■これも悪戯な縁
アンビッシュでの失敗から愛想を尽かしてグースと別れたシャーラは、ひとり当てのない旅を続けていた。
「シャーラ!」
シャーラは北ヒーツ街道でふいに名前を呼ばれ、辺りを見回した。
確かに聞いたことのある声なのだが、誰のものだか思い出せない。
「シャーラ!」
「誰だい?」
しかし、声の主の姿は見あたらなかった。
「シャーラってば!」
すぐ側で声がするのに姿が見えないのだ。
「ちょっと、いい加減にからかうのはよしとくれ。」
イライラして振り返った矢先に、シャーラは見覚えのある巡礼服の少年と鉢合わせた。
「お、おまえは!」
思わず一歩下がったシャーラにジュリオはほっとしたような笑顔で挨拶した。
「気が付いてくれてよかった〜。ここで会えるなんて運がいいや。」
相変わらず毒気のない少年である。
「お、驚かせるんじゃないよ。全く、あんたと関わるとろくな事がないんだからね。」
これまでの泥棒家業の失敗は必ずしもジュリオのせいばかりとは限らないのだが、まるきり無関係とも言い切れない。
それより、こんなところまで追い掛けてきたのかと、いささかウンザリしてシャーラは歩みを速めた。
「あ、シャーラ、待って!」
「なんだい、また邪魔しようってのかい?」
「違うよ。」
ジュリオは邪険にされながらも、必死の形相でシャーラの前に立ちふさがった。
「グースが大変なんだよ。」
かつての相棒の名前を聞き、一瞬シャーラの動きが止まった。
「ふん、あんなヤツ、もう関係ないね。」
ぴしゃりと言い返したが、どこか弱気になっている自分に気付く。
一方、ジュリオの方は、彼にしては珍しく雄弁にグースがカシムの呪いのためクリスと共に倒れたことをまくし立てた。
「なんだって?」
あんなヤツとは縁を切ったのだと言った端で、グースのことが気になり、シャーラは続きを促した。
ジュリオは巡礼の途中でグースと一緒になったこと、立ち寄った先のシャリネでグースとクリスが強力な呪いを受けてしまい、その呪いを解くために特別な薬が必要になったことを説明した。
「だから、僕、リズさんを訪ねて行く途中なんだ。」
その薬を調合できるただ一人の人物の名をあげてジュリオの話は終わった。
「リズ?」
シャーラはその人物に心当たりがあった。
詳しい話を聞いて見れば、ジュリオはリズの家の正確な位置までは知らないらしい。
「よくもまあ、それだけでここまで来れたもんだ。」
呆れたシャーラにジュリオは、頑として「ふたりのために絶対薬を作って貰うんだ。」と言い切った。
頼りなげな少年だとばかり思っていただけに、それは意外な発見だった。
だが、考えてみれば、見かけどおりの頼りない少年では、これまで旅が続けられようはずがない。
自分たちが関わった中でも、ジュリオとクリスは、その道のプロ達があっと言うようなことを成し遂げてきているのだ。
それも巡礼の旅の道すがらである。
「しょうがないね。」
シャーラは、ふんと顎をしゃくった。
「リズの家に行くなら、こっちの方が近い。」
街道からは外れた間道をシャーラは指さした。
「遅れないよう付いといで。」
「え?一緒に行ってくれるの?」
驚いた顔が、嬉しそうな笑顔に変わった。
「仕方ないだろ。グースが世話をかけてるんだ。」
そう言ってシャーラは先を経って歩き始めた。
「シャーラさんて、本当はいい人なんだね。」
素直なジュリオの言葉に、思わずシャーラは赤面したのであった。

シャーラの案内でジュリオは調剤師リズの家を訪れた。
理由を聞いた、リズは薬の調合を快く引き受けてくれた。
だが、そのためには調剤に必要な材料をジュリオ達自身で調達しなければならない。
「調剤してあげたくても、ここにはその材料がないのよ。」
リズから説明を受け、ジュリオはがっくり肩を落とした。
けれども次の瞬間には、材料となる聖獣アルグレスの角探しの旅に出ることを決意していた。
「本気なのかい?」
「だって、クリスとグースのために絶対必要なんだもの。」
どれほど困難が伴おうと、ジュリオは薬を持たずに帰るつもりはないらしい。
彼のひたむきな姿は、シャーラの心に波紋を投げかけてくる。
他人のために一生懸命になれるジュリオが羨ましくもあった。
「必ずアルグレスを探して角をもらってくるよ。」
来たとき以上に元気な声でリズに挨拶するジュリオに、リズは傍らにいた娘のフィリーに目を向けた。
フィリーはリズの視線ににっこりと頷いた。
「ジュリオさん、わたしもご一緒します。」
控えめながらも、フィリーははっきりとジュリオに告げた。
「え?」
それこそ意外だとジュリオはびっくり目を丸くしている。
けれどもフィリーは本気でジュリオに協力するつもりでいるらしい。
いくつかのやり取りがあって、フィリーの同行が決定した。
その中には、アルグレスがウドルのどこかにひっそりと生息しているらしいという話も飛びだした。
「本当にいいのかなぁ。」
フィリーの同行は嬉しいことには違いないが、幻の聖獣探しという当てのない旅だけに少しばかり心苦しいものを感じているジュリオであった。

「ふぅん、なるほどねぇ。」
シャーラはいそいそと旅支度をはじめたフィリーを見やり、内心細く笑んでいた。
フィリーの、時折ジュリオに向けられる視線は、間違いなく恋する乙女が憧れの男性に向けるそれだ。
要するに、フィリーはジュリオに一目惚れしたといっていいだろう。
ラグピック村で初めて見かけた時には想像も出来なかったが、今のジュリオならシャーラと並んで歩いても見劣りしないまでに逞しくなっている。
リズの人を見る目は確かであり、その彼女がジュリオと一緒なら愛娘を旅に出しても大丈夫と判断したのも納得できることであった。
当のジュリオの方は、聖獣を見つけて薬を作って貰うことに頭が一杯でそれどころではないらしいが・・・。
「まあ、それがあの子の良いところなんだろうけど。」
そういう自分だって、ジュリオの一言で、グースのために当てのない幻の聖獣探しに同行するつもりなのだ。
元コンビを組んでいたよしみで無下にもできないと理屈は付けたが、それだけで危険を冒せるものではないことは十分承知している。
だが、フィリーは自分たちと全く事情が異なる。
母親が調薬師として仕事の依頼を受けたという理由だけで、ここまでできるものではない。
第一、この依頼自体断られても文句の言えた義理ではなかったのだから。
「準備ができたなら、さっさと出掛けるよ。」
「え、シャーラも一緒に行ってくれるの?」
驚いたようなジュリオにシャーラは「当たり前だろ。」と額をこづいた。
運良くアルグレスの角が手に入ったら、そのままグースとクリスの待つオルドスへ直行することになる。
フィリーはその場で調薬し、ふたりに薬を飲ませることになるだろう。
呪いさえ解ければ、あとはオルドスの名医がふたりの病を治してくれる。
それからが、シャーラのお楽しみであった。
クリスとフィリー、見た目は正反対のようだが、根本に流れる物は同じだとシャーラは踏んでいる。
ふたりの間に入ったジュリオがどう対処するのか。
こんな楽しいことを見逃すなんてとんでもないとシャーラは密かに笑んでいた。
何しろこれまで旅の先々でジュリオには邪魔されてきたのだ。
たまには彼の困惑する姿を見るのも悪くはない。
ひとつ問題があるとすれば、それはジュリオがこの手の問題に対して恐ろしく鈍いということだ。
クリスとフィリーの間に散るであろう火花に果たして気付くや否や。
その時は、クリスの複雑そうな顔を拝めることだけで我慢しよう。
どちらにしても、シャーラにとって大いに興味をそそられる内容であることには違いなかった。
「シャーラが一緒なら心強いや。」
無心な笑顔を向けたジュリオに、シャーラはこれだからこの子には適わないと苦笑した。
「シャーラさん、フィリーをお願いしますね。」
「ああ、任せといておくれ。魔獣だろうと盗賊だろうと、このあたしがきっちり守ってみせるから。」
リズへの約束はシャーラの本心から出た言葉だった。
彼女の誠意にはこちらも誠意で応えねばならない。
人としての道理はわきまえているシャーラである。
「いってきまーす。」
旅支度の整ったフィリーを新たに仲間に加え、シャーラはジュリオとともに晩秋の街道を一路、ウドルへと向かって行った。


おわり
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