(3)


バイオリンの調律を素早くすませたアルトスはアリアと向かい合った。
ふたりはミッシェルの指示に従って異界のある方向へと向いている。
「いいかい?」
ともに音楽を嗜みながらも姉弟ふたりで合奏するのは今夜が初めてだった。
「ええ。」
目と目で合図しあってアルトスは水がこんこんと湧き出るように、それでいて深い音色を響かすように弦を奏でた。
アルトスの澄んだバイオリンの調べに乗ってアリアの透明なる歌声が部屋に満たされていく。
その歌声は清らかな調べとなって見えない波紋に重なり天上へとのびていった。
優しいメロディは人々の心の奥深くへと響き染みていく。
音の余韻は耳だけでなく心の中へも残るのだ。
アリアの、そしてアルトスの感謝の想いが、銀色の髪の少女への祈りと重なった時、時空を越えたミッシェルの魔法に運ばれて異界へと流れ出した。
ふたりの織りなすメロディが透明な水泡にも似た輝きへと変化し、魔法の波にのって昇華されては消えていく。
演奏が終わり全ての余韻が消えてアルトスがバイオリンから弦を離した時、ミッシェルもまたロッドを静かに脇へと置いた。
「おふたりの想いはきっとあの子に届いたと思いますよ。」
ミッシェルの言葉はその場に居合わせた人々全ての気持ちを代弁したものであった。

その夜、ボザールに雪が降った。
けれどもそれは凍てつくような寒さで町を覆うのでなく、静かなる時と穏やかな安らぎを人々に寄与するものであった。

清き歌声は天上に届く
「アルトスとアリアのデュエット」 by CAROL様

おわり

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