スター・A・スター

気分はいつも紙一重


あたし、プロミネス・ブルー・ユリアン、17歳。
銀河連邦アカデミーの最上級生にしてレッド・ソルジャー候補生。
ソルジャーってのはね、あたし達の銀河系を統一している銀河連邦−略してG連−の宇宙戦士の中で最高の地位なの。
そのソルジャーを養成する機関が、銀河連邦アカデミー。
でもね、そこを卒業したからと言って全ての学生がソルジャーになれるわけではない。
大抵は、卒業と同時に「ソルジャー候補生」に推薦され、G連の各機関に仮採用されてから、その結果を見て正式なソルジャーに認定されるのだ。
それほどの難関であるソルジャー候補生に、何故、学生であるあたしが選ばれているかって?
そりゃ、あたしが優秀だからに決まってるじゃない。
なんたって、アカデミー始まって以来の超スピードで必要単位を取得したんだから。
アカデミーの単位は出席時間じゃなくて、随時実施される試験の合格ラインを越えたときに認定される仕組みになっている。
言っちゃ悪いけど、アカデミーの試験なんて、これまであたしが受けてきた家庭学習に比べればちょろいもんよ。
手こずったのは一般教養の座学くらいだもんね。
ともあれ、正式にソルジャー候補生となったあたしは、めでたくG連の機関に仮採用される運びとなった。
今、その辞令を受けに院長室へ呼ばれたところ。
ふふふ、辞令さえ受け取れば、あとは自分の才覚ひとつだもんね。
長かった退屈な日々ともこれでオサラバよ。
あたしはるんるん気分で、すっかり通い慣れた院長室への道を歩いていた。

「あの、すみません。」
かわいい声があたしの耳に飛び込んできたとき、なぜかあたしの目の前を色とりどりの宝石がめまぐるしく煌めいていった。
「あのう、連邦アカデミー院長室へはこの道でいいのでしょうか。」
瞬きして現実に返ったあたしの目の前に居たのは、緑色の髪とこれまた吸い込まれそうなほどのエメラルドグリーンの瞳をしたすこぶるかわゆい女の子だった。
あー、年齢的にはたぶんあたしと同年代だと思うんだけど、彼女に対しては、何故か「女の子」というイメージしか浮かばなかったのだ。
「えーっと、そうだけど。でも、院長室は部外者立入禁止よ。」
「そうなんですか。でも、そこに行くよう学長から言われたんです。」
「学長…え、大学生!?」
「はい。」
にこにこっと彼女は人なつこい笑みを浮かべて頷いた。
「私、連邦大学の学生でグリューネ・ルディーナ・クラスターと申します。言いにくい名前なので、ルナと呼んでいただけますか。」
馬鹿丁寧な自己紹介のあとで鞄から取りだした証明書には。
「レッド・ソルジャー候補生!?」
嘘でしょう!?
そりゃ、ソルジャーはあらゆる分野のエキスパートが揃っているとは聞かされてるけど、この子、どう見たってそーゆー世界とはまるきり無縁って感じよ。
でも、彼女が見せてくれた証明書は紛れもなく本物だ。
同じ物を持ってるあたしが言うんだから間違いない。
いったいこの子、何者なの!?
同時にあたしは嫌な予感がした。
院長に会いに行くって言ったよね。
あたしとほぼ同じ時刻に呼ばれたってことは…まさか。
「あ、もしかして、あなたがプロミネス・ブルー・ユリアンですか?」
なぜにあたしの名前を?
「ロデール・ダリ星に派遣されることになった私とパートナーを組んで下さる方ですね。」
そんなの聞いてない!
「よかった。パイロットがあなたで。」
あたしがいつあんたのパイロットになったのよ?
「一緒に行動して課題を解決しないと単位をやらないって言われてすごく不安だったんです。」
あの、単位って何のこと?
「あ、ごめんなさい。あなたにとっては正式なソルジャーに認定される条件になるんでしたね。」
なーんですってーっ!?
「よくわからないんですけど、私も必要単位がロデール・ダリ事件の解決に指定されちゃって困っているんです。」
ちょーっと、待った!どこをどうこねくり回したら、大学の単位とあたしの未来が繋がるわけ!?
だいたい、ロデール・ダリ事件て何よ。
ロデール・ダリ星は知ってるけど、そこで事件が発生してるなんて、あたし知らないわよ。
そもそも、辞令前なのに、なんでその先の任務まで、知ってるの!?
いつになくパニクッてしまったあたしは、すっかり彼女のペースにのせられて、院長室の扉をくぐることになった。

連邦アカデミーの院長室で何があったかなんて、はっきり言って思い出したくもない。
あたしは、連邦大学の学生とパートナーを組んでロデール・ダリ事件を解決するよう命じられたのだ。
しかも、よ。
それが、レッド・ソルジャーに正式に認定されるための最低条件だというのだ。
いったいアカデミーいや、G連は何考えてんのよっ!
「自信がないかね?」
人の悪い笑みを浮かべてマクレガー院長はあたしに聞いた。
ったく、よく言うわ。
いいわよ、やってやろうじゃないの。
たかが、テロリストに占拠された小基地を開放するくらい、何だって言うのよ。
しかもその基地、連邦職員は脱出してテロリスト以外は居ないんでしょ。
「承知いたしました。」
はなはだ面白くないけど、あたしは命令を受領し、院長室を退出した。
…あたしの明るかったはずの未来は、限りなく暗い物へと変化していた。

「あっかんべーだ。」
退出、第一声、あたしは院長室に向かって悪態付いた。
隣は、とみると、ルナはきょとんとした顔をしてあたしの方を見つめている。
「あーすっきりした。さ、こんなとこ長居は無用。さっさと出発しよ。」
歩き出したあたしのあとを、ちょこちょこと追いかけてくる。
ホントに、この子、ソルジャー候補生?
と思った矢先、彼女がにこにこと話しかけてきた。
「宇宙船なんですけど、私の試作品が大学の空港にあるんです。それを使っていただけませんか?」
「ルナの専攻、宇宙工学?」
「いえ、そういうわけではないのですが、ブルーはパイロットが専門だと伺いましたので、もしかしたら乗りこなせるのではないかと思いまして。」
そして彼女は、G連に通常控えているパイロットの中にその試作品とやらを乗りこなせた者がいないことを付け加えた。
「なんでも、反応速度がついていかないとかで、みなさん、落っこちゃうんです。」
「は?」
「安全装置のおかげで、墜落前にオートパイロットに切り替わるから、宇宙船は無事なんですけど、テストをお願いしたパイロットの方々には、2度と実験に協力していただけなくて。」
G連のパイロットの反応速度より早く反応する宇宙船?
にわかにあたしの血が騒ぎ出す。
だって、あたしがこれまで使ってきた宇宙船は、どれもあたしの反応速度より、宇宙船側の動作切替が遅くてオーバーヒート続出。
ついこの前の空のお散歩でも、学内備品損害始末書を書かされたばかり。
「これが、その宇宙船の概略メモです。」
ごそごそと鞄から取りだして見せてくれたのは、一見、小型の快速艇。
素早く目を走らせたあたしの、所見。
…最新鋭艦並のエンジン+巡洋艦クラスの主砲+機動要塞並の防御設備付き戦闘機。
決定。
あたしはアカデミーの付属空港ではなく、連邦大学の専用空港へと進路を変えた。

ルナの試作品は、はっきり言おう。
もう、最高!
あたしの動きにぴったり馴染んで動いてくれる宇宙船なんて、初めてよ。
「操縦、その他、何かご質問はありませんか?」
心配そうな顔をして彼女が尋ねたとき、あたしは、すでに宇宙に出ていた。
だってー、すっごく乗り心地いいんだもん。
それにね、試作品といったって、基本部分は普通の宇宙船と何ら変わらないんだから、操縦する分には全く問題なし。
「そういえば、あたしばっか質問してるけど、ルナはあたしに聞くことないの?」
るんるん気分で聞いてみたのは、彼女が時々聞きたそうな、それでいて遠慮したような素振りが感じられたからだ。
この際プライベートだろうが少々の事には目を瞑ろう。
「ひとつ、お伺いしたいことがあったんです。」
好奇心旺盛ならしい瞳がキラキラ輝いている。
「院長室を退出したとき、ブルーがみせてくれた仕草のことなんですけど。」
「院長室を出たときの仕草?」
あたし、なにやったっけ?
「ほら、右手の人差し指でしたかしら。それをこうやって、右目の下あたりに当てて、それから『あっかんべー』とおっしゃったでしょう。あれの意味が知りたいんです。」
「はあ?」
「先程からコンピューターに何度問い合わせても、解読不可能のゲージしか返ってこなくて。」
彼女の顔は、真剣そのものだった。
「お願いします。どうしても、あの動作の意味が知りたいのです!」
口をパク突かせているあたしに、彼女は鬼気迫る表情でしつこく聞いてくる。
…誰か、パートナー、変えてください。

思考能力低下、行動気力低下。
これ、ロデール・ダリ星に到着したときのあたしのバイオデータ。
こんな状態で、まともな判断など出来ようはずがない。
対して、その元凶は、すこぶる元気。
この宇宙航行でわかったこと。
ルナはたぶんG連始まって以来の天才科学者だ。
もしかしなくても歴史上に名を残すだろう。
この先、彼女の頭脳から生み出される作品によって、G連はとてつもなく強化されるにちがいない。
が、それはあくまで彼女のこの分野の知識のみに限定されることだ。
それ以外のことについて、あたしは責任もてん。
世の中って、どうしてこう上手くいかないんだろう。
「ブルー、目標接近。」
「あ、そう。」
「大丈夫ですか?顔色も悪いし。やっぱりこの宇宙船が悪かったのでしょうか。」
…悪いのは宇宙船じゃなくて、同行者だ。
「ところで、ブルー、対宇宙戦闘用のスーツなんですけど、そろそろ着替えておきますか?」
「…そうね。」
気怠げにあたしは頷き、彼女がロッカーから取りだしてくれた戦闘用スーツに着替えた。
あら、これ、あたしにピッタリ。まるであつらえたみたい。
そりゃ、スペーススーツってのは基本的には本人に合わせて作られる物だけど、大方は予算上の都合により標準化されたものを手順に従って手直しするだけだ。
でも、これは明らかに違う。
「着る直前のバイオデータに合わせて、性能の方も調整してみました。現在は防御重視にしています。」
「そんなことできるの?」
「実験段階のバイオスーツなんです。出発してから、大急ぎでブルーに合わせて調整したんですけど、何か違和感がありますか?」
ぶんぶんとあたしは首を振った。
こんなに動きやすいスーツ、初めてよ。なんだか少し気分がよくなってきたぞ。
「数字上ですけど、この宇宙船の主砲の直撃を喰らっても大丈夫のはずです。」
だから、これを着て肉弾戦な訳ね。
「で、その間、ルナは援護してくれるの?」
その瞬間、彼女は沈黙した。
「援護、できればお願いしたいんだけど?」
「私がこの宇宙船を操縦するのですか?」
「オートパイロットがあるでしょ。」
「攻撃する間は、オート制御できないんです。」
「別に基地に命中させる必要ないわよ。威嚇射撃よ。威嚇。あたしが潜入する援護だもの。」
ルナは仮にもこの宇宙船の作成者である。
次いで言えば、ソルジャー候補生に抜擢されるほどの「戦士」なのだ。
当然最低限の条件はクリアしているはずだから、そのくらい朝飯前でしょーが。
「それは出来なくはないと思いますけど。」
「じゃ、決まり。しっかり援護、頼んだわよ。」
この時、あたしは本当に何も知らないお気楽候補生だった。
もしも、ほんの少しでも彼女の経歴を調べていたら…やめよう。
今更どうにもならないのだ。一旦放たれた矢は返らない。

ここから先は結論だけね。
あたしは、ロデール・ダリ基地には到達出来なかった。
だって、到着する前に、ロデール・ダリ基地そのものが消滅したんだもの。
いったいどうやって報告しろっていうの?
ロデール・ダリ基地を威嚇射撃した実験用宇宙船の主砲が基地のエネルギー炉に命中して、基地ごと星が吹っ飛んだなんて。
普通、宇宙船の主砲が当たったくらいで基地が爆発するなんて誰が想像する!?
しかもその影響で、星その物が砕けてしまうだなんて。
「ロデール・ダリ基地のエネルギー炉は旧式の融合炉でしたのね。」
しみじみした口調で彼女の声が通信機から漏れてくる。
あー、ちなみにあたしが今居るのは、爆発して砕けた星のど真ん中。
特製バイオスーツは、飛んでくる隕石の衝撃からあたしを完全に防御してくれた上、スーツに付属している移動用の噴射装置は、爆風の乱流にも、ものともしないくらいの安定さを保っていた。
「ブルー、ようやく現在地を特定できました。いまからそちらに向かいますね。」
…ロデール・ダリ星系の太陽がやけに眩しく感じられた日でもあった。

ロデール・ダリ「流星群」から帰還したあたしとルナは、当然のごとく院長室に呼び出された。
あーあ、ついに来るべきモノが来たって感じ。
そりゃそうでしょ。
いくらそれが不可抗力だったからといって、宇宙図を書き換えなきゃいけない事態にまで至ったのだ。
あたしの未来は、もはやなくなったも同然。
うう、兄さんのあたしをあざ笑う姿が目に浮かぶわ。
そして、あたしは覚悟を決めて院長室の扉を開けた。

「おめでとう、ソルジャー・ユリアン。」
入室した瞬間、やたらと機嫌のよい院長の声が耳に飛び込んできた。
なにが、おめでとうよ…え?
「ソルジャーって今、言いました?」
「その通りだよ、ソルジャー・ユリアン。」
こんなに嬉しそうな院長の顔、あたし初めて見たわ。
って、ことは…。
「あたし、合格したんですか!?」
「もちろん、そうに決まっておる。君も、そしてクラスター君も一緒だ。」
…ルナも一緒な訳ね。
元がペアでの派遣だから仕方がないと言ってしまえばそれまでなんだけど。
だけど、あの子がいったい何をしたかわかってんだろうか?

その当人は、持ってきた分厚い書類を院長に差し出した。
「ご依頼の、ロデール・ダリ流星群の分析資料です。」
…早い。いくら何でも早すぎない?
「結果は事前にシミュレートしたとおりですので、予定どおり回収作業にお入り下さい。」
何の話?
「うむ。これで連邦の補給状況が好転する。さすがはG連の頭脳と言われるだけのことはあるな。」
あたしは完全に蚊帳の外、二人してあーだこーだとエネルギー論を続けている。
宇宙エネルギー学なんて、どうせあたしの理解の範疇越えてますよ。

それでもあたしは儀礼上、おとなしく話を聞いていた。
だって、机の上にはソルジャー認定証が置いてあるんだもん。
アレ貰わないことには、ここから出れないのよ!

「おお、すまなかった。肝心な物を渡しておかなければな。」
いい加減くたびれた頃、ようやく院長がそのことに気が付き、あたしは姿勢を正した。
お決まりの文句、お決まりの宣誓。
でも、それを聞き、口にできるのは、銀河連邦軍でもソルジャーのみ。
そして、たった今からあたしもその仲間入り。
やったね!

「それで、ユリアン君の所属だが…。」
どこ、どこ?
「まだ決まっておらんのだ。」
「はぁ!?」
あたしは思いっきり脱力した声をおまぬけにもあげてしまった。
「本来合格したら、その任務を引き継ぐ形で所属が決まるのだが。」
…そりゃ、決まらないわ。
ロデール・ダリ星は消滅しちゃったんだから、所属先も当然解散。
「クラスター君とともに、しばらくは待機ということになった。」
「あたしは、構いませんけど。ルナまでとは?」
あの子ほどの知識の持ち主、どこだって喉から手が出るほど欲しいはずだし、それを遊ばせておくほどG連のお偉方は寛大ではない…はずだ。
「いろいろ、事情がな。」
ふーん、オトナの事情ね。
つまりは争奪戦が激しすぎて収集つかなかったってことか。
ま、そんなことあたしの知った事じゃない。
「ブルーソルジャーに昇格まで、ふたりはペアで行動することになったしな。」
「なんですって!?」
そんな重大なこと本人の意志無視して、一方的に決めないでよ!
ルナはと見やれば、これ以上ないってほどの無邪気な笑顔で返してきた。
「これからもブルーと一緒にお仕事できるなんて嬉しいです。」
あたしは不幸よ。
それでも、それがブルーソルジャー昇格の条件なら呑まざるを得ない。
「任務というなら、致し方ありませんけど、それ以外では一切付き合う気ないからね!」
(あたしは、あんたの実験体じゃあないのよっ!)

こうしてあたしは季節はずれに宇宙連邦アカデミーを卒業し、レッドソルジャーの一員となった。
学院寮を引き払ったあたしは、ルナと同じく宇宙大学の職員寮へと身を寄せることになった。
で、引っ越ししてた時、教えてもらったんだけど…。
「ルナ」ってのはね、ルディーナのルナじゃなくて「ルナティック」のルナを縮めたものなんだそうだ。
あたしがブルーで、あの子がルナ。
二人揃ったら蒼い月(満月狂)だなんて、それこそ縁起でもないわよ〜!


To be continued…?