■スキャンダル・ナイト
念願の大臣試験に合格したマーティは、ミューズことミレディーヌ姫付きの文官として登用された。
将来の女王陛下の側近として有望視されているといえば聞こえは良いが、その実体たるや、しょっちゅうお城を抜け出す王女の監視役兼お守り役といった感が強い。
ミューズに付いて城外に出ていることの多いマーティが、その日は珍しく場内にいた。
与えられた王宮の一室で、マーティは机の上に山と積み上げられたミューズあての贈り物の包みをひとつひとつ入念に異常がないことを確認していたのだ。
「・・・殿下へ贈り物ねぇ。」
しかし、とマーティは首をひねる。
送り主が城下の女性達で、贈り物の大半がチョコレートというのがどうもひっかかる。
だが、余計なことを詮索してる暇もないくらいマーティは忙しかった。
「マーティさん、これもお願いします。」
終わったかと思えば王女付きの侍女たちが、新たな贈り物の包みを置いていくのだ。
「ふう・・・これで全部だな。」
最後のひとつの検査を終えるとマーティはぐったりと椅子に身を沈めた。
けれども、検査を終えた贈り物の山はそのままで、侍女達が取りに来る様子がない。
「困ったな。これでは本も読めない。」
第一、王女あての贈り物をそのまま放っておくというのも気が引ける。
「仕方ない。」
マーティは疲れた身体にむち打って、贈り物の山を抱えると、ミューズの部屋へ向かっていった。

「殿下、失礼いたします。贈り物をお届けに参りました。」
「あら、マーティ。暇そうですこと。」
めいっぱい神経を使う仕事の後にそう言われて一瞬むっときたマーティだが、反論するだけ無駄なので黙っていた。
なにより、ミューズが珍しく城内にいるということは、マーティにとって一番嬉しいことなのである。
無言で届け物を置いていくマーティに、ミューズが瞳の奥でくすっと笑ったような気がした。
それもどちらかというと機嫌が良いときのものである。
「やはりたくさん贈り物があると嬉しいものなんでしょうね。」
今朝からの仕事を振り返り、マーティはひとりごちた。
「ほほほ。で、マーティはどうでしたの?」
「わたし、ですか?」
突然の問いに意味がわからずマーティは首を傾げた。
「その様子では、マーティにはなかったようですわね。仮にもわたくしの家臣たる者がひとつも貰えないだなんて。」
含みのある笑いをミューズは浮かべている。
「申し訳ありません、殿下。」
取りあえず謝ったマーティにミューズの瞳がきらりと光った。
「ならば、そこを通してもらいますわよ。」
「あー、殿下!!」
まだ贈り物の包みを全て置いていなかったマーティは、両手の自由が利かず、あっけないほどにミューズの城外逃亡を許してしまった。
「せっかく今日は大人しくしていてくださったと思ったのに。」
やはり甘かったかとため息をついて、マーティはミューズの後を追って城下へと繰り出して行った。

その後は特段変わったこともなく、相変わらずミューズのお守りをする日々がマーティには続いていた。
そして、贈り物騒動からほぼ1ヶ月が過ぎた頃、それは起こった。
「マーティさん、そこ動かないでくださいっ!」
王宮の廊下を歩いていたマーティは、ミューズ付きの侍女の声に思わず立ち止まった。
「え?」
それとほぼ同じくして、鬼気迫る声がマーティに投げかけられた。
「どきなさい、マーティ!」
「わ、わ、殿下っ!?」
勢いよく走っていたミューズがマーティにぶつかったのはその直後のことである。
「マーティさん、殿下を逃がさないでくださいませっ。」
侍女達に言われるまでもなく、マーティはその役目柄ミューズを見逃すつもりはなかった。
「また、無断で王宮を抜け出そうとなさいましたね、殿下。」
マーティにぶつからなければ逃げおおせたであろうミューズは、不服気にマーティを睨んでいる。
「今日は、バルコニーで国民の参賀を受ける予定ではありませんでしたか?」
普段の勇ましい出で立ちのままのミューズに、マーティはやんわり言い為した。
「わたくしは、普段のままのわたくしを見て貰うのが一番いいと思ってるのよ。」
それに対するミューズの答えはそつがない。
確かに、飾り気のない王女の気質が国民に人気があるのだから、ミューズの言にも一理あるが、仮にも公式の場で、それはマズイ。
しれっと答えたミューズの背後には、この日のために誂えたドレスを抱えた侍女達が控えている。
侍女達の瞳は、マーティがミューズに大人しくドレスを着てくれるよう説得してくれることを期待していた。
それがとんでもなく難問であることはマーティも承知していたが、ふと目に留まった暦をみて、思い出したことがある。
「あの、殿下は確か、バレンタインにたくさん贈り物をいただいておられましたよね。」
「城下で一、二を争う量でしたわね。」
胸を張ったミューズだが、実のところ、そのお返しに気をもんでいた。
今日の参賀のためにここ数日、王宮警備が厳しくなっており、いかにミューズでも自由な外出がままならず、ホワイトデーのお返しが用意できないでいたのだ。
「それでしたら、そのお返しということで、殿下の艶姿をご覧いただくというのはどうでしょうか?きっと喜ばれると思うのですが。」
「そうですわっ!みんな殿下のドレス姿はさぞ美しいだろうと噂しあってますのよ。」
「ホワイトデーのお返しには何よりの贈り物ですわ。」
心得たとばかりに侍女達が相槌を打つ。
「そんなものかしらね、マーティ。」
「それはもう。そうしていただければ、わたしとしても面目が立ちますし。」
マーティの返事にふふんとミューズは鼻を鳴らした。
「よろしい。ホワイトデーのお返しということで特別に着てさし上げます。」
「ありがとうございます。」
深々と頭を下げたマーティに続いて、侍女達がそれっとミューズを部屋へ連れて行った。

「ホワイトデーでドレスを着て貰えるなら、チョコレートを贈るのもまんざらではないな。」
ほっと一息入れた時のマーティの独り言だが、そのひとことがそれまでの経緯を知らない訪問客の耳にたまたま聞こえたことが禍の種となった。
誰がなんと言おうとドレスなぞ着ないと逃げ回っていたミレディーヌ姫が見事なまでの艶姿を国民の前に披露したのだ。
更にはゴシップ好きな侍女から、バレンタイン当日に「マーティがミレディーヌ姫に贈り物を届けた」ということも聞いていた。
もちろん、その前に「城下の女性達から届けられた」という形容詞が欠落しているわけだが、そんなことは噂の真偽以上にまるで問題にならなかった。
かくして噂が噂を呼び、「ミレディーヌ姫がドレスアップしたのは、マーティからバレンタインにチョコレートを貰ったお返しである。」と、まことしめやかに王宮内でささやかれるようになったのである。
未来の女王陛下の夫の座を狙う貴族の子弟達があわてふためき、あることないことマーティの悪口を言いふらしたが、それを「いい加減な噂を流す者は許しません。」とミューズが一喝したために、さらに事は複雑化していき・・・。
事態はマーティの預かり知らぬところで巨大化し、身に覚えのないスキャンダルだけが残されたのであった。

おわり
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