■パールパーティ
プラネトス2世号の甲板で心地よい海風に吹かれながら、アヴィンとマイルが眉間にシワを寄せている。
「やっぱり、あったほうがいいよな。」
「だよな。」
「しかし、今更、何を・・・。」
ふたりの間に、ひょいとピンクとオレンジの影が割り込んできた。
「どうしたの、ふたりとも。真剣な顔しちゃって。」
「そうそう。世界の危機は去ったのに、この世の終わりみたいな顔してるよ?」
くったくない笑みを浮かべたアイーダとウーナに、この場にいない想い人達の面影が重なる。
「あのさ、ちょっと参考までに聞かせてほしいんだけど。」
思い切ってアヴィンが口を開いた。
「用事があってどこかへ出掛けたとき、その仕事とかだけど、・・・家族はやっぱりお土産とかあった方が、嬉しい・・・かな?」
一瞬きょとんとしたアイーダとウーナだが、両者ともに閃くものがあったらしい。
意味深にふたりは視線を交わし、「ましてや、ね〜。」と声をハモらせた。
「好きな人からプレゼントもらって嬉しくない人、いないと思うけど?」
ズバリ答えたアイーダにアヴィンとマイルは、同時に溜め息をついた。
尋ねる相手を間違えたというより他はない。
ふたりがそのことに気が付く前に、アイーダとウーナは既に質問責めの態勢に入っていた。

ひとしきり強く吹き付けた風がウーナのポニーテールをなびかせ、船主から飛沫があがる。
ピンク色の毛先が風に合わせてダンスしていく中に透明な雫が煌めいた。
「・・・また濡れちゃった。」
てへっと舌を出したウーナにアイーダがハンカチを渡す。
「ありがと、アイーダ。」
「見るにはきれいなんだけどねー。」
アイーダが笑って、ウーナの毛先から雫を指にすくい取った。
「ね、真珠みたいにキラキラして。」
その瞬間、ウーナはハッとしたように甲板を見回しフォルトの姿を探した。
「フォルちゃーん!」
舳先の方から返事が返ってきた。
「ウーナ?」
「フォルちゃーん、ちょっと来て!」
その声に返事はなかったが、それほど間を置かずしてフォルトが姿を現した。
そのあとにトーマスとミッシェルが続く。
「フォルちゃん、今、持ってる?」
開口一番、ウーナはフォルトに尋ねた。
「うん。持ってるけど?」
ウーナは何をと言わなかったが、フォルトにはそれだけで充分通用するらしい。
アイーダは幾分羨ましそうな目をウーナに向けた。
「あのね、アヴィンさん達のことなんだけど。」
ウーナは掻い摘んでフォルトに二人が「家族」への土産を探していることを話した。
「で、珍しいとは言えないかもしれないけど、相手が女の人だから、あれがいいんじゃないかなって思ったの。」
「確かに、ラコスパルマのお土産と言えないこともないなぁ。」
「ね、悪くはないと思うのよ。あたしでも貰って嬉しいものだし。」
「あのー、ふたりだけで盛り上がってないで、あたし達にもわかるよう話してくれる?」
痺れを切らしたアイーダに、ウーナはごめんと赤面した。
「えーっと、これなんだけど。」
フォルトが腰に付けていた鞄から小さな袋を取り出し、口をあけた。
「きれーい。」
覗き込んだアイーダから思わず溜め息が漏れた。
袋の中からフォルトの手の平に取り出されたのは、真珠であった。
「クランカ織りには、この貝の染料を使うんだ。」
「真珠ができる前の貝から採るんだけど、時間が経ちすぎて真珠になることがあるのよね。」
それでも商品価値の高いことには違いないので、フォルトは万が一の時に備えていくつか調達してきていたのだ。
「しかし、俺達より、まずは、先にあげる人がいるんじゃないか?」
意味深なマイルの問いに、フォルトは、さらりと答えを返した。
「だって、ウーナには可愛い花の方が似合うもの。何より生花の方が活き活きしてるウーナには映えると思うし。」
「・・・・・・・・・。」
一同、しーんと静まり返ったのは、内心同じ事を思ったからに違いない。
「え、なに?どうしたの?」
ひとりフォルトだけが訳が分からないと首をひねった。
一方、対象となった少女の方は人知れず頬を染めて、その場を遠ざかっていく。
その後を目敏くもうひとりの少女が追った。
「僕、なんか変なこと言った?」
隣にいたミッシェルを不安げな面もちで見上げると、彼はにこやかに一同を代弁して言った。
「さすがはマクベインさんの孫だけあって、血は争えないものだなと関心したんです。」
ますますフォルトは腑に落ちないと怪訝な表情で考え込んでいる。
(なんで、そこにじいちゃんが出て来るんだ?)
それこそが血が争えないと言われる所以であることに、フォルトは全く気が付いていなかった。
「ま、とにかく、ウーナさんはそう言うことで今回はいいとして。フォルトくん、本当にいいんですか?」
念押しするようなミッシェルにフォルトは大きく頷いて見せた。
「うん。旅の費用の足しにと思って持ってたものだから。こうしてプラネトス2世号に乗せてもらった分、浮いたようなものだし。」
フォルトは袋の中に残っていた真珠の粒を全部取り出し、広げて見せた。
「どれでも気に入ったのがあったら、どうぞ。」
再びアヴィンとマイルの眉間にシワが寄る。
「あの、参考になるかどうかわからないけど、その人と同じ色を贈るといいんだって。」
銀色に輝く真珠と金色を帯びている真珠を前に迷っているふたりにフォルトが助け船を出した。
「同じ色・・・たとえば、ウーナさんならピンク色みたいな?」
何気ないミッシェルの言葉にフォルトはびっくりしたように目を丸くした。
どうやら、フォルトがさっき言った「ウーナには要らない」発言には裏がありそうである。
さりげなく話題を振ってくるミッシェルに、フォルトは、ウーナにプレゼントしたいと思っている彼女と同じようにキラキラ輝いているピンク色の真珠を、まだ見つけることができないのだと白状した。
「かなり深いとこまで潜らないとないみたいで。」
それでも他の真珠で代用するつもりはないらしい。
努力家のフォルトらしい辛抱強さはここでもじっとその機会を待っている。
「そ、そうだ。トーマスも、もしよかったら・・・。」
話題に窮したフォルトは、傍らで傍観を決め込んでいたトーマスに声をかけた。
しかし、当人が答える前に、別の声が割り込んだ。
「トーマスには必要ないですよ。」
ミッシェルの声にフォルトは「どうして?」と聞き返した。
「そもそもトーマスの欲しい真珠は海にはないですからね。」
「海にないって・・・あ!」
ポンと手を打ってフォルトは頷いた。
「そっか。キャプテン・トーマスには海の真珠なんて珍しくないもんね。」
どこか焦点がぼけているような気がしないでもないが、あらぬ方向へ話が進まないうちに退散するが勝ちとトーマスは逃げの態勢に入った。
「でも、海にない真珠って、どこにあるんだろう。」
ミッシェルはチラリとトーマスを見やると少しだけ声を低くして呟いた。
「山の中ですよ。」
「山の中・・・あ、淡水真珠!」
思わず吹き出しそうになったのを必死で堪えている者約2名。
「へーえ、トーマスってバロック真珠が好みだったんだ。」
更に唸る者1名。
「まあ、当たらないまでも遠からず、でしょうね。」
込み上げてくる笑いを堪えながら、ミッシェルは舳先に姿を消しつつあるトーマスを見送った。
「あの、僕が見てると選びにくいでしょ。決まったら言ってね。」
これ以上の追求を避けたいのはフォルトも同じらしい。
フォルトもまたトーマスの後を追うようにして甲板から姿を消した。

トーマスとフォルトは再び舳先に並んで海を見つめていた。
「でも、トーマス。」
ふたりきりであることを確認して、フォルトはトーマスに気遣うような視線を向けた。
「何だ、フォルト?」
「淡水真珠にもオレンジ色はないと思うよ。」
真剣な表情で心配してくれたフォルトに、やはり侮れないものを感じたトーマスであった。

おわり
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