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ハンティング!?〜異界の戦術〜


「それではお願いします。」
「ええ、承知しました。」
ミッシェルはにこやかにルカに頷くと、フォルト達のところへ戻ってきた。
「お待たせしました。では、出掛けましょうか。」
異界は初めての地であるというのに、ミッシェルは隣近所へでも行くかのような口振りである。
特段気負った様子をみせないミッシェルをアヴィン達は改めて頼もしく思いながら、プラトネス2世号から降り立って異界への第一歩を踏み出した。

ある程度予想していたことだが、異界にも魔獣が存在する。
それも結構手強い輩が多い。
「攻撃系の共鳴魔法が使えない分、やっぱりきついよね。」
フォルトとウーナは密かにため息を吐いていた。
「まあ、魔法は俺達に任せておけ。」
アヴィンは二人を安心させるべく表面上はにこやかな表情を崩さなかったが、内心はそれなりに不安であった。
一応魔法も使えるが、アヴィンの本質は剣士。
(頼りになるのは・・・。)
苦笑混じりの目線の先にはミッシェルがいる。
彼は正真正銘、魔法使いである。
「これからの戦いについてなのですが、ウーナくん、マイル、ちょっといいでしょうか?」
ウーナとマイルはミッシェルの招きに応じて彼の近くに寄った。
「実はですね、これからの戦いで、おふたりには、是非とも協力していただきたいことがあるのです。」
「何ですか?」
戦いに協力して当たるのは当然のことだから、ふたりは素直にミッシェルの話に耳を傾けた。
「MPは大切に、しかも効率よく使わなくては長期戦で持ちこたえられません。持てるアイテムに限りがあるとなれば、そこのところをよく考えて戦わなくてはならないわけです。しかも、異界は未知の世界です。これまでの旅のように、どこかの街でアイテムの補充ができるという保証もありません。最悪、プラトネス2世号でしか補給できないかもしれないんです。それぞれが得意な技を使って戦うのもいいですが、ここでは、役割分担を明確にして効率よく戦う必要があると思われます。」
ミッシェルは状況を冷静に分析し、そこから得た異界での戦術を提案しているのだ。
「で、具体的な方法ですが・・・。」
ミッシェルの提案は特別難しいものではなかった。
ウーナ、マイルそしてミッシェルの3人はバインドで効率よく敵を拘束し、フォルトとアヴィンがそれを剣で倒し、回復はできるだけジャンとリックに任せるといった分担を明確にしただけのことなのだ。
「魔法でしか倒せない魔獣は仕方ないとしても、通常攻撃で倒せる相手ならこの方がMPの節約になりますからね。」
「それだったらコンフュージョンでもいいのでは?」
混乱した敵は味方になるのだから、マイルの疑問はもっともである。
「混乱している間に同士討ちをしてくれればいいのですが、切れ目が早いと何度も魔法をかけ直さないといけないでしょう。タイミングが悪いとこちらに被害が出ることも考えられます。」
「なるほど。」
「わかりました。」
それぞれが納得したらしい表情を確認して、ミッシェルは満足そうに頷いた。
この様子ならルカの要望に応えることはそう難しくないだろう。
「では、行きましょうか。」
「はい!」
一行は再び化石の森の奥へと歩き始めた。

フォルト達はアプロートで入手した情報を元にエスフィンの都へ辿り着き、そこで何とか探し求めるレオーネの足どりを掴むことができた。
しかしその先を進むためには、またプラネトス2世号で移動しなくてはならなかったのだ。
「頑張って、戻りましょうか。」
「時間は限られてるからな。急ぐに越したことはない。」
女王宮に一晩泊まっただけで、フォルト達は再びアプロートへと引き返していく。
「帰りもよろしくお願いしますね。」
「はい!」
ウーナとフォルト、マイルとアヴィン、それぞれが連携しながら効率よく戦ってプラネトス2世号に帰ってきた。

「ルカさん、例のものですが、このくらいでどうでしょう。」
プラネトス2世号の機関室の一角にミッシェルは道中で倒した異界の魔獣を山と運び込んでいた。
もちろんトーマスには内緒である。
「えーっと、たぶん十分だと思います。すみません、ミッシェルさん。」
注意深く魔獣の遺骸を調べ始めたルカにミッシェルはにこやかに告げた。
「大丈夫、毒や魔法の痕跡による副作用などの心配はありませんよ。そう思って、バインドで拘束してから地道に剣で倒すよう道中徹底させましたから。」
「流石ですね。」
ミッシェルの配慮にルカは改めて感心した。
「いえいえ、このくらいルカさんのこれからの料理する手間に比べたらたいしたことではありません。」
「料理と言ってもそのほとんどはプラネトス2世号のエンジンから出る余熱の利用ですから、大したことないですよ。」
「あと何か必要なものがありますか?」
「当面はこれだけで十分だと思います。まあ、これだけでもなかなか大胆なモノが作れそうですけど。」
ミッシェルと同じくにこにこと話すルカの手には調理場から貰ってきた古い巨大な鍋が握られている。
「ただ、ひとつだけ心配なのは、キャプテンが思惑通り断ってくれるかどうか・・・。」
ふと表情を曇らせたルカにミッシェルは「大丈夫ですよ。」と頷いた。
「乗組員からの誘いを断るのは、船長としてそれなりに気を遣うところでしょうが、これを見て頷くのはかなり覚悟がいると思いますよ。『彼女とクリスマスを過ごす約束』があれば断るのに格好の口実となるでしょう。」
もっとも、そういう約束を実際に取り付けてくれていれば、こんな回りくどいことをする必要はなかったのではあるが。
「まさかとは思いますけど、そのまま一緒に食べようなんてことは言い出さないでしょうね。」
乗組員第一のトーマスなら絶対にあり得ない選択枝ではない。
その最悪の事態を招かないためには、どうするのが最も効果的かと言えば・・・。
「そうですね。念のため、わたしが捕ってきたということを出来るだけ強調しておいてください。わたしが捕ってきたものだと言えば、いろいろ裏を考えて、まず、食べようなどとは思わないはずですから。」
「そうですね。」
あっさり肯定したルカに、ミッシェルは苦笑していた。
「料理なら任せてください。」
このとき、料理のターゲットが魔獣ではないことは、二人の間に暗黙の了解があった。
「うまくいくことを祈ってますよ。」
用もないのに機関室へ長居して余計な詮索をされてはせっかくの戦術も破られてしまう。
ミッシェルは引き際も肝心と、何食わぬ顔でプラネトス2世号の甲板へと戻っていった。


おわり