館へ急ごう。僕らのために余計な回り道をさせてしまって悪かったね。」
「そんな、マイルさんのせいじゃないですから。」
「でも、キャプテン・トーマスは確か君たちの世界へ向かってるはずなんだよ。」
「え?」
「ルティスがトーマスに協力していることは知ってるだろう?そのお礼に子供達に人形を買いに行くとか言ってたから。」
その瞬間、アイーダの表情が強張った。
「もしかして、おじいちゃんの人形を買いに来るの?」
「たぶん、そうなんじゃないかな。エキュルの古代杉の人形っていえば・・・。」
「うっそぉ・・・それ、あたしのおじいちゃんが作ってる人形よ。ってことは、プラネトス2世号より早く帰らないと、トーマスには会えないってこと?」
「・・・そうなる可能性は大きいだろうね。」
「そんな・・・あたし、帰る!絶対、トーマスより早く帰るんだから!」
急に大声を張り上げたアイーダを道行く人が不審そうに振り返りつつ通り過ぎて行くのが見て取れた。
何しろ、ここは天下の往来である。
王都に近いこともあり、慌ててマイルはアイーダをなだめにかかった。
「大丈夫だよ。きっと帰れるよ。」
マイルの声には不思議と自信を感じさせるものがあった。
「どうしてそう言い切れるんですか?」
噛みつかんばかりのアイーダに、マイルは努めて穏やかに答えた。
「だって、あそこには転移門があるからね。」
「転移・・・門?」
「そう、ふたりが通ってきたのと同じものが、図書館にもあるんだ。」
そして、マイルは安心させるようにふたりの肩をポンポンと叩いて先を急ぐように歩き出した。
「あ、待ってくださいよぉ。」
気を取り直したアイーダが、慌ててマイルを追って走り出し、ウーナもそれに続いたのだった。

王立図書館は、王都に入ってすぐの大きな建物である。
「すごい・・・。カヴァロにだって、こんな図書館はなかったよぅ。」
「そりゃそうだろうね。」
マイルはぽかんと口を開けて見上げているアイーダとウーナの手を引くようにして図書館の奥へと入っていった。
ガヴェインからの手紙を持っていることと、受付の係員とマイルが顔なじみであることが相まって、アイーダとウーナは難なくエル・フィルディンの三賢者のひとりディナーケンに面会することができた。
「これはまた随分かわいらしいお客さんと一緒だね。」
ディナーケンは突然の訪問者達を快く迎えると、取りあえずはガヴェインからの手紙を受け取り、目を通した。
「なるほど。話はだいたいわかった。」
ディナーケンは手紙を読み終えると、マイルに視線を移した。
「で、マイルはどう思うかね?」
いきなり話を振られたマイルは、少しばかり戸惑ったものの、ウーナ達から話を聞いたときに思ったことをそのままディナーケンの前で説明した。
「ふたりは何らかの理由でシュルフの里に出るはずの転移門ではなく、ヴァルクドの転移門に出てしまったのだと思います。ですから、ここにある転移門にも何か条件を与えてやれば、もとのところに出れるのではないかと思うのですが。」
ディナーケンは満足そうに頷いた。

知恵の賢者たるディナーケンを頼ってくる者は多いが、己の欲するところを的確に把握している者にしか、彼はその知識を与えるつもりはない。
この際、彼の知恵を必要としているのはアイーダとウーナであるが、ふたりを連れてきたマイルにもそのことを尋ねるあたりにディナーケンの人と為りがある。
マイルがアヴィンと初めての旅でディナーケンを訪ねた時、やはり同じようなことがあったのだ。
ディナーケンは、アヴィンの思いが本物であり真に覚悟を決めたとき、初めて力を貸してくれたのである。

やがてディナーケンは、マイルの話にこれまで進めてきた研究の内容を照らし合わせて話し始めた。
「これまでは特定された転移門どうしだけを結んでいると思われていたのだが、どうやら君たちの例が他の場所にも行くことが可能であることを証明してくれたようだ。」
「つまり、ここの転移門から、あたし達、帰れるってことですか?」
単刀直入にアイーダは結論を尋ねた。
「そういうことになるだろう。」
「よかったぁ。」
ほっとして笑みを交わしたアイーダとウーナに、だが、ディナーケンは懸案事項を付け加えることも忘れなかった。
「だが、必ずしも帰れるとは限らない。」
「え?」
「本来、君たちが使った転移門とて普通に使えば、自動的にシュルフの里とやらに着くよう設置されたものなのだろう。だが、全く別の場所、つまりヴァルクドに出てしまった。なぜ、本来の場所とは別の場所に出てしまったのか原因がわからねば、帰る方法も確定できないということだ。」
「えー!?」
「さて、ふたりとも心当たりがあるかね?」
「そんなこと言われても・・・。」
考え込んでいるウーナにマイルは、励ますように声をかけた。
「ウーナは前にもシュルフの里に行ったことがあったよね?その時と今回と何か違ったことがなかったかよく思い出してみて。」
「思い出せって言われても、あのときはマックさんとフォルちゃんがいて、アリアさんを追いかけて行くのに必死で、フォルちゃんが普通に演奏したら、そのままシュルフの里に出て・・・。」
「アイーダは?」
「あたし、初めてのことだから・・・。」
口ごもったふたりに、もう一度マイルはゆっくり促した。
「何でもいいんだ。たとえば、あの時、ふたりが思っていたこととか。」
ふいにアイーダとウーナは互いを探るように顔を見合わせた。
つむぎ洞の中での会話がゆっくりふたりの脳裏に浮かんできたのである。
「・・・アイーダ、トーマスのこと考えてた?」
少し間を置いて、アイーダは頷いた。
しかし、アイーダはそれで良いとしても、ウーナの場合はどうなのだろうか?
彼女が想うとしたらフォルト以外に考えられないのだが、それならヴェルトルーナの外へ出ることはあり得ない。
「まさか、ウーナ、フォルト以外に好きな人がいたの?」
「いないよぅ。ただ・・・。」
「ただ?」
「もしも、別な世界へ行ったりしたら、フォルちゃん心配してくれるかなって、ほんの一瞬思っただけなんだけど・・・。」
「たぶん、それだな。」
あっさりとディナーケンは肯定した。
「まさかそれだけで?」
「人の思う力を莫迦にしてはいかん。青の民の文化は、本来そういった力を利用して発展してきたものだ。」
ディナーケンの諭すような眼差しに、ウーナは素直に頷いた。
祈りの力の強さは、共鳴魔法を使った時に、十分すぎるほど経験してきているので、ディナーケンの言葉に何の抵抗も感じなかったのである。
「いうなればその思いを強く持つことによって、もとの世界へ帰れるということだ。」
穏やかに結論付けたディナーケンに、アイーダとウーナは大きく頷いた。

解決の糸口が見つかったことで、マイルも同様にほっとしていた。
「よかったね、ふたりとも。」
「はい。ありがとうございます、マイルさん。」
「僕は何もしていないよ。」
「でも、マイルさんのおかげで思い出すことができたんだもの。」
「そうですよ。マイルさんてやっぱり頼りになる。」
ね、とお互い視線を交わすアイーダとウーナにマイルは何と答えてよいものか戸惑った。
「だって、ねえ。」
アイーダとウーナが同時にかわいい溜め息を漏らしている。
そう、彼女たちの想い人が、マイルの半分でも機敏であってくれれば、もう少し悩みは小さくて済んだかもしれないのだ。
彼らは、大方のところでは、他人より遙かに優れたカンを持ち合わせているというのに、ある部分に置いては、恐ろしく鈍いところがある。
「ルティスさんからもっと話を聞いとけばよかったね。」
いきなり話題が飛んで、マイルは面食らった。
「だって、ちゃんとアヴィンさんは結婚してるじゃないですか。」
口を尖らせたアイーダに、マイルは一瞬ののちに堪えきれなくなって、肩を震わせて笑い出した。
だが、とマイルは同時に安心もしていた。
アヴィンもフォルトやトーマスに劣らずこの手のことに鈍かったではないか。
それでも、彼は相思相愛の相手とめでたく結ばれている。
(アイーダやウーナだって、きっと大丈夫ですよ。)
喉まで出かかったその一言をマイルは、敢えて口にしなかった。
「あたし達もがんばらなくちゃ。」
すっかりいつもどおりの前向きな元気さを取り戻したアイーダとウーナにディナーケンは厳かに告げた。
「では、転移門に案内するとしよう。」
「はい!」
元気いっぱいに返事をした少女達の前に、図書館の最深部へと続く扉が開かれた。
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