スター・A・スター

恋のあとさき


 あたしの名前は、プロミネス・ブルー・ユリアン。18歳になりたてほやほやの、銀河連邦−略してG連−の最新鋭艦ネオ・プラネット号の艦長に就任したブルー・ソルジャー(宇宙戦士)。
 ただし、乗組員の大半は、ただいま諸般の理由により休暇中。というのも、G連の科学の粋を結集して建造された宇宙戦艦プラス最高に優秀なスタッフのおかげで、新航法の確立はもちろんのこと、安定した航路の選定までトントン拍子に事が進んでしまい、することがなくなっちゃったのよね。でも、それより、乗組員の何人かがご懐妊で安定期までどこかに落ち着く必要があったことによることが大きな理由。
 ある程度こういう事態になるものと予測していたけど、プロジェクトの要のグリューネ・ルディーナ・K・ユリアン−通称ルナ−(コレが兄さんの奥さんね)が真っ先にそういう状態になってしまったものだから動きようがなくなってしまったのだ。幸いルナの研究を続けるのにぴったりの条件の星が外宇宙にある母の故郷ソレイユ星だったので、公私混同、滞在させてもらうことにした。
 しかし、いざ休みとなるとなーんにもすることがなくて最初の数日はともかく1週間もしてくるとルナの実験に付き合う方がマシだったかもしれないと思うようになってしまった。それほどにこの星は治安がよくてバカンスをゆったり過ごすにはもってこいの星だったのだ。

 ほどほどに忙しく過ごして数週間が過ぎた頃だろうか、あたしは身体の調子がどうも思わしくないことに気が付いた。特にこれといった症状があるわけではないからあまり気に留めてなかったんだけど…その日は突然にやってきたのだ。
 朝、ご飯が食べれない!たかがそんな事って思わないでよ。これってあたしにとってはものすごく大切なことなのだ。朝食を美味しく食べられるかどうかは、健康のバロメーターに大きく依存してるんだから。しかも、それが原因不明の吐き気と一緒にやってきたとある。…あたし、夕べ何食べたっけ?そんなことを考えながら、とにもかくも、あたしはルナの部屋に向かった。
 懐妊中のルナは多次元空間なんたらの研究に余念がなく、身体に負担のない限りは母の故郷に用意された特別宿舎ではなく、ネオ・プラネット号内の自室に留まっている。よくはわからないけど、宇宙船内で大抵のことは済ませてしまえるらしい。そう説明を受けたあたしは、あえて詳しくは突っ込まなかった。ルナがそれでいいのならば、問題ない。下手に突っ込むと自分の首を絞めることになるもんね。
 さて、ルナの部屋に到着したあたしは、兄のエディ・ユーナスが来ていないことを確かめた上で彼女を訪ねた。船医の兄より、ルナの持っているバイオデータの方が絶対的に信用できるからだ。というのは表向き。実際は、兄にあたしの不調を知られたくなかったからだ。身体の不調なんて訴えようものなら、それこそ「鬼の霍乱」とでも言われるのがオチだもん。医者としての腕の良さは万民の認めるとこだけど、こと自分のデータに関しては兄よりルナを信じてるのだ。

 「では、朝食はおろか、飲み物も口にしてないんですね。」
「うん。とにかく欲しくないのよ。匂いだけで気持ち悪くなってコーヒーですら飲めなかった。」
「でしょうね。」
 ルナはひとりで頷いている。この様子から察するに、彼女にはあたしの体調不良の原因がわかってる?思わず眉をひそめるとルナはにっこりと微笑んだ。
「おめでとうございます、ブルー」
「へ?」
「厳密なことは正式な検査をしないとわかりませんが、だいたい8週目の終わりから9週目のはじめですよ。」
「はあ?」
 お間抜けな声を発したあたしの顔をルナはのぞき込んでちょこんと首を傾げた。
「ブルー、心当たり、おありでしょう?」
 あたしは沈黙した。そりゃあ、まあ、その、…ある。ハイ、おもいっきりありますですよ。
「じゃあ、なに?あの食欲不振は、つまり…」
「はい、妊娠による悪阻です。」
 う…随分とはっきり言い切ってくれるじゃないの。まあ、それだけの心当たりもあるし、嬉しくもあるんだけど、だけど、時期が悪すぎるわよ〜。
 しかし、ルナは至って涼しい顔をしている。
「よかったですね、みんなと合わせられて。これくらいのずれなら休暇期間に影響なく産めますわ」
 どこがだ!と、反論しようとして、あたしはうっくとむせ返った。ヤバイ…。すーはー、すーはーと浅く呼吸を繰り返して落ち着いたところで、ルナを見上げる。彼女は相変わらずニコニコしたままだ。
「あのさ、」
「なんでしょう?」
「悪阻って、個人差があるんだよね。」
 休暇の間、何人かの妊娠した乗組員と接してきたが、意外とみんな悪阻が軽いらしくそれとわかるほど辛そうな人はいなかった。食事だって普通にしてたし。でも、あたしのは明らかに違う。
「ブルーのは希に見る悪阻が重いタイプみたいですね」
 あたしの不安をよそにルナは少しも心配しているそぶりがない。あのね、悪阻が重いと食べるものだってまともに食べれないんだよ?今朝なんて、匂いだけでもムカついてダメだったんだから。乏しい知識を総動員して尋ねるあたしにルナは全く笑みを崩さない。これもある意味、一種のポーカーフェイスじゃないだろうか。
「食事のことなら心配いりません。味と匂いがダメなんでしょう?それならどちらも全くなくて栄養価の優れた食べ物がここにありますから」
 …それは、いわれなくてもわかってる。一度食べたら二度とは食べたくないと思ったアレがここにはある。
「アレ以外には、ないの?」
「無味無臭で栄養価が高く、衛生的にもよい食べ物はそれ以外他にありません。」
 きっぱり言い切られてあたしは何度めかのため息を吐いた。ルナはとことこと隣の部屋にかけていく。
「とりあえず、今朝の分としてグラスに一杯いかがです?」
 戻ってきたルナの手にはおしゃれなグラスに入れられたカルロスの固まりが入っていた。


To be continued?