閃光の刻
 エステル、クローゼ、シェラザードの3人は、女王宮に突入した時、名目上の執務者デュナン公爵と対峙した。そこで女性蔑視な発言をかまして3人の怒りを買ったデュナン公爵は、コテンパンに打ちのめされ自滅したのだった。
 次はいよいよ最上階の女王の部屋へと気持ちは逸ったが、重装特務兵との戦いで予想外の体力消耗を強いられた3人は、クローゼの提案を受け入れ、彼女の部屋でひと息入れていた。
 ミニテーブルに用意されたのはミックスジュースとスペシャルアイスだ。はじめはどちらか一方だけの予定だったが、食べ盛りで育ち盛りのエステルの主張を受け入れた結果、そうなったのである。
「大事な戦いの前に食べ過ぎてお腹壊すんじゃないわよ。」
 シェラザードが半分呆れ顔で忠告したが、エステルは忠告なぞどこ吹く風とばかりにジュースとアイスを詰め込んでいた。クローゼもエステルよりは控えめだが、スペシャルアイスをほおばっている。
「だって、腹が減っては戦はできぬ、でしょ。シェラ姉、いらないなら、それもちょうだい。」
「あんたねー、それ以上食べると本当にお腹壊すわよ。」
「ヘーキ、ヘーキ。どうせ汗になって発散するから大丈夫。」
 結局エステルはスペシャルアイスを4つ平らげたところで一息入れた。
「よっしゃー。これで気力もバッチリ。いつでも戦いOKよ。」
「はいはい。クローゼも、行けるわね。」
「はい、私もしっかりいただきましたから。」
「ふふっ。戦いを前にそれだけ食べれれば上等よ。」
「それじゃ、行きますか。」
 エステルは愛用の棒を握りしめると立ち上がった。

 アリシア女王は自室に軟禁されていた。そこにはロランス少尉がただひとり付いている。女王の監視にたったひとりとは随分見くびられたものだが、それだけの実力をロランスは持っていたのだ。
 エステル達3人は、女王の部屋のテラスでロランスと対峙した。
 3人の中でエステルだけは、武術大会でロランスと戦った経験を持つ。だが、あのときはヨシュアがいた。更にはジンやオリビエもいて、万全の体制で挑んだ上での勝利だった。
 素顔をさらしたロランスはあのときより更に凄味を増している。
(勝てるの?)
 エステルの棒を握る手に力が籠もる。
「この戦い、絶対に勝つ!」
 迷いを打ち払い、己に言い聞かせるためエステルは叫んだ。彼女の決意は一緒に戦うクローゼとシェラザードの決意でもあった。
「みんな、行くわよ!」
 声に出した分、更に気合いが上乗せされる。
「ジーク!」
 クローゼが白ハヤブサのジークを呼んだ。ジークは上空からロランスを狙い、エステル達の援護に回っている。その場にいないユリア中尉の分までジークは戦いを担っているつもりだった。
「させるか!」
 シェラザードの鞭がうなり、ロランスの動きを封じると同時にエステルとクローゼに攻撃のチャンスを与える。
 ふたりはその好機を逃すことなく、時間差で巧みな一撃を加えた。
 戦いは一瞬の迷いが失敗に繋がる。逆に相手が少しでも怯んだら、その隙を逃さず攻撃することが勝利に繋がるのだ。だからエステルは迷わなかった。
「どりゃーっ!」
 クローゼの剣が下がるのと入れ違いで、気合いを込めた一撃をロランスに加えた。エステルの放った渾身の一撃は、さすがのロランスにもかなりのダメージを与えたようだ。だが、まだ決定打にはなり得なかった。
「そこ、行くよっ!」
 エステルの間合いを見計らって前進してきたシェラザードが鞭をふるう。彼女の鞭は、ロランスを攻撃するだけでなく、クローゼがアーツを放つ時間稼ぎの意味もあった。
 クローゼのアーツは強力だ。彼女は剣術も巧みだが、ロランス相手では護身術の域を出ることは敵わない。だからこその選択だった。ただ、より強力なアーツの発動には時間がかかる。シェラザードの攻撃はそこまで計算した上でのものだった。遊撃士として経験豊富なシェラザードだからこそ為せる技だ。
 攻撃するだけで勝てる相手なら、エステルとクローゼに戦いを任せても良かった。だが、相手は歴戦を生き抜いてきた強者である。勝つための戦いを組み立てる責任がシェラザードにはあった。それこそが、自分がこの場に居合わせた役割というものだ。自分の攻撃に手は抜かない。だが、その一撃は勝つための戦術に充てねばならないのだ。その困難な役割をシェラザードは見事に果たした。
「ホワイトゲヘナ!」
 クローゼの詠唱が終わり、ロランスに止めをさした。
「勝った…の?」
 攻撃の間中、息つく暇もなかったのだろう。エステルがはあはあと息を弾ませていた。クローゼも同様で膝を突いたロランスを睨みつけている。
「ふ…まさか、ここまでやるとはな。」
(まだ、倒れてない!?)
 確かに勝ったはずなのに、とシェラザードは戦慄を禁じ得なかった。
 その一方で、弾んだ息の下、エステルがロランスに噛みついていた。
「あんた、武術大会の時、手を抜いたわねっ!」
(ちがう。あいつの実力は、まだまだこんなもんじゃないよ、エステル)
 その刹那、凄まじい衝撃が3人を襲った。
「くっ!」
 覚悟していたシェラザードでさえ、一瞬息が止まるかと思ったほどだ。唐突に受けたエステルやクローゼの衝撃たるやどれほどのものであったろうか。
「時間だな。」
 少し前の激戦がまるでなかったかのようにロランスは復活していた。
(完敗…か)
 まだ動けない3人をあざ笑うかのようにロランスは去った。
「エステルー!」
 少年の声と複数の足音が近づいてくる。
「ヨシュア!」
 エステルの声が少年の声に応えた。
 少し離れたところにアリシア女王の無事な姿が、そして遠目にジンとオリビエの姿が見える。ひとまずの戦いは終わったのだ。互いの無事を確かめ、女王陛下救出作戦の成功を、会した一同は喜び合ったのだった。

おわり
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