■祈り−とこしえの光を−
アンビッシュ国の海岸線に位置する漁村、ボルト。
そこに住む人々は、漁と魚釣り客を主体とした宿とを営むことで生計を立てている。
普段は静かな生活を送っているその村に、今、アルフレッド王をはじめアンビッシュ王国の兵士達が大勢駐留し、ボルトは村がはじまって以来の人々で賑わっていた。
だが、それはガルガと呼ばれる巨大な海竜をボルトの海岸で食い止めるための作戦が発動されたからである。
ガルガ迎撃作戦には兵士だけでなく、魔法の使い手達も参加していた。
中でも注目を集めているのは、マギサというカンドマスターである。
20代半ばという若さでありながら、宮廷魔術師モリスンの推薦を受けて、今回の作戦の要ともいえる役割を担っていた。
刻一刻と高まる緊張感の中で、マギサは自分の気をためていた。
それが最高潮に達した時、アルフレッド王からガルガ迎撃作戦の開始が告げられた。

大勢の兵士が見守る中、マギサはこの日のためにしつらえられた高台の上に居た。
「予定どおり、ガルガが入ってきます!」
伝令の声に、マギサはあたりの地形をもう一度確認するべく、目線だけで、すばやく崖から海岸線まで見渡した。
今、猛然と接近しているガルガは、ジュリオの必死の逃走で呼び寄せられたものである。
彼の勇気を無駄にしないためにも、マギサは失敗できなかった。
「ガルガよ。『それ』がおまえの意志からでたものではないことは、わかっている。だからこそ、私は・・・おまえを倒す!」
ありったけの気を集中すると、マギサはその力を目前の大地へと投げつけた。
猛々しい強大な魔力を受けた大地は、その衝撃に悲鳴をあげ、至る所に亀裂が走った。
(・・・まだ、足りない。)
ガルガを閉じこめるためには、もっと大きな力が必要だった。
再びマギサは気を集中すると、魔力に変えて投げつけた。
海岸線に走る亀裂が一段と広がったが、それでもまだ不足していた。
不足した力を補うために連続して魔力を投入することは可能だが、それだけで本当に目的が達せられるのか、マギサの脳裏に疑問がよぎった。
目の前のガルガだけに焦点を合わせてきたが、それで本当によかったのだろうか?
マギサは一段低い位置で自分を見守っているはずの師匠モリスンへと目線を走らせた。
モリスンの傍にはアルフレッド王が並んで自分を見上げており、その横に大役を果たしたジュリオとクリスの姿があった。
作戦前、テントの中でほんの一瞬だが、クリスと話した記憶がある。
クリスは、まだ初歩的なチャッペル魔法しか使えないと言っていたが、マギサは彼女の奥に秘められた大きな力を感じていた。
折からの風に煽られ、マギサの身体が高台で揺れた。
それに連れて視界の焦点も動き、篝火を反射してにぶい輝きを帯びたクリスの杖が飛び込んできた。
夜の松明の明かりはそれほどまぶしいものではないが、マギサの目を弾いた輝きは、昼間の太陽を仰いだ時以上に白熱したものだった。
(なぜ?)
その瞬間、とこしえの光の果てに、懐かしい微笑みが浮かび上がった。
紫がかった銀色の髪をなびかせ、少し俯き加減で微笑むその姿に、マギサは一瞬、現実を忘れた。
彼女の心は、幼い日の初めてゲルドに会った時へと無意識に飛んでいたのだ。

マギサがゲルドに会った時、彼女はすでに白き魔女と呼ばれていた。
まだ魔法を使い始めて間もないマギサの前に、ゲルドは突然に現れたのだ。
うまく魔法を使えない自分と違って、ゲルドは自在にその力を操って見せてくれた。
幼心にもゲルドの存在は、強烈な印象をマギサに与えた。
「すごい!どうやったら、そんなふうにつかえるの?わたしも、そんなふうにつかえるようになりたいなあ。」
けれども、ゲルドはマギサに魔法の使い方を教えてはくれなかった。
その代わりに、魔法を使うべき時について話してくれた。
それは、魔法を使うための心構えとでもいうべきものだった。
ゲルドはマギサにおとぎ話を聞かせるかのように優しく語ってくれだのだ。
(マギサは、今、何がしたいの?)
澄んだ眼差しが、マギサに向けられた。
「私はガルガを・・・。」
(倒したいの?)
青い瞳に深い哀しみが見える。
本来大人しいはずのガルガが、なぜ次々と人の住む場所を襲ったのか?
それが、ガルガの意志によるものでないことは、マギサにもわかっている。
そう、わかっていて、自分はガルガを倒そうとしている。
祖国を守るためという大義名分の下に、強大な魔力でガルガをねじ伏せようとしているのだ。
(ガルガを倒してはいけない。)
それは作戦の最初から感じていたことだった。
(倒すためではなく、返すために。ガルガよ、そのための答えを見せてもらう!)
「大地よ、ガルガの退路をふさげ!はあぁっ!」
それまでとは比べものにならないくらい激しい気がマギサから発せられた。
極限にまで集中された魔法の力が、輝く光の玉となって、ボルトの大地へ働きかけたのだ。
ガルガの背後の大地がぽっかりと口をあけ、巨大な土柱が立ちあがると退路を断つ形で海岸線をすっぽりと塞いでしまった。
追い込むために選んだ海岸線は、巨大なガルガが入るギリギリの窪地だった。
出口を塞がれたガルガは、これで文字どおり、身動きが取れなくなったのだ。
「ようし、これでガルガは逃げられない!」
アルフレッド王の声に、マギサは自分の役目が終わったことを知った。
「・・・ありがとう、ゲルドさん・・・。」
とこしえの光とともに懐かしい微笑みは消え、マギサの気力も限界を超えた。
あとは・・・。
遠ざかる意識の中で、マギサはクリスの声を聞いた。
「あたしたちも行くわよ!」
クリスの声に、杖の輝きが加わった。
(あの子なら、大丈夫。)
ガルガの正気を取り戻すのは、並大抵のことではないだろうが、きっとやり遂げてくれるだろう。
それだけの力を秘めていると感じた自分の感応力を信じて、マギサは戦場から身を引いたのだった。


「マギサ」by ゆうえい様
おわり
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