いが栗3年−アガット&ティータ−
 紅葉に彩られつつある山道をアガットとティータは並んで歩いていた。一生懸命に話しかけるティータを幾分面倒くさそうにアガットは見下ろしながら歩いている。
 ラッセル博士が誘拐されて以降、ツアイスの中央工房では技術者たちの安全管理に気を遣うようになり、街の外へ出向く依頼があると必ず遊撃士協会に護衛を依頼するようになっていた。遊撃士なら誰でも良さそうな依頼だが、回数が重なると自然と顔見知りの遊撃士に仕事が回ってくるようになる。アガットもそんな繋がりから、普段は請け負うことの少ない護衛の依頼を引き受けていた。
「ふえっ?」
 ふいにティータの姿がかくんと落ち込んだ。アガットがとっさに腕を掴んでくれたおかげで尻餅をつくことからは免れたが、不自然な姿勢であることには変わりない。
「な、なに?」
 ずるりと滑った感触から、何かを踏みつけたらしいことはわかる。
「ああ、栗のイガだな」
 振り向きざまに答えたアガットにつられてティータの視線も下向きになった。さらにティータの身体が斜めに傾いた。今度こそ転んでしまうと危ぶんだが、逞しい腕がティータの脇から伸ばされていて身体を支えている。
「危ないだろうがっ」
「あ、ありがとうございます」
 おっかなびっくりで謝ると、ティータは体勢を立て直して立ち上がった。すぐ足下に、無惨につぶれたイガが転がっている。
「つぶしちゃったみたいですね」
「…だが、中身は無事だぜ」
「本当だ。よかったですね、栗さん」
 話しながらティータは器用にイガから栗の実を取り出し、あたりを見回した。
「なんだ?」
「せっかく助かったんですから、埋めてあげようと思って」
「埋める?」
「だって、3年たったらこの栗の木もお母さんになって実を実らすんでしょう?」
 あまりにも単純な動機にアガットは眩暈がしそうだった。だが、自分が護衛しているティータという少女は、そういう子供なのだ。
 アガットは一生懸命土を掘って栗を埋めているティータから視線を外すと、さっきまで彼女を支えていた自分の腕に目を向けた。まだほんのりと暖かい体温の感触が残っている。だが、残っているのはそれだけではない。かすかに触れていたティータの胸は確かに丸みを帯びていたのだ。
「あれが子供か?」
 このつぶやきはアガットの心の中でだけ呟かれたものだ。
 ティータの言ったように、あと3年もしたら今の栗から新しい実が実るだろう。その頃ティータは思春期真っ盛りの15歳。金色の横髪を垂らせた少女はさぞかし魅力的な乙女に成長しているに違いない。その時になって、慌てても遅いのだ。何事も先手必勝、いまのうちにツバを付けておくに限るよと、秋の空は笑っていた。


おわり
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