■そのときの言い訳
エル・フィルディンの王女ミレディーヌ姫ことミューズには、時々父王の名代でヴァルクドを訪れる。
今回の訪問に際してマーティが手配したのは、移動するのにプラネトス号、護衛はギルドから派遣されたダグラスとルキアスという顔ぶれであった。
どこでどう手配を付けたのかはマーティの腕(コネ?)によるものが大きいだろうが、さすがのミューズもこのメンバーを示されては文句の出しようがなかった。
かくしてミューズは上機嫌でヴァルクドへの旅路に付いた。

船に乗っている間はルキアスがミューズの話し相手として側にいた。
もっとも、話し相手ではなく、手合わせの相手としてだろうとの声も無きにしも非ずだったが、当人達は文字どおり、プラネトス号の甲板でのんびりと女同士の会話を楽しんでいた。
「そういえば、今度のカラムスの最新作は恋愛モノだってもっぱらの噂だけど、あのモデルは・・・。」
「私ではないのは確かですね。」
にべもなく答えたルキアスに、ミューズは「でしょうね。」と軽く相槌を打った。
ちらりと向けられた視線の先には、剣の手入れをしているダグラスの姿がある。
「夕焼けを背景に恋人に愛の言葉を囁くなんて、どうみても柄じゃなさそうだもの。」
「それは、まあ・・。でも、相手が剣の使い手ということは、殿下にもその可能性がないわけではないですよね。」
マーティは黒魔法を得意としているが、剣の方もなかなかの腕前であることは、ギルドの間では有名なことだ。
それにマーティとミューズの武勇談は、王都の中でも市民の人気が高い話題のひとつでもある。
大衆文学としての話題性は十分満たしており、カラムスが題材に選んだとしてもおかしくはなかった。
ただし、そこにロマンスの香りがあるかどうかは、当人達の与り知らぬことではあるが。

ルキアスとミューズが仲良く(?)話している様は、当然ダグラスとマーティの耳にも聞こえている。
「で、実際のところ、どうなんですか?」
声をひそめたマーティに、ダグラスは「おまえさんの方こそどうなんだ?」と聞き返したことで後が続かなくなった。
「どっちもどっちと言ったところですね。」
いつの間にかトーマスが2人の会話に入ってきた。
ちょうど航路が安定したところでヒマになったと見える。
「仮に、めでたく恋人同士であったとしても、こと彼女たちに関しては、絶対あのシチュエーションは無理ですよ。」
別に負け惜しみでもなんでもなく、マーティの口調は極めて事務的だった。
「なんでだ?」
「いいですか、あの小説の下りは、こうでしたね?」
いかにも文学青年らしく、マーティは、その話題となっている部分を暗唱して見せた。
夕焼けを背景に、恋人を後ろから優しく抱きしめ、彼女の耳元にそっと愛を囁くという、ラブロマンスの典型的なワンシーンである。
「それだけ暗唱できるんなら、実行するにもそう難しくないだろう?」
「ですから、相手によりけりなんですよ。」
「そうそう。」
苦笑しているマーティにダグラスも同調した。
「別に惚れた相手なら問題ないと思うが?」
「そうじゃなくて、それ以前の問題なんです。」
「それ以前の?」
「つまりだな、あいつらは、揃いも揃って超一流のすご腕の持ち主だ。はっきり言って、背後を取るなんてことは不可能に近い。うっかり無防備に近付いて、返り打ちにあっても文句は言えんというわけだ。」
いつになくダグラスの真剣な顔にトーマスは何となく現実を垣間見た気がした。
ダグラスがしょっちゅうルキアスに面と向かって、俗に言う「恥ずかしい台詞」を言っていることは、その筋ではなかなかに有名な話だが、その裏には、こういう訳があったのだ。
「ということは、マーティもか?」
彼がミューズにそれらしき言葉をかけているとは聞いたことがないが、不用意に近付こうものなら、宝鞭エスプリが飛んでくることは想像に難くない。
「そういうトーマスはどうなんです?行く先々で、黄昏時に愛を囁く相手がいるんじゃないですか?」
「俺はすべからく女性には親切、丁寧がモットーだ。」
「つまり、まだそういう相手がいないってことだな。ということは、そういう可能性に陥ることも十分ありえるってことだ。まあ、当分は無理だろうが。」
ガハハと笑ったダグラスにトーマスは気を悪くする様子もなく一緒になって笑っている。
少なくとも、今のトーマスの頭は、未知の世界たるガガープを自分の船で越えることで一杯だったから、恋人うんぬんの話はそれこそ非現実的な話題の最たるものだったのだ。
「おふたりを教訓に、そうならないようなレディを選びますよ。」
余裕で答えてその場を去ったトーマスであった。


「で、実際のところ、どうなんです?」
プラネトス2世号の甲板でミッシェルがトーマスにそれとなく問いただしている。
トーマスの前には、夕焼けを背景に愛を囁くシーンで有名なカラムス作の恋愛小説が置かれている。
「その、だからだな・・・。」
ミッシェルの視線は、カプリを相手に人形ワザを乗組員達に披露しているアイーダとトーマスの間を行き来していた。

おわり

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