■想い、想われ、不利、振られ
マクベイン一座が旧知のシャオとレイチェルに出くわせば、当然思い出話のひとつやふたつに花が咲く。
男は男同士、女は女同士と示し合わせたわけではないが、いつの間にかテーブルを別れてそれぞれ話に熱中していた。
とはいえ、お店は貸し切りではないので、周りの客達の会話も時には聞こえてくる。
ここヌメロス帝国での最近の話題といえば、救勇パルマンと歌姫アリアの婚姻である。
婚儀を間近に控えたアリアの幸せそうな歌声が、折に触れて街中を満たすたびに、聞いた人々全てが同様に幸せな気持ちになるという。
「ホント、アリアさんの歌って、いつ聞いてもステキよね。」
うっとりとウーナがため息をついた。
「歌い手に取っては、最大の目標よね。いつか、あんな風に歌えたらって思うもの。」
レイチェルが相槌を打つ。
「その上、パルマン隊長と世界を救った恋を成就させて。」
そしてふたりは「ドラマチックよね〜。」と声をダブらせた。
ウーナはパルマンとアリアの馴れ初めからみてきているだけに、特に感慨深い物があった。
故国のためと、自分を押さえていたパルマンが真の目的を見いだすきっかけともなった恋なのだ。
「あれだけ想われたら、女冥利に尽きるわよ。」
危険を顧みずアリアを救おうとしたパルマンの姿は、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
また、アリアも自らに架せられていた宿命に立ち向かうことで、彼の気持ちに応えたとも言える。
あの旅は、いろいろな意味で人生の出発点になった。

「ところで、ここで会ったってことは、次の興行先は・・・ブロデイン?」
かの国は、あの旅の終焉の地であった。
「そうなるわね。」
レイチェルが頷くと、ウーナは納得したようにシャオを振り返った。
「だから、シャオおじさん、張り切ってるんだ。」
「まあね。」
「たしか、あそこは。」
ウーナのポニーテールの毛先がふわりと肩先で揺れた。
「レイチェル、人気高かったよね。お客さん、待ちかまえてるみたいだし。」
ウーナ達はレイチェルとは反対周りで旅をしていたので、興行を終えたばかりのブロデインの様子がよくわかる。
旅芸人である彼女たちにとって、自分たちを待ってくれている客がいるということは非常に名誉なことなのだ。
「そうね。」
だが、頷いたレイチェルの表情は冴えない。
ウーナの言うとおり、ブロデイン王国におけるレイチェル達の人気は非常に高い。
底抜けに明るいシャオの口上と巧みなアコーデオン、そして張りのあるレイチェルの歌声とで、復興途上にある国民達からは絶大なる人気を博していた。
「王室からも直々お呼びがかかるんだって?」
「ええ。」
「すごいじゃない。」
感嘆の声を上げたウーナにレイチェルは今度こそ頭を抱え込んで言った。
「だから、問題なのよ〜。」
声がかかれば王宮だろうとどこでも演奏の出前をするのは、ごく当たり前。
人気のある一座では、その地方の実力者がパトロン的役割を担っていることも別に珍しいことではない。
だが、レイチェル達の場合は、そこに個人的な思惑が多分に絡んでいるため、話がややこしくなってきているのである。
レイチェルの頭痛の種は、ブロデイン王国の王子デュオールそのひとであった。
自他共に認める頭脳明晰、勇猛にして果敢な王子がよりによって・・・。
「突然、あんなこと言われたってねぇ。」
そう、公演のあとでいきなり結婚を申し込まれたのである。
レイチェルにしてみれば、途中の過程をすっ飛ばして、いきなり最終通告を突きつけられたに等しい。
そもそもレイチェルには、なぜデュオールが自分にプロポーズしたのか全く理解できないのだ。
デュオールは、「国家のために、私を叱ってくれる人物が必要なのだ。」と捲し立てていたが、どうしてそこに自分が出てくるのか。
第一それまでに話らしい話をした記憶すらないのである。
はあっと盛大な溜め息がレイチェルから漏れた。

「レイチェル〜、そろそろ行くよ〜ん。」
テーブルの向こう側からシャオが声をかけてきた。
「行くの?」
「行くわよ。それとこれとは、別だもん。お客さん、待ってるしね。」
すっくと立ち上がったレイチェルに、ウーナは旅芸人としてのプライドをみた。
「そうだね。」
頷いたウーナに、ふとレイチェルは腰を屈め、声を潜めて囁いた。
「で、ウーナの方はどうなの?進展あった?」
「そ、それは・・。」
ぽっと頬を赤らめたウーナの背中をレイチェルは、ばしっと勢い付けた。
「がんばりなさいよ。」
自らも気合いを入れて、レイチェルはウーナに別れを告げた。

ブロデイン王国王宮の執務室では、今日もデュオール王子が精力的に執務をこなしている。
「王子、関所からの伝令です。」
取り次ぎの声を耳にするなりデュオールは顔を上げ、書きかけのサインをそのままにペンを置いた。
「来たか。」
衛兵から取り次がれるのすらもどかしいのか、デュオールはそのまま席を立ってもたらされた知らせに自ら目を通した。
「ふむ。午後には国境を越える、か。」
残りの書類にチラリと視線を走らせたが、取り立てて急ぐ案件はなかったので、そのまま次の行動に踏み切ることにした。
「よし、今日の執務は終わりだ。行くぞ。」
言い終わらないうちに、デュオールは外出の用意を調え、脱兎のごとく部屋を出ていったのである。
「で、殿下!」
近従の者達も慌ててデュオールの後を追って出ていく。
年長の留守居役は苦笑を浮かべつつ、それでも黙って彼らを見送った。
昔から思い立ったら即行動あるのみのデュオールに、周りの者たちは振り回されながらも、彼を慕っていた。
それに、彼らはデュオールの気持ちを知っているから、敢えて止めるようなことはしないことにしている。
「相手の方にはお気の毒ですが、王子がやる気でいてくださるのが一番です。」
それぞれの勝手な理論が渦巻きながらも、ヴェルトルーナは今日も平和な時を刻んでいる。


おわり
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