■花一輪の勇気
アドルとリリア

サルモンの神殿の地下水路で、赤毛の青年がただひとり、モンスターと戦っている。
「これでも喰らえっ!」
最後の駄目押しとばかりにアドルから炎の魔法が放たれ、モンスターに命中した。
魔法攻撃に怯んだ隙を突いて、剣を振りかざし、とどめを刺す。
集中したアドルの攻撃を正面から喰らったモンスターは、断末魔の声を残して彼の前から消滅した。
「勝ったか・・・。」
だが、生き残ったアドルもそこまでが体力の限界であった。
アドルは肩で息を弾ませ、手近な壁にすがるようにがっくりと膝を突いた。
パシャリとあとばねがアドルの頬に散り、生臭い滴を残した。
魔力も尽きたとみえ、手にした魔法の杖からはもはや何の反応も返ってこなかった。
「リリア・・・。」
水路の冷たい石の感触は、ダレスによって石にされたリリアの肌を思い起こさせる。
彼女のためにも何としてもイースの女神の王宮にたどり着かねばならないのだ。
進む道も帰る方向もわからなくなったアドルは、次第に遠くなりつつある意識をもはや引き留めるすべを持ち合わせていなかった・・・。

(わたし、マールの花が好き。)
意識の途切れる刹那、其処にいないはずのリリアの声が何処ともなくアドルに聞こえてきた。
ランスの村の郊外の草原で、マールの花を嬉しそうに摘んでいたリリアの姿が声に重なってくる。
透けるように白い指先がピンク色のかわいい花にひとつ、またひとつと伸びていき・・・。
「リリア?」
自分の声でアドルは現実に引き戻された。
彼が居るのは風光る草原ではなく、光の届かない地下水路の中なのだ。
あたりに人の気配はなく、水路を歩くときの水音が響いているだけである。
「ついに幻聴が聞こえるようになったか・・・。」
だが、たとえそれが幻聴であっても、アドルの意識をこの世に繋ぎ止めた声には違いない。
意識が朦朧としかけていたアドルはふらつきながらも壁伝いに歩き続け、ついに行き止まりに突き当たった。
引き返えさねばと思う端から、足は力無くその場に押し付けられたままである。
「なにか、ある?」
彼の足が一歩を踏み出せないのは、そこにあるものに引っかかってのことに気が付いた。
「なんだろう・・・。」
力なくアドルは無意識にそこに置かれていた箱に手を掛け、ゆっくりと蓋を開けた。
幸いに鍵はかかっておらず、少し力を加えると、箱の蓋はあっさり開いた。
薄暗い地下のじめじめした陰湿な匂いとは異なる爽やかな香りがアドルの鼻をくすぐった。
その香りをアドルは知っていた。
以前、ラスティーニの廃坑の地下深い水辺で嗅いだのと同じ香りだったのだ。
「なぜ、こんな所にセルセタの花が?」
訝るアドルの手には、間違いなくセルセタの青紫色の花が握られていた。
「助かるかも知れない。」
花を手にした瞬間、アドルに希望が甦った。
理由などどうでも良い。
確かなのは、これでまた戦うことができるということだ。
アドルは大きく深呼吸すると、手にしたセルセタの花を服用した。
かつてない清涼感がアドルを包み込み、内なる力が身体中に満たされていくのがわかる。

「リリア、必ず、君を助けるから。」
セルセタの花によって一命を取り留めたアドルは、背後に感じたモンスターと対峙すべく剣を構え直した。
こんなところでぐずぐずしているわけにはいかないと、彼の前に立ちふさがったモンスターを一撃のうちに仕留め走り出す。
彼の目指すイースの女神王宮には必ずやこれまで以上のモンスターが待ち構えているに違いない。
だが、アドルは躊躇うことなく、その黒き瞳をひたむきに煌めかせ、走り続けるのであった。


おわり

Home > Falcomの歩き方 > Falcom Gameの二次創作 > 花一輪の勇気