■乾杯!
「よう、パルマン、今夜あたり一杯どうだ?」
「断る。」
海軍一のウワバミと称されるガゼルとサシで飲むにはそれなりに覚悟が必要である。
「だいたい、昨日、一緒に飲んだばかりじゃないか。」
ほとんど夜明けまで付き合わされてフラフラのところへこの暑さである。
強烈な責任感でなんとか持ちこたえたが、それにも限度があった。
「つれないねえ。」
大げさに溜息を吐いて見せたが、パルマンは無視を決め込んでいる。
「ビールの一杯くらい、いいだろう?」
「断る。」
ガゼルの「一杯」が文字どおりの「一」でないことをパルマンはよく知っている。
「ワインをカップに一杯ならどうだ?」
「断る。」
この前それで偉い目にあったばかりである。
カップに一杯と言われて、パルマンはてっきりグラスワインのことだと思って承知した。
ところが、出てきたのは巨大な優勝カップになみなみ注がれたワインだった。
出された物を残すのは相手に失礼だと言われて育ってきたパルマンは、それこそ酔いつぶれる寸前になりながらも辛うじて飲み干したのだ。
「せっかくのお祝いなんだがなあ。」
「お祝い?」
何の祝いなのか言わないところが曲者なのだが、この調子では形だけでも付き合わねば離してくれそうにない。
「まあ、そういうことなら。」
「お、付き合ってくれるか。」
渋々応えたパルマンにガゼルは俄然、元気になった。
「だが、お祝いなら、それなりのものでないと付き合わんぞ。」
「それなら、シャンパンで、どうだ?」
すかさず聞いてきたガゼルにパルマンは考えた。
さすがにシャンパンで酔いつぶれるほどに乾杯ということはないはずだ。
だが、念には念を押しておかねばと、一言添えた。
「付き合うのは、最初の乾杯だけだぞ。」
「ああ、それで十分だ。」
にやりと笑ってガゼルはドンっと二人分の大ジョッキを置いた。
「ガゼル艦長!」
「何だ?」
「なんでシャンパンにジョッキなんだ?」
「シャンパンをジョッキで飲んではいけないという法則はない。」
しれっと答えたガゼルにパルマンは開いた口が塞がらなかった。
それは確かにそうかもしれないが。
「祝い事には最高のシャンパンが手に入ったんでね。」
キンとよく冷えたシャンパンの瓶を取り上げると、ガゼルは嬉しそうに栓を抜いた。
ポンっと心地よい音と共に栓は抜け、トクトクと勢いよくジョッキに透明な液体が注がれていく。
ガゼルのことだ。最高級の辛口を用意してきたに違いない。
「そういえば、お前さんは甘口だったな。」
注ぎ終わってからガゼルはフムと思案顔になった。
「お、いいもんがあるじゃないか。」
ガゼルの目が壺に入った角砂糖に吸い寄せられた。
「入れてやろうか?」
「断る!!」
それだけは絶対にお断りだと、激しく拒否してパルマンは大ジョッキのシャンパンを一息にがぶ飲みした。


おわり


あとがきに代えて>
すみません、ガゼルが持っている瓶とジョッキからの思い付きです。
元ネタは、映画「カサブランカ」のワンシーンから。
ハンフリー・ボガートがシャンパンに角砂糖を入れて「君の瞳に乾杯」っていうアレです。
古すぎて知らない人の方が多かったりして(爆)
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